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少年法関連
 
2013年6月27日
「諮問第95号に関する要綱(骨子)」に関する見解
全司法労働組合少年法対策委員会

 2013年2月8日に開催された法制審議会第168回会議で、少年法部会において審議・裁決された「諮問第95号に関する要綱(骨子)」について、直ちに法務大臣に答申することが決定されました。
 私たち全司法労働組合少年法対策委員会は、これまで2000年、2007年、2008年と3度にわたり「改正」された少年法に関し、その都度、少年法の理念が後退しないよう問題意識を表明してきました。とりわけ、2000年「改正」時には、検察官が少年審判に関与することについて慎重に検討するよう要請しました。しかし、十分な議論や少年事件の全体的な分析が行われないまま、「事実認定手続きの適正化」を理由に一部重大事件に限り、検察官の関与が認められることになりました。
 今回、「諮問第95号に関する要綱(骨子)」が決定されたことから、改めて少年に関わる家庭裁判所の現場からの問題意識を発表させていただきます。

1 少年法は決して甘い法律ではありません

 少年法は第1条で「少年の健全な育成」を目標に掲げています。「健全育成」とは、少年の非行性を除去し、再非行を防止するために教育的処遇を行い、社会に貢献できるよう少年の成長を促すことです。この点が事案の軽重を量り、量刑を科す刑事裁判との大きな違いになります。さらに、少年事件の場合は、少年が起こした事件の内容に加え、少年本人の人間性までもが問われる厳しい内容になっています。つまり、少年が真実を語ることができれば、少年の問題性に見合った適切な処遇を選択できるのです。
 少年法22条第1項には「(少年)審判は、懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない。」とあります。家裁調査官は少年の内省が深まるように、人間関係諸科学の知見を活かして少年と向き合ってきました。仮に、検察官が関与することによって真実が明らかとなったとしても、少年の内省は深まるのでしょうか。検察官の関与が本当に少年の健全な育成に資するかどうかは、慎重なうえにも慎重な議論を経て結論をすべきだと考えています。
 昨年亡くなられた団藤重光元最高裁判事は、2000年の少年法「改正」(裁判官合議制の導入や検察官関与)などについて、「いかにも審判を丁寧にするかのような感じがあるが、実は少年審判の命を奪うものとなる。少年審判は、裁判官と少年が向き合い、人間と人間が触れあう中で、少年が心を開き、自らの口で『実はこうだった』と話すことに意義がある。だが、目の前に三人の裁判官がいたらどうでしょうか。ましてやそこに検察官がいて少年の責任を追及したら、少年は心を開くと思いますか」と指摘され、当時の改正の動きに対しては、「次代に恥ずべき『世紀の恥辱』と言わなければならない」と述べています。
 厳しく追及すれば、本当のことを言うとは限りません。丁寧に話を聞いていくことこそが真実を明らかにする確実な方法です。ましてや、少年が大人に囲まれた中で、自分の意見を述べたり、事実についての主張をしてゆくのは並大抵のことではありません。検察官が関与さえすればすべてが解決するとは到底言えないのです。

2 少年審判における事実認定の仕組みの重要性

 家庭裁判所には、対審構造をとる成人事件とは違い、捜査機関が捜査を遂げるとすべての捜査資料が送られてきます。したがって、少年審判に検察官が関与しなくても、裁判官が事実認定ができる仕組みになっています。つまり、少年が犯人性を争う場合でも客観的な証拠があれば、その証拠をもとに判断できるわけですし、客観的な証拠がなく、自白に頼って立件された場合不処分となります。
 また、少年事件においては、事実認定が困難な事案というのは、客観的な証拠がない場合ですので、少年審判手続きに問題があるのではなく、捜査のあり方に問題があると思われます。したがって、検察官が関与したからといって解決する性質の問題ではないと考えます。その意味からも、安易に検察官関与の対象事件を拡大すべきではありません。

3 裁判員裁判と少年法の理念

 今回の少年法の見直しについては、大阪地方裁判所堺支部の裁判員裁判(2011年2月10日判決)で、殺人罪に問われた少年に対し、裁判長が「10年の懲役刑でも十分ではない。少年法は狭い範囲の不定期刑しか認めておらず、今回を機に適切な改正が望まれる」と判決文でふれたことがきっかけになっていると思われます。
 少年を被告人とする刑事裁判で、少年法の理念および少年の健全育成について国民が理解するためには、説明や学習が不十分です。上記の殺人事件ひとつをとりあげて量刑が軽すぎるからといって少年法を改正しようとするのは、短絡的で表面的な解決と言わざるを得ません。厳罰化によって本当に少年の健全育成が図られるのでしょうか。この一例で学ぶべきことは、刑事裁判で少年を被告人とする事件をとりわけ、裁判員裁判で取り扱うことの難しさを認識し、その是非を検討することです。

おわりに

 現行の国選付添人制度は、重大事件に限られていますが、少年非行の特質として、少年の抱える問題が大きくとも比較的軽微な非行にとどまる場合や、逆にたまたま結果がおおきくなってしまう場合があり、結果のみをとらえて国選付添人を付けるか否かというのは制度的にも問題がありました。今回の改正案はこの問題点をある程度払拭できるものとなっています。
 以上のようなことから、今回の「諮問第95号に関する要綱(骨子)」のうち、国選付添人制度の対象事件の範囲を拡大することについては賛成するものです。なお、検察官関与制度の対象事件の範囲の拡大及び少年刑に係わる一連の見直しについては、少年審判の刑事裁判化につながり、少年法の理念が形骸化する非常に問題のある内容になっています。
 私たちは、これまで同様に少年法の改正にあたっては、拙速な審議ではなく、専門家をはじめとする広く国民の声を聞きながら慎重に審議し、将来を担う青少年の健全な育成をはかるような改正をすべきだと考えています。この見解を表明し、少年に係わるすべての個人および団体にご理解ご協力を呼びかけ、よりよい少年の処遇のあり方に向け、国会において慎重審議がなされるよう訴えます。

 
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