 |
法制審部会が出した
「中間試案のたたき台」(目次) |
昨年12月25日に開催された法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第7回会議で、「中間試案のたたき台」について審議が行われました。
その中身について、全司法が特に関心を持ってきた部分を中心に検討してみます。
オンライン申立
「義務化」が論点
現在検討されている民事訴訟のIT化では、インターネットによる申立てが導入されますが、それを義務化するかどうかが論点となっています。
たたき台では、@義務化したうえで、訴訟代理人以外の者で「やむを得ない事情がある」場合は「この限りではない」とする(甲案)、A訴訟代理人については義務化する(乙案)、B義務化しない(丙案)の3案が示されています。義務化する場合、書面で提出された時には「訴状審査権に類する審査権を創設することが考えられる」とし、書記官が補正処分として受理しない等の判断を行うことも想定されています。
全司法は、裁判手続のIT化が「司法アクセスの向上」と「国民が利用しやすい裁判所の実現」に資するものとなるよう主張してきました。司法アクセスの後退につながる可能性があるオンライン申立ての義務化には慎重であるべきだと考えます。義務化で押し付けるのではなく、オンライン申立てを選択する利用者が増えるよう、利用しやすいシステムを構築し、サポートの仕組みを作ることこそが重要です。
訴訟記録は電子化
送達もオンラインで
訴訟記録は電子化されることになり、紙の記録はなくなります。訴えの提起、準備書面・書証の提出も、裁判所の(サーバーの)ファイルに記録する方法によって行われます。
記録が電子化されることから、書面による申立てが行われた場合、書面を電子化することが必要になりますが、裁判所がその事務を行うにあたって「役務の対価として、手数料を徴収すること」が検討されています。また、システム送達や直送でも、裁判所が出力した書面を用いる場合に手数料を納付させるという考え方が示されています。IT化に伴って、こうした新たな利用者負担の仕組みをつくることも慎重であるべきです。このような手数料の徴収は事務としても煩雑になり、「郵便費用の手数料への一本化」等との整合性にも疑問が生じます。
送達については、ファイルに電子書類(データ)を記録し、その旨を当事者の電子メールアドレスに通知する方式(システム送達)が導入されます。裁判所の当事者に対する送付、当事者の相手方に対する直送も、この仕組みが使えます。ただし、当事者に電子メールアドレスを登録させる必要があり、それがない場合には、従来どおり、郵送や交付によることになります。公示送達は庁舎の掲示板ではなく、裁判所のウェブサイト等に掲示して行います。
口頭弁論などの手続で
ウェブ会議等を活用
裁判所が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、ウェブ会議等を用いて口頭弁論の期日における手続を行うことができるとしています。当事者が裁判所に出頭しなくても口頭弁論期日を開けるということで、ここが法改正の一つのポイントです。
証人尋問についても、証人の出頭が困難な場合だけでなく、「相当と認める場合において、当事者に異議がないとき」もウェブ会議等による実施ができるとしています。
ITツールの特性を十分活用することを前提に、6か月以内で終結する「新たな訴訟手続」の創設も検討されています。これについても、原告申立てによる甲案、当事者共同申立てによる乙案、新たな手続は設けないとする丙案が示されています。
争点整理手続等については、電話会議等の活用とあわせて、準備的口頭弁論、弁論準備手続、書面による準備手続の3種類の手続をどう整理するかが検討されています。
和解については、電話会議等の活用とあわせて、「新たな和解に代わる決定」が検討の俎上にのぼっています。また、受託和解において、書記官の調書記載で確定判決と同一の効力を有する旨の規定を設けることも検討されています。
この他、進行協議、審尋、専門委員制度、通訳人、鑑定人、検証、裁判所外における証拠調べなど、多くの場面でウェブ会議等の利用を拡大する方向性が示されています。
郵券予納廃止
書記官権限の拡大も
判決は「電子判決書」として作成され、これに基づいて言い渡し、送達は出力した書面で行うかシステム送達によることになります。なお、弁論の更新について、結果陳述を失念していても「異議がないときには瑕疵が治癒されるみなし規定」を提案する意見があったことも紹介されています。
全司法の強い要求であった「郵便費用の手数料への一本化」が盛り込まれ、郵便費用の予納制度を廃止するとしています。手数料の納付方法はペイジーによる納付が示されています。なお、オンライン申立てを促進する観点等から、手数料の額に差異を設けるという考え方も記載されていますが、これについては、先に述べた手数料徴収と同様、司法アクセスに与える影響の有無を慎重に検討すべきです。
IT化に伴う書記官事務の見直しについても言及されており、担保取消、訴状の補正及び却下の一部、調書の更正などについて、書記官権限とすることがあげられています。
※「中間試案のたたき台」は、法務省のHPで見ることができます。
民事訴訟手続IT化に関する全司法の考え方
中央委員会に提起
全司法は、裁判手続IT化について2017年6月9日の政府の閣議決定当初から強い関心を持ち、節目ごとに書記長談話、要求書、意見書などを発出してきました。また、昨年7月の第77回定期大会では本部内に「裁判手続IT化検討プロジェクト」(メンバーは末尾のとおり)を設置し、全司法の要求や考え方について検討してきました。
法制審議会での審議が急ピッチですすめられ、民事訴訟手続のIT化が本格化してくることを踏まえ、1月31日〜2月1日に開催した第81回中央委員会では第1号補足議案として「民事訴訟手続IT化に関する全司法の考え方」を確立しました。
プロジェクトでの検討を終えて
◆各項目において、現在よりも事務を簡素化・効率化できるよう、現時点で要求すべきことは網羅的に議論できたと思います。IT化により、「書記官事務が簡素化・効率化された」、「従来よりも裁判所が利用しやすくなった」といった声が聞こえてくるように、是非、皆さんも議論していただければと思います。
河上 真啓
◆裁判所に押し寄せるIT化の波は、裁判事務の他の分野へ広がりを見せていたり、コロナ禍における裁判事務の在り方に変化を生じさようとしていたりしている中で、IT化に向けた議論はいつか皆さんの身近なものとなるはずです。この「考え方」をきっかけに裁判手続のIT化に関心を寄せてもらい、現場から様々な意見を出してもらえればと思います。
斉藤 裕記
◆プロジェクトでは、法制審議会や日弁連などの動きも意識しながら、裁判所書記官の視点・利用者(当事者)の視点を踏まえた討議を行いました。裁判官が独立して事実認定や判断を行う前提としての裁判の円滑な進行には書記官が必要だし、何より法律にのっとった裁判の進行と当事者をつなぐのも書記官なのだと強く感じることができました。
鳥井 絵美
◆検討にあたっては、最高裁に忖度なしに意見を表明することができ、国民とともに、国民の裁判を受ける権利の拡充に向けて運動をすすめることができる全司法の存在にあらためて感謝している。IT化のとりくみを通じて、全司法・組合員の足腰を更に鍛えよう。
牧山 利春
プロジェクト・メンバー
中矢正晴、簑田明憲、河上真啓(本部)、石川純(東北)、斉藤裕記(東京)、鳥井絵美(中部)、大西一嘉(近畿)、西川敬志(中国)、牧山利春(九州)以上、敬称略
|