全司法本部四役は、10月17日に就任あいさつをかねて大谷直人最高裁判所長官と会見しました。最高裁からは、中村事務総長、堀田人事局長、福島人事局総務課長が同席しました。
委員長 本日の会見にあたって、全司法労働組合として持っております問題意識のいくつかの項目について意見を述べさせていただき、長官の考えをお聞かせ願いたいと思います。
長官 委員長の御意見は承りました。
当局と職員団体という立場の相違はありますが、今後ともこれまで同様、相互の信頼関係に基づき、いろいろな問題について、率直に意見交換をしながら、より良い方向で解決していってもらいたいと思います。
裁判所の人的・物的充実について
「今後とも必要な人員及び物的設備の確保を図っていく必要があります」
委員長 昨今、社会情勢が大きく動いていることを反映して、裁判所の判断が世間の耳目を集め、国民から注目されることが増えているように感じています。とりわけ、憲法が政治的な争点になっているもとで、国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という日本国憲法の基本原則が再認識される状況が同時に生まれており、三権分立のもと「憲法の番人」と呼ばれる裁判所の役割が多くの国民から求められていると考えています。
社会の動きを反映して、裁判所をめぐる課題や期待される役割も多様なものになっており、係属する事件も複雑・困難なものになっています。
2018年度における新受事件の動向を見ると、引き続き、家事事件、民事事件が増加していることがうかがわれます。地裁刑事事件はほぼ横ばいですが、国民の人権意識も反映して、準抗告など身柄に関する事件が各地で増加しています。こうした事件動向の一方、地方から大都市へという人員シフトが毎年続けられていることに対して、地方の庁の職場における負担感はより一層、強まっています。
家庭裁判所は創設70周年になりますが、少子高齢化がすすみ、児童虐待が社会的な問題になるなど、家庭や子供をめぐる情勢の変化を受けて、国民から新たな役割が期待されています。成年後見利用促進法に基づくとりくみも動き始めており、少年事件ではネット社会等を背景にした現代型非行をめぐる問題も指摘されるもとで、家庭裁判所の充実・強化は多くの国民が期待するものになっていると考えています。
裁判手続等のIT化はこれからの重要な課題になってくるものと認識していますが、「利用しやすくわかりやすい裁判所」「司法へのアクセス強化」のための方策となることが重要だと考えています。そのためには、司法分野における国家的基盤の整備と位置付けて、十分な予算を確保して行うことが重要であり、それを支える人的態勢の整備も図る必要があると考えています。この課題は、司法制度改革に匹敵する大きな変化を裁判所にもたらすことが予想され、今後の検討にあたっては、全司法の意見も聞きながらすすめていただきたいと考えています。
以上の問題意識をふまえ、各職場の状況をきめ細かく見ていただき、裁判所の人的・物的態勢整備をお願いしたいと思います。
長官 平成から令和へと新たな時代を迎えました。これまで、裁判の全ての分野にわたって、その態勢と機能を強化し、より身近で、信頼される司法を実現することを期して、大きな制度改革がされてきました。他方で、我が国の社会経済に目を向けると、少子高齢化、価値観・家族観の多様化、国際化の進展等による国民意識の多極化・流動化等といった構造的な変化は、今後も一層加速することが予想されます。このような状況の下で、国民の信頼を維持し、その期待に応えていくためには、一人一人の裁判所職員が、組織の一員としての役割を意識し、社会経済の変化に対応して、国民のニーズに的確に応えていくことが望まれます。
各裁判部門の実情をみると、民事の分野では、民事訴訟手続のIT化に関する検討が全国の地方裁判所等において行われており、また、本年度中にはウェブ会議等を利用した争点整理の新たな運用の開始が予定され、その円滑な実施に向けた準備も進められているところです。民事訴訟手続のIT化は、民事訴訟の在り方の抜本的見直しにつながる契機と捉え、裁判全体の適正化、合理化といった要素も視野に入れて推進されるべきものと考えています。
刑事の分野では、裁判員制度における公判前整理手続の長期化等の従前からの課題のほか、裁判員裁判の成果を刑事裁判全体に及ぼしていくことなど、より大きな課題に腰を据えて取り組んでいく必要があります。
家事の分野では、社会や家族の在りようの変化に伴い、家庭裁判所に対する国民の期待はますます高まり、求められる役割も多様になっています。子をめぐる事件をはじめとして、当事者間の価値観や感情の対立が激しく解決が困難な事件が増えており、紛争や問題の実相を捉えた適正な解決に導いていく必要があります。また、成年後見制度については、成年後見制度利用促進基本計画に基づき、地方自治体等関係機関との連携を深め、各地における取組を粘り強く後押しするとともに、引き続き、個々の事件処理における運用の改善に向けても真摯に取り組んでいく必要があります。
私たちは、これまでも、司法の果たすべき役割がますます重要になるという認識に立ちつつ、司法の機能充実・強化に努めてきましたが、こうした状況にあって、裁判所がその使命を果たしていくために、今後とも必要な人員及び物的設備の確保を図っていく必要があります。一方で、極めて厳しい財政状況の中、国民の理解を得ていくためには、より一層の内部努力を重ねていくことが不可欠です。職員の皆さんには、引き続き御協力をお願いしたいと思います。
超勤縮減、事務の簡素化・効率化について
「組織全体として超過勤務の削減や働き方の見直しに取り組んでいく」
委員長 4月から超過勤務の上限規制が始まりましたが、これは職員の労働条件にとって大きな意義があることだと考えています。これを機に超過勤務が減り、健康で働き続けられる職場が実現することはもとより、家庭生活との両立を果たし、社会的な活動や自己研鑽、余暇、労働組合活動など、職員が自分のために自由に使える時間を確保できることを期待しています。
一方で、「申告される超勤時間数を上限時間内に抑えること」だけが意識され、現実の事務処理に支障を来たしたり、「持ち帰り・サービス残業」につながることに強い懸念を持っています。そうならないためには、当局の責任による正確な勤務時間の把握と事務の簡素化・効率化が必要不可欠だと考えています。
また、私どもはこの間、執務を行うにあたって「適正化」やコンプライアンス、ガバナンスを過度に強調する状況が職場に広がっていることを指摘し、これが事務の硬直化や煩雑さ、事務量の増大を招いていると述べてきました。事務の簡素化・効率化をすすめるにあたってはこの問題にも目を向け、真に意味のある、合理的な方策がとられることを期待しています。
4月に超過勤務の上限規制が導入されて約半年が経過します。まさにこのタイミングで、最高裁の明確なメッセージを示す意味でも、下級裁への指導とあわせて、最高裁の権限と責任で具体的な事務の簡素化・効率化策を打ち出していただきたいと考えています。
長官 公務における超過勤務の上限等に関する措置が導入される等、長時間勤務の問題は社会的にも大きく取り上げられているところ、最高裁としても、超過勤務を的確かつ遅滞なく把握した上で、職場の実態等を踏まえながら、法令に則った適正な事務を遂行していくとともに、これまで以上に事務の簡素化・合理化、業務プロセスの見直し等を進め、裁判部、事務局を問わず、組織全体として超過勤務の削減や働き方の見直しに取り組んでいく必要があると考えているところであり、その取組を後押ししていきたいと考えています。
職員の育成について
「能力を伸長させる計画的かつ継続的な人材育成が重要」
委員長 前回の大量退職・採用期の影響もあり、裁判所の職員構成においては50歳台の職員が数多く在職しています。
現在、国家公務員の定年年齢引上げに向けた政府の検討が進められていますが、当面する課題として、こうしたベテラン職員がやりがいを持って働き続けることができる職場環境が強く求められています。ベテラン職員については、それまでに得た知識や経験を活かして仕事ができるよう異動や配置を検討する必要があると考えますし、その前提として、部門別の人材育成や専門性を身につける研修も重要だと考えます。高齢期の働き方も視野に、全ての職員が高いモチベーションを維持して役割を発揮するためには、どういう人材育成や異動・配置が良いのか、検討いただきたいと考えます。
あわせて、若手職員の人材確保と育成も重要な課題です。裁判所においては2010年に人事評価制度が導入され、2015年からは人材育成のとりくみも行われていますが、未だ「育成に関する基本的な考え方を組織的に共有する」点で不十分さがあり、人事評価の「目線合わせ」も十分行われておらず、評価と育成が担当者任せになっている実態があるものと考えています。この点についても、改めて検証・検討を求めたいと考えています。
かつて、大量退職期から少量退職期に向かう際には最高裁と全司法との間で率直な意見交換を行い、「中長期的観点に立った職員制度に関する提言」(参事官室提言)という形で成果を得ることができました。今後、再び大量退職期が予想されるもとで、改めて全司法との意見交換の機会を求めたいと思います。
長官 社会、経済状況の変化等を反映して、裁判所に求められるものがますます幅広く、深くなってきている中、これまでにも増して、一件一件の事件の適正・迅速な解決に向けて誠実に努めることにより、国民、社会からの信頼をより確かなものとしていくためには、若手から中堅層以上に至るまで職員一人一人の士気を高め、それぞれの経験も踏まえた上で、その能力を伸長させる計画的かつ継続的な人材育成が重要であることから、育成に関する基本的な考え方を組織的に共有するとともに、OJTとOff―JTを通じた職員の育成が図られるように一層努めていきたいと考えています。
全司法との誠実対応について
「忌憚なく話し合う中で、問題の解決を図っていかなければならない」
委員長 1992年3月18日の最高裁事務総長見解以来、全司法と裁判所当局とは相互の信頼関係に基づいて、安定した労使関係を築くことができているものと考えており、日頃から誠意をもって対応いただいていることに対し、改めて感謝いたします。
全司法は職員の地位の向上と「国民のための裁判所」実現を組織の目的としており、職員の処遇問題にとどまらず、官の職制の中からは浮かび上がってこない職場実態を拾い上げ、可視化し、より良い裁判所を作るために努力しているものと自負しています。そうした視点から、全司法を裁判所の職場をともに作るパートナーとして位置付け、職場で起きる様々な課題について、今後とも建設的な議論を続けていただきたいと考えております。
その意味でも、全国の各庁で、全司法の意見に耳を傾け、率直で建設的な議論を重ねていくことができるよう、これまで築き上げてきた信頼関係を尊重し、誠実に対応されるよう下級裁に伝えていただくことを含め、確認したいと思います
長官 昨年も述べましたように、平成4年3月18日の事務総長見解の内容は当然のことと考えています。職員の勤務条件やこれに関連する事項については、これまで築き上げてきた相互の信頼関係に基づき、率直に問題意識をぶつけ合い、忌憚なく話し合う中で、問題の解決を図っていかなければならないと考えています。
担当部局には、今後もそのような立場で努力させたいと思いますし、職員団体もその方向で努力していただきたいと思います。
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