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オンラインで約100名が参加 |
5月14日、第28回全司法中央労働学校をオンラインで開催しました。今回のテーマは「職場のメンタルヘルス対策に労働組合はどう向き合っていくべきか」で、パワハラとメンタルヘルスを取り上げました。
人事院のパワハラ防止対策検討会の委員も務めたコンサルタントの金子雅臣さんに「パワーハラスメント最新事情」、静岡社会健康医学大学院大学准教授で代々木病院精神科医師の天笠崇さんに「メンタルヘルス対策・労働組合の視点から」というテーマでそれぞれ講演をいただき、参加者との質疑応答も活発に行われました。
この課題への関心の強さを反映して約100名の参加があり、参加者からは「たいへん有意義だった」「今後の活動の参考になった」との声が多く寄せられました。
パワーハラスメント最新事情
職場のハラスメント研究所代表理事
金子 雅臣さん
パワハラをジャッジするポイントは2つ
金子さんは、最初に最新のパワハラ事情について、精神障害に関わる労災請求件数が右肩上がりで、パワハラを理由とするものが増えていることを紹介し、「周囲が知っていても問題にできなかった事例が多い。深刻な事態に至らないようチェックしたり、止めたりというのがパワハラ防止法の趣旨だったが、機能していない」と問題点を指摘しました。
その原因として、「目の前で起きていることについてパワハラだと言って良いか、ジャッジが難しい」ことがあるとしたうえで、ジャッジのポイントとして、これまでの裁判例なども参考にしながら、@業務の適正な範囲を超えているか否か(→言ったことが「教育指導のために言った」と説明できるか。業務と関係ない、具体性がない指示はダメ)、A相手の人格・人権を傷つける言動になっていないか(→相手の容姿や性格、生い立ちなどを馬鹿にする等)の2つをあげて、「入口できちんとジャッジして、止めることが重要」だと述べました。
第三者の介入はなるべく早いほうが良い
また、パワハラ防止法が、@事業方針の明確化・周知啓発、A相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、B職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応、Cプライバシー保護と不利益取扱いの禁止を定めていることを紹介し、「要は相談に適切に対応すること。これをやってもらえれば、パワハラは半分ぐらいなくなる」と述べました。
そのうえで、第三者(使用者や労働組合)が介入する方法として、@通知、A調整、B調停、C調査の4つをあげて「第三者の介入はなるべく早いほうが良い」と述べ、「相談があると、オールorナッシングになることがあるが、グレーゾーンはいっぱいある。パワハラに当たらないと思われるケースは、業務の改善やコミュニケーションの見直しなどにより解決を図る。パワハラに該当すると思われるケースや判断が難しいケースは、@〜Cのレールに乗せて解決していく」ことが必要だとしました。
@通知…行為者に対して「匿名で手紙をもらったから、心当たりがあれば直す」よう通知する。後々、大きな問題が生じた時に対応する土台にもなる。
A調整…双方に言い分があるときは、積極的に間に入ってコミュニケーションギャップの解消を図る。
B調停…双方が言っている事実が全く異なる場合には、第三者の調停案を出す。
C調査…鬱になったなど、問題が生じてしまったときには、再発防止のためにも、詳細な調査等を行う。
メンタルヘルス対策・労働組合の視点から
静岡社会健康医学大学院大学准教授(医師)
天笠 崇さん
裁判所の予防対策は60点
天笠さんは冒頭、全司法が伝えた裁判所のメンタルヘルス対策について検討し、「90日以上の長期病休者が2018年からは増え続け、精神及び行動障害が増えてきている。2022年9月の全職員比0・61%は、民間の1か月以上休業した労働者の平均0・5%より多い。メンタルヘルス予防対策としては、@発生予防、A早期発見・対応、B再発予防・後遺症予防の3段階があるが、最高裁回答は@に言及していないので60点くらい。回答の『配置や業務分担の工夫等』『アンケートの実施、懇談会の開催等』を活用していくことが重要」と分析しました。
「なやみのみちへ」が変化の気付き、「積極的傾聴」が重要
メンタルヘルスが悪化する時の兆候については「なやみのみちへ」というキーワードをあげ、変化に気づくことが重要だと指摘されました。
また、「組合役員としては、どうアドバイスしたら良いか」との質問に対しては、アドバイスの前に、まずは「積極的傾聴」が大事で「そうだとしたら落ち込むよね、つらいよね」など、まずは納得できるまで話を聞くこと。次に「『眠れてる?』とか『食事とれてる?』とか、『まさか死んじゃいたいと思ったりしてないよね?』とか、抑うつ症状に対する質問をして、医療が必要なのか、スクリーニングすることが重要」。その後、「そうだとしたら『こうしたら良いかも』とアドバイスが来る」と指摘しました。
な…泣き言、愚痴
や…辞めたい
み…ミスやトラブルの増加
の…能率、能力低下
み…乱れた勤務(遅刻、早退、欠勤)
ち…長時間労働
へ…いつもの本人と比べ、変化が感じられる
回復期は「6割主義」で3〜4年はフォローを
職場復帰に関わっては「回復期に一番波が大きい」と指摘し、「『良くなったり、悪くなったり』が在宅生活で消えていても、復職すると戻ることもある。良くなった時の前向きな方だけをとらえて対応していると、再度悪化することもあり得る」として「回復期は6割主義が大事。10個やれそうなことがあっても、あえて4個はやらない。良くなったと思って、無理をすると悪くなったりする。波を小さくしていくことが重要」だと述べるとともに、「3〜4年はフォローするよう意識しておくことが重要で、産業医として、復職後1月、3月、6月、1年、3年を目安に様子を見ている」と述べました。
ストレスチェック実施しただけでは効果は『ゼロ』
ストレスチェック制度については、「実施しただけでは効果は『ゼロ』。相談窓口を設けるよりも、組織的に職場環境改善のとりくみをすると、確実に有効性がある」と医学的研究結果をあげて説明しました。
そして、「ストレスチェック制度は、私たちやみなさんの先輩たちが運動の成果として作らせてきたものなので、これを有効に使わせることが必要」だと述べました。
最後に「心理的安全な職場」を作ることの重要性を指摘し、「職場のメンタル悪化を防ぐ点では、当局も労働組合も同じ方向を向いてやっていけるはず」と述べて、全司法へのエールをいただきました。
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