全司法が2年に1回開催している司法制度研究集会が、4月22〜23日に静岡県熱海市で開催されました。この集会は、労働条件の改善とあわせて全司法が目的とする「国民のための裁判所」を考えるために開催しているもので、今回は「『裁判手続のIT化』と令状センター構想の実現に向けて「戦後裁判所の歴史と課題」をテーマに学習と討論を行い、今後の運動の方向性を考える集会になりました。
裁判手続のIT化、令状センター構想が現実の課題に
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IT、令状センタ―でパネルディスカッション |
「司法分野に関わる国民的基盤の整備」として
第1日目は「『裁判手続のIT化』と令状センター構想の実現に向けて」をテーマに、全司法内部の3人のパネリストによるパネルディスカッションを行いました。
長岡書記長は、3月30日に取りまとめ結果を公表した「裁判手続等のIT化検討会」(内閣官房に設置)の審議経過をふまえ、4月3日に発表した書記長談話の趣旨を説明し、「裁判所におけるこれまでのOA化、IT化の経過と総括のうえに立ち、三権の一つである司法分野に関わる国民的基盤の整備として、十分な予算を確保して行う必要がある」等、今後のとりくみの視点やその背景にある問題意識を示しました。
近畿地連委員長の坊農正章さんは、全司法が「令状センター構想」を中心とした「宿日直提言」を第62回大会(2005年)で決定した時の書記長として、「令状事務処理は、国家の国民に対する人権制限を直接的に監視する極めて重要な司法作用である」との認識から出発して「提言」の意義について述べ、その後の情勢にも触れながら、「令状センター構想」実現にむけて「今こそ動かすべき時」だとの意見を述べました。
本部書記官対策担当の斉藤裕記中央執行委員は、令状センターが設置された場合の勤務態勢のあり方や、センターに集約される一般令状以外の勾留や保釈・準抗告といった事務については勤務時間の割振り変更や超過勤務等で処理する必要があること、庁舎管理は機械警備、文書授受は既にある通達に則って処理することで、宿日直が廃止できる展望を示しました。
「宿日直問題の解決、これしかない」
各パネリストの発言を受けた後のディスカッションでは、裁判手続のIT化について「遠い将来の話ではなく、政府の政策として早いテンポで進むのではないか」との見通しが示され、職場で認識を広げるとともに、全司法として積極的にとりくみを進める必要性が確認されました。また、「令状センター構想」については、最高裁も検討をすすめている様子がうかがわれることが指摘され、フロア発言では「宿日直問題の解決はこれしかない」「今日の話を聞くまでは夢物語だと思っていたが、ここでの議論を聞いて、現実的で、実現可能な方策だと思った」といった発言が相次ぎました。
長岡書記長はまとめの発言の中で「令状センター構想については、今日の議論をふまえ、7月の大会を経て具体的な要求をまとめていきたい。当面、最高裁を動かすためにも、各庁で宿日直態勢が限界に来ていることを、下級裁から最高裁に伝えさせていこう」と提起しました。
50年前の「司法の危機」の時代から今、学ぶべきこと
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講演する米倉弁護士 |
安保や自衛隊をめぐる裁判と深い関係があった
2日目のテーマは「戦後裁判所の歴史と課題」で、日民協(日本民主法律家協会)事務局長の米倉洋子弁護士から、とりわけ1960年代後半から70年代初めにかけての「司法の危機」と呼ばれた時代に焦点を当てた講演を受けました。
裁判所当局が裁判官の判決内容に介入し、また、強権的な人事政策で裁判官の市民的自由を奪っていったと批判される「司法の危機」が起きた原因について、米倉弁護士は砂川、恵庭、長沼ナイキなど日米安保条約や自衛隊をめぐる事件と深い関わりがあることを明らかにし、違憲立法審査権の積極的な行使など、憲法にもとづいた裁判のあり方を研究し、実践しようとした意欲的な若い裁判官たちの試みに対して、田中耕太郎(第2代長官)、石田和外(第5代)、飯守重任といった戦争責任を問われることなく戦後裁判所の幹部を形成していた裁判官たちが危機感を抱き、政権と一体となってこれを潰したというのが実態だったと指摘しました。
また、安倍政権のもと、はじめて具体的に9条改憲が狙われている情勢にも触れながら、「国の根幹に関わる政策を前にした時、裁判所当局の本質は、今も当時と変わっていないのではないか」との問題提起がされました。
「外部からどう見られているか」という視点が重要
講演後の中矢委員長との対談では、「司法の危機」で反動的な役割を果たした飯守重任が鹿児島地裁所長として不当労働行為を組織的に行い、全司法潰しに執念を燃やしたこと、庁舎管理規定やリボン・プレート禁止通達がこの時代に作られたことなど、当時の裁判所当局の攻撃が全司法にも向けられていたことや、石田和外長官のもとで、それまでの最高裁判例を覆して公務員のストライキの全面禁止を合憲とする全農林判決が出されたことが話題になりました。また、平成の司法制度改革の評価も話題になり、法曹養成制度や裁判員裁判など、そこで導入された制度についても問題意識が示されました。
あわせて、「国民のための裁判所」を目指す全司法の立場からは、裁判所が外部からどのように見えているのかという視点を持つことや、今後の運動を考えるうえでも歴史を学ぶことの重要さが確認される企画となりました。
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