全司法本部四役は、10月15日に就任あいさつをかねて大谷直人最高裁判所長官と会見しました。最高裁からは、中村事務総長、徳岡人事局長、福島人事局総務課長が同席しました。
委員長 本日の会見にあたって、全司法労働組合として持っております問題意識のいくつかの項目について意見を述べさせていただき、長官の考えをお聞かせ願いたいと思います。
長官 委員長の御意見は承りました。
当局と職員団体という立場の相違はありますが、今後ともこれまで同様、相互の信頼関係に基づき、いろいろな問題について、率直に意見交換をしながら、より良い方向で解決していってもらいたいと思います。
なお、新型コロナウイルス感染症は、現在もなお国民生活に深刻な影響を及ぼしています。こうした中、裁判所においては、感染拡大の防止と、国民から負託された紛争解決機関としての役割とをどのように調和させていくかを最大の課題として取り組んできました。この間の全国の職員各位の尽力に対して、改めて敬意を表したいと思います。
裁判所の人的態勢整備、超勤実態の把握と事務の簡素化・効率化について
超過勤務の削減や働き方の見直しに取り組んでいきたい
委員長 さきに2022年度予算の概算要求が示されました。13年ぶりに家裁調査官の増員要求に踏み出したことについては、前進と受け止めています。
一方、2年連続して裁判官や書記官などの事件処理のための人員を要求しませんでした。統計上は、家事事件などを除いて事件の減少傾向が続いていますが、職場からは引き続き繁忙状況について報告があり、増員要求も出されています。最高裁の人員要求と、職場実態あるいは職員の認識との差を埋めるためにも、事件数や庁規模だけでなく、各庁各部署の事務処理状況をきめ細かく見て、繁忙部署への人員配置を行うよう求めます。
また、今後、新型コロナウイルス感染症の拡大が裁判所の事件動向に影響を与える可能性も考えられることから、コロナ禍のもとでの経済、社会状況を注視し、適正・迅速に事件処理を行うための態勢整備を図ることが必要だと考えます。
事務処理状況を見るにあたって、超過勤務の実態は大きな要素だと思いますが、私たちはとりわけ、超勤時間の正確な把握を最も重要な問題だと考えています。2019年4月に改正人事院規則が施行され、超過勤務の上限規制が導入されましたが、結果として、上限時間ばかりが意識され、申告に基づく把握が足かせとなって、全国でサービス残業が一般化してしまいました。これは、1990年代初めに超過勤務をめぐって最高裁と全司法が真剣に議論し、「サービス残業や持ち帰り仕事については、あってはならない」との回答に結実した重要な到達点を後退させるものになっています。また、昨年明らかにされた「今後の裁判所における組織態勢と職員の職務の在り方の方向性等について」では「最適な人的態勢の在り方を検討する」とされていますが、超勤実態が把握されなければ、これを議論・検証することは困難になります。
行政府省では、客観的な記録を基礎にした職員の超過勤務時間の把握や「見える化」が課題となっています。裁判所もこれに遅れることなく、職員の申告任せではなく、客観的な超勤時間を把握する姿勢を明確にすることを求めます。
あわせて、超勤縮減のために事務の簡素化・効率化を進めることが重要だと考えており、この間の最高裁の努力姿勢については前向きに受け止めています。引き続き、通達等の見直しも含めて検討するとともに、簡素化・効率化の推進に向けて下級裁に対する指導も強めていただきたいと思います。
長官 裁判所の人的態勢については、今後、書記官や事務官を始めとする職員一人一人が本来の役割・職務に注力して専門性を活かすことのできる事務処理態勢を構築して、より活力のある組織を目指していくことが必要であると考えており、それに相応しい最適な人的態勢を構築し、裁判所が、国民の期待に応え、信頼が得られるよう、引き続き、努力していきたいと考えています。また、事件動向を始め、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が社会経済等に与える影響についても、引き続き注視していきたいと思います。
公務における超過勤務の上限等に関する措置が導入される等、長時間勤務の問題は社会的にも大きく取り上げられているところです。最高裁としても、超過勤務を的確かつ遅滞なく把握するよう、今後も下級裁に対し指導を徹底するとともに、職場の実態等を踏まえながら、通達等の見直しなどを含め、これまで以上に各種事務の簡素化・効率化、業務プロセスの見直し等を進め、裁判部、事務局を問わず、組織全体として超過勤務の削減や働き方の見直しに取り組んでいきたいと考えています。
裁判手続のIT化について
職員及び職員団体の要望等も踏まえながら検討を進めていきたい
委員長 全司法は国民の裁判を受ける権利の拡充をめざす観点から、IT化が「司法アクセスの向上」と「国民が利用しやすい裁判所の実現」のための方策となる必要があると考えています。
現在、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会では、民事訴訟法の改正要綱案作成に向けた本格的な審議が行われているものと認識しています。全司法は、今年1月に開催した第81回中央委員会において民事訴訟手続IT化に関する考え方をとりまとめ、これに基づいて随時、最高裁にも意見書を提出しています。これらの内容を含め、全司法の意見を聞きながら、裁判所としての検討を進めていただきたいと思います。
また、2022年度予算の概算要求で裁判手続等のIT化関連経費が特に要求されたことは重要だと考えています。これには「フェーズ3」におけるシステム開発等の予算が計上されていると聞いていますが、IT化が将来にわたっても安定的に運用されていくためには、このシステムがきわめて重要だと考えます。システムを利用する国民はもちろん、裁判所内部の事務処理システムとしても利用しやすいものとなるよう、現場の職員の意見も聞きながら開発することを求めます。
現在、新型コロナ感染拡大の影響によるウェブ会議のニーズもあり、IT化について国民の理解が進みやすい状況も生まれています。また、IT化は、それを見越した思い切った事務処理の見直しを進める契機にもなります。こうした変化を事務の簡素化・効率化等につなげるよう、また、IT化を踏まえた備品や庁舎施設が整備されるよう求めます。
民事訴訟手続以外の分野についても、「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」(法務省)や「家事事件手続及び民事保全、執行、倒産手続等IT化研究会」(商事法務研究会)で検討されており、裁判手続の全面的なIT化に向けた検討が急ピッチで進められています。これらについても、全司法の意見を聞きながら裁判所としてのとりくみを進めるよう求めるとともに、とりわけ、刑事分野については、かねてから全司法が提案している「令状センター構想」実現に向けて努力いただくようお願いします。
長官 新型コロナウイルス感染症対策の一つとして人の接触機会の低減が求められるようになったことを契機に、裁判手続のIT化の有効性は広く実感され、本格的な実現への期待もますます高まっています。このような中、裁判手続のIT化の先頭に立っている民事訴訟手続のIT化は、法制審議会で調査審議が行われるとともに、ウェブ会議等を活用した争点整理の運用が順次拡大されるなど、検討・準備が進められていますし、家事・刑事等の分野のIT化についても、研究会や検討会が設置されるなどして検討が開始されています。
裁判手続のIT化については、在るべき裁判の姿を見据えつつ、従来の議論にとらわれない新鮮な視点をもって裁判所全体で幅広く意見交換等をしていくことが重要であり、引き続き、必要に応じて職員及び職員団体の要望等も踏まえながら検討を進めていきたいと考えています。また、IT化に当たっては、利用者の利便性の向上を図るとともに、裁判所を始めとする関係者の業務効率の向上が図られるよう、適切に検討していきたいと考えています。
専門性を活かした職員の育成について
専門性を活かす事務処理態勢を構築し、
より活力のある組織を目指すことが必要
委員長 全司法は昨年4月28日に「事務官制度に関する全司法の意見」を提出しました。そこで示した考え方は、司法行政部門の専門性を洗い出し、それに見合う専門性を持った専任事務官を育成し、いわゆる「スペシャリスト」の事務官が配置できるよう研修とOJT、配置と異動、登用等のあり方を見直し、専門性に見合った処遇を行うことについて検討を求めるものになっています。
今般、そのうち研修制度の部分を具体化するものとして今年の第78回定期大会において「事務官研修体系に関する全司法の見直し案」を確立し、8月12日に提出しました。
かつて事務総局内に設置された参事官室と全司法との事実上の事前協議を経て、1996年に最高裁は「中長期的視点に立った職員制度に関する提言」(参事官室提言)を発出していますが、今回の意見はその考え方を引き継ぎ、時代に合わせて発展させるものと位置づけています。すなわち、「裁判部は書記官、事務局は事務官が担う」という二元官職を前提に職員制度を確立し、若手職員の配置と異動を通じた能力開発と適性発見、研修の充実によって人材を育成し、裁判部門の充実強化を図り、専任事務官の登用と処遇改善を実現するという方向性を前提にしています。
事務官だけでなく、各職種に求められる専門性を身に着け、それが日々の仕事に活かされることは、職員本人のやりがいにつながると同時に、組織を活性化させ、裁判所全体の執務能力の向上にもつながると考えています。また、そのことが職務評価を高め、職員の処遇の維持・改善につながることを希望しています。
今年4月の全国の職員の退職採用状況を見ると、大量退職期の入り口にさしかかったことが窺われ、これからの育成方針を早期に確立する必要があると考えます。全司法と意見交換を行いながら、各職種の職員制度を確立し、育成、配置等の施策として具体化していただきたいと考えます。
長官 裁判所が、変化を続ける社会に対応しつつ、多様化する国民のニーズに合致した質の高い司法サービスを将来にわたって提供していくためには、組織としての活力の維持・向上を図っていかなければなりません。そのため、先程も述べましたように、今後、書記官や事務官を始めとする職員一人一人が本来の役割・職務に注力して専門性を活かすことのできる事務処理態勢を構築して、より活力のある組織を目指していくことが必要であると考えており、そのような観点も踏まえながら、引き続き、職員一人一人の能力を伸長させる計画的かつ継続的な人材育成の充実に向けて取り組んでいきたいと考えています。
全司法との誠実対応について
相互の信頼関係に基づき忌憚なく話し合うことで問題を解決
委員長 1992年3月18日の最高裁事務総長見解以来、全司法と裁判所当局とは相互の信頼関係に基づいて、安定した労使関係を築くことができているものと考えており、日頃から誠意をもって対応いただいていることに対し、改めて感謝いたします。
全司法は職員の地位の向上と「国民のための裁判所」実現を組織の目的としており、職員の処遇問題にとどまらず、官の職制の中からは浮かび上がってこない職場実態を拾い上げ、可視化し、より良い裁判所を作るために努力しているものと自負しています。そうした視点から、全司法を裁判所の職場をともに作るパートナーとして位置付け、職場で起きる様々な課題について、今後とも建設的な議論を続けていただきたいと考えております。
その意味でも、最高裁はもとより、全国の各庁で全司法の意見に耳を傾け、率直で建設的な議論を重ねていくことができるよう、これまで築き上げてきた信頼関係を尊重し、誠実に対応されるよう下級裁に伝えていただくことを含め、確認したいと思います。
長官 昨年も述べましたように、平成4年3月18日の事務総長見解の内容は当然のことと考えています。職員の勤務条件やこれに関連する事項については、これまで築き上げてきた相互の信頼関係に基づき、率直に問題意識をぶつけ合い、忌憚なく話し合う中で、問題の解決を図っていかなければならないと考えています。
担当部局には、今後もそのような立場で努力させたいと思いますし、職員団体もその方向で努力していただきたいと思います。
|