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全司法新聞
 
法律サービスの道案内役をめざして
法テラス宮崎齋藤事務局長を訪ねて
 

 日本司法支援センター(法テラス)には、全国の裁判所から21名の仲間(書記官)が出向し、司法サービス充実のために日々ご尽力されています。今回、「法テラス宮崎」へ事務局長として出向された齋藤義典さんと職員のみなさんをお訪ねし、奮闘ぶりを取材しました。皆様には温かく迎えていただき、大変ありがとうございました。(文・牧山利春)

情報提供など5つの業務
 法テラスは、あまねく全国において、民事・刑事を問わず法による紛争の解決に必要な情報やサービスを受けられる社会を実現することを目的として、2004年5月に成立した総合法律支援法に基づいて設立されました。
 06年10月2日から全国いっせいに業務を開始しています。「法テラス」という名前には、「法で社会を照らす」「日当たりのよいテラスのように安心できる場所」という思いが込められているそうです。
 相談窓口の情報を無料提供する「情報提供」、「民事法律扶助」、法テラスに勤務するスタッフ弁護士を中心とした「司法過疎対策」、「犯罪被害者支援」と「国選弁護関連」の5つを本来的な業務としています。
 「法テラス宮崎」は、所長と副所長3名(非常勤)、事務局員5名のほか、窓口対応専門職員(常勤)が勤務されており、宮崎県庁施設の近代的なビルの中にその事務所を構えています。事務所には、3つの相談室の他、スタッフ弁護士の勤務室等が設けられていました。

携帯電話一台からスタート
 齋藤さんに着任時の状況を尋ねると、「事務所にはまだ電話も設置されておらず、携帯電話が1台置かれていました。極端な話、鉛筆一本から整備していく訳で、用度係の経験が役立ちました(笑)」とのこと。あわせて、備品等は本部が一括納入するが、とにかく予算が少ないこと、政府の予算削減方針のもとで、独立行政法人の予算はその成果によって比較増減されること、法テラスも独立行政法人のひとつとして次年度以降厳しい予算査定を受けること等の説明を受けました。

寄り合い組織の良さ生かし
 最高裁が06年9月に実施した出向者を集めた事前説明会については、最高裁にも情報はなかったが、出向前に裁判所の予算で他の事務所の方と顔つなぎができたことはありがたかったとのことです。一方で、「法テラスは、裁判所と全く異なる寄せ集めの組織であり、いろいろなカラーの集合体です。裁判所のカラーを主張してもうまく混ざらない。集まった仲間で、美しい色合い、個性的な色合いを出し、社会に貢献できるようしっかりと努めていきたい」と、貴重な豊富を語っていただきました。
 業務を開始して間もないですが、国民の法律サービスに対する需要と期待は、私たちの想像以上に大きなものがあるそうです。これまで、無料法律相談が浸透していなかったこともあり、金銭的事情等で法律相談さえ受けることができなかった、裁判所や弁護士事務所の敷居が高いと感じ、訪ねることを躊躇していた、と言われる方が多数訪ねてみえるそうです。法テラスは、「資力の乏しい方」に民事法律扶助としての無料相談で応じるわけですが、これもやはり予算が問題となるため、国民生活関連部門への予算措置を求めるとりくみが、全体の課題として共通のものとなっています。
 また、国や地方自治体等の関係機関に協力要請に回る際には、法テラスの認知度が低いことを痛感することも多いとのことであり、司法制度改革の幅広い広報も必要となっている、とのことです。

職員の労働条件に心よせて
 最後に、全司法への注文をお訪ねすると、「裁判所の看板」は大きいことを自覚して国民と接することが大切であることを指摘されました。また、立ち上げ時期ではあったけれども、多大な残業を余儀なくされた事務局員の労働実態をふまえると自分の要求どころではない、労働条件予算が取れるよう頑張りたいとの感想を述べられました。国民・地域の法律サービスの道案内役をめざしていく法テラスとともに、私たちも司法サービスの充実に向けて着実に実践していく必要性を痛感しました。(2006年11月)

 
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わたしと憲法(投稿)
 

被爆・として
中国地連 湯原 幸作

 広島・長崎の原爆投下から61年が過ぎました。この悲惨な経験から私たちは何を得たのでしょうか。何よりも終戦を経て、現憲法が制定されたことです。人権尊重・反戦平和をかかげた憲法は、半世紀以上にわたりあらゆる社会の繁栄を築く基礎となりました。
 しかし、原爆の甚大な被害は、今も決して癒えることはありません。被爆者は高齢化がすすみ、健康や生活など多くの不安を抱えています。原爆症の認定や在外被爆者援護行政に対する国の冷たい対応については、各地で裁判が起こされています。生きる権利を保障した憲法の社会保障に向けた努力を怠っているとしか思えません。
 また、核兵器廃絶が叶わない中、北朝鮮は新たに核実験を行い、これ対して外務大臣や自民党幹部は核保有を含めて議論の必要があると発言しています。この間日本が繰り返し主張してきた世界で唯一の被爆国の経験と憲法に基づいた平和への誓いに反する議論であり到底容認できません。

肌で感じる岐路
静岡支部 里 秀夫

 日本はどこへ向かおうとしているのか。明らかに、「戦争ができる国」へ突き進んでいる。
 昨年の臨時国会で「我が国と郷土を愛する」という愛国心の文言を盛り込み、国が教育の内容に干渉できるように文言を変えて、教育基本法「改正」法案が与党の数の力で強行成立した。また、防衛庁を防衛省に昇格させる法案も成立した。
 政府は、今年の通常国会で、公務員や教員の宣伝活動を禁止する国民投票法案の成立を強行しようとしている。この国民投票法案を成立させたら、次はいよいよ憲法九条の「改正」である。安倍首相は、五年以内に憲法九条を「改正」することを公約として上げている。まさに、今後の日本の方向性を決める大きな歴史的岐路に立たされていることを肌で感じる。
 私たちは、憲法九条を守るべく、「国公・静岡九条の会」を結成した。憲法九条を守り、平和な国際貢献をする日本にしていくためにも、微力ながら九条の会の活動を支えていきたい。

憲法に依拠
東地裁支部 加藤 理恵

 教育基本法改悪が強行されてしまいました。徹底審議を求める世論を踏みにじっての暴挙です。タウンミーティングでのやらせ質問や未履修問題も含めて、子どもたちに対する責任を痛感します。
 さらに防衛「省」昇格等、悪法が国会内の多数によって次々と成立することに、強い憤りを感じます。
 教基基本法改悪は「個」から「公」へと言われますが、子どもだけでなく、私たち一人一人が大切にされる社会を作っていくには、いまの日本国憲法に依拠していくしかありません。
 いよいよ憲法を守るたたかいが重要になってきます。その前に、改憲のための手続法「国民投票法案」を何としても廃案にしなくてはなりません。
 広く職場に、そして国民に、問題点を明らかにしていく必要があります。
 私たちの会も、微力ながら力を尽くしていきます。ともに頑張りましょう。
 (東京司法九条の会)

国民の命令書
大阪支部 入川 美紀

 憲法は、国民から時の政府や支配者に向けた命令書。国家権力が勝手なことをしないように、それを縛るもの。
 そのことが今ほど切実に思われたことはない。たくさんの人が反対し、少なくとも充分議論すべきだ、と考えていたのに、教育基本法は改悪されてしまった。次々と悪法成立が企まれ、ときおり、もう日本には真っ暗な未来しかないのではないか、という絶望感に襲われる。
 でも大丈夫。日本国憲法さえあれば、どんな法律もその枠を踏み越えることはできない。この憲法を守る、憲法違反は許さない、という国民の強い意識があれば、国家権力は好き勝手なことはできない。
 だから、憲法だけは手放してはいけない。いま憲法を変えたがっているのは、権力を握っている側。自らを傍る鎖を解き放ちたがっている。戦争をする国、国民の内心に介入する国、弱者が虐げられる国。
 そんな未来に絶望することはない。憲法は、全ての歯止めになるのだから。

憲法は生きてるか
福岡支部 森田 和幸

 憲法の基本原則は、国民主権、平和主義、基本的人権の尊重と教えられてきた。今の社会でこの基本原則が生きているだろうか?
 国民主権と言いながら、大企業優遇の減税や富裕者のための優遇措置が進められ、「勝ち組」「負け組」というかたちで格差が拡大している。
 また、防衛庁が「省」に格上げになると同時に、自衛隊の本来任務に海外派兵が加えられるなど、9条についても歯止めのない法改正が続いている。
 そのうえ、基本的人権に関して教育基本法改正案なる悪法が国会で成立した。本来、愛国心という抽象的ものを教育現場で評価してどうなるのだろうか。国民の思想・良心の自由はどうなったのか?
 疑問符(?)ばかりが浮かんでくるが、これが憲法改悪をめざす人の手段かと思うと腹立たしい限りである。ここで、じっとしていても何も変わらない。まず、もう一度憲法を学習し、それから憲法の理念を生かした社会に生かすために、行動しよう。

「ケツトリ」の話
札幌支部 S・T

 中学のときに「ケツトリ」と呼ばれていた男がいた。「ケツトリ」は学級委員をしていたが、クラスでのもめ事や意見が割れることがあるとすぐに多数決をするので皆は彼のことを「ケツトリ」と呼んでいた。
 そんな「ケツトリ」に対し、当時の担任は多数決よりも、その前にみんなで議論をすることの方が数倍大切であると諭していた。
 最近の政治状況を見るに、国会では重要法案がほとんど議論がなされないまま、強行採決で決められているように思える。そんな姿をテレビみていると、昔の「ケツトリ」の姿を思い浮かべてしまう。
 多数意見は少数意見があるからこそ、その少数意見に比して正当性が認められるものであると誰かが言っていた。少数意見を言わせないような風土や、ためらいもなく強行採決をしている国会の姿を見るにつけ、このような状況で憲法改正がなされようとしている現在の政治情勢に大変な危機感を抱いている。
 「ケツトリ」に騙されては行けない

髪クルクルと憲法
沖縄支部 玉那覇 恵理

 今現在、私たちは平和な国で暮らしていると感じている。憲法のおかげで。
 それはいつもドラッグストアで感じる。私たちが髪をクルクルと巻くための液体で悩んでいる時、他の国では戦争があったり、まともに教育を受けさせてもらえなかったり、自分の思想を自由に表現できなかったり,貧困に喘いでいたりと様々な不自由があるにもかかわらず、たった今私たちはどれが一番クルクルにできるかと悩んでいられるからだ。
 隣で同じ様に迷っている子は、これがどれだけ贅沢な悩みで、でもその平和な生活が崩されそうなことを知っているのかなと思う。そんな状態を作ってしまったのは主権者である私たちだってことも。一度崩してしまった信用を回復させるのには積み上げた時以上の努力と時間が必要となるように、いま平和な生活の基礎である憲法を崩してしまうと、またそれを回復させる頃には私たちは髪をクルクルにはできない歳になっているだろう。だからこそ、いま、主権者である私たち自身で憲法を守らなくてはと強く思う。

護憲ライダーとして
神戸支部 奥橋 慎之介

 2005年10月から、憲法を守るために『護憲ライダー』に変身して憲法の大切さを訴えています。護憲ライダーとは、平たく言えば某特撮ヒーローからインスパイアされた兵庫県国公のヒーローです。とまあ冗談はここらへんにして、護権ライダーを通じて思ったことは、毎月2回、神戸市のJR元町駅前で宜伝カーの上に登場して訴えていますが、国民は憲法改正に興味がないのかな‐って感じです。僕も裁判所に入ることがなければ正直興味がなかったと思います。
 ただ、このままじやマズイんじやないかって思います。まだまだ理解不足ですが、改憲によってアメリカと同じように何でも武力で解決する国になってしまうんじやないのか?
 二度と戦争をしないと誓った憲法のはずなのに、気がつけばぼくは、戦争をする憲法に変える…戦争になって「逃げるか死ぬか」の選択を迫られるぐらいなら、今、平和憲法を守るために命をかけます。
 みなさんも憲法をまもれ、と声を出して行きましょう!

世界遺産と開発
広島支部 O・I

 広島の詩人、峠三吉は一九五一年九月発行『原爆詩集』の「景観」という詩において、「ぼくらはいつも炎の景観に棲む この炎は消えることがない(略)声のない炎がつぎつぎと世界に拡がる ロンドンの中に燃えさかるヒロシマ ニューヨークの中に爆発するヒロシマ モスクワの中に透きとおって灼熱するヒロシマ」とうたい、ヒロシマの未来に願いを託しました。
 ヒロシマの中心をなす「景観」は世界遺産の原爆ドーム。今回の高層マンション建設反対運動は、「こんな至近距離にまずいんじゃないの」と一人の女性が被爆者団体に相談したことから始まったのですが、ついにユネスコも動かして広島市へ勧告を出させるまでになりました。広島市はバッファゾーンにおいて、拘束力を持った高さ基準をつくることが求められています。ドーム北側でうっとうしい姿をさらし続けてきた灰色の商工会議所も市民球場移転にあわせて移転することを決定。世界で初めて核兵器により無惨に殺された人々を、高層ビル群に威圧させてはなりません。

 
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富の再配分で格差社会の解消を
データでみる07年春闘
 

 06年の流行語にも選ばれた「格差社会」‐‐5年半にわたる小泉構造改革路線による、アメリカいいなりと大企業を応援し庶民に冷たい政治の結果、日本では急速な貧困と格差が広がっています。
 「努力した人が報われる」「誰でも再チャレンジが可能な社会を」と安部首相は所信表明しましたが、今日の貧困と格差社会を生み出した原因は、お年寄りいじめの社会保障改悪や、大企業・お金持ち減税と庶民大増税、労働ルールの破壊、ワーキングプア等を拡大したことにあります。
 07春闘の課題について、データを見ながら考えることにします。

【景気が良くても払わない最近の大企業】
 (図(1))は過去と現在の景気時の企業利益と給与の推移です。
 戦後最高・最長といわれた「いざなぎ景気」の時には、経常利益の伸びと給与の伸びが一致しています。「バブル景気」の時も、ほぼ一致した伸びを見せています。しかし、いざなぎ景気を上回るといわれる現在の景気の中で、経常利益の伸びに対して、給与は全く横ばいです。昔は好景気で利益が上がれば労働者に還元していたのに、今は、どれだけ儲けても分配していないことがよく分かります。

【日本だけ賃金ダウン】
 日本の労働者の賃金は、80年代のバブル景気期をピークに、この10年間下がり続けています。(図(2))
 99年からの5年間を見ても、先進5カ国の内、賃金の伸びがダウンしているのは日本だけです。
 利益の内、どれくらいの割合で賃金に回しているかを見る労働分配率は、この10年間、中小企業は60%半ばで横ばいに対し、大企業は64%から53%へと10ポイントもダウンしています。
 いかに儲けた利益を労働者に還元せず、企業のふところに入れているかが分かります。

【日本、貧困率2位】
 OECDの報告書では、日本の所得格差が拡大し、00年には相対的貧困率(所得が中位の半分に満たない人口割合)がアメリカに次いで2番目に高くなっています。(図(3))
 報告書は、格差の原因は、非正規雇用の拡大による労働市場の二極化にあることを指摘し、是正を求めています。(図(5))

【自殺者の急増‐8年間で25万人】
 自殺者は、構造改革路線が始まる前の97年までは毎年2万人台前半で推移していましたが、98年から3万人台へと急増し、8年連続3万人以上となっています。(図(6))
 8年間で山形市や福井市の全住民が自殺したことになります。
 急増の背景として、経済的理由による自殺の急増が指摘されています。

【生活保護世帯の急増‐150万人にも】
 生活保護は10年前までは世帯数で約50万世帯でしたが、構造改革の中で今や100万世帯を超え、人数でも150万人に急増しました。(図(4))

【雇用者の3人に1人が非正規雇用】
 構造改革の中で正規労働者から非正規への置き換えがすすみ、非正規はこの10年間で1・6倍の1700万人、労働者の3分の1に達しています。(図(5))
 そのほとんどが「使い捨て」にされ、「ワーキングプア」と呼ばれる年200万円以下の所得におかれていることが、企業の労働分配率を低下させ、賃下げと並ぶ大企業のぼろ儲けの源泉になっています。

【独より2カ月長い‐日本の労働時間】
 先進諸国では、労働時間の短縮傾向が続いています。
 日本もわずかずつ減少していますが、先進5カ国と比べ、いまだ長時間労働となっており、日本の労働者はドイツやフランスに比べて、年間2カ月も多く働いていることになります。(図(7))

 
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新春インタビュー
元定時制高校教師・夜回り先生 水谷修さんに聞く
 

愛国心では教育を再生できない
「いいんだよ」と言えるゆとりを持ってほしい

 愛国心など徳目を掲げて、国家が教育に介入する教育基本法改正案が国会内の与党多数によって採択されましたが、「夜回り先生」で有名な水谷修さんに、教育とは何かを聞いてみました。

追いつめられた子供
 バブル崩壊後、夜の街を漂う子どもたちの表情が様変わりした。かつて夜回りで出会った子どもたちは、自分たちを捨てた昼の世界への怒りで目をたぎらせていたが、いまは力のないうつろな目を見かけることが多くなった。
 いつしか暴走族は壊滅。今は携帯電話でメールをする姿ばかり目につく。反抗する力もなくなったのか、男女関係に依存する傾向が強くなっている。人と人とが責め合う攻撃的な社会になる中、褒められることが少なくなり、自己肯定感を持てず、心を病む子どもが増えてきた。
 会社で上司に責められた夫は妻に、妻は子に「何やってるんだ」「早く」「がんばれ」ときつい言葉をかける。大人は仲間との一杯やつき合いでまぎらわせるが、子どもは逃げることができない。
 追い詰められた子どもはどうするか。最も多いのが仲間にうっ憤をはらす「いじめ」。哀しいことだ。比較的元気な子は夜の世界に向かい、優しい子は不登校になる。
 もっと優しい子は「親が悲しむから」と無理を重ねて学校に通うが、イライラで眠れず、夜独りで苦しんでいる。そうした「夜眠れない子どもたち」の間でリストカットなどの自傷行為や薬物依存が急速に広がっている。いまやリストカットのない中学校は存在しない。

子どもたちを褒めよう
 愛国心をもたせることで教育を再生するという。そんなものは無理な話だ。教育は信じ合うことからしか始まらない。
 子どもは不完全なもの。失敗して当たり前。いいところを見ず、不完全なところにばかり目を向けて追い詰めていないか。
 子どもをもっと褒めてほしい。愛情をいっぱい受けて育った子は自分に自信をもてるので、非行にかかわっても立ち直りが早いし、夜の世界のばかな大人のうそにもだまされない。
 私は子どもに、「今までのことはいいんだよ」と言っている。13歳で不登校になった少年は、13年間の辛い人生があるわけで、簡単に苦しみがなくなるものではない。だから過去に目を向けるのではなく、「次の13年を一緒につくろうな」と言う。
 窃盗と傷害で収監された少年がいた。取り返しのつかない罪の重さに気づき泣く彼に語った。「してしまったことは仕方がない。だけど罪は償えよ。きみはいまゼロ歳だ。少年刑務所を出る時には何歳になっているかな。出所したら先生をたずねてきなさい。もしその時に私がいなければ、私の教え子たちがきみを迎えてくれる」
 教育に必要なことは「いま」ではない。20年、30年後だ。ビジネスじゃあるまいし、偏差値が下がったのどうのと現在ばかり見ていたら子どもはつぶれてしまう。学校や大人は子どもたちに、「いいんだよ」と言えるゆとりを持ってほしい。

みずたに・おさむ 1956年生まれ。横浜市内の定時制高校で教えるかたわら、夜の繁華街を巡回。薬物や裏社会の魔の手から少年たちを守る活動を続け、いつしか「夜回り先生」と呼ばれる。2004年、教諭を辞職。薬物の危険を訴え全国を駆ける。『あした笑顔になあれ』『夜回り先生』『さらば、哀しみのドラッグ』など著書多数。

 
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