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司法制度改革
どうなる司法制度改革 !? どう変わる仕事と職場
司法制度改革司法制度改革審議会意見書の分析と評価
意見書総論の特徴と問題点

 今回の意見書では、総論部分は重要な役割を負っています。ここではいくつかの特徴となる用語について分析していきます。

諸改革の「最後のかなめ」としての司法改革

 第一に目につくのは、今回の司法制度改革が「この国のかたち」(国家構造)に関係するものだと宣言していることです。これは今回の改革が司法という単独の制度改革ではなく、ひろく国家改造の一環であることが宣言されているのです。このことを具体化したのが「この国のかたちの再構築に関わる一連の諸改革の『最後のかなめ』である」という言葉です。ちなみに、一連の諸改革とは「政治改革、行政改革、地方分権推進、規制緩和等の経済構造改革等の諸々の改革」をさしています。ここはとくに注意を要します。職場では、公務員制度改革と司法制度改革を切り離して、それぞれ個別の改革論議と考えているむきもありますが、実際は有機的に関連している課題だといえます。

事前チェック型社会から事後チェック型社会へ

 第二に「公共空間」という言葉や「法の支配」という言葉が重要な役割をはたしていることがあげられます。新自由主義経済体制を受け入れている国の制度的な特徴はなんでしょうか。それは行政指導や公共的な規制を極力さけ「完全な自由競争」を実現しようとするところにあります。多くの場合、こうした自由競争が社会的な「貧富の格差の拡大」と社会的紛争の急増をもたらすことは、歴史的な経験でも明らかです。ちなみに公的規制の多くはこうした紛争等諸問題の緩和のために導入されたといってよいでしょう。
 しかし、新自由主義経済では、この格差を容認し、拡大することが社会的な競争力を強化するという考えに立っています。問題となるのは、社会的紛争が激化した場合の対処ですが、ここでは司法が中心的な役割をはたしていくことになります。「事前チェック型社会から事後チェック型社会へ」という言葉はこの点を端的にあらわしています。そのため司法を「社会の静脈」と位置づけ、社会的紛争の最後の駆け込み場所(「公共空間」)として位置づけています。ここで期待されている司法の役割は「法の支配」の貫徹にありますが、この場合、法は「法(=秩序)」と位置づけられていますので、基本的人権の擁護を含めた広義の意味での「法の支配」とは役割が異なります。

「自己責任の原則」を司法制度でも重視へ

 最後に、国民の役割が「統治客体から統治主体へ」とされていることを指摘したいと思います。統治主体という言葉は、本来の意味では国民の主権の重要な概念ですが、ここではむしろ「自己責任の問題」として否定的に考えられていることに焦点をあててみます。新自由主義経済の下では、一人ひとりの国民の保護がむしろ社会的競争を緩和する要素として考えられていますので、公共的保護や社会保障はできるだけ切り下げられるという政策が重視されます。そうした社会の中では、個々の国民は自分で自分の生存を支えるために競争しなければなりませんので、「自己責任の原則」が基本とされていくわけです。そこで司法制度においてもこの「自己責任の原則」が重視されるのです。

「一連の諸改革」のめざす社会


  これまでの制度目標 「構造改革」の考える社会
基本原則 高度福祉国家の成立
完全雇用目標
新自由主義経済による市場経済
社会格差を前提とする社会
社会制度 事前チェック型行政優位
(1)行政優位
(2)行政指導の優位
(3)安定性確保重視
(4)全体的均質性
事前チェック型司法へシフト
(1)司法の事後チェック機能重視
(2)市場の完全自由活動による紛争の容認と司法的解決の結合
(3)各種格差の重視
経済制度 (1)安定性の重視
  三種の神器
  企業内組合
  系列化
  企業集団
(2)長期的利益の重視
(3)終身雇用・安定的賃金
(4)生産・貿易重視
(1)徹底的な流動性を重視
 三種の神器の否定
(2)短期的収益確保重視
 株式市場による収益確保の優先
 「勝ちにげ資本の容認」
(3)低賃金・雇用流動性の確保
(4)投資・投機重視
(5)貧富の格差の積極的肯定

民主的司法システム確立への萌芽

 以上のように、現在行われている司法制度改革は、司法の役割を重視はしますが、その方向性は、小泉政権が推進している「構造改革路線」(新自由主義経済体制)と同一方向であり、国民には過酷な制度改変となるものだといえます。

 そうした前提をふまえた上でも、総論が「司法のチェック機能の重視」「透明性」を掲げたことはたいへん重要なことです。司法を民主的に運営しようとする側からみても、これまでの司法制度は「統治行為論」などにみられるように、行政の補完的な役割しかあたえられてきませんでした。三権分立の下で、司法が戦後一貫して「小さな司法」であり続けたのはそうした理由によるものです。
「公共空間」と司法を位置づける以上、司法の透明性、客観性がなければ国民的な信頼はかちえないといえます。こうした意味では、今回の意見書の中には民主的司法システム確立への萌芽が生まれているといえます。一方で社会的・経済的弱者救済に関わる基本的人権の保障など、民主主義的課題の具体的方向性の不十分さは否めません。
 これから私たちが意見書について考えていくわけですが、その場合、意見書の問題点だけをとりあげるのは正しくありません。むしろ問題点を理解・分析した上で、意見書のもつ進歩的な面や民主的側面をきちんとおさえ、それを発展させる運動にとりくんでいくことが重要です。

司法制度改革の基本的な考え方


  従来の司法 「意見書」の司法制度
司法の目的 行政の補完重視
「統治行為論」
「部分社会の法理」
「特別権力関係論」
市場経済を補完する司法
「司法の行政からの相対的独立」
「司法の相対的公共性(公共空間)」
制度の方向性 社会的安定
市場経済の秩序
 民事司法の絶対優位性
 厳罰化の刑事司法
 市民裁判の統合
司法システム 「小さな司法」
裁判所+少数法曹
「司法の相対的拡大」
(裁判所+ADR)+(多数法曹+
隣接法律関連)+α(企業法務など)

セーフティネットの概略図

 
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