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少年法関連
 
2013年10月31日
全司法「少年法対策緊急集会」
年齢引下げ問題をめぐる情勢と日弁連の取り組み
弁護士山ア健一

1 問題の経緯

2007年 ・憲法改正国民投票法成立(18歳以上に投票権)
 
2014年11月 ・公職選挙法改正案提出(18歳以上に選挙権)
 附則11条「民法、少年法その他の法令の規定について検討を加え、
 必要な法制上の措置を講ずるものとする」
 
2015年 2月 ・日弁連「少年法の『成人』年齢引下げに関する意見書」
・多摩川河川敷で川崎市の中学1年生が死亡する事件が発生
4月 ・自民党「成年年齢に関する特命委員会」初会合
6月 ・改正公職選挙法成立
・日弁連主催「プレスセミナー」
8月 ・研究者ら「少年法適用対象年齢の引下げに反対する刑事法研究者の声明」
 (賛同者110名以上)
・日弁連主催「院内学習会」
9月 ・自民党特命委員会「成年年齢に関する提言」とりまとめ
・日弁連「少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明」
・自民党政務調査会「成年年齢に関する提言」を首相に提出
・全国すべての弁護士会・弁護士会連合会から反対の声明
10月 ・法務省「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」設置

2 自民党政務調査会の提言

○特命委員会での提言案
   民法の成人年齢をできる限り速やかに18歳へ引き下げ、それに伴い、他の満20歳以上を要件とする法律については18歳以上に引き下げるべき。
 ← 飲酒喫煙について強い反対意見(日本医師会など)
 
○とりまとめられた提言(資料)
  少年法について
「 国法上の統一性や分かりやすさといった観点から、少年法の適用年齢についても、満18歳未満に引き下げるのが適当 」
 但し、
「 (満18歳以上満20歳未満の者を含む)若年者のうち要保護性が認められる者に対しては保護処分に相当する措置の適用ができるような制度の在り方を検討すべき 」
  飲酒喫煙について
「 (賛否両論の)これら意見や諸外国の状況の状況を踏まえ、飲酒、喫煙に関する禁止年齢を18歳未満に引き下げるべきかどうか、引き続き社会的なコンセンサスが得られるよう国民にも広く意見を聞きつつ、医学的見地や社会的影響について慎重な検討を加え、実施時期も含め民法改正時までに結論を得る 」
  公営競技について
「 公営競技が禁止される年齢についても様々な意見があったことから、引き続き検討を行う 」

3 弁護士会の意見等

(1)日弁連
  ・意見書(配布資料) ・国会議員向け資料:ポンチ絵(配布資料)
  ・会長声明(配付資料)

(2)弁護士業務における実感
   現代の若者達(若年成人を含む)の成熟度
   少年法の手続(家裁)と刑事手続(検察官・地裁)の違い

4 今後の見通しと日弁連の取り組み

(1)法務省の勉強会について

(2)日弁連の取り組み
  ・法務省勉強会への対応
  ・11月24日シンポジウム(配布資料)
  ・市民向けパンフレットの作成、議員要請

 
 
2013年10月31日
全司法「少年法対策緊急集会」
年齢引下げ問題をめぐる情勢と日弁連の取り組み
日弁連子どもの権利委員会  
少年法・裁判員対策チーム座長
 山ア健一弁護士

はじめに

 皆さん,こんにちは。弁護士の山崎と申します。
 横浜で弁護士をやっておりまして,全司法の会議に呼んでいただくのは3回目ですけれども,そのタイミングは,いつも少年法が改悪の危機にさらされているという時期であります。
 私は2000年「改正」が通った後から日弁連の仕事に関わるようになりました。その後何度も少年法の改悪が進められましたが,2014年の「改正」で一段落かなと思っていました。
 そこで,少年法の関係では「逆送された少年の事件の裁判員裁判のあり方」が非常に問題だと思っていましたので,そういったことを研究者の方々と共同で研究をし始めていたのですが、そうしているうちに、また18歳への年齢引下げ問題が降って湧いてきた、というような状況で,非常に複雑な思いをしております。

1 問題の経緯

 日弁連では、「子どもの権利委員会」の中に幾つかチームが作られていますけれども,私は現在、「少年法・裁判員対策チーム」の座長をさせていただいております。
 先ほど申し上げたように,少年法の「改正」が幾度となく来まして,それが一区切りついたので,裁判員の研究をしていたわけですが,その中で、緊急な課題として年齢引下げの問題が出て来ておりまして,今、それらを並行してやっているという状況になります。
・川崎の中学生の死亡事件(2015.2)
 この問題に関しては,目に見えて議論されるようになったのは,今年の2月、多摩川の河川敷で川崎の中学生が死亡するという事件が起きた頃からになります。
 その関係で,やはり「少年法は甘い」という,いつものような議論が出てきまして,適用年齢の上限を引き下げるべきだということも、これに関連する形で出てきたということになります。
・公職選挙法の改正案の提出(2014.11)
 実は、日弁連の中では,公職選挙法の改正案が昨年11月に出まして,「民法,少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする」という附則がついていたものですから,公選法が改正されるといずれ少年法の議論が出てくるであろうということで、内部では議論をしておりまして、今年の2月に「少年法の『成人』年齢引下げに関する意見書」を出しました。その後に「多摩川の事件」が起きた、という流れになります。
・日弁連「少年法の『成人』年齢引下げに関する意見書」(2015.2)
 日弁連としてのこの問題に対するスタンスというのは,この意見書に書かれたとおりの内容で,今、この意見書に基づいて様々な活動を進めています。
 「意見書」の内容ですが,意見の趣旨としては,公職選挙法,それに先立っての憲法の改正,国民投票法が,18歳にまで投票権を認めたということとの関連で,少年法が議論される可能性があるということですけれども,「法律の適用年齢を考えるに当たっては,立法趣旨や目的に照らして各法律ごとに個別具体的に検討すべきであって,少年法規上の成人の年齢を引き下げることには反対する。」という意見となっています。
 その理由として書かれている内容は,今の現行少年法においての手続というものが,基本的には有効に機能しているということ,そしてこれはいろんなところで指摘されていますけれとども,18歳,19歳の少年は決して,かつてに比べて成熟度が増しているわけではなく,むしろ成熟度は低くなっているのではないかと。そういったことを踏まえながら,刑事処分ではなく保護処分に向けた,家庭裁判所あるいは鑑別所等含めた手続が持つ機能,更には保護処分が持っている機能が有効に働いている。この少年法の手続に有効性が認められている現状において,あえて18歳,19歳を外すというのは,その必要性もない。むしろ、そうした場合には,大人と同じ扱いをされる,これは一見厳しく見えますけれども,実は大半が起訴猶予になったり,罰金で終わったり,あるいは裁判になっても1回目は執行猶予だったりということで,むしろ何も実質的な手当てがされないままに放置されてしまう。ということは,その18歳,19歳の子にとっても、成長を支援される機会や,問題性を克服するきっかけを失う,引いては、社会全体としても若年者の再犯リスクを高めることになり,刑事政策的にも妥当ではないのではないか、ということです。
 こういう考え方で,日弁連としては,少年法の適用年齢の上限引き下げには反対、という意見書を出したわけです。

2 自民党政務調査会の提言

・自民党の特命委員会「成年年齢に関する提言」
 その後,自民党の特命委員会が実質的に活動をし出しました。
 その結果として,9月には「成年年齢に関する提言」をまとめて出していますので,半年間の議論で提言を出しているということになります。
 当初,この特命委員会では,多摩川の事件を受けて,やはり「少年法は甘い」「甘いから,少年がこういう事件を起こす」「なのに匿名はけしからん」「だから大人と同じように扱うべきだ」という,感情的な議論が非常に強く出ていた、と聞いています。その頃には,「今の少年犯罪は非常に増えているし,凶悪化しているんだ」ということを言う議員の方も少なくなかったわけですけれども,それが客観的には誤りであることは,皆さん御承知の通りです。
 今でも議員の方と話をしていると、そういう誤った認識を持っている方もまだまだいますが,
 一応、その後の特命委員会の議論では、表立ってはそのような前提はなくなっては来ていて,「公職選挙法で18歳にまで選挙権が認められて,更に民法についても,それに伴って今後20歳が18歳に引き下げられる見通しである」「そうである以上、少年法だけが20歳ということにはいかない。他の法律も含めて,大人になるのが18歳なのだから,それと統一を図るべきだ」という議論がメインになっています。
 ですので,日本の国の法律全体が,18歳を「大人」とするのだから,特段それによって何か非常に問題が大きいということがなければ,少年法も18歳未満を対象にすべきである、という議論です。
 大事なことは,「立証責任」とか「挙証責任」という言い方をしますけれども,法改正の必要性もないし,なぜ下げるのだ、下げないといけない理由は何ですか、と私たちは言いたいわけなんですけれども,特命委員会のほうは,「もう下げるのが前提だ」と。「18歳が大人なんだから。それで不都合があるんだったら言ってみなさい」というふうに,こちらにボール投げ返してくるような,立証責任を押し付けてくるような、そういう対応が続いています。
 ですので,そこをどうクリアしていくかというのが私たちに求められている課題かなと思っています。その設定自体に問題があるわけですけれども,その問題性を指摘すると共に,やはり、具体的な弊害ということにも力を入れて訴えていかないといけないかな、ということが結論めいたところですが,そう感じています。

・公職選挙法の改正案の成立(2015.6)
 そういった中で,公職選挙法の改正案が6月成立しました。日弁連としても,これは提言がまとめられるまでが1つの勝負であるというふうに考えまして,自民党の特命委員会のメンバーや,特命委員会以外の有力な議員にも要請をし,さらには、与党である公明党の議員にもアプローチして,ということで活動をしてきました。そのときに使ったのが,今日お配りいただいていますけれども,1枚ものの図とかが入ったいわゆる「ポンチ絵」というものです。
 先ほど言ったように、特命委員会の議論でも「少年事件が増えている」とか「凶悪化している」ということは表立って言われないようになっていますが,実際に国会議員に会うと,「いや,少年事件増えてるでしょう」とか,「凶悪化してますよね」と言われることも非常に多いので,まずその誤解を解く、ということから始めたポンチ絵になっています。ただ,これは情報量が非常に多すぎるとか,もう少しポイントをはっきりさせるべきだということで,また作り直そうという話はしているところです。
 ともかく、私たちはそういう形でかなり多くの議員の方々にお会いして,理解を求める活動をしています。

・日弁連主催「プレスセミナー」(2015.6)
 それと共に,6月にはマスコミ等報道機関を対象とした「プレスセミナー」を開催しました。ここでは、元東京少年鑑別所の所長や富山の少年院長を務められた方とか,浪花の少年院の元院長の方とか,東北少年院の院長を最後に退官された方とか,4名の方に急きょお集まりいただきましたが、「少年矯正の現場にいたOBとして,この引き下げは絶対問題がある,けしからん」と口々に仰られました。「少年法の改正というのは,何か事件が起きるごとに,世論に押される形でどんどん改悪を重ねてきてしまったけれども,今回は絶対それはあってはならない」ということを方もいらっしゃいました。
 女子少年院の院長を務めた方からは,特に女子の18歳,19歳の子たちが抱えてきた問題点ですね,虞犯で入ってくる子に対して,どういう問題に対して少年院がどういう対応をしてきたかとか,そういった18歳,19歳に対する保護的な対応の必要性というものを具体的に語っていただけました。
 少年矯正の現場でも年齢引下げに反対する声は非常に大きいのだな、ということが分かり、私たちとしても大変心強く思っているところです。ちなみに私も,自分が担当した少年が入った少年院に,この間2つ訪問したんですけれども,現場の方にも少しこの問題について話を向けると,「いや,絶対とんでもないですよね,まったくどうするつもりなんでしょうか」みたいなことを仰っていました。表立って声を上げられないにしても,実際の感覚としては,18歳,19歳を外すということには大反対、という方が多いのではないかなというふうに思っています。

・「少年法適用対象年齢の引下げに反対する刑事法研究者の声明」(2015.8)
 そういった中で,研究者の方々からも意見が上がりました。これも今日資料に入れていただいていますけれども,「少年法適用対象年齢の引下げに反対する刑事法研究者の声明」ということで,110名以上という,非常に多くの方々が賛同された声明が急遽出されています。

・日弁連主催「少年法適用年齢引き下げに関する院内学習会」(2015.8)
 そういった状況下で,日弁連としては,国会議員にまずちゃんと理解してもらうということを最優先させようということで,8月には院内学習会を開きました。140名規模の会場だったので,果たして埋まるかどうかというのが、私たちも心配だったのですけれども,会場に入りきれないくらいたくさんの皆さんに集まっていただきました。
 国会議員の方も何人か御本人が来られ,秘書の方を合わせるとかなりの数の方が来られました。この問題についての関心が結構あるんだな、ということを実感した次第です。

・自民党「成年年齢に関する提言」とりまとめ(2015.9)
 そういった中で,自民党の特命委員会のほうは粛々と提言の取りまとめ作業をしていきまして,結果として出た提言が,今日お配りいただいている「成年年齢に関する提言」というものです。
(「国法上の統一と分かりやすさ」を強調)
 まず「1.民法」については,引き下げるための措置を構じる、ということを言っています。
 「2.20歳を基準にしていた法律について」は,先ほど申し上げたように,大人と子どもの範囲を画する年齢が,20歳だったのが18歳になる、という考え方を示しています。最後の段落に書いてありますが,「大人と子供の分水嶺を示す各種法令には国法上の統一性が必要である。」という基本的な考え方を出しているということになります。
 その上で,「3.(1)」で少年法について言及されています。
 「民法を始めとする各種法律において、我が国における『大人』と『子供』の範囲を画する基準となる年齢が満18歳に引き下げられることを踏まえ、国法上の統一性や分かりやすさといった観点から、少年法の適用対象年齢についても、満18歳未満に引き下げるのが適当であると考える。」これが結論です。
 理由は,「国法上の統一と分かりやすさ」というところにあります。

(法務省による新たな「保護処分に相当する措置」の制度設計の検討)
 「他方で、罪を犯した者の社会復帰や再犯防止といった刑事政策的観点からは、満18歳以上満20歳未満の者に対する少年法の保護処分の果たしている機能にはなお大きなものがあることから、この年齢層を含む若年者のうち要保護性が認められる者に対しては保護処分に相当する措置の適用ができるような制度の在り方を検討すべきである」とも言っています。
 この点について,「法務省においては検討して制度設計を行うこと」というふうに、注文を付けているという内容です。
 この「他方で」から始まる部分ですけれども,ここについては元々「20歳を18歳に下げるだけでいいのだ」という意見がありましたが,一方で,「18歳,19歳の中でも,まだ保護処分等の措置が必要な子もいるのではないか」という意見もあり,更に,「20歳を超える成人の中にもそういった者がいるのではないか。」という意見もあったことを踏まえて、こういう表現になったという経過があります。

(特命委員会「ヒアリング」)
 自民党の特命委員会は、この提言を取りまとめる過程で、ヒアリングを何度も繰り返しています。日弁連としても呼ばれましたが,私たちが「日弁連意見書」に基づいて意見を述べても,なかなか理解していただけませんでした。委員からは、「公職選挙法の改正案の附則で,民法及び少年法などについて『措置を講じる』と書いてあるのは,もう『下げる』ということを言ったのと同じなのだ。」「だから、下げる前提での議論をしなければ始まらない。日弁連はなぜそういった検討をしないのか」と言われてしまうわけです。

(「あすの会」の「応報」主張)
 さらに、「あすの会」という犯罪被害者の団体も同席をしていたんですけれども,「刑事法は応報が原則である」「応報を制限するような少年法は,できるだけ適用を制限すべきだ」という趣旨の主張をしていました。
 そうすると,元法務大臣の鳩山議員なども,「そのとおり。もっともだ」「やっぱり応報なんだ」というような感想を述べられる,そういった雰囲気でした。

(「若年成人」への手当て)
 ただ,特命委員会の事務局には弁護士議員がいまして,さすがにそれだけでは,というふうに思ったのではないでしょうか。また、同様にヒアリングを受けた元裁判官の廣瀬健二教授も,ドイツの少年法制を参考に出しながら,「若年成人も含め一定の手当てが必要だ」ということを言われたようです。「成人年齢を引き下げたとしても,一定の手当が可能な範疇を作るべきだ」という議論なので,それらも含め、こういった提言になっているのかなというふうに思っています。
 この点,最高裁や法務省がどのような考えを持っているのかが気になりますが、そのあたりはまだよく分かりません。

(日弁連の対応)
 日弁連としては,「そもそも成人年齢を引き下げる理由もないし,引き下げは弊害が大きいのだから反対」と主張しています。これから、「じゃあ引き下げた場合でも,何もしなくていいのか」といった議論を多分投げかけられると思うんですけれども,これに対して何か対案を出すべきなのかということについては、今後議論をしていくという状況です。「そもそも引き下げ反対で行くべきだ」という考え方で,私たちは今臨んでいます。
 「提言」がいう,「この年齢層を含む若年者」(若年成人)というのが幾つまでを含むのかというところも,まだ明確にはなっていません。18歳,19歳を含むのは明確ですけれども,20歳,21,22,23,あるいは25歳といったところまで含むのか。
 そこも全くまだ議論がされていないところですけれども,それも含めた制度の在り方を法務省において検討すべき、というふうに言われたものですから,今回,法務省として月曜日からの勉強会が始まる動きとなったということだろうと思います。

(その他の法令)
 今,少年法に関する問題だけで勉強会が始まりますけれども,児童福祉法など、ほかの法律に関しても,この年齢の引き下げというものが,子供たちに関わる問題としては幾つも幾つもあると。そこにもちゃんと私たちが目を光らせて,しっかり反論していかないといけない、というふうに思っています。

・飲酒喫煙については「両論併記」
 「提言」の中で興味深いのは,「4」なんですけれども,これは大分報道されましたが,「飲酒,喫煙もじゃあ下げるのか」ということがありました。実は,特命委員会の事務局のほうは,飲酒・喫煙の年齢も下げる前提で取りまとめをしようと考えて案を作ったようです。
 ただ,それがマスコミ報道で明らかになったところ,自民党の有力議員の中からも,医師会ですとか,あと私立学校の経営者といった支援者のいる議員から,直前に猛反発が出たようです。
 中でも医師会は,「厚労省が飲酒喫煙の害を踏まえて,対策を執って必死にやっているのに,なんでこんな引き下げをするのだ」ということで,「科学的でない」という反論を大々的に展開されたと聞いています。
 また,学校関係者からも,「そんなことをやられたら、高校でたばこを吸われてしまう」「18歳になったら高校生でもたばこを吸っていいのか」という意見が出て、それに対して「校則で禁止すればいいじゃないか」という反論や,「じゃあ、学校の門の外に出た途端に吸ってもいいのか」という再反論など、いろいろ議論があったようです。
 それで,結論としてはこれは両論併記になっています。日弁連も言っている「各法律というのは、その趣旨や目的ごとに適用年齢は決めるべき」という,正にその議論が、ここの部分に入ってきているわけです。そういう意味で,「提言」が「国法上の統一」「分かりやすさ」を理由に成人年齢を引き下げようtしているのは全然合理的でない、ということの一つの表れである,と言えると思います。利益団体とか圧力団体がある分野では異論が反映された、という見方もできると思いますが、「提言」の中にそのような内容が入ったのは悪くないかな、と思っています。

3 弁護士会の意見等

(1)日弁連
・日弁連「少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明」(2015.9)
 そういったことで「提言」は出てしまいましたので,日弁連としては同日,「会長声明」を出しました。今お配りいただいたものです。これは日弁連のホームページに会長声明ですとか意見書が全部アップされていますので,御自由にお使いいただきたいと思います。
 「提言」が言っているような,「統一性だとか分かりやすさ」というのは,理由にはならないということで,少年法の立法目的や保護法益に基づいてちゃんと年齢は決めなきゃいけないということも含め,2月の意見書で述べたことを簡潔に述べております。

(与党である公明党へのアプローチ)
 先ほどの「提言」というのは、自民党の政務調査会の中の「特命委員会」において取りまとめられ、これが政務調査会に上がって,政務調査会の「提言」として取りまとめられた、ということになっています。
 一般的に言うと,自民党には「総務会」があって,その「総務会」を通して党の正式な意見になるということらしいのですけれども,そこの手続は経ていないということのようです。
 つまり、この「提言」は、まだ自民党の正式な意見とまでは言えないのではないか。与党である公明党の動向も含め、まだまだ流動的で、これからの働きかけ次第によっては、まだまだ情勢は変化しうるのではないか、と考えています。

(自民党の動きのブレーキ役)
 実際、公明党の主要な議員の方々も,「慎重だ」とか「反対だ」という意見を,いろんなところで出してくださっています。そういった動きが、自民党の動きのブレーキになっている面もあるではないかな、というふうには思っています。
 ただ,法務省の勉強会が始まったこともあり,公明党が今後どういう意見を形成していくのか、ということがやはり1つのキーポイントになると思います。ですので,今後,全司法が国会議員や政党に対する要請をされる場合には,そのあたりも頂けるとよいのではないかと思っています。

 ところで、日弁連の会長声明というのは,子どもに関する問題ですと,私たち「子どもの権利委員会」が声明の案文を起案しまして,それが日弁連の会長,副会長という正副会長に諮られたうえで正式に内容が決定される、というシステムなんですけれども,これとは別に、弁護士会というのは、各都道府県に必ず1つ以上ありまして,それは日弁連とは全く独自の,自分たちの考えで活動をしているわけです。
 そこで、各弁護士会でもこの問題を議論してもらって,是非反対の意見を表明してほしい、ということを,この6月くらいから,日弁連としても呼び掛けてきました。

・会長声明の発出状況一覧表
 「会長声明発出状況」という一覧表があると思います。最初に仙台で4月に出たんですが,そこから最後に「弁連」と下に書いてある弁護士会連合会,これは各地方の弁護士会の連合体ですが,そこでも9月中に全部「反対」の声明が出切りました。これは非常に画期的なことでして,弁護士会というのは,やはりそれぞれの考え方があり,課題についての重要性についてもそれぞれの考え方があり,どの問題に会長声明を出すべきか,どういった結論にすべきか、というのはかなり違ったりするんですね。
 また,日弁連もそうですが、各弁護士会には犯罪被害者の支援委員会もありますので,当然各委員会で意見を調整しながら会長声明を出すということになるんですが,この問題は非常に短期間のうちに,各弁護士会から反対の声明が出切りました。これは、実務に当たっている弁護士の感覚としては,やはり18歳,19歳を少年から外すというのはけしからん,というのはほとんど多くの声だ、ということが言えると思います。是非、皆さんもそういうふうに御理解いただいて,弁護士会はみんな挙げて反対している、というふうに御理解いただければというふうに思います。
 ただ一方で,世論調査をすると,「少年法については年齢引き下げについて賛成だ」というのは,7割,8割とかいう数字が出たりしています。民法とかに関しては,引き下げについては非常に慎重で,「消費者被害が出」るという意見が出たりするわけですけれども,「少年法は引き下げでいい」という感じで出ちゃうわけですね。これは、やはり相当誤解されているだろうと。少年非行が「増えている,凶悪化している」,「18歳,19歳にとっての今の少年法は非常に甘い」,「だから多摩川のような事件が起こる」とか,非常に、誤解が幾つも重なったような状況にあるだろうと思われます。また、少年法では61条が、常に,マスコミも含めて批判をされます。少年Aの出版問題とかもありましたし,非常にやっぱり「少年法バッシング」がまた今きつい時期になっていますので,少なくとも,この問題を正確に理解してもらって,引き下げが妥当かどうかを考えてもらう必要があるだろうと思います。ということで,一つは、市民向けに分かりやすいパンフレットを作成し,またシンポジウムなどを開いて,みんなで意見交換をしようということを今考えております。

・11月24日「ちょっと待った!年齢引き下げ」シンポジウム
 今日お配りいただいた,青いちらしがございますけれども,11月24日に,日弁連会館のほうで、夕方6時から,皆さんと一緒にこの問題を考えるシンポジウムを行いますので,是非お時間のある方,いらしていただきたいと思います。
 8月の院内学習会のときには,全司法から伊藤さんに御報告いただき,あと少年矯正の元現場の方として,八田さんという元小田原少年院の院長先生にお越しいただき,さらには、研究者として九州大学の武内先生から,先ほどの学者の声明を含めてお話しいただきました。

(浜井浩一龍谷大学法務研究科教授による基調講演)
 今回のシンポジウムは,龍谷大学法務研究科の浜井教授をお招きして,少年非行の刑事政策的な側面から,18歳への成人年齢引き下げがどういう効果をもたらしてしまうのか。浜井先生は少年刑務所や少年院での勤務経験のある方なので,そういった点も含めて、お話いただいた上で,是非、全司法からも、ご報告,御意見をいただき,加えて、少年矯正現場の方,あるいは子どもの問題に関わっている方,元非行少年のお母さんだった方とか,元非行少年だったご本人などからの御発言をいただきながら,この問題を考えようと思っていますので,是非、皆さんいらしていただいて,御意見をおっしゃっていただければ有り難いなというふうに思っています。
 そこに向けて,日弁連では、今、パンフレットの作成も急ピッチで進めているというところです。併せて,そのパンフレットができましたら,再度,国会議員に対しても、もう少し具体的な説明を深める形での要請をしていって,この動きが現実化しないように,運動を展開して行きたいというふうに思っております。
(2)弁護士業務における実感
 「3.(2)弁護士業務における実感」というところですが,これは、調査官,書記官等で現場にいらっしゃる皆さんのほうが,より実感されていると思いますけれども,やはり、今の若者たちというのは,対人関係,コミュニケーション的なところで,未熟な子は非常に増えているし,社会経験にも乏しい子が増えている。その一方で,ネット空間が発達して,仮想社会での知識とか情報は入ってくるけれども,それと現実との折り合いが付かないような子たちも少なくないな、という印象を受けています。
 それとやっぱり,家庭環境が劣悪なお子さんが多くて,適切な「育ち」をしてきていない場合も多いのではないかと。そういう意味,非常に深刻な「未熟さ」であったり,虐待を受けた被害体験等が発達に非常に悪影響を及ぼしているような子たちも多くなってるのかなとか,発達障害的な特徴を示す子も昔より増えているのかな,というふうな印象を受けるのが少年事件の現場の感覚です。
 じゃあ一方,刑事事件,大人をやっててどうかというと,弁護士はよく,「若い大人の事件こそ少年法で手続をしたい」ということを言うんですよね。22歳,23歳くらいでも,話していると、「まるで少年じゃないか」というような人たちが一杯います。「この人たちを大人扱いして、起訴猶予だけで大丈夫なの?」,という人たちがかなりいるんですよね。先ほど言った、会長声明が全国で一気に上がったということの背景には、そういった感覚が背景にあるかな、と。「今は大人でも確かに未熟だよね」というところですね。
 だから,場合によっては、少年法の適用年齢は「引き下げる」んじゃなくて「引き上げて」,「若い大人も対象にしたほうがいいんじゃないか」というふうに言う人も少なくないです。とはいえ、単純にそう言うこともできずにいろんな問題があると思うんですけれども。

(少年の手続と刑事手続の違い_-「検察官への送致(逆送)」の課題)
 少年の事件では今,「逆送」が結構問題となっています。
 1つは、重大な事件について,逆送されると裁判員裁判ですので,少年審判とのギャップの大きさというのが非常に顕著になっています。非公開の少年審判,傍聴があったとしても,そこは秘密が守られる中での審判と,全部公開でマスコミが押し掛け,報道やネット空間でプライバシーまで晒される裁判員裁判。さらには,そのような中で、少年法をほとんど知らない一般の裁判員の人たちに,社会記録をどのようにして証拠とするのかしないのか,しないのであれば、社会記録に代わるやり方でどうやって少年の生育歴や資質上の問題を理解してもらうのか,ということがすごく難しくなっています。
 そのような意味で,「少年の手続と刑事手続の違い」というのが、重大事件では非常に際立ってきてしまっているという状況があります。
 一方で,最近,特殊詐欺での逆送というのがありますよね。別に,少年自体の要保護性としてはそれほど大きくなくても,被害金額が非常に大きい,組織に関係している,共犯者との処分の均衡,組織犯罪に対する一般予防的効果,等々を含めて,それと少年が否認をする,中には組織から否認させられてる少年もいるようですよね。
 そういうような中で,「否認しているんだったら刑事裁判でやってもらったほうが」といった感じで逆送をしようとしている裁判官もいたりして,刑事裁判に「スッ」と行っちゃうようなところがあるように思います。ですが、そういう事件でも,やっぱり刑事裁判は少年手続と全く違いますので,その子の問題性よりは、犯罪の結果や前科等によって刑が決まってしまい,保護処分歴がなくてもいきなり実刑になってしまう、といった可能性もあるわけですね。
 そういう「少年手続と刑事手続の違い」というのが,非常に場面場面ではっきり出ることになっているのかな,と。従来は、少年審判で「刑事処分相当」とすれば逆送があるけれども,刑事裁判で「保護処分が相当」とすれば55条で戻ってくると,こういう相関関係,環状的な関係だと言われていたのが,非常に分断してしまっていて,その違いが大きくなっているんじゃないかな、という感じを受けています。
 そういった中での年齢引き下げの議論ですので,18歳,19歳を少年法の対象から外したときに、果たしてどういうことが起こるのかということを,現場を知っている私たちが具体的に声を上げていかなきゃいけないだろうな、ということを感じています。

4 今後の見通しと日弁連の取り組み

・法務省勉強会への対応
 まず,法務省の勉強会についてです。実は,先週の金曜日に法務省が発表して,24日の土曜日の新聞等に載りましたが,日弁連にも急きょ法務省から説明が来て,対応を求められているという状況です。先週末に発表があり,あさって11月2日からやりますと。第1回は日弁連からヒアリングしたいということですので,私たちは意見書の内容をちゃんと説明しよう、というところで行ってくる予定です。
 ただその後は,法務省の勉強会がどのように展開するかをよく見守りながら、運動を作っていく必要があると思うんです。
 1つは,この勉強会のタイトルが,「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」,というタイトルとなっている点をよく考える必要があると思います。
 これは、先ほどの「提言」と照らして読みますと,「提言」は,「少年法の成人年齢は引き下げるべきである」と。ただ,18歳,19歳については,それを含む「若年者について,保護処分に相当するような措置が取れるような法制の在り方を研究すること。」,ということですね。だから,引き下げるべきだ,その場合はこういうことを検討しなさいという,その後者の部分が、今回の法務省勉強会のタイトルになっている、ということです。
 日弁連に対して「意見を述べてほしい」と求められた点は2つあり,1つは「少年法の年齢の引き下げについて」ということですが、もう1点として,この「若年の刑事法制についての現状と課題についても意見交換したい」,ということが言われました。
 この勉強会は,その内容が公開されます。議事録がホームページにアップされますので,そこで議論が公になりますから,是非、皆さんも注視していただきたいというふうに思っています。

(法務省「勉強会」の構成員)
 この勉強会というのは,今回の位置付けは、飽くまで「法務省の中の勉強会」であるという位置付けですので,構成員としては,法務省の職員。そこにアドバイザーとして研究者の方が3名加わります、という作りになっていて,京都大学の酒巻教授,慶應大学の太田教授,東京大学の川出教授の3名がオブザーバーとして加わる、とされています。そういったメンバーで、毎回ヒアリングで呼んだ関係団体,有識者の人から意見を聞いて意見交換をすると,こういう位置付けというふうに説明を受けています。
 ですから私たちも,今回の勉強会の構成員ではなくて,飽くまでヒアリングの対象として、明後日は行って意見を述べ,そこで意見交換をするという位置付けです。
 第1回目は,私たち日弁連のヒアリングのほか,研究者として,中央大学の犯罪の刑事政策の藤本教授が呼ばれているそうです。藤本教授からは,刑事政策的な観点からの意見が述べられるのだろうと思っています。第2回以降は,様々な研究者,これは社会学等も含めた,隣接部門も含めた研究者ですとか,さらには裁判官を含めた関係者,犯罪被害者の団体,そういった方々からヒアリングをする予定、というふうに説明を受けています。
 先ほど述べたとおり、基本的には議事録は公開されるということですし,勉強会に提出された資料も,全部PDFでアップされることになると思います。
 こういった勉強会を,大体少なくとも半年程度は継続するのではないか、というふうに言われています。

(「若年者に対する刑事法制の在り方」に対する日弁連のスタンス)
 日弁連としては,年齢引き下げについては反対、ということで,11月2日の第1回目でも主張しますけれども,「若年者に対する刑事法制の在り方」という点については,日弁連としてもあまり議論してこなかったテーマになります。
 この点は今後,研究者の方々とも意見交換をしながら、さらには日弁連内の他の関連委員会などとも協議しながら、日弁連の意見を固めて行くことになるだろうと思います。
 今回の勉強会は、先ほど言ったように,飽くまで法務省内の勉強会という位置付けです。新聞報道などでは,自民党が「提言」を出し,早ければ来年にも,あるいは再来年にも、法制審議会が開催されるのでは,というような報道がありましたけれども,今のところ、勉強会の後の動きについては不明です。

(法制審議会での議論の位置付け)
 私自身も関わりましたけれども,直近2回の少年法改正は,法制審議会の前に,法務省で「意見交換会」というものが開かれまして,実質的には、そこが改正内容を議論する場だったと言ってよいと思います。これに対して、その後の法制審議会は、意見交換会を踏まえて固められた諮問内容について、いわば理論的な「お墨付き」を与える、といったような議論ではなかったかという感じがしています。
 今回の勉強会は,そういう意味での「意見交換会」ではなくて,あくまで省内の勉強会ということですから、更にそのもっと前段階とも言えるわけですが,では、勉強会が終わった後はどうなるんだ,というところはまだ全然分からない状況です。とはいえ,勉強会の議論が終わってそのまま何もなし,という可能性がどのくらいあるのか,ということはあると思います。
 ただ,一定の時間を掛けるということは事実なので,その間の政治状況とか,いろんな状況によっては,まだ流動的な部分はあるということは確かだと思っています。少なくとも,すぐに法制審ということではないので,この間に,私たちの考えをより広める運動を急ピッチで進めないといけないのではないかな,というふうに思っています。
 私たちも,現場の方々の声をこの勉強会で聞くべきだ、ということは言うつもりです。全司法として意見のヒアリングを求めるのかどうかは分かりませんけれども,最高裁がどこまで何を言えるのか,という問題はあると思いますので、全司法として何を言うべきか、御検討いただいたほうがいいのかなと思います。

(昭和40年代の「青年構想」の復活)
 御承知のとおり,昭和四十年代の法制審議会では、法務省が,年長少年は別枠にして,家裁の手続から外す、というようなことも含めて議論をして,そのときには,最高裁は日弁連と一緒になってずっと反対をしていた、と私は聞いています。(その頃はまだ子どもでしたので。)
 そのときとは明らかに,最高裁の対応は違ってきているように感じられます。「立法課題に関することには、私たちは口を出しません」ということをはっきりと言います。ただ,「現場の実情を聞かれれば答えます」ということは言います。
 その範囲でいいから,とにかく現場の家裁の,私たちの評価している少年の手続でどういうことをやり,どういうことが効果を上げているのかということは,少なくともしっかりいろんな場で言ってほしい」ということは,私たちも常々言っています。最高裁が、この問題に関してどのような姿勢を示すのか、その点も非常に注目しています。
 最高裁の中には,家庭局と刑事局がありますし,法務省の中にも、刑事局と矯正局と保護局とがあります。成人年齢が引き下げになると,鑑別所や少年院の収容人員も大幅に減りますから,これまでの少年矯正が果たしてきた役割が大幅に損なわれるのではないか、ということが大問題ですので,矯正局は年齢引下げに賛成するとは思えないんですけれども,一方で、刑事局がありますので,昭和四十年代のように検察官先議を取り戻したいと思っているのかどうなのか。あるいは、政治との関係で、成人年齢を下げるのはやむを得ないとしたときに,比較的ダメージが少ないという案を考えよう、というふうな動きになっているのか。いろんな見方ができると思いますが、分かりません。
 とにかく、その時々の情勢を分析しながら、反対運動を組んでいきたいと思っています。是非,全司法としても一緒にやっていただければというふうに思います。

(法制審議会の諮問までが正念場)
 今日,全司法のほうでお配りになっていた「今後の課題」といったようなペーパーがあって,すぐに法制審議会か,という感じで「法案成立までの動きと私たちの課題」という資料があったと思いましたけれども,自民党政調の「提言」が出て,法務大臣もそれを検討しますと言って今回の勉強会になった、という動きですので,ここから法制審議会の諮問になるまでが勝負だと思います。
 この勉強会の段階でどういう議論がなされるのか,そこから法制審議会に行くのかどうか。法制審議会の諮問がなされれば,ほぼそこでもう結論は決まっているというのが,これまでの何回かの法制審だったかと思います。ですので,そこから運動しようと思っていても,もう時,既に遅し、ということになると思います。正に「今が正念場」という感じで,ここ数箇月から1年の間がヤマ場と思って私たちはやっていきますので,皆さんも一緒にやっていただければと思います。

(「家庭の法と裁判」松尾浩也東京大学名誉教授)
 最後になりますけれども,今日お配りいただけて良かったと思いましたが,松尾浩也名誉教授が,「家庭の法と裁判」の巻頭言に少年法の問題を言及されていました。御承知のとおり,家裁月報が廃刊になり,その後,この「家庭の法と裁判」が創刊されていますが,今回,少年法の特集号が組まれています。
 その中で松尾教授は,「立法に関して今後懸念されるのは,公職選挙法改正のもたらす影響である。選挙権の年齢引き下げは歓迎すべきこととしても,当該年齢層の国民全員に国政参加の権利を与える選挙法の場合と,極く一部でしかない非行少年を対象としてその健全育成をはかる少年法とでは,視点は異なるのが当然である。20歳未満までを対象とする戦後改革によって,日本の少年法は刑事政策上の成功を収めており,その成果は維持されなければならない。」ということを書いていただいています。
 松尾先生は、法務省の特別顧問ということで,法制審議会でもいつも出てこられて,一言述べておられるわけです。この間,松尾教授がおっしゃっていたのは,「絵で言うと,油絵と日本画がある」と。「日本の少年法は日本画である」と。「外国の少年法のように造り替えようという動きもあったけれども,日本の少年法は日本画でやってきて,ただ,少し手直しをしながらやってきて,日本画は日本画なんだ」と。だから,「大きな改正はせずに,日本の少年法のいいところを残して,必要な手直し,例えば被害者の傍聴などの部分も小さい範囲にとどめて,必要があれば大きくすれば良いのではないか」と,検察官関与などについても、当初はそういう説明をされていたわけですね。
 がしかし,さすがに今回の18歳,19歳を外すというのは,正に「日本画が油絵になる」ことかどうかは分かりませんけど,相当な変更にはなってしまうので,松尾先生としても,それには歯止めをかけないと,というふうな思いで述べられたのではないかな、というふうに私は受け止めています。

 少なくとも,こういった松尾教授の発言が、家裁月報の後継誌である雑誌に載ったということは,まだ救いがあると感じています。こういう声をしっかり上げていって,成功している日本の少年司法,刑事政策を,「国法上の統一とか分かりやすさという理由で,本当に変えてしまっていいんですか?」というところを,しっかり社会に訴えていく必要があるんだろうなと思っているところです。
 ありがとうございました。

【山ア講師への質疑応答】

 それでは早速フロアのほうから,質問や感想等ありましたらどなたからでも結構ですのでよろしくお願いします。
(質問)質問させていただいてよろしいでしょうか,熊本大学の岡田です
 日弁連のほうで,若年者で略式罰金を受けたというような例,一番いいのは18歳,19歳でも逆送されて,略式というか,かなりいるはずなんです。年間2000人くらいは略式で罰金になっているはずなんですけれども,そういった子たちのその後ということについては,何か調べようというふうな動きってあるんでしょうか。
 つまり,具体的に今後一番起こり得るのは18歳,19歳,もう対象から外すというんだったら,略式罰金が絶対増えるはずなんですね。それがほんとに刑事政策上,効果があるということになるのかどうかということです。

(山崎)そういう事件の後を追うというのは,ちょっと弁護士会では考えてないし,できないと思います。
 私たちの仕事からすると,事件が終わると依頼者との関係は終わります。その後の連絡があるというのは,例えば少年事件で,保護観察で終わったけどもその後も連絡を取ったりとか,少年院に行った少年に手紙を出したりとか,そういう付き合いはありますけど,じゃあ、成人の刑事事件で終わった後に弁護士が連絡するか、というと,まず取らないわけですね。
 逆に、事件後も連絡を取っていいのか、という問題もあります。私自身も、悪いことをしたときに担当した弁護士からその後も連絡が来るというのは,果たしてどうなんだろうって,年賀状を元少年に出すときなどにも考えちゃうんですけれども。実際、日常の業務の中でそこまでの余裕がない、ということもありますので,そこは現実的ではないだろうなと思います。
 逆に,18歳,19歳で,現状の保護処分なり,家庭裁判所の手続に乗ったことによって,どういう成果があったかということについては,今自分たちの体験をどんどん出して集約しているところではあります。この子たちが仮に略式罰金で終わってたら、こういうことはなかったよね、とか,そちらのほうの検証というか,資料は集め始めているところです。

(質問)調査官の伊藤です。
 6月24日に日弁連がされてた,少年法適用年齢引き下げに関するプレスセミナーは,資料としてここに入れました。それで,一応,鑑別所の所長さんとか,少年院の先生ですが,家庭裁判所には,日弁連としてはお声をおかけにならなかったのでしょうか。元裁判官でもいいですし,元首席調査官とか,どうしてそういう人たちがこういうところで発言してないのだろうかとか,もっとお聞かせいただければと思います。
(山崎)プレスセミナーのときには、八田先生のお知り合いである矯正現場の方々にお越しいただいた、という流れだったのではないかなと思いますし,恐らく,家庭裁判所のほうについては,いずれ全司法がやられるだろうという考えもあったかな、と思います。
 私たちとしても,家庭裁判所の現場や最高裁家庭局で少年法に関わってこられた元裁判官等の中からも、是非、年齢引下げに反対する声が挙がってくることを期待しています。現時点でも、そういった方々が編集されている「家庭の法と裁判」の巻頭言に、法務省最高顧問である松尾教授が先ほどのようなこと書かれたということは,非常に重いことだろうと受け止めています。

(質問)元調査官の廣田といいます。
 私は試験観察が,やっぱり重要な制度だと思うんです。これは,私は少年法の宝物だというふうに思っているんですが,それで,最高裁の広報紙なんかにはしょっちゅう出てくるわけですね。
 試験観察が実に機能してると,裁判所時報とか,これは家庭局が書いたんだと思うんですけど,そこまで言ってるわけですから,是非,試験観察をひとつクローズアップして,それで保護処分と同様に,非常に効果を上げてきたと。今少し件数が減って元気がないのを心配してるんですけど,かつてずっとやってきた,ここは弁護士会からもお願いしたいなと思っています。
(山崎)正に私もそう思っています。
 廣田さんは試験観察の達人みたいな方ですけれども,私も実際,少年事件をやっていると,試験観察というのが、一番、成人の事件と違って良いところだな、と思います。調査官の方が,厳しくも温かく見守りながら,付添人もそれをフォローしながら,ある意味,少年を取り巻く社会の人たちもそれに関わって,少年に社会の中で何とかやっていくチャンスを与える。そして、それに応えようとする少年の更生意欲が,やっぱり保護観察とも違うし,少年院に行ったときとも違うし,すごくいい制度だなあと思います。
 実は昨日も、法務省勉強会でのプレゼン内容について議論をしていて,制度の中では保護処分だと保護観察や少年院しか出てこないけれど,やはり試験観察のことも書いたほうがいいよね、ということになり,あさってのプレゼンに向け、今日の午前中に私がそこを手直しして入れたところです。
 最高裁としても、いずれプレゼンの機会があると思うので,ぜひ、そこでちゃんと言って欲しいな、というところですね。保護的措置,教育的措置については、家裁もよく広報されていますので,「不処分や審判不開始になってもちゃんとそういうことはやっていますよ」ということは言われると思うんですけれども,試験観察についても、是非最高裁からも言って欲しいところですね。最近,特に補導委託の試験観察が減少していますが,試験観察は積極的にやっていただかないと,少年法の良さというものがどんどん失われていってしまうのではないか、というふうに思っています。

(質問)調査官OBの浅川です。
 この機会にちょっと質問します。先ほどの先生のお話で,刑事裁判になった場合の,裁判員裁判の弊害というか,そこが問題になりましたけれども,少年法に第50条がございますね。それには,刑事裁判になった場合にも,少年法の第9条の趣旨を十分に生かして行わなくちゃならないという趣旨があります,その辺が裁判員たちに対する,裁判官からの説示とか,裁判員裁判の評議の中で,どれくらい生かされてるのか,全く無視されてるように思われるんですけれども,その辺については弁護士会なんかは,関係の部署でどのような闘いをしていただいているのかということが,分かったら教えていただきたいということです。
(山崎)同じような問題意識というか,全くその問題意識は同じです。
 日弁連としてもそういう意見を出していますし,評議においては,少年法の50条,9条,ひいては1条をちゃんと踏まえたような審理をすべきだということは言ってるんですけれども,現場では,それだけではやっぱり何とも動かない現実があります。
 1つは、「裁判員裁判での量刑評議の在り方について」というものが,司法研究が出ています。これは、裁判員裁判一般に関するものですが,量刑評議というものが、一般の方が入ることによって、刑が重くなったり軽くなったり、非常に「ぶれる」可能性があると。それを避けるために,「犯情」を基準とした量刑をすべきなんだ,ということがかなり明確に打ち出されているわkです。つまり、極端に言えば,「被告人ではなく犯罪行為を見なさい」という考え方ですね。それは,少年法の考え方とは、まさに「逆」と言ってもいいくらいの見方なわけなわけです。例えば、同じ強盗罪だとしても、どういう犯罪類型なのか,タクシー強盗なのか,侵入強盗なのか,事後強盗なのか,その犯罪類型の中では量刑の幅は大体これくらいだから,その枠を考えながら評議しなさい,という基準がはっきりと出てしまっているんですね。
 基本的には,少年事件もその土俵で,同じように評議されています。ですから、例えばこの前の埼玉県川口市の事件のように,ひどい生育歴で、ありとあらゆる虐待の中で育ってきた、というような子が,母親からの指示で祖父母にお金をもらいに行って殺してしまったという事件などでも,母親は短期の懲役刑なのに少年は懲役15年という、全然私たちの感覚と違う刑になっているわけです。その原因は過度に「犯情」を重視した量刑にある、という分析をしていて,そういう前提自体がおかしいんだけれども,少なくとも,その土俵を知った上で,どう闘うかという議論に今,入っているところです。
 例えば、今年3月の全国付添人経験交流集会でも分科会を持って,そういう問題意識で,では現場の弁護実践をどうしたらいいのだろうか、ということを研究した成果などもありますので,そこをより進めようと,チームでは研究を重ねているところなんです。
 あと,社会記録をそのまま証拠化はしないというのが,今は裁判員裁判での主流になってきていますので,私たちからすると,せっかく問題をよく捉えた社会記録ができたけれども,それが証拠にならない場合,それに代わってどうするか,例えば専門家を証人という形で呼んでお話しいただくか,あるいは鑑定というような形が必要なのか。そういった、立証の手法としてもまた考えなければいけない部分があったりして,非常に難しいなというのが実感です。
 個人的には,私は裁判員裁判から少年事件を外すべきだと思っていますが。

(質問)神戸学院大学の佐々木です。
 先ほど,11月2日に法務省の勉強会が始まりますが,日弁連が,若年成人と呼ぶのか,青年層と呼ぶのか,どんなふうな形の議論に発展していくのか分かりませんけれども,そこの場で,この部分について発言をされるのか,あるいは,するのであればどういった基本的なところを押さえた形の見通しを予定されているのか,その辺をお伺いしたいなというのが私の質問の趣旨ですけれども,この勉強会のオブザーバーで酒巻さんと,それから太田さんと川出さん,いずれも刑罰の多様化について,それぞれ発言してきた方で,川出さんの少年法を見てみると,多様な処分の在り方みたいなところが出ていて,それを少し理屈化したような,もっともらしく述べているんですね。
 太田さんについては,社会的な,成人ですけれども刑の一部執行猶予に絡めて,積極的に発言をしてサポートしてきた人ではあって,これはある意味では,軽い刑罰のときには社会的な中で,社会復帰をはかろうという形のもので,それらに少し,酒巻さんは理屈を与えてきた刑であって,そうすると,この若年層,青年層の議論というのが,議論の方向性として恐らくここではしますよね,きっと,このオブザーバーを交えて。
 それでこのとき,この日弁連のスタンスが,どういう方向で議論に参加していくのだろうかということがものすごく気になっていて,私はかなり,この青年層の議論というのは危うさを抱えているんじゃないかと。
 基本的にここの議論をしっかりしないと,先ほどご心配された,少年法の基本的な理念の在り方のところも,恐らく変わっていきかねない,要保護性という基本的な内容に関する基本的な変質も起きかねないというようなところもあるのかなと,大げさに考えてるんですけれども,その辺を踏まえて,どんな方針で臨まれるのかなというのを御紹介いただければ有り難いと思います。
(山崎)私も全く同感です。
 非常に危うい議論に誘われているな、と感じています。少なくとも,あさってはそこには踏み込めないというのが結論です。今後、研究者の方々にもご意見を伺いながら、研究していかなければならないテーマだと思います。
 今回の勉強会にオブザーバーとして参加される研究者の方が,刑の多様化に関して,どういう意見なのかということ自体をまだ勉強してないので,そういったことからまず勉強しないといけないと思っています。ただ,そこで日弁連としてどのような意見を言うかは,日弁連の中でも成人の刑事事件や刑事法制度を担当している委員会があるので,そちらとも調整しながら進めていかないといけないのだろうと思います。
 少なくともあさっては,現段階では日弁連内で議論が十分でないので意見は差し控えます、ということで仕方がないんじゃないか、ということで考えています。

(佐々木)社会的にも割と口当たりというか耳障りがいい,恐らく議論になっていくので,かなり理屈的にも実態論的にもベースを作らないと難しいかなという気がします。

(司会)山崎先生ありがとうございました。(拍手)

 
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