「人勧無視なのに、なぜ違憲性を認めないのか?」
この言葉が傍聴参加者の胸に去来する思いでした。
10月30日、東京地裁民事第19部において、2014年4月から2年間、人事院勧告によらずに国家公務員の賃金を平均7・8%引き下げた「給与改定・臨時特例法」(「賃下げ特例法」)は違憲・無効だとして、国公労連とその組合員370名(全司法から40名)が原告となって提訴した裁判の判決が言い渡されました。
棄却判決に怒りが噴出
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支援者、国公労連の仲間から強い怒りが噴出 |
判決の言渡しに先立ち、東京地裁前行動が行われ、原告や各単組の組合員、民間労組の仲間、支援者など200人が集まりました。行動の締めくくりに、公正で正しい憲法判断を行うことを参加者全員で強く訴えながら、原告団と弁護団を全員で裁判所内に送り出しました。午後3時から、東京地裁第103号法廷において始まった判決言渡しには、テレビカメラの撮影も入り、注目の高さを示しました。
しかし、判決は「原告らの請求はいずれも棄却する」というものでした。判決傍聴に参加した原告団(全司法からも本部・在京から10名)や民間労組などの支援者、国公労連の仲間からは強い怒りが噴出しました。
今回の裁判の争点は、労働基本権の代償措置である人事院勧告に基づかず賃下げを実施したことの違憲性、政府が東日本大震災を立法の口実とするもとで、その必要性や合理性があったのか、労働組合(国公労連)との交渉が団体交渉権を侵害する違憲・違法なものであったかどうか、にありました。
人勧の拘束力、認めず
判決は、私たち原告の「労働基本権が奪われている中で、国会が代償措置である人事院を無視してよいのか」という主張に対して、被告・国側が主張してきた「人勧に拘束力はない」という立法裁量論を鵜呑みにしたものとなっています。その上で、立法裁量はあるとしても「(1)当該立法に必要性がなく、又は(2)人事院勧告制度がその本来の機能を果たすことができないと評価すべき不合理な立法がされた場合には、立法府の裁量を超えるものとして当該法律が憲法28条に違反する場合がある」と一定の基準を示しました。
この基準を示させたことは裁判を中心としたこれまでの私たちの運動の成果と言えますが、具体的な認定にあたっては、(1)について、国の財政難と東日本大震災への対処でお金が必要だった、という抽象論で、裁判所は被告・国側の主張をほとんど論証せずに容認したことになります。(2)については、人事院勧告制度を「国家公務員の労働基本権制約の代償措置として中心的かつ重要なもの」とし、7・8%という減額が「国家公務員に予想外の打撃を与え、個々の国家公務員においては著しい打撃を与える場合もあり得る」としながら、若年層への減額率を逓減し配慮したことや、7・8%を超えて減額された地方公務員もあることなどを引き合いに出して、人勧制度が持つ本来の機能を果たすことができなくなる程度の賃下げではないとしています。
「特例法」を追認するもの
このように、判決は立法府の裁量を大きく認め、被告・国側の主張を鵜呑みにして「東日本大震災を踏まえた2年間という限定された期間の臨時的な措置」であるとして、「賃下げ特例法」を合憲とするものになっています。
この判断は、事実関係に踏み込んで審理するのではなく、国側の主張に基づいて「賃下げ特例法」を追認するために、なんとか理由をつけたものと言わざるを得ません。そのことは、「特例法」が人事院を廃止して労働基本権の一部を「付与」する法案と一緒に審議されていた経過を無視して、当時の政府や国会議員が「今後とも人事院勧告を尊重していく姿勢を示し」ていたと事実認定していることからも明らかです。
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公正判決求める声の中、裁判所に入る原告団 |
「賃下げ継続」阻止は訴訟提起の成果
「賃下げ特例法」については、法案審議の段階から、2年間の限定ではなく、延長・継続を狙う動きが、政府・与党のみならず、一部野党の中にもありました。その中で、私たち国公労連・全司法が「公務員賃下げ違憲訴訟」を提訴したことで、被告・国側は「期限付き」であることを強調せざるを得なくなり、4月以降の継続を阻止することができました。また、要請署名や宣伝行動など、全国各地で民間の仲間にも呼びかけ、支援を広げるとりくみを通して、法案成立時に強く吹き荒れていた公務員バッシングの風向きを変えることにもつながりました。こうした成果に確信を持つことが重要です。
たたかう足掛かりができた
判決後に開催した報告集会では、公務員バッシングの世論を変化させ、賃下げの継続を断念させた裁判闘争の成果と到達点をふまえ、判決内容にいくつもの弱点や論理矛盾が存在していることから「たたかう足がかりができた」ことなどを確認しあい、あくまでも給与減額措置の違憲無効認定と平均100万円にものぼる差額賃金、損害賠償の支払いを求めて控訴審での勝利をめざすことを確認しました。
この裁判のとりくみをこれで終わらせるわけにはいきません。すべての国家公務員が金銭的な損害を被っただけでなく、公務員の労働基本権そのものに関わる問題点を含んでいる訴訟です。公務労働者としての権利を守るために、控訴して逆転勝利をめざし、今後も奮闘していくことが重要です。
引き続き、職場からの結集を呼びかけます。
「特例法」を追認するもの
このように、判決は立法府の裁量を大きく認め、被告・国側の主張を鵜呑みにして「東日本大震災を踏まえた2年間という限定された期間の臨時的な措置」であるとして、「賃下げ特例法」を合憲とするものになっています。
この判断は、事実関係に踏み込んで審理するのではなく、国側の主張に基づいて「賃下げ特例法」を追認するために、なんとか理由をつけたものと言わざるを得ません。そのことは、「特例法」が人事院を廃止して労働基本権の一部を「付与」する法案と一緒に審議されていた経過を無視して、当時の政府や国会議員が「今後とも人事院勧告を尊重していく姿勢を示し」ていたと事実認定していることからも明らかです。
なぜ、賃下げ特例法が提起されたのか
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報告集会で酵素に向け意志統一 |
そもそも「賃下げ特例法」が提起されたのは、東日本大震災が起こる前の2010年末です。当時の民主党菅政権は、マニフェストに掲げた「国家公務員総人件費2割削減」を実現するために人事院勧告に基づかない賃下げを労働組合(国公労連と国公連合)に提案してきました。しかし、国公労連が強く反対していたことや、翌年に3・11大震災の対応に追われたこともあって、賃下げの提案は立ち消えになっていました。その後、2011年5月13日に国公労連と国公連合に対して、2014年3月までの間、国家公務員の俸給を月額5〜10%と一時金の10%カットを基本に引き下げることを正式に提案し、政府は、片山総務大臣(当時)を交渉責任者として国公労連等と交渉を行いました。
まともな回答がないまま交渉決裂
国公労連との交渉は、政務官交渉4回をあわせて6回実施されました。国公労連からは(1)現行制度によらない賃下げ提案は決定ルールとして重大な問題があること、(2)賃下げの数字の根拠がないこと、(3)復興財源の全体像を示さず、公務員賃金が先行していることなどを主張しました。しかし、政府・総務省からは、結局、いずれの主張に対しても納得のいく具体的な回答は示されませんでした。
一方、国公連合も同時期に交渉を行い、自律的労使関係制度(労働協約締結権)が措置されることを条件に賃下げへの合意をはかりました。
国公労連との交渉は、政府のまともな回答がないまま決裂となり、政府は、自律的労使関係制度の措置を前提とした「賃下げ特例法」を6月3日に閣議決定して、国会へ法案提出の運びとなりました。
一度も審議されず
これに対し、労働基本権制約の代償機関である人事院は、総裁名での談話を発表し、公務員賃下げへの遺憾と懸念を表明しました。また、国会の中では、共産党と社民党が、国公労連と同じ「賃下げ特例法」反対の立場で政府追及しましたが、それにとどまらず、議員要請など私たちの運動を通じて、民主・自民の少なくない国会議員が理解、支援を表明し、私たちの運動がかつてない到達点を築いたことは特筆すべき成果でした。また、疲弊する日本経済の中で、公務員賃金の引き下げが個人消費を冷え込ませることにもつながることから、民間労働組合やその他の諸団体、地方自治体にも「賃下げ特例法」に反対や慎重の声が広がりました。
このように全国的な運動が展開される中で、この法案は一度も審議入りすることなく、継続審議となり、2012年の通常国会までもちこされることとなりました。この間、約9か月間も審議をさせなかったことになります。
憲法を二重三重に蹂躙
このことに危機感をもった政府は、三党(民自公)の密室協議を行い、いきなり三党による議員立法という形で法案を提出するという挙に出てきました。この三党の「賃下げ特例法」案は、事前に密室で三党間の合意が得られていることもあって、衆参総務委員会での審議はわずか6時間足らずという非常に不十分な形で打ち切られ、結局、数の力で押し切られることになりました。
このような経過から成立した「賃下げ特例法」は、人事院勧告を大幅に超えた賃下げという問題だけでなく、政府が使用者責任を放棄して議員立法で成立させたことで、憲法を二重三重に蹂躙した法律ということがいえます。 |