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少年法関連
 
子どもの権利条約市民・NGO 報告書(全司法執筆部分)
2017年10月

 以下の文書は、「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」の第4回・第5回政府報告書(6月30日日本政府が国連に提出したもの)に対する市民・NGOからのカウンターレポートとして「子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会」が2017年11月1日に国連に提出した報告書を作成するにあたって、全司法少年法対策委員会が担当して執筆したものです。

《略語》
  CRC:国連子ども(児童)の権利委員会
  一般的意見:子ども(児童)の権利条約条約機関の一般的意見
  一般的意見No.10は「少年司法における子どもの権利」に関する
  第2回子ども(児童)の権利委員会最終所見:2004年2月26日
  第3回子ども(児童)の権利委員会最終所見:2010年5月〜6月

27少年司法

 少年司法に関し、日本政府報告についての審査の第2回・第3回最終所見において、少年司法分野における国連基準に完全に適合させるため、日本政府は一般的意見No.10を考慮しつつ、少年司法制度の機能を再検討するよう要請され(第2回CRC/para.54、第3回CRC/para.85)、第2回最終所見では6項目(CRC/para.54)、第3回最終所見では8項目(CRC/para.85)の実施を勧告されていた。日本政府第4・5回報告書は、45及び153〜172において個別の勧告の実施について報告しているが、いずれも十分な対応と言える状況ではない。特に共通して背景にある国連基準に背をむけた少年司法制度の状況について(第3回CRC/para.11)の改革はなく、第3回政府報告では「基準の趣旨に則った施策を推進していく」としていた(第3回政府報告書para.469)が、今回の政府報告書ではその言及さえもない。そして施策は逆に一般的意見No.10から一層離れる方向をめざしている。
 個別の勧告について、まず政府報告書154は、烙印の回避につき少年法60条・61条をあげるが、これらの規定は少年法の制定時から存在したもので新しいものではない。そして記事等の掲載の禁止については、この法制の下でも、少年事件が起こるたびに、週刊誌やインターネットで少年・子どものプライバシーの侵害がなされ、日本政府がこれに有効な対応がとれない状況が続いている。
 政府報告書155は、特に大きな問題がある。
 日本においては、1948年に制定された少年法を、2000年に改正し、刑事責任年齢を16歳から14歳に引き下げ、いままですべて保護処分でしか対応できなかったのを改め、一部の重大非行について原則的に刑事裁判ができることとした。CRCは、この点への懸念を示し、従前の16歳への引き上げへの再改正を重ねて勧告している(第2回CRC/para.54(d)、第3回CRC/para.85(b))。
 第3回政府報告書463では、年齢引き下げ批判への反論はなく、ただ刑の言い渡しを受けた少年は16歳まで少年院で処遇しているというだけであったが、今回の政府報告書155は、この勧告に応えない理由を、「14歳、15歳の年少少年による凶悪重大事件が後を絶たず憂慮すべき状況にあった」、「従前の16歳へ引き上げるための再改正を要する状況にはない」と述べ、居直って正当性に言及している。しかも、この認識は明らかな事実誤認である。
 客観的な統計によると、日本の少年非行総数は、1964年の第一次非行ピーク、1983年の第二次ピークを経て、1983年以降は現在に至るまで明確に減少傾向を続けている。この減少は、少年人口の減少率をはるかに上回る減少であり、「14歳、15歳の年少少年による凶悪重大事件が後を絶たない」といった事実は全くない(※註)。現在の日本においては、登校拒否・不登校や家庭への引きこもりといった非社会的な少年の問題、虐待を受ける乳幼児・児童の問題、子どもの自殺率の高さといった問題は深刻化しているが、いわゆる反社会的な傾向が強い非行少年は減少しているのである。

※ 最高裁判所の少年司法、警察庁の犯罪統計、厚労省の出生数統計等によれば、1964年時の1学年あたりの少年人口は約250万人、少年非行総数は約110万件、1983年時の1学年あたりの少年人口は約200万人、少年非行総数は約70万件、2016年の1学年あたりの少年人口は約100万人、少年非行総数は約10万件である。従って、1983年と2016年を比較した場合、少年人口は2分の1になり、少年非行総数は7分の1になっている。
 この間、少年非行における殺人・殺人未遂事件数を見るなら、1964年には約350件、1983年には約80件、2016年には約30件に減少している。

 政府報告書157は、検察官が関与し得る「一定の重大事件について」少年に弁護士である付添人を選任できるとするもので、2014年6月、その範囲は拡大されたが、同時に検察官が関与し得る事件の範囲もより拡大されており、勧告の「あらゆる段階で」(第3回CRC/para.85(d))には程遠い。
 政府報告書158・159が対象とするのは、少年刑務所・少年院・少年鑑別所・刑事施設における教育・訓練等であり、自由を奪われた児童・少年すべてについての対応ではない。
 政府報告書161における「通訳有」の割合は、全体の24%から37%であり、ほとんどの少年が「通訳無」で、保護事件に臨んでいることを物語っている。政府報告書162〜167は、制度のしかも限定された場合の紹介であり、この報告だけでは、実情がどうなっているかは判然としない。政府報告書164にある警察の留置施設に少年を留置することについては、成人用居室との分離といった配慮だけではなく、基本的に警察の留置施設への留置をやめ、少年鑑別所等の専門的な施設への留置を原則とすべきと考えられる。
 政府報告書170は、第2回CRC/para.54(b)に対するもので、「我が国には仮釈放のない終身刑は存在しない」としている。第3回政府報告書にも同様の記載がある。しかし、第2回CRC/para.54(b)は、仮釈放のない終身刑ではなく、終身刑を禁止するよう求めており、一般的意見No.10のpara.77は、「子どもに終身刑を科すことは、釈放の可能性があったとしても、少年司法の目的の達成を、不可能ではないにせよ非常に困難にする可能性が高いことを踏まえ、委員会は締約国に対し、18歳未満の者が行った犯罪についてあらゆる形態の終身刑を廃止するよう強く勧告」しているのであり、政府はこの点について、勧告には従ってはいないのである。
 なお政府報告書は、第2回CRC/para.54、第3回CRC/para.85の個別の勧告の実施のうち、第2回CRC/para.54の(f)、第3回CRC/para.85の(f)の実施については触れていない。第2回CRC/para.54の(f)については、いわゆる「ぐ犯」に関する問題であるが,性的被害を受けた少年・子どもが犯罪者として扱われることはかなり広がっている。第3回CRC/para.85の(f)についても、少年の関わる事件で必要のない拘束が続くことは珍しくない。これらを放置することは許されない。
 政府報告書155でも述べられているとおり、日本においては1949年に発足した家庭裁判所において、「少年に係る医学、心理、教育等について専門的知見を有する」家庭裁判所調査官の社会調査及び教育的措置を行った上、少年非行への審判が行われている。適正手続の確立の面に問題が残ってはいたものの、日本の成人犯罪数の抑制、日本社会の安全化といった効果を生みだし、全体として日本の少年法制を国連基準に適合させる方向に向かわせていた。また、家庭裁判所だけでなく、少年司法に関わる少年院、少年鑑別所、保護観察所等による矯正教育も効果を上げてきており、少年司法に関わる現場職員から学者まで,これに異存がある者はいない。
 しかし、2000年以降、少年による凶悪重大事件が後を絶たないというマスコミ等による事実に反する報道の影響を受け、四度にわたって少年法改正が行われ、その中で少年司法への検察官関与権限が拡大され、刑事罰を優先する厳罰化が進められ、教育的措置の中で子どもが問題を乗り越え、社会に再適合する環境が失われてきた。さらに現在、日本政府は、民法における成年年齢を20歳から18歳に引き下げる法案を制定しようとしており、近い将来、少年法の適用年齢が20歳未満から18歳未満へと引き下げられる法案が提出もしくは採決され、日本の少年法制を壊滅させる可能性が極めて高くなっている。
 少年司法運営に関する国連最低基準規則2−2(a)は、「少年とは、各国の法制度の下で、犯罪の故に成人とは異なる仕方で扱われる児童若しくは青少年である」とされている。日本において、少年として成人と異なる処遇をうけるのは、20歳未満のものである。社会権規約10条3項、自由権規約24条1項は、いずれも児童・年少者として支援を受ける年齢を18歳未満に区切ってはいない。日本における少年非行総数のうち、他者の生命を奪うといった凶悪重大非行は0.2%未満である。少年法の適用年齢が20歳未満から18歳未満へと引き下げられた場合、軽度な非行を多数含む18歳・19歳の少年の99.8%について、基本的に刑事手続きが適用されることとなる。それは、現在行われている18歳・19歳の非行少年に対する教育的、福祉的、医療的処遇の機会を大きく後退させ、社会への再適合を促す機会を奪うことを意味している。現代日本の18歳・19歳少年は、大学生であったり、高卒後に安定就労している青年であっても社会性が未熟であることは多い。加えて、非正規就労が拡大する中、定職を求めて転職を繰返している場合、中学・高校時代に学校不適応があり、それを乗り越えて、定時制高校や通信制高校などで再就学している場合も少なくない。こうした青少年が犯罪行為を起こしたとき、少年司法の分野から除外し、その自己責任だけを問い、刑事罰を与えることは、少年の立ち直りの機会を失わせ、社会全体の損失をもたらす。
 子どもが大人になるには時間が必要である。年齢や年限を設けるだけで、自覚が深まったり、認識が改善されたりするわけではない。現在の日本の青少年の実態を直視するなら、23歳もしくは26歳程度まで、大人としての社会的責任の自覚を求めつつも、一定の保護・教育等を保障される社会的制度が必要である。現在の日本政府は青少年教育の充実強化等を表明しているが、非行少年については、教育対象から切り捨てようとしていると言わざるを得ない。
 歴史的には、1945年、WWUでの敗戦があり、日本の少年司法は、旧司法省内の行政審判であった少年審判を、三権分立の原則に従った家庭裁判所での少年審判に移管した。同時に、教育的配慮が必要であり、かつ効果があるとして、旧少年法の適用年齢であった18歳未満を20歳未満へと引き上げたものである。すなわち、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げ、18歳・19歳の少年非行を家庭裁判所への全件送致から外してしまうことは、歴史的に見れば、1945年以前の少年司法・矯正教育の状態に大幅に後退させ、子どもの権利を奪うことになる。
 以上、CRCにおかれては、引き続き、少年の刑事責任年齢を16歳に再び引き上げることを勧告すること、日本の少年司法における教育的、福祉的、医療的処遇を後退させないため、少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げないことを強く勧告することが相当と思料される。

 なお、少年の矯正教育に関わる少年院及び少年鑑別所、刑事施設等に関しては、政府報告書6.43.57.58.77.78.79.88.93.99.158.164.165.168.において触れられており、2014年に少年院法及び少年鑑別所法の改正がなされたことが報告されている。2014年の改正は、政府報告書79でも認めているように、少年院、少年鑑別所又は少年刑務所における職員による被収容少年に対する暴行事件が相次ぎ、その再発防止の必要等を踏まえてなされたものである。この改正により、各施設への民間有識者による第三者委員会の視察制度が導入され、被収容者からの不服申立、救済の申出及び苦情の申出等の制度が整備され、被収容者に対する身体的及び心理的暴力等の防止に配慮すること等が規定された。この改正は、少年・子どもの権利保護の向上につながるものではあるが、未だ、施設側の管理業務としての配慮に関する規定である面が大きく、個々の少年・子ども自身の視線に基づいた、子どもの最善の利益を十分に満たすものとは言えないことを指摘しておきたい。また、前記した少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げた場合、この少年院法及び少年鑑別所法の改正によって生み出された効果についても十分な検証がなされないまま、刑事罰が拡大することになることも指摘しておきたい。

 

【参考】

政府報告書40.及び政府報告書別添1に報告された家事事件手続法における「子どもの意見の尊重」について

 日本では、2011年5月の民法改正、それに伴う2013年1月に施行された家事事件手続法において、子どもの意見や意思の尊重が図られることとなり、離婚、親権・監護権の指定、面会交流等、子どもが影響を受ける家事事件での「子どもの調査」が重要視され、子どもの年齢、能力、発達の程度等を考慮した調査・審判の改善が進められている。ただし、裁判所、弁護士会及び関係機関の研修制度等において、子どもの権利条約等の研修は不十分であり、結果として「子どもの権利保護のための調査」といった観点の重要性が浸透していない。結果として、父母の激しい葛藤対立のもとにある子どもの権利保護のために設けられた「弁護士を子どもの手続代理人として選任する」制度の実施数は極めて限られている。その背景には、子どもの手続代理人となる弁護士費用の問題等について十分な制度設計がなされていないことがある。また、子どもの意見や意思を尊重しながら調査するためには、子どもが安心して意見聴取を受けられる場所の確保等、物理的環境面の整備が不可欠である。裁判所内の児童室の充実だけではなく、学校・幼稚園・保育園、学童保育所や児童館等の公共施設、民間施設等に必要な設備を増設、維持、確保することが不可欠である。国としてより一層、子どもの権利条約についての学習・研修体制を整備し、国選弁護人制度の拡充等の予算措置を行うことが強く求められている。

 

政府報告書89.90.に報告された養育費(政府報告書においては扶養料と表記されている)について

 子どもの養育費(扶養料)を回収する(確保する)問題については、日本では家庭裁判所による履行勧告制度が最も身近な方法となっているが、政府報告書90.にも示されたとおり、その回収率は一部履行を含めても47%に過ぎず、極めて不十分である。政府報告書89.では、「子どもの養育費(扶養料)を回収するための強制執行の申立ての準備に資する財産開示制度の改正等を検討中である。」とされているが、養育費負担義務者の収入や財産状況を適正に把握することが不可欠であり、養育費負担義務者が自ら進んで収入や財産状況を開示するように促す制度、必要に応じてその収入や財産状況を調査できる権限を家庭裁判所等に付与すること、悪質な養育費(扶養料)未払いに対する制裁手段等の改正が早急に求められる。

 
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