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全司法新聞
 
新年号企画 伊藤真さんインタビュー
「国家公務員は、よりよい国にしていくという
 理想のために働く職業だと思います
 

 2022年12月3日、弁護士で伊藤塾塾長の伊藤真さんにインタビューし、憲法や裁判所についてお聞きしました。インタビューには、小田青年協議長、青年協の末政さん(大阪)、本部非常任の米島さん(愛知)、河上さん(大阪)が臨みました。

人事院勧告は、労働基本権制約の代償措置としては不十分

伊藤 真さん(伊藤塾塾長・弁護士)
河上 国家公務員の人権について、判例は当初厳しく制約していたところ、一時緩やかに認める時期を経て、再び制約するという変遷を経ていますが、どうしてでしょうか。
伊藤 それは当時の時代背景が大きな原因だと思います。今は冷戦も終わり、イデオロギーの対立がなくなってきました。猿払事件も事実上判例変更のようになってきています。今後も時代に合わせて最高裁の判例も変わってくる可能性があると思います。そのためには、労働組合が主張・運動し続けること。ILOの世界標準に合わせていこうという主張をすることが大切です。公務員の仕事の仕方を民間と同じように変えていこうという動きもあるけれど、そうであれば労働基本権も民間と同様に保障するのがフェアですよね。少なくとも争議権が一切ないのはどうかと思うし、警察、消防、自衛官は団結権すらない。
河上 労働基本権が制約されている件について、全農林警職法事件では、労働基本権制約を正当化する根拠として、人事院勧告による代償措置があげられていますが、この点いかがでしょうか。
伊藤 人事院勧告は、労働基本権制約の代償措置としては不十分です。制約されている労働基本権は、単に賃上げ闘争に限ったことではないですよね。賃上げ闘争だけなら、人事院勧告で公務員の賃金を民間に合わせるということはできるかもしれないけれど。労働基本権の本質は憲法13条の自己決定権に由来し、自分の職場環境は自分たちで決めることにあります。となると、その代償措置は人事院勧告では不十分です。
河上 おっしゃるとおり、労働組合は賃上げだけでなく職場のルール作りも目的に活動しています。しかし、憲法を根拠にそういう運動をしようとすると、憲法はイデオロギー的なものだからと距離を置く人も多いです。
伊藤 でも、みんな憲法99条を宣誓して公務員になっていますよね。憲法は政治的なものではないと思いますよ。

経済的効率性では測れない「人間くささ」という価値

末政 労働組合に関する一連の判例が出て、数十年が経過しています。ここ数十年の間に公務職場においても非常勤職員が増えたり、公務の民営化が進んだり、公務員を取り巻く環境が変化しています。こういった変化により、私たちにはどのような影響があるのでしょうか。
伊藤 判例は時代に応じて変化すべきだと思います。非正規雇用が増え、民営化が進んだという話が出ましたが、経済的効率性を重視する新自由主義の考え方が民間に浸透し、公務に浸食してきています。新自由主義の考え方が日本に入ってきた頃から、生活保護受給者や経済苦の自殺者が増えてきています。また、国鉄が民営化され、地方路線の廃線問題なども出てきています。
 世の中には、経済的効率性には馴染まないけれども必要なものがあります。だから公務員の仕事があると思います。特に福祉や人権(=憲法価値)を守るのは、公務員の役割です。だから、公務員の仕事を民間と同じように経済的効率性という価値のみで測るのは間違っていると思います。私は「有効な無駄」という言葉が好きなんですが、一見無駄に思われることも、長い目で見れば意味があることもあります。例えば車いす用のスロープ、環境保全、裁判の適正手続もそういった側面があるのではないでしょうか。
 刑事裁判は期日を開かずに平均値で刑罰を決めた方が効率的かもしれません。しかし、裁判は、不完全な人間が不完全な法律を使って人を裁く手続きです。よって不完全な判決が出ることもありえます。その不完全さを埋めるのは、経済的効率性では測れない「人間くささ」という価値だと思います。私も弁護士として、時には結論に満足できない判決が出されることもありますが、そういったときに書記官や事務官の「ご苦労様でした」という一言に救われたりします。

裁判は「次の新たな人生を自分の足で歩み始めるきっかけ」

左から 河上真啓さん(大阪)、
米島徹さん(愛知)
河上 極端な話、デジタル化によって、書記官や事務官はいらなくなるのではないかという意見もありますが、今のお話を聞いて、デジタル化が進んでも書記官、事務官ができることはたくさんあるということが分かりました。
末政 私が担当した事件の中に、ウェブ会議を何度重ねても和解できなかった事案があったのですが、尋問期日で直接顔を合わせたことをきっかけに和解が成立しました。当事者の方は、話を聞いてもらえてすっきりしたから和解する気持ちになれたと言っていました。
伊藤 そうそう、話を聞いてもらうというのは本当に大切。裁判は勝ち負けだけではないんですよね。負けても納得できるかどうか、これは裁判の不完全さを支える書記官、事務官のみなさんの「人間くささ」が出せるかどうかだと思います。ITを使って効率化するのも大切なことだけど、それでも絶対に機械に任せてはいけない部分はあると思います。
 裁判は、過去の紛争解決と言われるけど、その意味は、次の新たな人生を自分の足で歩み始めるきっかけなんですよね。そうすると、そこを機械に任せることはできません。裁判所の職員の「頑張ってくださいね」という一言や、当事者対応の際の和やかな雰囲気が寄与するところはとても大きいんですよ。
河上 そういってもらえると、自分の仕事にやりがいを持てそうです。
米島 ある当事者が「裁判には負けたけど、この裁判官に担当してもらえてよかった」と言ってくれました。そのとき、裁判は勝ち負けだけではなく、納得性も大切だと思いました。また、司法は未来を作っていくという大事な役割もあるんだなと感じました。
河上 弁護士としてデジタル化を迎える裁判所や職員に期待するものはありますか。
伊藤 デジタル化が使いやすいものになってほしいです。デジタル化自体が目的になってはいけないと思います。目的と手段を取り違えないことが重要だと思います。
河上 たしかに、使いやすいものができあがれば、義務付けなくても普及しますよね。
 マイナンバーカードもそうだけど、使いやすく安全なものになればみんな使うから、押し付けるのではなく、そういう風に持って行ってもらいたいですね。

憲法擁護義務は、国家公務員の仕事の核心

河上 話は変わりますが、憲法99条では、国家公務員に憲法擁護義務が課されていますよね。
伊藤 国家公務員は国家側であり、権力を行使する側にあります。権力はとても強い力、有無を言わさず服従させる力だから、権力を「正しく」行使する必要がありますが、これは難しいことです。正義はひとそれぞれですから。しかし、国家公務員が権力を行使する場合の「正しく」とは、憲法価値を実現することだと思います。憲法価値は国家公務員として守るべき正義の一つであることを明確に示しているのが憲法99条の意義だと思います。
米島 国民の改憲の議論と国家公務員の関係について、国民の多くが改憲すべきと考えている中で、国家公務員が憲法を守ろうという主張をすること、反対に国民の多くが改憲すべきでないと考えている中で、国家公務員が改憲を主張することの是非はいかがでしょうか。
伊藤 本来憲法改正をすることができるのは主権者である国民だけです。国家公務員には憲法擁護義務があるから、国家公務員の立場で憲法を変えていくことは、憲法を尊重しないことになり、許されません。総理大臣が内閣の立場として改憲を主張することも同様に禁止されます。ただし、国会議員だけは国民の意見を吸い上げて改憲を発議することが、憲法96条で認められています。もちろん、国家公務員が一市民として議論したり発言したりするのは自由です。

インタビューの様子

憲法は本当に正しい?

小田 権力行使の際の「正しさ」の判断基準は憲法ということですが、憲法は本当に正しいのでしょうか?日本国憲法は、戦後アメリカから押し付けられた憲法だから、改正すべきだという意見もありますが。
伊藤 本当に正しいかは誰にも分かりません。しかし、今のところ「正し『らしさ』」が最も高いものだと考えています。日本国憲法は、人類が過去の経験から学んだことで、多年の努力が詰まったものです。現に日本国憲法ができて75年間戦争は起こっていません。この事実には大きな意味があると思います。
 アメリカから押し付けられた憲法と言われることもありますが、アメリカから押し付けられたのではなく、アメリカから改めて気づかされた憲法だと思っています。日本では、世界の憲法と言われるマグナカルタよりも600年も前に、十七条憲法が制定されました。十七条憲法には、官僚が守るべき指針として「いさかいは避けるべき」、「権力を乱用してはいけない」「一人ひとり考えが違う。考えを押し付けてはいけない」といったことが定められており、日本国憲法と共通する理念を掲げています。このことから、日本国憲法の理念は、西洋文化、キリスト教の世界観、近代の価値観といったものとは関係なく、人類の普遍的価値だということが分かると思います。

平和を守るために武器を持つべき?持たざるべき?

左から 小田春香さん(本部)、
末政かなえさん(大阪)
小田 憲法上の価値の一つに平和主義があると思います。平和を守るべきということに賛成する人は多いですが、「武器を持つことで平和を守るべき」という意見と「武器を持たないことで平和を守るべき」という意見が対立することがあります。この点いかがでしょうか?。
伊藤 それは、平和を守るという目的のためにどちらが効果的か、国民の犠牲が少ないかを合理的に考えるしかないと思います。日本でも敵基地攻撃能力を持つべきという議論もありますが、こちらが武器を持てば相手も武器を持つことになり、際限がなくなる。現実的ではないと思います。
 このことは、銃の所持が認められているアメリカと禁止されている日本との比較により、すでに証明できていると思います。「銃が悪いのではなく、使う人間が悪い」という意見もあるが、人間は不完全な存在なので、銃を持てば使ってしまう人も出てきます。危険なおもちゃは持たないのが一番です。
 これを憲法に置き換えて考えると、第9条2項の本来の趣旨は、日本は武器を持たない。持ってしまったら、自衛にかこつけて使ってしまうかもしれない、ということだと思います。

平和を守るために、常に声を上げ、行動し続けること

河上 私は今年広島に行きました。仮に戦争が起きてしまったら、公務員は戦争の加担者になってしまうこともあると思います。そういったことを防ぐために、全司法では、国公労連に結集してデモに参加したりしていますが、そのほかに労働組合としてできることはありますか。
伊藤 あらゆる場面で声を上げ続けることです。9条改憲の発議や敵基地攻撃能力を持つという憲法をないがしろにしようとする動き等、あらゆる動きがあるときに組合として声明を出し続けること。万が一それが通ってしまったとしても、それでもあきらめないで声を上げ続ける。そして具体的に公務員として戦争に駆り出されることになったら拒否する。場合によっては裁判になるかもしれないけど、それを組合として支援していく。とにかく、常に声を上げ、行動し続けることしかないと思います。まさにそれが団結の力だと思います。
河上 今日のお話を聞いて、憲法改正論は、現実に憲法を合わせるという発想でなされているけれど、むしろ理想を描いた憲法に現実を近づけていくべきだと思いました。
伊藤 誰かが理想を掲げ続けないといけない。特に、政治家や教師は青臭いことを言い続けないといけないと思います。また、国家公務員もよりよい国にしていくという理想のために働く職業だと思います。

ゲスト
伊藤 真さん(伊藤塾塾長・弁護士)

インタビュアー
小田 春香さん(青年協議長)
末政 かなえさん(近畿地区担当 青年協常任委員)
米島 徹さん(中部地区担当 本部非常任中執)
河上 真啓さん(近畿地区担当 本部非常任中執)
 
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労働組合の社会的な役割について、改めて思うこと
中央執行委員長 中矢正晴
 

 物価高のもとで実質賃金が連続して減少し続けていることが報道されています。物価が上昇すると、同じ金額で買えるものが少なくなるので、賃金の価値は下がります。私たちは働いて賃金を得て、物を買って生活しているので、単に「〇〇円上がった」という名目賃金ではなく、実質賃金こそが重要です。
 社会や経済の歪みの大きな原因が、日本が「賃金が上がらない国」になってしまったことにあり、それが20年以上も続いていることにあります。賃金が上がらないと、国内消費が伸びず、経済成長も止まってしまいます。税収や社会保障財源にも影響します。何より、生活が苦しくなり、将来への不安も広がります。そこにコロナ禍、続いて物価上昇が襲い、国民生活は今、大きな打撃を受けています。
 では、どうすれば賃金を上げることができるのでしょうか?
 それは、労働組合が力を持って、きちんと要求していくことであり、それなしには実現しません。使用者との交渉はその要ですが、最低賃金制度の確立、公務員賃金改善の仕組みづくり、(賃上げの条件を作る)中小企業対策や(実質賃金改善のために)物価対策を政府などに求めていくこと、そして「賃上げが必要」との世論を盛り上げていくことも労働組合の役割です。むしろ、この20年間で労働組合が弱くなってしまったことこそが、日本の社会が抱える矛盾と困難を大きくしている原因だと思います。
 労働組合を強く大きくすることは、日本の社会にとっても必要不可欠だということであり、それができていないことが最大の課題だということです。
 平和や民主主義をめぐる問題でも、敵基地攻撃能力保有等の心配な動きが広がっていますが、歴史的に見て、こうした課題で労働組合が果たしてきた役割は大きく、その力が弱くなったことと、今の状況は無関係ではないと思っています。
 私は、全司法の組合員を増やし、組織を強く大きくしていくことは、裁判所にとって必要不可欠だと機会あるごとにお話ししていますが、最近は、労働組合を強く大きくしていくことは、日本にとって必要不可欠だと強く思うようになりました。
 みなさんと一緒に、自信を持って元気に活動していく、2023年をそんな年にしたいと思います。

 
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全司法本部からの年賀状
 

 昨年7月の定期大会で本部役員に選出された書記次長の猪股陽子さん(宮城)と、青年協議長の小田春香さん(福岡)。組合員の代表として活躍中の二人に、本部に来てからの半年を振り返り、近況を語っていただきました。
 組合員のみなさんへの「年賀状」としてインタビューを掲載します。

「二人とも楽しく、元気にやってます。」

「参加して」「顔が見えて」わかったこと

 本部に来るまでと、来てからと、活動に関する印象で変わったところはありますか?

小田 職場にいた時よりも、社会に目が向くようになりました。国会前行動や日比谷公園の集会とか、街頭宣伝に参加するとか、日常的に機会があるので、自然にそうなっていった気がします。

 そうした行動に参加することについて、抵抗はありませんでしたか?

小田 実際に参加して、話を聞いてみると、実は大切なことを言っていて、そうした活動をすることは納得ができると思いました。
猪股 集会の名前やスローガンで尻込みする人もいるかもしれませんが、まずは、職場のみなさんも一度参加してみて、何を主張しているのかを実際に聞いてみてもらえればと思います。

 猪股さんは、本部に来てからの活動について、どう感じていますか?

猪股 国公労連をはじめ知り合いが広がっていくのが楽しいです。職場にいた時は「他団体と共同して」と方針に書いてあっても、正直ピンとこなかったのですが、知り合いになって、相手の顔がわかると、自然と一緒にやろうという気持ちになってきます。

「集まりたい」気持ちが多くの人たちの中にあった

猪股書記次長
 
小田青年協議長
 猪股さんは書記次長で、最高裁当局との折衝に入ることが多いですが、当局との関係ではどうですか?

猪股 「こんなにも交渉や折衝が多いのか!」と思いました。それに、一つひとつの交渉・折衝がバラバラに存在するのではなく、要求を出したところからずっと連続していて、その結果として、要求前進があることに気がつきました。

 小田さんは、青年協議長ですが、青年の活動はどうですか?

小田 コロナはまだ完全に収まったわけではありませんが、それでも徐々に集まれる機会が増えています。そうすると、実は「集まりたい」という気持ちが多くの人たちの中にあったことに気がつきました。一人ひとりの青年たちに情報を届け、集まる機会を増やしていきたいと思っています。

休日の過ごし方、そして、今年の抱負について

 ところで、休日はどんなふうに過ごしていますか?

猪股 最近、自転車を買って、休みの日には行き先を決めずに出かけて、着いた先で自分がいる場所を調べて帰ってくる、というのをやっています。先日は巣鴨に行ったんですよ。
小田 東京にいると、全国どこでも行きやすいし、活動を通してできた知り合いがどこにでもいるので、あちこちに遊びに行くのが楽しいです。最近も仕事以外で、名古屋や函館に遊びに行ってきました。

 最後に、今年の抱負を教えてください。

猪股 本部に来てから、地連主催の会議などにオンラインで参加しましたが、まだどこにも実際に足を運べていませんので、早くみなさんに会いに行きたいと思っています。
小田 今年の8月に青年協の友好祭典があり、これを成功させるのが最大の目標です。これをきっかけに全国の青年がつながれるようにしていきたいと思います。

 
 
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