全司法本部四役は、12月18日に就任あいさつをかねて大谷直人最高裁判所長官と会見しました。最高裁からは、中村事務総長、徳岡人事局長、福島人事局総務課長が同席しました。
委員長 本日の会見にあたって、全司法労働組合として持っております問題意識のいくつかの項目について意見を述べさせていただき、長官の考えをお聞かせ願いたいと思います。
長官 委員長の御意見は承りました。
当局と職員団体という立場の相違はありますが、今後ともこれまで同様、相互の信頼関係に基づき、いろいろな問題について、率直に意見交換をしながら、より良い方向で解決していってもらいたいと思います。
新型コロナウイルス感染症のもとで裁判所運営について
感染拡大による事件動向への影響等について
注視し、適切に対応していきたい
委員長 新型コロナウイルス感染症の拡大は、世界中に大きな影響をもたらしています。日本においても経済状況の悪化が伝えられており、すでに倒産・廃業、解雇・失業といった問題が数多く発生し、今後さらに深刻になるのではないかとの報道もあります。また、自宅で過ごす時間が増えるもとで、DVや児童虐待をはじめ、家庭をめぐる様々な問題の発生も懸念されています。今後、こうした問題が裁判所の事件動向に影響を与える可能性も考えられることから、コロナ禍のもとでの経済、社会状況を注視し、適正・迅速に事件処理を行うため態勢整備を図ることが必要だと考えます。
また、裁判所の職場においても、感染拡大防止をはかりつつ事務処理を行うなど、これまでにない対応が求められています。この間のとりくみでは、当局としても様々なご苦労があったかと思いますが、秋以降、感染者数は「第3波」と呼ばれる急速な拡大を見せており、未だ終息は見通せない状況にあります。引き続き、裁判所として感染防止と業務の遂行をどのような形で両立していくのかを検討し、今後に備える必要があるのではないかと考えています。
@庁内におけるソーシャルディスタンスの確保、物品・備品の購入・整備などをはじめとする感染防止策、A感染拡大のもとでの事件処理をはじめとした業務継続のあり方、B緊急時に在宅勤務を導入しながら、どのように日常的な事務処理を効率的に進めるか、C利用者へのアナウンスや職員間での情報共有をどのように図るのか、D妊娠中や基礎疾患を抱えた職員への配慮、子どもや介護を要する家族を抱えた職員の特別休暇(出勤困難休暇など)や職務専念義務免除の柔軟運用、E感染者が出た場合の対応などについて、職場から意見や要望が上がってきていますので、引き続き、全司法とも情報交換を行いつつ、職場の体制を作っていっていただきたいと思います。
また、各庁が職場実態に応じて検討すべきものもあると考えますが、全国的に一定の経験や教訓が蓄積されていることと思いますので、それらを集約し、全国統一して対応すべきものについては、最高裁が指針となる方向性を示していただきたいと考えます。
長官 新型コロナウイルス感染がまん延して以降、裁判所においては、感染拡大の防止と、国民から負託された司法権を行使する紛争解決機関としての役割とをどのように調和させていくかを最大の課題として取り組んできました。
最高裁においても、下級裁に対し、裁判手続の実施に当たって感染防止の観点から留意すべき事項などを随時示してきたところですし、7月15日に開催された高等裁判所長官事務打合せでは、それまでの間の各庁での対応等について振り返りを行い、11月19日に開催された同事務打合せでは、今後の取組等に関して意見交換をしたところです。
また、本感染症の感染状況や社会情勢等を踏まえると、より裁判所の実態に即した専門的知見に基づく対策を実施していく必要があると考え、専門家の助言を得ながら、これまでの裁判所における感染防止対策の効果について確認するとともに、公衆衛生学等の知見に基づき、裁判所の感染防止対策の全体について、リスク態様に応じたメリハリの利いた実効的なものとなるよう考え方を整理し、12月4日、各庁に対して周知したところです。
もとより、各庁の感染防止対策や執務態勢等は、地域の感染状況や職場の実情等も踏まえた上で、各庁において検討されるべきものですが、最高裁としても、引き続き、本感染症の感染拡大による事件動向への影響等について注視しつつ、必要な情報や留意すべき事項等を下級裁と適宜共有するなどして、適切に対応していきたいと考えています。
今後の裁判所における組織態勢と職員の職務の
在り方の方向性等について
職員一人一人が本来の役割・職務に注力して専門
性を活かすことのできる事務処理態勢を構築
委員長 諸要求期の交渉において、最高裁は「今後の裁判所における組織態勢と職員の職務の在り方の方向性等について」について基本的な考え方を全司法に示されました。
裁判手続のIT化が本格化してくる情勢のもと、大量退職期を目前に控えて、国民の負託に応え、裁判所の執務能力を維持・向上させるための職員制度について検討することが必要になっているとの私たちの問題意識に応える形で、最高裁が検討の方向性を交渉の場で事前に説明し、全司法の意見を聴く姿勢を示されたことは、誠実対応の姿勢として評価しています。引き続き、全司法としても建設的な議論を行っていきたいと考えています。
示された内容に関わって、この機会に少し考えを述べておきます。
全司法は、国民のニーズ等を踏まえれば、裁判手続のIT化は今後推進されていくべきものだと考えています。7月17日の成長戦略等に関する閣議決定において、民事裁判にとどまらず、他の裁判手続も対象にするとの政府の方針が示されたこともふまえ、IT化が国民の裁判を受ける権利の拡充をめざす観点から、「司法アクセスの向上」と「国民が利用しやすい裁判所の実現」のための方策となるよう、中核となるシステムの開発・運用に必要な費用をはじめ、司法分野の国民的基盤整備にふさわしい十分な予算が確保されるよう最大限の努力を要請します。
また、今後の人的態勢については「削減ありき」ではなく、必要な人員を確保するよう最大限の努力を要請します。とりわけ、この間、地方から東京及びその周辺をはじめとした大規模庁への人員シフトが続けられており、中小規模庁では「これ以上の減員は無理だ」との声がさらに強まっています。以上のことから、裁判所の人的・物的充実は今後も重要な課題だと考えます。
事務の簡素化・効率化をすすめることは、必須条件だと考えています。この間、上訴記録の整理などで前進があったことは、最高裁の姿勢の表れだと受け止めていますが、なお一層の検討を進めるとともに、過剰・不合理な過誤防止策をなくすことも含めて、全国的に簡素化・効率化がすすむよう、明確なメッセージを出していただきたいと考えます。
なお、超過勤務の実態把握は超勤上限規制への対応だけでなく、「今後の方向性」をすすめるうえでも大前提になるものだと考えています。実態を把握することは、超勤縮減や事務の簡素化・効率化をすすめる動機付けとして不可欠であり、必要な人員の確保がされているかどうかを判断する目安となり、IT化による効率化の効果を検証する根拠となります。まだまだ、自己申告頼みの実態や、超勤実態を把握すべき責任についての管理職員の認識の低さが見られる状況ですので、ぜひ、改めて指導・徹底をお願いしたいと考えています。
長官 情報通信技術の急速な発展普及を始めとした近時の社会経済情勢の変化やそれに伴う国民のニーズの変化等に適切に対応し、より質の高い裁判を迅速に行うためには、今後、書記官や事務官を始めとする職員一人一人が本来の役割・職務に注力して専門性を活かすことのできる事務処理態勢を構築して、より活力のある組織を目指す必要があると考えており、それに相応しい最適な人的態勢を構築し、裁判所が、国民の期待に応え、信頼が得られるよう、引き続き、努力していきたいと考えています。また、裁判手続のIT化についても、裁判所がその使命を適切に果たせるよう、検討を進めていきたいと考えています。
他方で、公務における超過勤務の上限等に関する措置が導入される等、長時間勤務の問題は社会的にも大きく取り上げられているところです。最高裁としても、超過勤務を的確かつ遅滞なく把握した上で、職場の実態等を踏まえながら、法令に則った適正な事務を遂行していくとともに、これまで以上に事務の簡素化・合理化、業務プロセスの見直し等を進め、裁判部、事務局を問わず、組織全体として超過勤務の削減や働き方の見直しに取り組んでいく必要があると考えているところであり、その取組を後押ししていきたいと考えています。
職員の育成について
計画的かつ継続的な人材育成の充実に向けて取り組む
委員長 「今後の方向性」の中でも示されているとおり、「職員一人一人が本来の役割・職務に注力して専門性を活かすことのできる事務処理態勢を構築する」ことは、とりわけ重要な課題だと考えています。
事務官については、4月28日に「事務官制度に関する全司法の意見」を提出しました。そこで示した考え方は、司法行政部門の専門性を洗い出し、それに見合う専門性を持った専任事務官を育成し、いわゆる「スペシャリスト」の事務官が配置できるよう研修とOJT、配置と異動、登用等のあり方を見直し、専門性に見合った処遇を行うことについて検討を求めるものになっています。
書記官については、裁判手続のIT化に関わって、書記官事務のあり方を検討していくことが喫緊の課題となっています。IT化との関りを考える上でも、書記官一般の専門性に加えて、各部門ごとの専門性を持った中堅・ベテラン書記官を育成・配置することにより、文字通り「根拠と目的」に則って自らの権限で合理的に事務処理を行える書記官を育成していくことが重要だと考えています。
その他の職種については、本来的に専門性にもとづいて採用・配置が行われているところ、それが活用される仕組みを不断に検討することを求めます。とりわけ、家裁調査官については養成課程の見直しが行われることを契機に、従来の「新たな育成施策」にこだわることなく、ワークライフバランスとの両立を図りつつ専門性の付与と活用が実現できるよう検討することが必要です。
いずれも、キーワードは「専門性」であります。各職種に求められる専門性を身に着け、それが日々の仕事に活かされることは、職員本人のやりがいにつながると同時に、組織を活性化させ、裁判所全体の執務能力の向上にもつながると考えています。また、そのことが職務評価を高め、職員の処遇の維持・改善につながることを希望しています。
引き続き、全司法との意見交換を行いながら、各職種の職員制度を確立し、育成、配置等の施策として具体化していっていただきたいと考えています。
長官 先程も述べましたように、今後、書記官や事務官を始めとする職員一人一人が本来の役割・職務に注力して専門性を活かすことのできる事務処理態勢を構築して、より活力のある組織を目指す必要があると考えており、そのような観点も踏まえながら、引き続き、職員一人一人の能力を伸長させる計画的かつ継続的な人材育成の充実に向けて取り組んでいきたいと考えています。
全司法との誠実対応について
忌憚なく話し合う中で、問題の解決を図って
いかなければならない
委員長 1992年3月18日の最高裁事務総長見解以来、全司法と裁判所当局とは相互の信頼関係に基づいて、安定した労使関係を築くことができているものと考えており、日頃から誠意をもって対応いただいていることに対し、改めて感謝いたします。
全司法は職員の地位の向上と「国民のための裁判所」実現を組織の目的としており、職員の処遇問題にとどまらず、官の職制の中からは浮かび上がってこない職場実態を拾い上げ、可視化し、より良い裁判所を作るために努力しているものと自負しています。そうした視点から、全司法を裁判所の職場をともに作るパートナーとして位置付け、職場で起きる様々な課題について、今後とも建設的な議論を続けていただきたいと考えております。
その意味でも、最高裁はもとより、全国の各庁で全司法の意見に耳を傾け、率直で建設的な議論を重ねていくことができるよう、これまで築き上げてきた信頼関係を尊重し、誠実に対応されるよう下級裁に伝えていただくことを含め、確認したいと思います。
長官 昨年も述べましたように、平成4年3月18日の事務総長見解の内容は当然のことと考えています。職員の勤務条件やこれに関連する事項については、これまで築き上げてきた相互の信頼関係に基づき、率直に問題意識をぶつけ合い、忌憚なく話し合う中で、問題の解決を図っていかなければならないと考えています。
担当部局には、今後もそのような立場で努力させたいと思いますし、職員団体もその方向で努力していただきたいと思います。
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