人事院に設置された「公務職場におけるパワー・ハラスメント防止対策検討会」は、1月14日に「報告」をとりまとめて人事院に提出しました。報告書は「パワー・ハラスメントは、人権に関わるものとして、職員の利益の保護の観点から、防止されなければならない」との観点から公務におけるパワー・ハラスメント(以下、パワハラ)の定義を行い、予防、研修、相談体制、職員の救済と再発防止などについて記載しています。この報告を受けて、人事院は今後、新たな規則等を制定することになります。
パワハラ防止の足がかり 今後の具体化が重要
報告書は、「公務においてもパワー・ハラスメントに関する様々な問題が生じている現状にある」との認識に立ち、「パワー・ハラスメントは、人権に関わるものとして、職員の利益の保護の観点から、防止されなければならない」との基本的考え方を示しました。そのうえで、「防止対策として、各府省庁の長や職員の責務等を明確に規定するなど、法令による新たな実効的な枠組みを設けるべき」との結論を示して、新たな人事院規則の制定や、関連してとりくむべき事項について記載しています。
報告書の「Tはじめに」の部分で「職員団体からヒアリングを行い」と記載されているとおり、国公労連も昨年6月3日にヒアリングを受けており、全司法もヒアリングに向けた情報提供を行いました。
国公労連が1月15日に出した書記長談話の中でも「職場の実態や感情をふまえれば大枠では歓迎すべき」と評価しているとおり足がかりとなるものであり、今後、人事院や最高裁当局にこれを具体化させ、実効あるパワハラ対策をとらせていくことが重要です。
「利用者等による言動も含む」「勤務環境の問題」と明記
報告書は、公務におけるパワハラを「@職務に関する優越的な関係を背景として行われる、職員に精神的又は身体的苦痛を与え、A職員の人格や尊厳を害する、あるいは、職員の勤務環境を害することとなるような、B業務上必要かつ相当な範囲を超える言動」と定義しました(注・@〜Bは本記事のためにつけたもの)。
これは、厚生労働省が検討している民間指針の「職場において行われる、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」という定義よりもきめ細かなものになっています。
@については、民間で言うカスタマー・ハラスメントに相当する「行政サービスの利用者等による言動で、当該行政サービスをめぐるそれまでの経緯やその場の状況により、その対応を打ち切りづらい中でなされるもの」も含まれるとしています。
また、「行為者と受け手の関係性に着目した概念であり、言動が行われる場所や時間は問わない」ことが明確にされ、執務時間外に職場外で行われる言動も含まれることを示しています。
Aについては、「言動を直接に向けられた職員に精神的又は身体的苦痛を与え、その人格や尊厳を害する言動は、パワー・ハラスメントに該当する」「個別の職場の風土によって許容されるものではなく、懲戒処分に付され得る」と明記されるとともに、当該職員だけの問題ではなく「職員の勤務環境を害する言動」であるとされています。
Bについては、「業務の目的を達成するための手段として不適当な言動」「当該行為の回数・時間、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動」などが例としてあげられており、「業務上必要かつ相当な範囲」を超えるかどうかは、個々の具体的状況を踏まえて総合的に判断されるべきとしています。
人事評価や人員確保等にも踏み込んで記載
報告書は今後取るべき措置の中で、パワハラ禁止を人事院規則上明確にすることをすべきとしたうえで、「高い業績を残したとしても、その過程において部下をパワー・ハラスメントにより追い詰めている者については、高く評価されてはならない」と人事評価制度にも踏み込んだ記述をしています。
また、「パワー・ハラスメントが生じにくい勤務体制や職場環境を整備する」必要性にも言及し、「特に、業務過多や人員不足は、精神的余裕のなさやコミュニケーション不足を生み、パワー・ハラスメント発生の温床となるものである」とし、「業務の合理化等の働き方改革に取り組むとともに、業務量に応じた人員の確保を早急に進めるべきであり、それが可能となるよう、政府全体として取組を進める必要がある」と明記したことも評価できるものです。
研修の実施、相談体制の整備等を求める
こうした検討を踏まえ、具体的なとりくみとして、研修の実施、相談体制の整備、職員の救済と再発防止が示されています。
とりわけ、相談体制については「セクシュアル・ハラスメントの相談体制と同様に」「他のハラスメントも含めて一元的に相談を受けることができるような体制整備に努めることが適当」との考え方が示されており、これは、全司法がこれまで裁判所当局に要求してきたものと一致しています。
報告書は「業務上必要な指導との線引きが難しい等の課題が指摘されてきたが、公務職場は、国民のために存在する職場であるからこそ、より一層、ハラスメントがなく、そこに勤務する職員がその能力を最大限発揮できる勤務環境」でなければならないことを指摘すると同時に、「業務上必要な指導が適切になされることにより、職員の育成が継続的に図られる必要がある」と記載し、こうした対策をきちんととることが、むしろ「パワハラを恐れる余り必要な指導ができない」といった問題を解決するうえでも必要であることを明確にしています。
裁判所におけるパワハラ対策の具体化を
今後、人事院は4月に規則を制定し、民間の「パワハラ防止法」施行にあわせて、6月から施行する見通しだと言われています。
他の行政府省の対策に劣後しないことはもとより、三権分立のもとで最高裁は人事院的機能をもっていることから、この報告書を参考に、裁判所独自の対策をとることも可能です。全司法はこの間、パワハラやカスタマー・ハラスメントに当たる問題について当局に対応を求めてきましたが、この報告書を活用し、裁判所の職場で充実したパワハラ対策を具体化するよう求めていきます。
「公務職場におけるパワー・ハラスメント防止対策検討会報告」のポイント
T はじめに
U 現状と基本的考え方
V パワー・ハラスメントの概念
1 総論
パワー・ハラスメントは、当該言動を受けた職員の人格や尊厳を害するのみならず、職員の心身の健康を害し、パワー・ハラスメントに耐えきれずに職員が休職・退職せざるを得なくなることもあり、さらには命に関わる重大な事態をもたらすこともあることも考慮しなければならない。さらに、当該言動を直接に受けた職員のみならず、同じ職場で働く者の環境を害する問題であることを認識すべきである。
定義 「職務に関する優越的な関係を背景として行われる、職員に精神的又は身体的苦痛を与え、職員の人格や尊厳を害する、あるいは、職員の勤務環境を害することとなるような、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動」
W 職員の責務
1 パワー・ハラスメントの禁止
パワー・ハラスメントを行ってはならないことを職員の責務として人事院規則上明確にし、態様等によっては国家公務員法上の懲戒処分に付されることがあることを職員に明示すべき。
2 立場に応じた責務及び役割
* いかに高い業績を残したとしても、その過程において部下をパワー・ハラスメントにより追い詰めている者については、高く評価されてはならない。
* 上司は、パワー・ハラスメントになるかもしれないことを理由に指導を怠ることはあってはならず、自信をもって指導に当たるためにも、パワー・ハラスメントとは何かを深く理解することが求められる。
* 管理又は監督の地位にある職員以外の者であっても、職場の構成員として、パワー・ハラスメントが生じていると認識した場合には、黙認したりすることなく、パワー・ハラスメントを止めさせるよう努めるべき。
3 職員が認識すべき事項
人事院は、職員が認識すべき事項について指針を示すべきである。
X 未然防止のための勤務体制や職場環境の整備
業務過多や人員不足は、精神的余裕のなさやコミュニケーション不足を生み、パワー・ハラスメント発生の温床となるものである。各府省庁の長は、引き続き業務の合理化等の働き方改革に取り組むとともに、業務量に応じた人員の確保を早急に進めるべき。
Y 研修の実施
Z 各府省庁における相談体制の整備
[ 職員の救済と再発防止
\ 人事院による苦情処理・職員の救済
] おわりに
人事院においては、本提言を踏まえ、パワー・ハラスメント防止のための枠組みを適切に設けるとともに、各府省庁の取組について継続的に助言、指導していくことを期待したい。
※ 元の報告書は人事院のHPに掲載されています。
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