全司法本部四役は10月18日、今崎幸彦最高裁判所長官と会見しました。最高裁からは、氏本事務総長、徳岡人事局長、棈松人事局総務課長が同席しました。
裁判所の人的体制整備について
「職員一人一人が本来の役割・職務に注力し、専門性を活かすことのできる事務処理態勢を構築」
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中矢委員長 |
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今崎長官 |
委員長 この半年間、NHKのドラマ「虎に翼」が放送されましたが、視聴率も良かったようで、裁判所の歴史、憲法や家庭裁判所のことについて、広く国民に知られる状況が生まれていると感じています。これを一つのきっかけとして、裁判所が果たしている役割が国民に伝わり、裁判官や裁判所職員を志す人が増え、若い方々が私たちの同僚、後輩として入ってくることで活気のある職場になることを願っています。
そのためには、働きやすい職場を作っていくことが大切だと考えていますが、人的・物的体制整備はその要となる課題です。
各地方の裁判所では、この間の人員削減のもとで人的体制がギリギリのものとなっています。申告されていない「サービス残業」を含めて超過勤務が恒常化している職場が増えるとともに、育児・介護などで両立支援制度を利用する職員や病気による休暇・休職に入る職員、退職者等が出るなどした場合に、定員上の配置があっても実際に職場で仕事をしている職員が少なくなり、その他の職員の負担が重くなっている実態が全国から寄せられています。毎年のように人員が減らされる職場で働いている地方の職員にとっては、士気に関わる問題になっていると感じています。
また、先の通常国会では離婚後共同親権の導入や面会交流の拡大などを含む民法改正が行われました。離婚後共同親権の導入は賛否の意見が分かれ、DV被害者をはじめ多くの国民から反対や不安の声が湧きおこる中での成立となりましたが、そうした審議状況を反映して、賛否いずれの立場からも家庭裁判所の体制整備が求められ、採決にあたっては附帯決議がつけられました。今後、附帯決議を活かした運用を誠実に行うことで、国民からの信頼に答えていくことが裁判所には求められていると考えています。とりわけ、家庭裁判所の役割がきわめて大きくなるとともに、事件の増加や複雑困難化が予想されることから、家裁調査官の大幅増員をはじめとした家庭裁判所の人的・物的体制整備は必要不可欠だと考えます。
ぜひ、そうした立場で裁判所の人的体制の整備について、ご努力をいただきたいと考えます。
長官 情報通信技術の急速な発展普及を始めとした近時の社会経済情勢の変化やそれに伴う国民のニーズの変化等に適切に対応し、より質の高い裁判を迅速に行うためには、裁判手続のデジタル化を始めとした情報通信技術の活用、通達等の見直しを含めた各種事務の簡素化・効率化、組織・機構の見直しによる事務の合理化・効率化を一層推し進め、職員一人一人が本来の役割・職務に注力して専門性を活かすことのできる事務処理態勢を構築して、より活力のある組織を目指していくことが必要であると考えています。こうした取組によって一層働きがいのある職場環境を整備するとともに、引き続き職員一人一人の能力を伸長させる計画的かつ継続的な人材育成の充実を図るほか、それに相応しい最適な人的態勢を構築し、裁判所が、国民の期待に応え、信頼が得られるよう、引き続き、努力していきたいと考えています。
職員の皆さんにも、引き続き、自身の仕事の仕方を見直し、事務の合理化・効率化に向けた創意工夫に前向きに取り組むことを期待しています。
職員の健康管理について
「ハラスメントについても、その種類を問わず、これを防止することが、職員が働きやすい職場環境を維持・向上するために不可欠」
委員長 当局から開示された90日以上の精神および行動の障害による長期病休者数も目に見えて増えていますが、適応障害等と診断され、休暇を取得する職員や、治療を受けながら勤務を続けている職員なども相当数おり、メンタルヘルスを悪化させる職員が増加している実態が全国各地から報告されています。
諸要求期の交渉では、ストレスチェックによる集団分析結果の活用にむけた姿勢が示されましたが、あわせて、現に職場でストレス要因になったり、メンタルヘルスに影響を与えていると考えられるもの、例えば、超過勤務や休憩時間の確保、異動とそれに伴う職務分担の変更、仕事について相談できる体制、職場の人間関係などについて、メンタルヘルス対策の視点から問題がないかどうか検討する必要性を感じています。こうした課題について全司法の意見も聞きながら、健康で働き続けることができる職場づくりをめざしてとりくみをすすめていただきたいと考えています。
そうした課題の一つとしてパワーハラスメントの問題があります。とりわけ、加害者だとされる職員が同じような問題を何度も繰り返すこと、被害者自身が声を上げられない場合に周囲で状況を見ている者の報告等で対応できる仕組み、いわゆる「困難当事者対応」などのカスタマーハラスメントに組織的に対応する仕組みについて問題意識を持っています。
引き続き、健康管理のための施策を充実させていただきたいと考えます。
長官 職員の皆さんに持てる力を十分に発揮してもらうには、心身の健康の保持、増進を図るとともに、家庭生活と両立していけるような環境整備を進めることが重要です。また、ハラスメントについても、その種類を問わず、これを防止することが、職員が働きやすい職場環境を維持・向上するために不可欠であると考えています。このような観点から、これまでも種々の施策を講じてきていますが、これまで以上に組織活力を維持・向上させ、全ての職員が、持てる能力を最大限発揮することができるよう、その実効性を高めるために工夫すべき点がないか等につき検討させていきたいと考えています。
裁判所のデジタル化について
「職員及び職員団体の要望等も踏まえながら検討を進めていきたい」
委員長 裁判手続のデジタル化で先行してすすんできた民事裁判は、2025年度からの完全実施が予定されており、大詰めの時期にあるものと認識しています。ウェブ会議の活用についてはすでに一般化し、3月からはウェブ弁論も可能となったことから、全国の運用実態を把握し、問題がないかどうかを検討することが必要だと考えています。一方、電子申立てや事件および記録の管理のためのシステムの開発が課題となっています。とりわけ、e事件管理システム(RoootS)は、来年1月から全国展開が予定されていますが、当初予定からの遅れに加えて、現在、先行導入されている庁から使い勝手の悪さなどについて報告を受けており、不安を感じざるを得ません。安定的に稼働し「ユーザーフレンドリー」なシステムを構築することは、デジタル化の成否を左右するものだと考えますので、万全のとりくみをお願いします。
コミュニケーションツールとして、マイクロソフト365が昨年10月に導入されました。機能を便利に使っている場面もある一方で、情報伝達の手段が多様化することで、見落としが恐いという意見も少なくありません。また、使い方が現場に任されているために、事務処理方法が庁によって違う、部署によって違うという状況も生じています。これは、事務処理方法の統一化・標準化が事務の簡素化・効率化に資すると述べてきたことにも逆行することになります。導入後1年が経過したことを踏まえ、とりわけ情報伝達のルール化や標準的な利用方法については、最高裁がイニシアチブを取って全国統一的なものとして決めることも必要だと考えます。
長官 今後裁判所のデジタル化を進めていくに当たっては、実務や事務の実情をよく踏まえた上で、国民の利用のしやすさを徹底して追求するとともに、職員の利用のしやすさにも十分配慮し、各種デジタルインフラの最適化、情報セキュリティの確保等にも鋭意取り組んでいきたいと考えています。検討に当たっては、在るべき裁判の姿を見据えつつ、従来の議論にとらわれない新鮮な視点をもって裁判所全体で幅広く意見交換等をしていくことが重要です。引き続き、必要に応じて職員及び職員団体の要望等も踏まえながら検討を進めていきたいと考えています。
全司法との誠実対応について
「率直に問題意識をぶつけ合い、忌憚なく話し合う中で、問題の解決を図っていかなければならない」
委員長 1992年3月18日の最高裁事務総長見解以来、全司法と裁判所当局とは相互の信頼関係に基づいて、安定した労使関係を築くことができているものと考えており、日頃から誠意をもって対応いただいていることに対し、あらためて感謝いたします。
全司法は職員の地位の向上と「国民のための裁判所」実現を組織の目的としており、職員の処遇問題にとどまらず、官の職制の中からは浮かび上がってこない職場実態を拾い上げ、可視化し、より良い裁判所を作るために努力しているものと自負しています。そうした視点から、全司法を裁判所の職場をともに作るパートナーとして位置付け、職場で起きる様々な課題について、今後とも建設的な議論を続けていただきたいと考えております。
最高裁はもとより、全国の各庁で全司法の意見に耳を傾け、率直で建設的な議論を重ねていくことができるよう、これまで築き上げてきた信頼関係を尊重し、誠実に対応されるよう下級裁に伝えていただくことを含め、確認したいと思います。
長官 私も、平成4年3月18日の事務総長見解の内容は当然のことと考えています。職員の勤務条件やこれに関連する事項については、これまで築き上げてきた相互の信頼関係に基づき、率直に問題意識をぶつけ合い、忌憚なく話し合う中で、問題の解決を図っていかなければならないと考えています。
担当部局には、今後もそのような立場で努力させたいと思いますし、職員団体もその方向で努力していただきたいと思います。
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