全司法本部四役は、11月17日に就任あいさつをかねて寺田逸郎最高裁判所長官と会見しました。最高裁からは、今崎事務総長、堀田人事局長、和波人事局総務課長が同席ました。
委員長 本日の会見にあたって、全司法労働組合として持っております問題意識のいくつかの項目について意見を述べさせていただき、長官のお考えをお聞かせ願いたいと思います。
長官 当局と職員団体という立場の相違はありますが、今後ともこれまで同様、相互の信頼関係に基づき、いろいろな問題について、率直に意見交換をしながら、より良い方向で解決していってもらいたいと思います。
裁判所の人的態勢の整備について
「今後とも人的・物的態勢を整備していく必要があります」
委員長 社会・経済情勢が複雑になっているもとで、「憲法の守り手」としての裁判所の役割に対する国民の期待がより一層、高まっていることを感じています。
家庭裁判所の充実・強化は、引き続き重要な課題だと認識しています。事件数が引き続き増加し、内容も複雑・困難化するとともに、面会交流のあり方、児童虐待への対応や、今後、成年後見利用促進法にもとづくとりくみも本格化するなど、現代の社会情勢を受けた新たな国民からの期待もかかっているところであり、家裁調査官も含めた人的態勢の強化が必要です。
地方裁判所や簡易裁判所においては、2016年は民事事件が増加に転じるとともに、複雑困難化する事件を適正・迅速に処理する必要性は引き続き高く、刑事事件では、裁判員裁判の充実はもとより、医療観察事件や被害者保護のための諸制度など、従来の刑事裁判の枠組みを超えた事務処理も重要になっています。また、民刑いずれの事件においても、秘匿情報等の管理が新たな課題となっています。
セキュリティ対策をはじめ、事務局の事務も増加し、全司法が行った調査に対して、最も繁忙で人的手当が必要な部署として事務局をあげる庁が少なくありません。
具体的な人員配置については、これまで大都市への人的手当てが重点的に強化されてきましたが、地方の中小規模庁も含め、バランスのとれた人員配置が必要なのではないかとの問題意識も持っています。また、女性職員の増加を契機として、ワークライフバランスの実現に向けた人的手当てを求める声も強くなっています。
以上の問題意識もふまえ、各職場の状況をきめ細かく見ていただき、裁判所の人的態勢整備をお願いしたいと思います。
長官 日本国憲法の施行と同時に新しい裁判所制度が発足してから70年が経過する今日に至るまで、我が国の社会経済情勢は大きく変遷し、また、社会構造にも重要な変化が見られるようになってきました。こうした中、国民の権利を救済し、適正な法的紛争解決を通じて「法の支配」を実現することを不変の使命とする裁判所の役割はますます重みを増しており、これまで以上に、社会の多様でスピーディーな変化に対応できる柔軟性を備え、その法的ニーズに的確に応えていかなければなりません。
各裁判部門の実情をみると、民事の分野では、社会経済情勢の変化を背景として、複雑困難な事件や、判断の結果が社会経済や国民生活に大きな影響を及ぼし得る事件が増えてきており、裁判の質の向上が求められるとともに、合理的な期間内に妥当な結論を示すことが期待されています。
刑事の分野では、刑事訴訟法の改正により新たに導入されることとなった各種制度について、適切な運用を確保することが検討課題となっています。また、裁判員制度の運営においては、公判前整理手続の長期化や控訴審における審理判断の在り方など、引き続き検討すべき課題にとりくんでいく必要があります。
家事の分野では、成年後見関係事件が増加の一途をたどる中、新たに成年後見制度の利用促進を図る法律が施行されたところであり、制度に対する国民の関心や期待に的確に応えられるよう、更なる取組を進めていかなければなりません。
私たちは、これまでも、司法の果たすべき役割がますます重要になるという認識に立ちつつ、司法の機能充実・強化に努めてきましたが、こうした状況にあって、裁判所がその使命を果たしていくために、今後とも人的・物的態勢を整備していく必要があります。一方で、極めて厳しい財政状況の中、裁判所の態勢整備に国民の理解を得ていくためには、より一層の内部努力を重ねていくことが不可欠です。職員の皆さんには、引き続き御協力をお願いしたいと思います。
超勤縮減、事務の簡素化・効率化について
「効率的、合理的な事務処理に向けた意識改革を更に徹底していきたい」
委員長 長時間労働をなくすことは、労働条件の中心的な課題として、官民を問わず重要なものとなっています。とりわけ昨今は、「過労死・過労自殺」をめぐる問題がクローズアップされるなど、社会的にも労働時間短縮の必要性が広く認識されるようになってきました。
長時間労働をなくすためには、使用者の責任において勤務時間を正確に把握することが大前提であり、そのうえで複合的な対策を講じる必要があります。とりわけ、業務の処理に必要な人員を確保するとともに、業務の簡素化・効率化をすすめることが重要だと考えています。また、現に行われた超過勤務が「暗数」になっては意味がありませんから、「持ち帰り・サービス残業」の根絶を一体ですすめることが不可欠です。
裁判所の職場においても、この間、当局は超過勤務の削減にむけたとりくみをすすめておられるところですが、なお一層のとりくみ強化をお願いするものです。
特に、事務の簡素化・効率化を思い切ってすすめるうえで、最高裁のリーダーシップの発揮が重要だと考えています。昨年、「失敗を許さない雰囲気が職場の中で強くなっている」との問題意識をお伝えしましたが、「適正さ」や「コンプライアンス」が過度に意識される雰囲気の中で、法規に則った合理的な事務処理よりも、ただ慎重なだけの事務処理が行われる傾向が強くなっており、むしろ「簡素化・効率化が叫ばれるのに反して、事務はますます煩雑で非合理的なものになり、事務量が増大している」というのが職場の実感となっています。こうした雰囲気を変えるためにも、具体的な施策を伴った最高裁の強いメッセージが必要だと考えるものです。
こうした声も受け止めていただき、長時間労働をなくすとりくみが、より一層効果的なものとなるよう、最高裁の積極的なとりくみを期待しています。
長官 長時間勤務の問題は社会的にも大きく取り上げられているところ、最高裁としても、これまで以上に事務の簡素化・合理化を進め、超過勤務の削減や働き方の見直しに取り組んでいく必要があると感じています。全ての職員が持てる能力を最大限発揮することができるよう、その事務処理状況等をきめ細かく把握しつつ、法令に則った適正な事務を遂行していくとともに、効率的、合理的な事務処理に向けた意識改革を更に徹底していきたいと考えています。
職員の育成について
「OJTとOFF―JTを通じた職員の育成が図られるように一層努めていきたい」
委員長 本年8月8日に人事院が出した「公務員人事管理に関する報告」は「人材の確保及び育成」を柱の一つに置いていますが、その中に「職場における執務を通じた研修(OJT)に執務を離れた研修(OFF―JT)を組み合わせながら、それぞれの充実を図るとともに、職員の自発的な能力開発を促していくことが重要」と記載されています。
裁判所においては、2015年に「これからの人材育成について」が示され、OJTのあり方が打ち出されるとともに、家裁調査官については2012年からは「家庭裁判所調査官の育成のための新たな施策」がすすめられてきましたが、まだまだ人材育成が担当者任せになっており、組織的かつ計画的なものになっていないのではないかと考えています。とりわけ、育成担当者による指導のバラつきについて、若い職員から不安や不満の声が聞こえてきます。
また、若い時期には多様な経験をすることが重要である一方、中堅からベテラン職員、再任用職員も含めて、一定の年齢や経験を重ねた職員にとっては、それまでのキャリアの中で身に付けた経験や能力を活用できるようにし、組織の中で役割を果たすことが本人のモチベーションに繋がり、組織の活性化にもつながるものだと考えています。さきに述べた人事院の報告は「今後20年間にわたって多くの職員が定年に達することになるため、高齢層職員から中堅層・若年層職員への技能・ノウハウの継承が課題となっている」としていますが、この点は裁判所においても同様だと認識しており、喫緊の課題として職員の育成のとりくみを充実・強化していただくよう要望します。
長官 社会、経済状況の変化等を反映して、裁判所に求められるものがますます幅広く、深くなってきている中、これまでにも増して、一件一件の事件の適正・迅速な解決に向けて誠実に努めることにより、国民、社会からの信頼をより確かなものとしていくためには、若手から中堅層以上に至るまで職員一人一人の士気を高め、その能力を伸長させる人材育成が重要であることから、育成に関する基本的な考え方を組織的に共有するとともに、OJTとOFF―JTを通じた職員の育成が図られるように一層努めていきたいと考えています。
全司法との誠実対応について
「平成4年3月18日の事務総長見解の内容は当然のこと」
委員長 1992年3月18日の最高裁事務総長見解以降、全司法と裁判所当局とは相互の信頼関係に基づいて、建設的な労使関係が築かれていると認識しています。
全司法はこれまでにも職員の声を集め、現場の職員の視点から、当局に対し様々な課題で意見を述べてきていますが、相互の信頼関係にもとづき、そうした率直な意見交換を行うことを通して、様々な施策が立案、検証され、今の裁判所の職場のあり様ができあがってきたものと考えています。そうした役割をふまえ、私たちは今後とも、職員の地位の向上と「国民のための裁判所」実現を目指す立場から努力を重ね、意見を述べていきたいと考えています。
引き続き、全国の各庁で、全司法の意見に耳を傾けていただき、率直で建設的な議論を積み重ねていけるよう、全司法との誠実な対応と健全な労使関係を築いていくことを確認したいと思います。
長官 昨年も述べましたように、平成4年3月18日の事務総長見解の内容は当然のことと考えています。職員の勤務条件やこれに関連する事項については、これまで築き上げてきた相互の信頼関係に基づき、率直に問題意識をぶつけ合い、忌憚なく話し合う中で、問題の解決を図っていかなければならないと考えています。
担当部局には、今後もそのような立場で努力させたいと思いますし、職員団体もその方向で努力していただきたいと思います。
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