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少年法関連
 
国連子どもの権利委員会への要請行動報告 2
「プロジェクト・ジュネーブ2006−国連に届けよう全司法の声−」の4年間

●○● 目 次 ●○●


■表紙のデザイン説明
 「子どもの権利条約」の誕生18周年を記念する小冊子「18 Candles」(国際連合人権高等弁務官事務所編集、2007)から抜粋。子どもの権利条約そのものの18歳の誕生日を祝う、バースデーケーキを彩るロウソクをイメージしている。

はじめに
活動経過
報告
1 子どもの権利条約についての政府報告審査
2 選択議定書についての政府報告審査
3 政府報告に対する最終所見
ジュネーブでの家事関係機関見学報告
1 スイスにおける離婚制度
2 Swiss foundation of the International Social Service
3 The Protestant Office for Couple and Family Counselling
4 関係機関を見学して
報告集会
資料
1 子どもの権利委員会の最終所見
2 日本政府代表団名簿
3 子どもの権利委員会委員名簿
4 参照ホームページ一覧
おわりに



はじめに

 現在の日本国憲法が制定されて以後、戦前の軍国主義的、国粋主義的国家を復活させないという志を持って、護憲運動は現在まで持続されてきました。その現在的な一つの現れが、「九条の会」であり、反動的な改憲への動きに対して、大きな役割を果たしています。
 この護憲運動と並行して、戦後まもなくから、第二の日本国憲法と言われた「旧教育基本法」を守る運動、さらには「旧少年法」を守る運動も組織されてきました。公務員労働組合の各組織のなかには、「教育基本法対策」「少年法対策」運動が常時位置づけられ、時の政府が「法改正」を諮ろうとすれば、諮問段階で反対し、法改正を阻止する運動を行っていたのです。それは本当に大きな、国民的運動であったと言えます。しかし、1989年の日本労働総評議会の解散等を経るなかで、時代の変化、価値観の変化等も関係して、労働組合運動のなかから「教育基本法対策」「少年法対策」は大きく後退することになりました。そして、2000年以降、少年法は三度にわたって部分「改正」され、2006年12月、旧教育基本法は全面改悪されるに至りました。
 この間、全司法においては、少年非行に直接関わる家裁調査官・書記官を中心に、弁護士会、保護観察官、矯正施設職員、大学教授等々、関係諸分野との連携も保ちながら、日本の子どもたちのことを考える「少年法対策」運動を続けてきました。基本的な要求実現活動の他、様々な問題に対し現場への調査と報告を行い、時に声明を出し、議員要請活動も行っています。また、国際的な視野のなかで、国連子どもの権利条約とも関連させながら、運動を進めてきました。
 詳細は本文に譲りますが、ここに報告するのは、こうした「少年法対策」運動の一端である国連子どもの権利条約の日本政府報告審査に関する報告です。ジュネーブに代表を派遣するために全国の皆様から多大な支援カンパをいただいたことに深く感謝しつつ、世界のなかで子どもたちのことを考えることの普遍的な大切さを訴え、ご一読をお願いしたいと考えます。

2010年11月
全司法労働組合本部少年法対策委員会


活動経過

1 子どもの権利条約と審査について

(1) 子どもの権利条約と審査の仕組み
 日本は、1994年4月に子どもの権利条約を批准しました。条約批准国の政府は、まず条約発効から2年以内、その後は5年に1回、自国の子どもをとりまく状況についての報告書を国連子どもの権利委員会(Committee on the Rights of the Child)に提出する義務を負っています。そして、報告が行われた次は、報告書に対しての審査が国連で行われます。日本の第1回政府報告は1996年5月、第1回審査は1998年6月、第2回政府報告は2001年11月、第2回審査は2004年1月に行われました。
 第3回政府報告は、指定された2006年5月の期限から2年遅れの2008年5月に行われ、今回傍聴した2010年5月27日の審査は、この第3回報告に対して行われたものです。
 (政府報告の内容は外務省HP:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/index.html参照)
 また、子どもの権利条約には、2つの選択議定書があります。日本は、2004年8月に「武力紛争における子どもの関与に関する選択議定書」、2005年1月に「子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノグラフィーに関する選択議定書」を批准しました。政府は、選択議定書についても、条約本体と同様に報告し、審査を受ける義務があり、それらは条約本体と同じスケジュールで行われます。日本は、選択議定書については、今回が初めての報告であり、審査は、条約本体の審査の翌28日に行われました。
(2) NGO等からの基礎報告書と統一報告書
 子どもの権利委員会は、政府の報告書とは別に、NGOからの報告も歓迎しています。NGOからの報告書は、日本の子どもの実情を草の根のレベルで表現したもので、政府報告では正確に現状を反映していない部分を正す意味合いもあるため、カウンターレポートと呼ばれることもあります。子どもの権利委員会では、各国の政府報告だけでなく、NGOからの報告も参考にして審査を行っています。日本は、3つの団体(日弁連、「子どもの権利条約NGOレポート連絡会議」、「子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会」)などが子どもの権利委員会へ報告書を出しています。全司法少年法対策委員会は、第2回審査に続き、今回も、DCI(Defence for Children International)日本支部中心のグループである「第3回子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会」(以下、「つくる会」という。)を通じ、国連へ報告書を提出しました。「つくる会」は全国的に子どもの実情を訴える報告書の提出を呼びかけており、全国の各団体及び個人から、今回は計408本の報告書が寄せられました。全司法が提出した報告書も含め、これらの報告書は基礎報告書と呼ばれています。「つくる会」ではこれらの基礎報告書を集約し、「つくる会」としての統一報告書をまとめ、国連に届けています。全司法の基礎報告書は、「つくる会」の統一報告書にも反映されています。
 子どもの権利委員会では、報告書を提出したNGOの代表をジュネーブに呼び、子どもの現状についての予備審査をおこないます。予備審査をふまえた上で、政府に対し、統計的数値の追加提示等を含む事前質問リストが出され、政府が回答します。予備審査での委員の質問や、日本政府に対して送られる事前質問リストの内容により、委員が本審査でどの問題を優先的に取り上げようとしているのか、およそ把握することができます。今回は、予備審査は2010年2月3日に行われ、事前質問リストは同年2月5日に送付されました。(事前質問リストと政府回答の詳細については、外務省ホームページ:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/index.html参照)。このような経過を経て、当日の審査を迎えました。

*DCI日本支部
 DCI(Defence for Children International)は30年の歴史を持つ、子どもの権利のために活動する国際的組織で、1989年に子どもの権利条約ができたとき、その草稿を練る母体となりました。そのネットワークは全世界に広がっており、日本支部は福田雅章代表(一橋大学名誉教授)、世取山洋介事務局長(新潟大学准教授)らが中心となり、活動しています。政府審査の際には、「報告書をつくる会」を結成し、子ども代表とともに、大規模な市民傍聴団を送り込んでいます。全司法も、基礎報告書の提出や審査傍聴にあたり、毎回お世話になっています。詳細については、ホームページhttp://www.dci-jp.com参照。

2 全司法の活動経過

(1) 前回の基礎報告書作成の経緯
 全司法は、第2回審査から、「つくる会」を通じて基礎報告書を提出し、「つくる会」の統一報告書作成作業にも加わってきました。その発端は、2000年ころ、少年法「改正」についての運動の中で、子どもの権利条約の審査の仕組みを知り、「少年司法の現状をきちんと把握して訴えることができるのは、現場にいる我々しかいない。」との思いから始めたものです。
 第2回審査の際に提出した基礎報告書「日本における少年司法の現状(調査資料No.273)」は、少年法対策委員会が行った改正少年法運用状況調査を土台にして書かれたものです。少年司法分野については、調査結果をもとに全国の状況をまとめましたが、時間的制約もあり、家事分野も含めて子ども全体の問題については触れられなかったことが、心残りとなりました。

(2) 今回の基礎報告書作成の経緯
 国連子どもの権利委員会の第3回審査を前に、全司法本部少年法対策委員会では、「今回は、家事分野も含め、子どもの問題全体の中で、どのような提言ができるかを検討し、基礎報告書を作成して、再び「つくる会」を通じて国連に届けよう」との声が盛り上がり、「プロジェクト・ジュネーブ2006〜国連に届けよう全司法の声〜」というプロジェクトチームを立ち上げました。通称プロジェクト・ジュネーブでは、全国の支部を通じてアンケート調査を行い、広く意見を集約することから始めました。その目的は、具体的な数値を伴った情報や、具体的な事例をもとにした情報を集めることで、報告書に説得力を持たせることでした。その結果、45の支部から回答が寄せられました。基礎報告書「司法の現場に見る日本の子どもの実情(調査資料No.333)」は、こうしたアンケート結果を生かしながら、全司法本部少年法対策委員会のメンバーで議論と推敲を重ねて作ったものです。全国の全司法の支部のうち、家裁がある支部は51支部ですが、そのうちの45支部から回答があったことは、この種のアンケートとして異例の高率であり、まさに現場からのデータや実感が集められ、エビデンスに基づくものとなりました。

(3) 基礎報告書「司法の現場に見る日本の子どもの実情」
 今回の基礎報告書は、「少年司法をめぐる問題」と「父母の離婚または別居に伴う子どもをめぐる問題」の2部構成で、それぞれ、制度の概要と現状及び提言という構成になっています。
 「少年司法をめぐる問題」では、2000年及び2007年の「改正」少年法の運用状況の実情をもとにして、厳罰化の風潮に疑問を投げかけています。また、少年の身柄拘束の長期化と、施設収容をめぐる問題についても重点的に取り上げました。「一人の少年に関して、予め複数の事件が把握されていながら、一度の逮捕・勾留期間で一つの事件しか取り調べず、逮捕が繰り返され、身柄拘束期間が長くなった。」「当初から正直に話しているのに何度も逮捕される、と少年に不満が残った。」というように、アンケートをもとにした具体的な事例が挙げられ、捜査機関の身柄拘束に対する抵抗感の消失が背景にあることを指摘しました。施設収容をめぐる問題では、特に、児童自立支援施設送致の困難さの問題に触れ、児童自立支援施設がその機能を十分に果たすことができる態勢が整っていないことを指摘しました。
 「父母の離婚または別居に伴う子どもをめぐる問題」では、面会交流、子の引渡し及び養育費支払いの確保をめぐる問題について取り上げました。面会交流については、社会的なコンセンサスつくりの重要性、子の引渡しについては、子どもに負担の少ない実現方法の検討の必要性を指摘しました。養育費の支払い確保の問題については、強制執行の敷居の高さや、養育費を受け取れないことによる子どもの生活への影響、母子家庭の生活の厳しさ、公的援助の貧弱さを強調しました。また、アンケートをもとに、司法手続きの強化(強制執行手続きの簡易化、養育費の給料天引きなど)や、行政機関の介入の強化(行政の圧力の強化、国や地方自治体が未払い養育費を立て替え、国が非監護親から取り立てる制度の創設など)、不払いに対する刑事罰・行政罰の創設などを提案し、思い切った制度強化の必要性を訴えました。
 この基礎報告書は、英訳され、基礎報告書「The Children's Rights in the Japanese Judicial System」として国連に届けられました。前述のとおり、国連へは、膨大な量の基礎報告書が届くため、長すぎると委員に読んでもらえない可能性があります。そこで、日本語版の報告書から特に重点的に訴えたい部分を抜粋し、コンパクトにしたものを英訳して完成させました。英訳は7人の調査官が担当しました。抜粋後に残したのは、主に、少年法分野では厳罰化の問題と身柄拘束の長期化の問題、家事分野では養育費の支払い確保の問題です。少年法分野では、児童自立支援施設送致の困難さなど、収容をめぐる問題についても論じたかったのですが、日本の制度を一から説明することは容易ではないとして、抜粋する時点で外しました。家事分野でも、アンケートでは面会交流についても様々な意見が出たのですが、全司法としての統一的な意見を出すことが難しいと考え、養育費の問題に絞って報告しました。こうした取捨選択を行い、論点を絞った結果、読みやすく、より強いインパクトを与えながら問題意識を訴えることができる報告書が完成したものと自負しています。副題は、「Evidences through the Research with Court Personnel」とし、エビデンスに基づいた報告書であることも強調しました。

〔 「The Children's Rights in the Japanese Judicial System」の論点 〕

□ 少年司法
  • 少年法の厳罰化の風潮
  • 身柄拘束に対する抵抗感の喪失
     身柄拘束の長期化
     成人との分離の不徹底さ
  • 提言
     身柄拘束長期化の防止策
     処遇の多様化
     成人との分離

□ 家事実務
  • 日本における養育費
  • 問題点
     強制執行の敷居の高さ
     公的援助の貧弱さ
  • 提言
     刑事・行政罰の創設
     強制執行手続きの簡素化
     行政のパワー強化

報告

1 子どもの権利条約についての政府報告審査


パレ・ウィルソン

(1) 審査の流れ
 審査は、スイス・ジュネーブのパレ・ウィルソンの会議場で行われました。当日は、5人ずつ順番にセキュリティチェックを受けて入場するルールになっていて、多くの人が入口の外で待っていました。また、傍聴者数を巡って数ヶ月前から国連側とNGOが激しく折衝を続けていましたが、当日になって突然傍聴許可人数が減らされ、一度に全員の入場ができなくなるなど、混乱もありました。
 会議場は細長い造りになっており、日本政府団席を委員席が囲み、傍聴席は部屋の片側にかたまっていました。通訳ブースでは、国連の公用語と審査対象国母国語の同時通訳が行われました。


パレ・ウィルソン玄関ロビーの看板「子どもの権利委員会第54回会

 子どもの権利委員会は、計18人の委員で構成され、そのうちの9人が日本の審査を担当しました。出身地域はアジア、ヨーロッパなど様々で、ほとんどが子どもの保護や福祉に関連する活動に従事していますが、経歴や職業も様々でした。元少年兵で、現在でも少年兵のための活動を行っているという委員もいました。日本の政府団は、外務省、内閣府、警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省、防衛省の混合チームで、ジュネーブの駐在大使等も加わっていました。スケジュールは、午前10時から午後1時までが午前の部で、休憩を挟み、午後3時から午後6時まで午後の部が行われました。
 午前の部は、上田秀明人権人道大使のスピーチから始まり、スピーチが終わると、委員からの質問が始まりました。各委員は、次々に話題を変えながら畳み掛けるように質問を出しており、質問に対する回答を聞くというよりも、まるで、すでに勧告を行っているかのような勢いと力強さでした。委員会と政府団との「対話」ではあっても、委員会の中にはすでに最終所見の構想があり、その確認がなされているような印象でした。午後の部では、一つ一つの話題を深めながら、より踏み込んだやりとりがなされましたが、委員はしばしば回答中の政府団の発言を遮って質問を重ね、畳みかけるようなやりとりは最後まで続きました。以下に、審査の内容を話題ごとに分けて報告します。


日本政府団の様子

(2)少年司法に関する分野の審査
 第3回政府報告書全体が、第1回あるいは第2回報告書の引用をあまりに多用していることに対する委員会のいらだちは、すでに予備審査のときから表明されていました。たとえば、少年司法に関連する部分として政府報告書は60パラグラフを費やしていますが、そのうち24パラグラフが「第1回政府報告書」および「第2回政府報告書」からの引用です。ただし、改めて文章で弁明や補足説明をしたり、第2回審査以後の諸改革によって実現された部分を、強調して記載したりしている部分もあります。少年司法分野では、第2回の審査時に指摘された2000年「改正」少年法についての種々の問題点(観護措置期間の延長、検察官関与の導入、裁定合議制、検送年齢の引き下げなど)や、少年に対する法的援助の提供、更生教育プログラムの充実などの点です。具体的には、検送年齢の引き下げについては、「刑事責任の最低年齢を引き下げたものではなく、刑事処分可能年齢を刑法における刑事責任年齢と一致させたものである。」と説明し、もともと日本国の刑法では刑事責任年齢が14歳であったので、少年法をそれに合わせただけである、という説明が加えられていました。また、第2回の審査直前の2003年12月に策定されていた「青少年育成施策大綱」「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」で、少年サポートチームの具体的な活動が明示され、少年の立ち直りの支援に役立つようになっていることなどが強調されていました。その他、身柄拘束中の成人との分離も配慮していること、少年鑑別所に学習用のコンピューターを整備し、学習の機会を保障したことなども個別に記載されていました。


審査会場の様子。中央列が日本政府団。

 委員会から本年2月に出されていた事前質問リストにおける少年司法の分野に関する問いは、「条約の意図しているものを実現するために、特に子どもを子どもとして扱うという点についてどのような努力をしてきているのか」でした。この問いの行間には、政府が行ってきている少年司法についての施策が、条約の理念の実現に向けた努力になっていないのではないかという厳しい指摘がすでに潜んでいたように思います。
 審査会場で各委員からぶつけられた質問は、2000年「改正」にまでさかのぼるものも含まれた厳しいものでした。2000年「改正」における検送年齢の引き下げについては、政府報告で説明があるにも関わらず、改めてその趣旨を問う質問が出ました。観護措置期間を最大8週間とした点についても、「捜査のためであるのかどうか」が改めて問われました。厳罰の風潮そのものに対する疑問も発せられました。また、第2回審査後に出された委員会から日本政府に対する勧告で明示されていた子どもに対する法的支援の現状を問う質問や、少年院などに対する監査の状況についての質問、広島少年院で起きた職員の少年に対する暴力事件についての処置の実際を問う質問なども出ました。成人との分離について、日本政府が留保している「子どもの権利条約」の37条(c)についての言及もありました(37条(c)は、拷問等の禁止と身柄拘束など自由を奪われた子どもの取り扱いについての条文で、成人と分離されること及び通信や訪問などによる家族との接触を維持することを定めたもの)。全司法からの基礎報告書・英語抄訳版では、前述のように、2000年「改正」以来の厳罰化の風潮と、身柄拘束への抵抗感の消失による不適切な再逮捕の運用や、身柄拘束中の成人との分離の不十分さを指摘していました。各NGOからの個別の基礎報告書が各委員にどれだけ読まれたかは知る術がありませんが、審査では、いずれの点も委員からの質問に入っていました。
 少年司法に関する質問についてはほとんど法務省が回答をしました。すでに政府報告書に盛り込まれた説明とほぼ同様の論旨で、「検送年齢の引き下げは、刑法と少年法の責任年齢を合わせただけである。」「厳罰化は、少年の規範意識を高め、犯罪の抑止効果を高めるという目標にかなうものだ。」などの説明が行われました。また、観護措置期間については、2000年「改正」の最重要点であった事実認定の適正化をはかり、冤罪を防止するという目的も述べられましたが、それと同時に、観護措置の期間が長くなれば調査官による社会調査の充実をはかることもでき、少年の利益にかなうという説明もありました。しかし、それは当時の議論とは全く違うものであるし、また、実際の実務ともかけ離れたものです。実際には、事実認定のために8週間の観護措置を取るケースは、否認事件がほとんどです。この場合、非行事実ありとの裁判官の心証が形成されるまで、調査官による社会調査は行われません。したがって、観護措置期間が長くなることと社会調査の充実とは、全く別のことがらのはずです。この回答は、ほとんどうそに近いもので、ひどいごまかしでした。
 また、「観護措置期間には少年の身柄は鑑別所にあるのであり、成人とは分離されていて問題がない。誤解がないように。」と、観護措置中の子どもの状況には問題がないことを再確認するような説明がなされていました。それは、再逮捕が繰り返され、長期間、警察に身柄が置かれた状態になっている少年があることや、検察官送致後判決までの間に、長期に拘置所に身柄拘束されている少年がいることの問題まで、打ち消してしまうかのような表現で、我が国の制度に不案内な委員を煙に巻くような言い方であることに問題を感じました。
 広島少年院での暴行事件については、法務省から、職員に対する処分、裁判の経過現状まで、非常に詳細な説明がありました。また、事件発覚の後、有識者会議を開いたことや、第三者監査の導入を検討していること、今後の再発防止策として、少年が書面で苦情申立てをできる制度を創設したこと、職員に対する教育の徹底を行ったことなどが述べられました。ただし、「書面での苦情申立て」が紹介された時には、その実効性への疑問からか、会場からは失笑が起きました。また、そもそも職員に問題があったのではないかという意味で、「職員の採用基準はどうなっているのか」という質問がされましたが、法務省の側は、「少年院の職員は、大学卒の者を採用しています。」と回答しており、「こういうところが、ずれている」と失望を感じる場面でした。
 いわゆる代替的な処遇、身柄拘束をともなわない処遇についての話題でも、少しかみ合わない議論になっていたと思います。たとえば、委員からは、審判前の身柄拘束について、代替的な方策は考えられないのかという問いがありましたが、これは、委員が日本の制度を熟知していて調査官観護の活用を促す意味であったのか、あるいは、諸外国で存在しているような、発信機の装着や電話による所在確認を活用しながら、在宅で過ごさせる方法を工夫するように促しているのか、発言の趣旨を測りかねる質問でした。その質問に対し、法務省が行った回答は、「観護措置は裁判官が決定する判断である。全ての少年に対し、必ず取るわけではなく、必要に応じて行っている。」というものでした。回答者の側に先進諸外国における基準や実務運用についての基礎知識がなく、何を答えてよいかわからずに、回答集にある「観護措置」に関する項目をやみくもに答えているのか、はぐらかしているのか、疑問のあるところでした。
 また、「アマチュアによる新裁判制度」として、裁判員制度についての質問が出ていましたが、少年を被疑者とする裁判については不安材料として懸念されていました。具体的には、委員からは、裁判資料として少年の「個人情報(private data)」を使用しなくなることの趣旨を問う質問がありました。法務省は、裁判資料は従前と同様であると説明しました。少年を被疑者とする裁判員裁判についての議論は、まだこれからであるという印象を与えたやりとりでした


「つくる会」の交流会に出席した子どもの権利委員会委員たち

(3) 家事実務に関する分野の審査
 家庭裁判所における「家事実務」に関連する話題は、審査の中で数多く登場しました。全司法の基礎報告書・英語抄訳版が焦点化して記載した養育費の不払いの問題も、審査の中できちんと話題になりました。
 第3回政府報告では、条約27条4の部分として触れられていました。そこでは、履行勧告・履行命令が履行確保の有効な手段として紹介され、強制執行の手続きもある、となっています。2005年の家事に関する金銭債務等の履行勧告件数14、481件のうち、8009件(55%)が、「全部または一部履行があった」とも書かれており、養育費不払いに対する有効な手段が備わっているような印象を与える記述になっています。また、将来分の養育費の差し押さえも可能にした2004年の民事執行法改正についても報告されています。この報告に対し、委員会からの2月の事前質問では、その12問目として、「養育費支払い義務の履行確保に関する法律が効果的に運用されるために、何がなされたか。」という質問が出ており、その質問の行間には、制度の実効性を疑う姿勢が透けて見えていたと思います。全司法からの基礎報告書は、まさにこの点において、政府報告に対するカウンターレポートになったと思います。しかし、4月に出された政府の回答は、質問の意味がわからなかったかのような回答でした。現に、外務省のHPに出されている質問リストの日本語訳は「保持義務を矯正する法律が効果的に実施されることを確保するためになされていることは何か。」という文章になっており、意味が通じない日本文であり、実際に政府が行った回答は、母子家庭や障がい者に対する支援制度のことであり、養育費の支払い確保には全く触れられていませんでした。

 案の定、審査では、事前質問と同じ内容の疑問が繰り返されました。この問題については、母子家庭の貧困という点と絡めて何度か話題になり、厚労省がひとり親家庭への支援という視点から支援の方針を説明したり、法務省が履行確保という視点から法の整備がされていることを説明したりしました。しかし、制度の面では説明のとおりであっても、それが養育費回収の有効な手段になっていない実態が審査では今ひとつ浮き彫りにならず、歯がゆい思いがしました。
 非嫡出子の地位については、法務省が、国内でも議論があることを認めつつ、「法律婚の尊重という要請に応えるものであって不合理な差別ではない。」と回答しています。戸籍記載の違いについては、「事実に基づいた区別であるので、不合理ではない。」としながらも、嫡出でない子の平等権や、プライバシー権という視点から、2004年に戸籍法施行規則の改正を行い、非嫡出子の戸籍記載についても改正がされたことを紹介しました。
 体罰については、学校現場の問題としてのみならず、家庭内での体罰についても、特に区別して話題になりました。法務省の回答では、「民法が想定している親の懲戒権は、親権者が必要な範囲内で、子を良い方向に導くためにあるもので、いかなる状況下でも懲戒して良いということではなく、目的の達成のために必要かつ相当な範囲で行うものである。」と説明しました。そして、「それが妥当であるかどうかの判断は、その時々の社会情勢や社会常識による。」と答えました。委員からは、「体罰は許されないということをどうやって親に示しているのか。」、と国の努力を問う質問がありましたし、また、議長が法務省の説明に割って入り、この問題は慎重に扱わなければならず、体罰は必ず禁止されなければいけないこと、「体罰」と「しつけ」と「懲戒」の概念の違いを明確にしなければいけないことを指摘する場面もありました。
 その他、連れ子養子縁組が裁判所の許可を経ないで成立することは、委員にはわかりにくいことのようで、どうしてなのかという質問がでていました。
 そして、体罰や虐待の問題とは異なりますが、子どもが家庭の中で疎外され、理解されずに寂しさを感じているのではないかという投げかけが委員からありました。家族への注目や、家庭における子どもの情緒的幸福感の強調などが今回の審査の特徴的な面であることがうかがわれました。

(4) その他

ア 国内法との調和
 そもそも、批准国政府に対する委員会の審査というのは、子どもをめぐる批准国内のあらゆる法及びその運用が、子どもの権利条約と調和しているかを審査する手続きともいえます。今回の審査の中でも、特に、子どもの権利条約の「国内の法律への反映」「国内の裁判における上位の法としての尊重」を問う場面がありました。委員会はすでに事前質問で、子どもの権利条約が根拠となった裁判例の有無を質問していましたが、本審査でも改めて話題になり、法務省は、2008年の国籍の取得が争われた事件の判決を紹介しました。また、裁判官に対する周知徹底や子どもをめぐる専門職への教育についての方針なども問われ、条約を批准した際の説明文書の配布や、裁判官の研修の際に講義プログラムがあることなどが紹介されました。ただし、このような政府の説明は、国内法との調和がいかにも不十分であるのにもかかわらず、無理に「できている」と強弁している様子が明らかで、聞いていて恥ずかしくなるようなやりとりでした。

イ 子どものための法律
 子どものための包括的法律がないことは、前回の審査のときから指摘されていましたが、今回政府は2009年に「子ども・青年育成支援推進法」を策定したことを、胸を張って報告していました。ただ、この法律は大変理念的なもので、子どもや若者の育成を支援しようというスローガンのもとで努力するということを決めた内容です。他国の具体的な子どもの法律とは並べられないものだと思いますが、やはり、委員からもそういう疑問の声が出ていました。

ウ 教育
 教育は、毎回大きく取り上げられる分野です。審査では、ユニセフの調査にあらわれた日本の子どもの寂しさを根拠に、子どもが身近な社会から疎外されている実情に対する疑問が根底にある問いかけが多かったです。子どもの寂しさの背景に、教育における競争の厳しさや、ふるい分け中心の選抜教育があるのではないか、という指摘も多くなされました。子どもの遊ぶ時間がはく奪され、不登校の児童数が多いのではないかという指摘もありました。文科省は、「日本は人口が減少しているので、15歳人口も減っており競争の緩和が実現されている。」というスタンスで回答しました。また、指導要領の改定により、公立学校でも土曜日も授業が開催されるようになるわけですが、それは、「遊ぶ時間がはく奪されゆとりがなくなるのではなく、繰り返し学習を可能にするので、むしろ詰め込みではなくゆとりの創設につながる。」という説明でした。

エ その他の話題
 そのほか、審査では実に色々なことが単発的に出てきました。外国人向け学校の高校授業料無償化の問題、歴史教科書の検定の問題、子どもの自殺の問題、難民の子どもの問題など、様々な問題がいろいろな角度から話題になっていきます。第2回の審査時の議論の続きのような内容の話題もあれば、新しい視点で指摘されたものもありました。
 また、前回の審査でも長時間話題になった性交同意年齢については、今回も話題になりました。委員会の立場では、13歳という年齢は低いのではないか、という指摘がありましたが、法務省は、性交同意年齢が13歳とされていることについて不都合はなく、この年齢を引き上げることについては慎重に考えていると回答しました。
 今回は「つくる会」が提出した統一報告書でも「家族」が強調されており、審査のときも、「家族」が話題となることが多かったのが特徴でした。家族についての施策が、単に保育所や学校というような「箱物」を作ったり、支援や給付の「制度」を作ったりするだけでなく、子どもの「情緒的な環境」を作ることの大切さが強調される場面が多く、子どもが参加する枠組みを作ることが強調された前回とは大きく異なる印象を受けました。

(5)「子どもの意見表明」
 今回も「つくる会」は、中学生から大学生くらいの年齢の若者で構成される「子どもの声を国連に届けるプロジェクト」を立ち上げ、準備を重ねてきました。今回の審査では8人の若者がジュネーブに行き、本審査前日の午後6時から、委員の前でプレゼンテーションを行いました。会場には子ども以外の大人は15人しか入れず、全司法のメンバーの1人が傍聴要員に入れてもらえたのは、大変貴重なことでした。
 子どもたちはそれぞれ自分の体験を語ることを通し、今の日本の子どもが直面している問題を示していきます。ほんの数分ずつのスピーチですが、それらは、これまで何年もかけて準備をしてきた、それぞれの大切なストーリーです。子どもにとっては、傷ついた経験を仲間と共有すること自体が難しいのですが、徹底的な討論を経て、自分の考えを形作り、また深めてきたのです。


委員をかこむ子どもたち

 一つ一つは全く個別のスピーチですが、今回8人のプレゼンテーションから浮かび上がってきたメッセージは「Don't let me alone.(独りぼっちにしないで)」でした。子どもたちがそれぞれに訴えたのは、家族、学校、友人などの、子どもにとって極めて大切で親密なはずの人間関係の中でさえ、「受け入れられないこと」を恐れるあまり、ありのままの自分でいられず、愛されるためのキャラクターを自分に当てはめ続け、次第に自分自身でも本当の自分がわからなくなっていく苦しさでした。
 「子どもの意見表明」は正式な審査のプログラムではなく、委員の参加も任意でしたが、日本の審査担当ではない委員も含め9人の委員が参加し、熱心に子どもたちのスピーチに耳を傾けました。委員たちは、練習してきた英語を必死で話す子どもたちをねぎらい、また励まし、皆のスピーチを必ず本審査や最終所見に生かすことを約束しました。委員の中には、ほとんど嫌味に近い、厳しい質問を投げかけた者もありましたが、子どもたちは、それにまっすぐ答え、伝えるべきことをしっかりと伝え返しました。
 「子どもの意見表明」は、今回も、意見表明の翌日に行われた審査及び2週間後に出された最終所見に、見事に生かされていました。例えば、審査では、家庭内での子どもの寂しさ、情緒的幸福感のはく奪などが指摘される場面がありましたし、また、最終所見でも、制度や施設などの外側の設備ではなく、子どもの情緒面を担保する人間関係を整備することが強調されていました。

■□■コラム■□■ ジュネーブにある2つの国際舞台
 全司法が作成した基礎報告書の晴れ舞台は,パレ・ウィルソン(Palais Wilson)です。名前は「ウィルソン家の宮殿」という意味で,1924年,ノーベル平和賞を受賞したウィルソン米大統領が死去し,彼の功績を称えて名付けられました。子どもの権利委員会が属する国際連合人権高等弁務官事務所が入っています。建物はレマン湖に面しており,湖を臨むオープンテラスで爽やかに昼食をとる職員に憧れたのは私だけでしょうか。また,パレ・ウィルソンの中で団長が見つけたのが,ギネスの認定書。何が世界一かというと,「国際人権宣言」が「世界で一番多くの言語に翻訳された文書」らしいのです。その数298言語。
 ところで,パレ・ウィルソンから北西へ1キロ強上がった場所に位置するのが,国連の4つの主要事務所のひとつであるジュネーブの国連欧州本部パレ・デ・ナシオン(Palais des Nations)です。ニューヨークの国連本部に次いで2番目に大きな事務所です。パレ・ウィルソンは,いわば別館のような存在なのです。パレ・デ・ナシオンには34もの会議室があり,年間9千件の会議が開かれています。建物の中心に総会議室があり,我々が見学ツアーに参加したときはちょうど翌日に控えた会議の準備中でした。高い天井に明るい照明,調整を続けるカメラマン,数え切れない椅子と翻訳イヤホンを見て,国際会議の本舞台であることを実感しました。そして,建物のあらゆる窓から見える景色は,やはりレマン湖なのでした。


パレ・デ・ナシオンの総会議室

2 選択議定書についての政府報告審査

(1)審査の流れ
 選択議定書についての審査も、条約本体の審査と同様、パレ・ウィルソンの会議場で行われました。審査は午前中のみであり、2つの議定書に対して委員会から矢継ぎ早に質問がなされた後、休憩を挟んで政府が回答するという順序で行われました。限られた時間の中でしたが内容の濃いやりとりが繰り広げられました。

(2)子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノグラフィーに関する子どもの権利条約の選択議定書
 予備審査において委員会から挙がった質問は、大きく分けて「@子どもポルノ等、子どもの性的被害の実情とその根絶のための措置について」、「A性的被害を受けた子どもへの捜査機関、司法機関の対応について」、「B被害児童へのサポート態勢について」の3点です。そのため、これらの項目が委員会の関心事であることがあらかじめ予測されましたが、本審査では、やはりこれらの3点が話題の中心となりました。
 @については、子どもの性的被害を根絶するための措置が欠けていること、つまり法整備が甘いことについて、厳しい指摘がなされました。委員会は、「日本では子どもポルノの単純所持については特段規制がなされていないようだが、これは規制すべきだ。」という強い考えを示し、断固たる姿勢でした。
 委員会の関心が一番高かったのはAの項目のようでした。委員会からは、「被害者が未成年者の場合の捜査責任者は誰か」、「被害児童に対する取調べ回数に制限はあるか」、「裁判手続において、被害児童を直接出廷させないために、捜査時にビデオ録画したものを証拠として扱えるのか」等、日本における刑事裁判や少年審判に大いに関係する内容について多くの質問が出ました。捜査機関及び司法機関における被害児童の二次的なトラウマ体験を防ぐことに委員会が強い関心を持っていることが分かりました。さらに、委員会は、売春の被害者が加害者として処罰せられる可能性の有無に関し、政府に回答を求めました。政府は、当初、曖昧な回答を行いましたが、直ぐさま委員からは、再度同様の質問が投げかけられ、日本政府から納得する回答が得られるまで追及がなされました。
 結局、政府は明確な回答することをためらいながらも「未成年者は処罰されません。」との結論を述べました。傍聴している側としては、未成年者であったとしても売春防止法第5条の勧誘等や、第6条の周旋(斡旋)に違反した場合、刑事罰が定められていることを思い、やや疑問が残りました。さらに、日本の少年法においては、検挙のきっかけが被害児童としての保護であったとしても、その少年に、家出・窃盗・さらなる売春など、「ぐ犯少年」として審判に付す対象(処分をする対象)があれば、当然更生に向けた保護的処分の流れに乗せていきます。そうした我々の実務は、国際基準に照らすと理解されにくい側面があるということを気づかされました。
 そして、子どもは被害者であるという視点を強調した上で、Bの被害児童のサポート態勢の在り方を見直すようにとの指摘もなされました。

(3)武力紛争における子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択的議定書
 政府報告書では、子どもの戦闘行為への関与について、自衛隊員を18歳以上の者から採用していること、すべての子どもが自衛隊員になることはなく、強要されもしないと主張されていました。予備審査においては、委員会から子どもの戦闘行為への関与の禁止について、刑法上の規定がなされているかという問いがあり、子どもの戦闘行為への関与に関する法整備の必要性が指摘されていました。
 本審査においても、自衛隊員の採用制度について、年齢、国籍、試験方法などを問う質問がありました。さらに、自衛隊員の志願者の経済状況を把握しているか、経済的に困窮している者が給料を目当てに志願することはないのかなど、意思に反する志願がないのかが問われていました。また、武装防止の法整備に関しては、国外での適用があるのか、日本人児童が国外の民間会社の戦闘員になる可能性も想定しているかなどの質問がありました。さらに子どもの戦闘行為への関与について、刑法に明確な規定をもうけるべきとの強い指摘が再びなされました。
 また、予備審査では、委員会から、避難民・難民の子どもの中でも、紛争地域で戦闘行為に関与させられた可能性のある子どもへの支援に関するデータを提出するよう指示がありました。本審査においても、難民の対応をする者に、紛争の影響を受けた子どもの支援ができる専門家がいるのかなどの質問がされました。委員会からの質問は、「日本は紛争と無縁の国であると思ってはならない。」と政府の危機意識の希薄さを指摘していました。
 本審査の最後には、議長から「子どもを戦闘行為に関与させることはいかなる理由があっても許されるものではないのだ。」という強いメッセージが発信されました。審査を傍聴していて、改めて、自衛隊は武装集団であること、そして、世界ではまだまだ紛争が続いており、戦闘行為を強いられている子どもがいることを実感しました。

■□■コラム■□■ 大噴水探検

 ジュネーブの中心地でひときわ存在感を放っているのが、レマン湖のジェット大噴水(Jet d Eau)です。140mの高さまで打ち上げられ、夜にはライトアップもされます。
 風が強い日は、湖畔の建物に水が吹き付けられてしまうため大噴水はお休みしますが、私たちが滞在した間は毎日活動していました。モンブラン橋から見る大噴水もレマン湖をわたる遊覧船から見る大噴水も迫力がありましたが、どうせならということで、大噴水が打ち上げられるふもとまで近づくことにしました。白鳥やアヒルさんが水遊びをする姿にほっこりしながら、一歩一歩、大噴水へと続く岩場を進むうちに、気分が高揚してきました。

 近づくにつれ、打ち上げられた水がミストのように空中を充たしていました。私たちがマイナスイオンを感じていたところ、「こっちにおいで。」と日本語で話しかけてくる金髪青年が…言われるがままに大噴水の真下に行くと、なんとそこには虹がかかっていたのでした!大噴水の裏お楽しみポイントを見られたこと、ジュネーブで日本語を聞いたこと…驚き連続の大噴水探検となりました。


3 政府報告に対する最終所見

 2日間にわたる審査が終わり、2週間後の6月11日、条約本体と2本の選択議定書について、子どもの権利委員会から最終所見(Concluding Observations)が出されました。最終所見は、批准国に対する審査を経て言い渡される結論で、審査で扱った多岐にわたる分野それぞれについての評価と勧告が記載されています。つまり、前回の審査以降、今回までの政府の出来栄えや到達度を示す評定だけでなく、それに連動して、次の審査までの宿題や課題を満載したワークブック部分までついている、というような壮大な個別指導通知表とも言うべきものです。今回の最終所見は、第2回のときに比べ、条約本体の分だけでも量が多く、さらに今回は選択議定書2本についても初所見が出ています。
 最終所見の構成は、ほぼ、条約本体の条文の順番に沿って、話題ごとに「評価・懸念」と「勧告・課題」がだいたい1パラグラフずつ書かれています。「評価・懸念」については、「歓迎する」「肯定的評価を伴って留意する」「関心をもって留意する」などの肯定的な注目を示す表現から、単に「留意する」としただけのものや、「懸念する」「遺憾の念を表明する」などのマイナスの評価を表現したものまで、ニュアンスが分かれています。また、「勧告・課題」の方も「提案する」「奨励する」などの控えめなものから、「勧告する」「要求する」などの強い表現まで分かれています。

(1) 条約本体に対する最終所見
 今回の最終所見は「家族の危機」が色々な切り口から表現されていること、勧告が具体的なところまで踏み込んでいる点が多いこと、子どもをとりまく環境の外形的な枠だけではなく、質の重要さが強調されていること、などが特徴であると言えます。
 審査の場でも話題になっていたことですが、ユニセフが2006年に行った子どもの調査によると、他のOECD諸国の平均値である8%程度を大きく上回り、日本の15歳の子どもの30%以上が「寂しい」と回答しています。また、40%の子どもが「親と会話がない」と回答し、「幸せ」と回答した子どもは19%しかいませんでした。日本の子どもの情緒的な幸福感の低さは際立っていたのです。この背景には、過度に競争的な教育制度に起因する厳しさがあるのではないか(パラグラフ70)、また、家庭が子どもを守る力を失っていることが、子どもの情緒的幸福度の低さ(low levels of emotional well-being)につながっているのではないか(パラグラフ50、51、60、61)というメッセージが今回の最終所見全体から投げかけられているように思います。前回の勧告では、子どもに関する政策決定をするとき、子ども自身が意見を述べられる制度を作ること、また、子どもに関する政策決定を監視するオンブズマン制度を作ることなどが強調されていました。今回は制度からさらに踏み込んで子どもを取り巻く人間関係にまで言及しており、勧告部分は非常に具体的で、次回に報告を求めるレポートの項目も多く指定されています。

 少年司法の分野はパラグラフ83〜85に登場しています。第2回の時の最終所見では「懸念」事項と、「勧告」とが1パラグラフずつでした。今回も前回と同じような形式ですが、今回は「懸念」が2パラグラフ、「勧告」が1パラグラフとなり、全体として分量が増えました。
 政府報告のような「第2回報告のパラグラフ〜参照」などの素っ気ない表記こそありませんが、最終所見も、前回の所見の繰り返しになっている部分が少なからずあり、少年司法分野は、「第2回の最終所見での懸念を繰り返し表明する。」という文章から始まっています。
 繰り返された懸念とは、2000年少年法「改正」による厳罰化へのシフトと、少年被疑者の持つ権利や司法上の保障の縮小に対するものです。特に、検送可能年齢の14歳への引き下げ、16歳以上の少年が刑事裁判の被疑者となる可能性、観護措置期間の延長などは具体的に書かれました。そして、少年被疑者への裁判員制度の適用は、少年が保護処分を受ける支障となりうるとされ、懸念事項に入っていました。
 また、少年には、成人の被疑者が与えられている手続保障(弁護士を頼む権利)があっても、なかなか利用しにくく、その結果自白の強要や非合法的な捜査につながっていることの指摘もありました。さらに、少年の収容施設内の暴力事故があること、そして、成人被疑者との十分な分離がはかれない場面があることが指摘されました。
 その上で、前回と同様、勧告は、まず、条約の37条(身柄の自由を奪われた子どもの取り扱い)・39条(搾取や虐待などの被害を受けた子どもの回復など)・40条(被疑少年の保護など)、北京ルールズ・リヤドガイドライン・ハバナ規則・ウィーンガイドラインなどの国連準則、子どもの権利委員会の一般的意見No.10(2007年)などと日本の少年司法制度が適合するような調整を求める内容から始まりました。そして、(a)から(i)までの細かい項目は、本冊子の資料に挙げた通りの内容で、審査で委員から指摘を受けた問題点とほぼ重なっています。
 今回、私たちの基礎報告書(英語抄訳版)では、委員会から日本政府に対して勧告してほしい内容を提言の形で積極的に書いています。具体的には「裁判官、検察官の双方が少年法の理念を理解し身柄拘束に慎重になるべき」「少年の処遇施設(在宅・収容双方)の増設、増員、職員に対する研修・教育の必要性」「少年と成人の分離の配慮」の3点でしたが、それぞれパラグラフ85(e),(f),(g),(i)などに生かされたのではないかと思います。また、パラグラフ39、40には、子どもの福祉を実現する専門機関や職員の質の向上に触れている部分があり、「つくる会」の世取山氏によれば、これは今回の勧告の中でも画期的で注目される部分であるとの評価がされています。私たちの求めた提言とも合致し、提言が生きたと思うと同時に、専門職員として、「家庭裁判所調査官」についての言及もぜひほしかったと思うところです。

 家事実務に関する部分では、全司法の基礎報告書・英語抄訳版で扱った養育費のことが、パラグラフ68、69で扱われています。2004年の民事執行法改正は肯定的に評価されていますが、結局全体としては、現行の手続きではうまく機能していないことが指摘されました。そして、勧告では現行法の機能を強化すること(69(a))、1996年のハーグ条約を締結すること(69(c))と共に、国家基金のような新たな機構を設立して、不払いの義務者に代わって養育費を支払い、後に義務者から未払い分を回収する制度(69(b))までもが提言されました。これらは、まさに基礎報告書の中で私たちが求めたことでした。注目すべきは、提言された新たな機構のことです。実は、全国のアンケートの中からこのようなデザインの新たな機構の設立の提言があり、基礎報告書の日本語版には載せていましたが、英語抄訳版では、分量を減らすために新たな機構の提案についての記載は省いたのです。これは、「つくる会」の統一報告書にも盛られていない内容で、委員会の中からのアイデアであったと考えられますが、偶然というには余りにも運命的な一致でした。

(2) 選択議定書に対する最終所見
 「子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノグラフィーに関する選択議定書」についての初めての最終所見は、相応に分量があります。日本における種々の側面はまだまだであるといわんばかりに、国内の法律の組み立てができていないこと、国民・社会への意識啓発活動が不十分であること、政府は努力しているが、実際には子どものポルノに関する犯罪が蔓延していて、予防措置が不十分であること、独立した監視機構がないこと、被害児童の保護ができていないこと、など、何から何まで指摘されたという感じでした。
 審査で扱われた部分はやはり勧告の中に登場していますが、特に注目されるのは、被害者である子どもの保護についての部分であると思います。パラグラフ38、39では、被害児童が証言することでの二次被害を生じさせないための、保護や具体的な方法に踏み込んで言及しています。また、パラグラフ34、35では、審査の中で話題になった被害者を犯罪者として扱う可能性について、警鐘が鳴らされたと考えられます。
 「武力紛争における子どもの関与に関する選択議定書」についての最終所見では、やはり社会の認知度が低いこと、関係多職種への啓蒙・教育が足りないこと、自衛隊への志願者が志願の背景として抱えている(特に経済的)事情について考察するためのデータがないことなどが懸念事項として指摘され、具体的で基本的な勧告へとつながっています。日本が、子どもの武力紛争の緩和に関して、財政的な貢献を相応にしていることは評価されていました。しかし、基本的に日本全体が難民の問題には関心が薄く、一人ひとりの難民の子どもの顔を見ない支援をしていることが厳しく指摘された内容でした。
 また、審査でも話題になっていたように、自衛隊員となることが、社会経済的背景からの必然的な志願であることは望ましくないという姿勢が述べられていました(パラグラフ9)。
 最終所見では、兵士として使われた外国の子どもを扱う可能性のある専門職に対し、選択議定書についての周知をはかることが勧告されていますが(パラグラフ7)、まさに、裁判所職員である我々も、その一員であると考えられます。自衛隊はまさしく武装集団であるという認識など、国内では意識しないで過ごしてしまっている種々の側面に、新しい角度から光をあてた最終所見でした。


ジュネーブでの家事関係機関見学報告

 国連での審査傍聴の前日に関係機関を見学しました。6年前の第2回審査の時は、少年鑑別所と少年裁判所を見学しました。今回は、全司法からの基礎報告書に家事関係の分野を盛り込んだこともあり、家事関係機関の見学を企画しました。前回と同様、企画を組むにあたっては、DCIのジュネーブ事務所にお世話になりました。共同親権、面会交流、子ども代理人など、今の日本の家裁の現場でも熱いテーマが話題にのぼりました。

1 スイスにおける離婚制度

 まずは、関係機関で応対してくださった方々から聞いた範囲で、スイスの離婚制度の概要を説明します。

(1) Convention(子どもの監護についての協定)の必要性
 スイスでは、日本と同じく婚姻中の父母が共同親権を、非婚の場合は母が単独親権を持ちます。しかし、近年、婚姻関係にこだわらないカップルが多く、法改正が追いついていない実情があります。というのも、内縁関係が円満のときは問題がないのですが、その内縁関係が解消されたとき、スイスの現在の法体制では、子どもに対する父の法的権利が全くなくなってしまう可能性があるのです。その1つが面会交流権です。内縁関係解消後に父が面会交流を希望する場合、裁判所に申し立てる必要があります。
 そこで、離婚後や内縁関係解消後に紛争を残さないために、子どもが生まれることがわかったときにConventionを作成することが推進されています。Conventionとは、「子どもの監護についての協定」という意味で使用されているようです。作成義務はなく、実際に作成するカップルはまだ少ないと聞きました。作成されたConventionは、裁判所により、子どもの福祉に反しないかどうかを審査されます。

(2) 離婚後の親権
 スイスには、離婚後の共同親権制度があります。ただし、これは離婚後の親権の原則的なあり方ではなく、カップルが希望した場合にのみ活用されています。その内容も、例えば、子どもがスイス国内で生活することを確保するために「住居に関して」など限定して定められます。スイスでは、離婚後の父母の関係がよほど良好でない限りは、子どもが父母の家を行ったり来たりするような共同監護は適当と考えられていません。

(3) 面会交流
 スイスでは、非監護親の面会交流権について法律で明文の規定があり、最も少ない場合でも2週間に1回の週末及び祝日の半分と定められています。つまり、養育費の支払いを渋る非監護親でも、子どもと面会する権利が法的に認められているのです。
 非監護親にDVなどの問題がある場合は、面会交流の実施が、監護親や、監護親と子どもの関係に及ぼす悪影響等を考慮し、裁判所がケースごとに個別に実施の許否を判断すると聞きました。その際、小児科医などの専門家の意見を聞くこともあります。児童虐待が疑われるケースについては、裁判所の判断で面会交流は実施されません。
 スイスでは、単独親権者は子どもの居所を定める権利を持つため、単独親権者が子どもとスイス国外に転居することも可能です。その場合、非監護親と子どもの面会交流が物理的に不可能であることを理由とする監護親の面会交流の拒否が、裁判所でもまかり通る事態が起こりえます。スイスでは、監護親が面会交流を拒否した場合に禁錮刑に処せると定められていますが、そのような事例は一度も聞いたことがないとのことでした。
 また、国が面会交流のための予算をもうけており、国民は様々なサービスを利用できます。例えば、面会交流の際、父母が協力できないことが原因で面会交流時に子どもの引渡しがうまくいかない場合は、面会交流を援助する「ミーティングポイント」を利用して子どもの引渡しを行うことができます。また、非監護親側の問題など、面会交流の援助が必要な場合などにセラピストが同席して面会交流を行う場合や、 Child Protection(子ども保護局)のソーシャルワーカーが、親子に直接関与して援助する場合もあります。


2 Swiss Foundation of the International Social Service

:ISSジュネーブ本部

(1) ISS ジュネーブ本部とは
 ISSは、1932年に創設されたNGOで、世界140カ国に支部を持っています。子どもの権利条約の精神に則り、社会福祉的、法律的な問題を抱える子どもや家族に対し国を超えたケースワークを行っており、国際的な子どもの奪取、養子縁組、養育費の義務履行に関する個別の支援等を行っています。また、離婚する親に離婚家庭に関するパンフレットを配布するなどし、啓蒙活動も行っています。
 オフィスは、レマン湖沿いに続く通りから少し中に入った静かなオフィス街にありました。オフィスに入ると受付があり、私たちは、奥にあるクリストフさん(ソーシャルワーカー)の執務室に通されました。すぐに大きなクロワッサンや紅茶が運ばれてきて、中庭を臨むテーブルを囲みながら、クリストフさんがISSの活動のみならずスイスの離婚問題の情勢や離婚家庭に関する考え方など、熱のこもったお話をしてくださいました。

(2) Convention(子どもの監護についての協定)の作成
 ISSでは、子どもの福祉にとっても、非監護親の権利保障にとっても有効であるとして、Conventionの作成を勧めています。「○○したら△△する。」というように将来を想定した取決めもできるため、Conventionを作成することで、父母が子どもの将来のことをきちんと考えることができるとおっしゃっていました。ISSはホームページにConventionの作成例を掲載し、検討すべき具体的項目を例示しています。

(3) ハーグ条約と子ども代理人
 クリストフさんによると、スイスでは、Conventionなどの取決めや合意を尊重しないという事態は認められません。ところが、日本人の監護親の中には取決めや合意を尊重せず、守らない人が少なからず存在しているとおっしゃっていました。非監護親と子どもとの面会交流を取り決めても、子どもを国外に連れて行くことで面会交流が物理的に不可能な状況を作る日本人監護親が存在し、いわゆる「子どもの国際的な奪取」が行われているとのことです。クリストフさんは、「こういった事態を受けて諸外国は日本に対する評価を下げている。」と、熱く警鐘を鳴らしていました。日本のハーグ条約の批准を促された形です。
 そのハーグ条約について、「子ども代理人」の話題も少し出ました。1996年のハーグ条約の中で初めて子ども代理人が言及されています。スイスでは少年司法手続きの中ではすでに子ども代理人が活動しており、現在は家事事件での設置が議論されています。この点は日本と同じです。
 子どもの意向に関連した話題ですが、離婚問題について、子どもが7歳以上である場合は裁判官が直接、子どもの話を聞くことができます。7歳という年齢は、判例から導かれた数字です。裁判官は子どもの面接の専門家ではないため、ソーシャルワーカーや小児科医など外部の専門家に依頼して子どもの話を聞いてもらうこともあるとのことでした。

(4) 面会交流
 クリストフさんの話を聞いていると、スイスでは、「子どもの権利」という考え方が定着しているとの印象を受けました。離婚後や養子縁組後でも、子どもがその実親との関係を繋ぎ続けられることを肯定しており、面会交流もそのうちの一つです。たとえば、DV加害者、アルコール依存症、レイプ加害者などである父は夫としてはひどいと言えるかもしれませんが、それは男女間の問題であり、ただちに父子間の問題とは考えられていません。クリストフさんは、スイスでは、父母が協力できないせいで子どもの権利としての面会交流権が侵害されてはならないとの考え方が強いとおっしゃっていました。
 離婚後に監護親が子どもを連れて国外に出た場合、ISSは海外にいる監護親と連絡を取り、国際的な調停をして、面会交流を実現させる事業を行っています。面会交流を拒否する監護親を説得する際は、面会交流は子どもの権利であることを説明し、親が面会交流を拒否することは子どもの権利を侵害している旨を伝えます。こうした説得がどの程度効果を発揮しているかは聞き出せませんでしたが、クリストフさんが何度も「面会交流権は子どもの権利である。」と熱く語る姿が印象的でした。

(5) 再婚家庭
 スイスでは日本よりも再婚が一般的です。日本では、再婚した場合、子どもと非親権者との交流を控えがちになりますが、ISSでは、実親との交流を断つことは子どもの権利を侵害することになると考えます。スイスの裁判所では、母が再婚相手と新しい家族を築くために父を排除したいという考えを主張すれば、その母は子どものニーズを把握しておらず、親権者として不適格であると捉えられ、親権を父に渡されてしまう可能性もあります。よって、このような主張をする母を弁護する弁護士は皆無だと聞きました。
 しかし、元々こうした考え方が主流だったのではなく、15年くらい前までは、スイスでも、実親と継親の両方が子どもと関わることはタブーであったし、今でもそれを嫌がる親権者は実際には多いようです。しかし、最近は、世論が、子どもは実親を知ることが必要であるという方向に変化しつつあるとのことでした。日本では「父が2人いると混乱する。」との主張がなされることがありますが、ヨーロッパ諸国では、児童心理学の知見に基づき、小さな子どもでも実親と継親を十分区別できるというのが共通理解です。


ISSにて。クリストフさんと。

(6) ISSを見学して
 ISSの活動の長い歴史の中で蓄積された、両親の紛争に巻き込まれる子どもたちに関する知識や家族への援助の経験を聞かせていただき、本当に貴重な時間でした。このように豊富な知識や経験の蓄積がある団体の一員であっても、現状に満足せず、私たちの仕事や日本の離婚事情について質問し、外国から来た私たちから何かを学ぼうとされているクリストフさんの姿勢が印象的でした。ISSのように、社会の中で力を持ちながら、純粋に子どもの立場に立って子どもの権利を主張し支援する団体があることは、スイスの、あるいは、地球上の子どもたちにとって幸せなことだと感じました。


3 The Protestant Office for Couple and Family Counselling

:OPCCF

(1) OPCCFとは
 個人・カップル・家族のカウンセリングやミディエーション、子どもたちのグループワークを扱っている機関です。名前にプロテスタントと付いているように、プロテスタント教会からの資金援助を受けて成り立っています。ただし、利用者は、宗教に関係なく利用することができます。
 ここに所属しているミディエーターは、ダニエルさんという女性が一人で、その方が私たちの対応をしてくださいました。ミディエーターは、特別な資格を有するわけではありません。ダニエルさんは、ミディエーターの認証を行う協会からの認証を受けており、オフィス内でのケーススーパーヴィジョンや外部のスーパーバイザーによるスーパーヴィジョンを受けています。お話を伺ったのは、実際にミディエーションにも使われているダニエルさんの執務室でした。オフィスには、ほかのセラピストの執務室、子どもたち専用の部屋、キッチンがありました。キッチンは、ダイニングテーブルが置かれ、スタッフがストレスを軽減するために1日の出来事を話したり、息抜きをしたりする大切な場所との説明がありました。ストレスの高い仕事をしているのだからと堂々とおっしゃっていたのがとても印象に残っています。

(2) ミディエーション

ア 概要
 ミディエーションは日本語に訳すと「調停」になりますが、日ごろ私たちが接している家事調停とは構造が異なったので、「ミディエーション」という言葉を用いて報告することにします。
 OPCCFのミディエーションは、すでに離婚をすると決めたカップルが対象で、離婚後の子どもの監護方法や財産分与に関する合意を形成する目的で行われます。ミディエーションは有料で、利用者の所得によって、利用料が変わります。
 利用者は、3タイプに分かれます。1つめは、自主的にOPCCFのミディエーションを利用したいと決めて利用する方です。2つめは、Child Protection(子ども保護局)という行政機関から、虐待など子育ての問題を指摘されて、利用を指示された方です。3つめは、離婚裁判中に裁判官からミディエーションを行うようにと指示をされた方です。例えば、親権が争点になっている場合に、裁判官からミディエーションで親権について話し合ってくるように指示を受ける場合があるそうです。
 裁判所が指示した場合であっても、OPCCFが裁判所にレポートを出すということはなく、利用者が自らミディエーションの内容を裁判所に報告することになります。裁判所は利用者からの報告を受けて、その合意の理由、実現可能性などを判断することになります。
 そのため、ミディエーターは、利用者に対して、OPCCFが決定機関ではないということや、法律上何ら権限がないことを初めによく説明をしています。また、ミディエーターは、法廷では証言をしない旨の同意書も取っています。

イ ミディエーションの方法
 ミディエーションは、原則的にミディエーターと夫妻の合計3名が同席で行います。ローテーブルを椅子で囲んで始めます。
 精神障害などで当事者能力が疑われるときは、はじめの1、2回のミディエーションで、当事者能力を見極めるようにします。その結果、当事者能力がないと判断した場合は、弁護士への相談を勧めています。具体的なアドバイスとしては、「ミディエーションはすごくエネルギーがかかり大変だから離婚のことは弁護士に任せて、残っているエネルギーを自分の問題に使ったらいかがですか。」と助言していると教えていただきました。

ウ 子どもとの面接
 ミディエーションのかたわら、通常、ミディエーターが親抜きで子どもと面会する機会を設けます。その目的は、面接結果をもとにミディエーションを進めるためではなく、子どもが親の離婚について話をする場所を提供するためです。子どもの面接は、強制ではありませんが、ミディエーターが子どもたちに声をかけると、ほとんどの子どもがミディエーターとの面接を希望するそうです。子どもたちは親の離婚について話をする場所を求めているとおっしゃっていました。
 ミディエーターが子どもとの面接で聞いた内容をミディエーションに持ちこまないというのが、原則的な考え方です。子どもが父母に伝えてほしいと言った場合には、ミディエーターが父母に伝えますが、そのようなときも、父母に伝えたからといって子どもの望むとおりの結果になるとは限らないことを必ず子どもたちに説明することにしています。
 いくつか紹介していただいたケースの中には、子どもの希望と父母の決めたことが違っていても、父母が子どもの気持ちと福祉を十分配慮した上での結論であるとミディエーターが判断して、無理に父母の結論を変更させずに終結したものがありました。また、子どもとの面接がきっかけとなって、ミディエーターが父母に面会交流の持ち方について検討を促したものもありました。


OPCCFが入る建物の前で

エ 面会交流と養育費
 OPCCFでのミディエーションでも、父母が養育費と面会交流を取引材料にして対立することがよくあるそうです。私たちと調停の方法が異なったり、国が違ったりしても、やはり同じようなことに難しさを感じているのだなと思いました。対立する父母の関心をどのように子ども中心に持っていくかということはやはり難しい問題で、具体的に子どものエピソードを取り上げながら、時間を掛けてミディエーションをしているとおしゃっていました。

(3) 子どもたちのグループワーク
 この機関は、子どもたちのグループワークも扱っています。これはセラピーとは違って、親抜きで子どもたちが絵を描いたり、遊んだりして、親の離婚について話をする場所を提供するものだそうです。対象は4歳から12歳の離婚家庭の子どもたちで、ジュネーブでは12歳まで水曜日も学校がお休みなので、水曜日に開催しています。
 私たちが訪問したのは、折しも水曜日で、幼稚園生くらいの子どもたちが集まってお話ししている姿を見ることができました。

4 関係機関を見学して

 紛争に巻き込まれる子どもたちやサポートが必要な家族を支援するという点で同じ立場に立つプロとして問題意識を共有することができ、大変興味深い出会いとなりました。家族の問題は、親としての思い、夫ないし妻としての思い、そして子どもの思いなど、様々な立場の思いが交錯しますが、どちらの機関も子どもの権利という側面から物事を捉えることを大変重視していると感じました。現代の日本では、「権利意識が強い」というと、頑なで柔軟性に欠ける印象を持ちます。しかし、スイスでは、個別のケースに応じて共同親権の採用や面会交流の実施を判断しており、むしろ臨機応変で柔軟な対応がとられているといえるかもしれません。権利だけを主張するのではなく、その権利を守るためにサポート態勢(人材、機関、資金等)を充実させているスイスだからこそ、「子どもの権利」が根付くのだと感じました。

■□■コラム■□■  ジュネーブの裁判所訪問記


裁判所の入り口

 審査傍聴の前日。関係機関2カ所の訪問を終え,さらに国連本部の見学も終え,へとへとでしたが,地図に「裁判所」の文字を発見。欲張って行ってみることにしました。
 旧市街の石畳の坂道を上っていくと,プール・ド・フール広場があり,オープンカフェでコーヒーを飲む優雅な光景が広がっていました。スーツを着ていたので,私ったらなんだかこの街で働いているみたいと身勝手な空想に浸りながら裁判所を探しました。すると広場の一角にジュネーブ市の紋章の旗がかけられた,立派な構えの建物が登場しました。これは裁判所に違いないと近寄ると,目に入ったのはなんと小窓に飾られたワインでした。
 状況が理解できず,よく観察してみると,紋章が掲げられた立派な入り口には,PALAIS DE JUSTICEと書かれており,建物の端にあるワインショップ入り口のガラス戸には,LA CAVE DU PALAIS DE JUSTICEと書かれていました。「これが裁判所かな?」「でも,ワイン売ってるよ。」「JUSTICEって裁判所だよね?」「だれかフランス語わかる?」「だれも分からないね…。」など相談しあった後,守衛さん(英語が通じて良かった)に聞いてやはり裁判所だということがわかりました。
 結局,裁判所とワインショップの関係は分からずじまいでしたが,外観を見ただけでも十分楽しめたジュネーブの裁判所訪問でした。


報告集会

 2010年7月3日(土)午後、全労連会館において報告集会が開催されました。(名称「プロジェクト・ジュネーブ報告会〜国連子どもの権利委員会の日本政府審査を傍聴して〜」 午後1時20分開会、午後4時30分閉会)


東京・全労連会館での報告集会

 当日は在京・近県の少年法対策委員会メンバーをはじめ、東京家裁の若手調査官、地裁書記官など30名近い出席者があり、冒頭、全司法本部土持さやか中央執行委員から開会あいさつ、伊藤由紀夫本部少年法対策委員からこれまでの活動経過について報告があり、続いて本題である国連審査についての報告・ジュネーブでの家事関係機関見学報告が国連審査傍聴参加者からおこなわれました。報告にあわせてスクリーンには現地での審査の様子や審査傍聴参加者の活動風景がつぎつぎに映し出され、現地の熱気が会場にも伝わりました。
 報告の後、審査傍聴参加者5名からそれぞれ参加の感想が述べられ、フロアからの質問などを交えて意見交換が行われました。例えば、全司法の基礎報告書では、『養育費の未払いが続く義務者に対し、運転免許の更新をさせないという行政措置をとる。』という提案がありましたが、最終所見に反映されていたか否かが質問にあがりました。回答としては、最終所見には反映されていません。委員会のスタンスは、どちらかというと、未払いの義務者に対して罰則を設けるより、何とかして履行を確保する方法を探っているようでした。審査傍聴参加者からは、運転免許が停止されて仕事に行けなくなり、収入が減り、結果として『養育費を払わなくても良い。』との論理が通ってしまう危険性が指摘されました。また、フロアからは、全司法が求める勧告を委員会から出してもらうためには、家事分野の課題についても全司法の中で議論を深めていく必要があり、「少年法対策委員会」という名称を改め、活動の幅を広げていく時期が来ているかもしれないとのコメントがありました。最後に若い世代が中心となった今回の審査傍聴参加者に対して、その活動と熱意に対する惜しみない拍手が送られました。


■資料

<子どもの権利委員会の最終所見>

子どもの権利委員会  第54回会期 2010年5月25日〜6月11日
条約44条に基づく政府報告審査

1. 本委員会は、日本政府第3回定期報告(CRC/C/JPN/3)審査を、2010年5月27日に開催された第1509会議および第1511会議(CRC/C/SR.1509、CRC/C/SR.1511)において行い、2010年6月11日に開催された第1541会議において以下の最終所見を採択した。

A. 序

2. 本委員会は、締約国政府からの第3回定期報告および質問リストに対する文書回答(CR.C/C/JPN/Q/3/Add.1)の提出を歓迎する。本委員会は領域横断的な政府団代表の出席および情報に富み建設的な対話を歓迎する。

3. 本委員会は、この最終所見が、子どもの売買、子ども買春および子どもポルノに関する選択議定書、および、武力紛争への子どもの関与に関する選択議定書に基づく締約国政府初回報告に対する最終所見(CRC/C/OPSC/JPN/CO/1、CRC/C/OPAC/JPN/CO/1)と関連付けられて読まれるべきものであることを注意喚起する。

B. 締約国政府によって達成されたフオローアップの措置および進歩

4. 本委員会は、2004年8月2日における武力紛争における子どもの関与に関する選択議定書、および、2005年1月24日における子どもの売買、子ども買春および子どもポルノに関する選択議定書の批准を歓迎する。

5. 本委員会は以下の法的措置が取られたことに評価をもって留意する;

  • 2004年および2008年に児童虐待防止法を改正し、特に、児童虐待の定義を見直し、中央および地方政府の責任を明確化し、かつ、虐待事例の報告義務を拡大したこと。
  • 2004年および2008年に児童福祉法を改正し、特に、地方政府に要保護児童対策地域協議会を設置する権限を付与したこと。
  • 2005年6月に刑法を改正し、人身取引(訳注:人身売買)を刑罰化したこと。
  • 子ども・若者育成支援推進法を施行したこと(2010年)。
  • 2010年(訳注:2006年の誤り)に教育基本法を改正したこと。

6. 本委員会は、また、人身取引対策行動計画(2009年12月)(訳注2004年の誤り)および2005年7月に採択された、自殺死亡率を引下げるための総合調整を促進する「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」(訳注:参議院厚生労働委員会が採択したもの)を歓迎する。

C. 主たる懸念事項および勧告

1. 一般的実施措置(4条、42条、44条6項)

本委員会によるこれまでの勧告
7. 本委員会は、締約国政府第2回報告(CRC/C/104/Add.2)審査に基づいて2004年2月に示された懸念および勧告(CRC/C/15/Add.231)のいくつかに対応するために締約国政府がなした努力を歓迎する。しかし、本委員会は、その大部分が、十全に実施されていないか、まったく対応されていないことに依然として遺憾の念を表明する。本委員会は、本最終所見において、このような懸念および勧告を重ねて表明する。

8. 本委員会は、第2回政府報告審査に基づく最終所見に示された勧告のうち、いまだ実施されていないもの(調整および国内行動計画に関する12パラグラフ、独立した監視機構に関する14パラグラフ、子どもの定義に関する22パラグラフ、差別の廃止に関する24パラグラフ、名前および国籍に関する31パラグラフ、体罰に関する35パラグラフ、障害を持つ子どもに関する43パラグラフ、ならびに、青年の自殺に関する47パラグラフに示された勧告を含む)に対応し、かつ、本最終所見に示された懸念に包括的に対応するためのあらゆる努力をなすことを締約国政府に要求する。

留保
9. 本委員会は、締約国政府が本条約37条(c)の留保を維持していることに遺憾の念を表明する。

10. 本委員会は、本条約の十全な適用の妨げとなっている37条(c)に対する留保の撤回を考慮することを締約国政府に勧告する。

立法
11. 子どもの権利の領域において、子どもの生活条件の改善および発達の向上に寄与する若干の法制定および法改正がなされたことに留意する。本委員会は、しかしながら、子ども・若者育成支援推進法が本条約のすべての範囲をカバーしていないこと、ならびに、包括的な子どもの権利法が制定されていないことを懸念する。本委員会は、また、少年司法の領域を含めて、国内法には、本条約の原則および規定と合致しない側面が依然として存在していることに留意する。

12. 本委員会は、子どもの権利に関する包括的な法の制定を考慮すること、および、本条約の原則と規定に国内法を十全に調和させるための措置を取ることを、締約国政府に、強く勧告する。

調整
13. 本委員会は、子どもの権利に関する政策の実施に関係している多くの政府機関、例えば、子ども・若者育成支援推進本部、教育再生会議その他の多様な政府審議会、が存在していることに留意する。本委員会は、しかしながら、これらの機関間の効果的調整、ならびに、中央、地方および地域レベルの間の効果的な調整を確保するための機関が欠如していることを懸念する。

14. 本委員会は、中央、地方および地域レベルを問わず、子どもの権利を実施するために行われる締約国政府のすべての活動を効果的に調整し、かつ、子どもの権利の実施に関与している市民社会組織との継続的交流および共同体制を確立するための、明白な権限と十分な人的および財政的資源を有する適切な国による機関を設立することを締約国政府に勧告する。

国内行動計画
15. 本委員会は、子ども・若者育成支援推進法(2010年4月)などの多くの個別的措置が取られたことを歓迎し、かつ、すべての子どもの発達を援助し、すべての子どもを十分に尊重するために、関連政府組織の統合を目的とする「子ども・子育てビジョン」および「子ども・若者ビジョン」を策定したことに関心をもって留意する。本委員会は、しかしながら、本条約のすべての領域をカバーし、特に、子どもの不平等および格差に対応する子どもの権利を基礎にした包括的な子どものための国内行動計画が欠如していることを引き続き懸念する。

16. 本委員会は、地方当局、市民社会および子どもを含む関連するパートナーとの協議および共同に基づいて、本条約のすべての領域をカバーし、かつ、中期目標および長期目標を備えた子どものための国内行動計画を策定、実施し、十分な人的および財政的資源を提供するとともにその成果を検証する監視機構を設立し、必要な場合には(策定された)措置の変更調整を行うことを勧告する。本委員会は、特に、行動計画が、収入および生活水準における不平等、ならびに、性、障害、民族的出自、その他、子どもが発達し、学習し、責任ある生活に備える機会に影響を与える要素に基づくさまざまな格差に対応することを勧告する。本委員会は、子どもに関する国連特別総会の成果文書、すなわち、「子どもにふさわしい世界」(2002年)および「中期事業計画」(2007年)を考慮することを締約国政府に勧告する。

独立した監視
17. 本委員会は、国内レベルにおいて本条約の実施を監視するための独立した機構が欠如していることに対して懸念を表明する。本委員会は、これに関連して、5つの自治体が子どものためのオンブズパーソンを任命しているとの締約国政府からの情報に留意する。本委員会は、しかしながら、その権限、独立性、機能、および効率性を確保するために利用可能な財政その他の資源が欠落していること、ならびに、残念ながら2002年以来懸案となっていた、人権保護法案のもとで設立される人権委員会との予見されていた関係が欠落していることに遺憾の念を表明する。

18. 本委員会は締約国政府に以下を勧告する;

  • 人権保護法案を早期に成立させ、国内機構の地位に関するパリ原則(国連総会決議48・134)に準拠した国内人権委員会の設立を早めること。本条約の実施を監視し、不服を調査し、かつ、子どもの権利の組織的な侵害を調査する権限を国内人権委員会に与えること。
  • 次回政府報告において、国内人権委員会およびオンブズパーソンに与えられた権限、機能および資源についての情報を提供すること。
  • 独立した人権組織に関する本委員会一般的注釈第2号(2002年)を考慮すること。

資源の配分
19. 委員会は、締約国政府の社会支出がOECD諸国の平均よりも低いこと、近年の経済危機のもとで貧困がすでに増加し、現在では、人口の約15%が貧困であること、および、子どもの福祉および発達のための補助金および手当てがそれに対応して増加していないことを深く懸念する。本委員会は、新しい子ども手当て制度および後期中等教育授業料を不徴収とする法を歓迎するものの、中央政府および自治体予算における子どものための予算配分がまったく明らかになっておらず、子どもの生活へのインパクトとの観点から支出を捕捉し、かつ評価することが不可能となっていることを引き続き懸念する。

20. 本委員会は以下のことを締約国に強く勧告する;

  • 財政配分が締約国政府の子どもの権利を実現する義務を履行できるものとなることを確保するために、子どもの権利の視点から中央および自治体レベルにおける予算を精査すること。
  • 子どもの権利の優先性を反映した戦略的な予算方針を決定すること。
  • 財源面の変化に逆らっても、子どもに配分される優先的予算方針を堅守すること。
  • 政策の成果を指標に基づいてフォローアップするための捕捉システムを確立すること。
  • あらゆるレベルにおいて市民社会および子どもとの協議を確保すること

データ収集
21. 本委員会は、子どもおよびその活動に関する大量のデータが定期的に収集され、かつ、公表されていることを認識している。本委員会は、しかしながら、本条約によってカバーされている領域であっても、貧困の下で生活している子ども、障害を持つ子ども、および日本国籍を持たない子どもの就学率、および、学校における暴力およびいじめなど、データが欠落している場合があることに懸念を表明する。

22. 本委員会は、権利侵害の危険に直面している子どもに関するデータを収集する努力を強化することを締約国政府に勧告する。締約国政府は、また、本条約の実施において達成された進捗を効果的に監視、評価し、かつ、子どもの権利の領域における政策のインパクトを評価するための指標を開発すべきである。

広報、研修、意識向上
23. 本委員会は、子どもとともに、子どものために働く専門家、および一般市民の、本条約に対する意識を向上させるための締約国政府の努力に留意するが、それが十分でないこと、および、本条約の原則および規定を広報する計画が実施されていないことを引き続き懸念する。特に、子どもおよび親に対する情報のより効果的な普及が焦眉の急として求められている。本委員会はまた、子どものために、子どもとともに働く専門家の研修が不十分であることを懸念する。

24. 本委員会は、子どもおよび親に、本条約に関する情報を普及することを締約国政府に奨励する。本委員会は、子どものために、子どもとともに働くすべての者(教師、判事、弁護士、警察官、メディア担当者、すべてのレベルにおける公務員を含む)のための、子どもの権利を含む人権に関する体系的で継続的な研修プログラムを開発することを締約国政府に要求する。

市民社会との共同
25. 本委員会は、市民社会組織との多数回におよぶ会議を行ったことについての締約国政府からの情報に留意するものの、子どもの権利のための政策およびプログラムの開発、実施および評価のすべての段階において重要となる、継続的な共同の実践が、いまだに確立されていないことを懸念する。本委員会は、また、市民社会組織が、本委員会の第2回最終所見のフォローアップに参加していないこと、および、締約国政府第3回報告の作成に当たってその意見を提出する十分な機会が与えられていないことを懸念する。

26. 本委員会は、市民社会との共同を強化すること、および、定期報告の作成を含む本条約の実施のすべての段階においてより体系的に市民社会組織を参加させることを締約国政府に奨励する。

子どもの権利と営利組織
27. 本委員会は、子どもと家族の生活に営利組織が与えている大きな影響に留意し、また、子どもの福祉と発達のために、営利組織の社会的・環境的責任のための規制についての情報が(もしあったとしても)、締約国に欠けていたことを遺憾に思う。

28. 本委員会は、地域社会、とりわけ子どもたちを、営利活動から生じるあらゆる有害な影響から守るという視点で、国際的、また国内における社会環境的企業責任の基準に営利組織が従うことを確実にするための規制を設立し開始させるための効果的な方法をとることを、締約国政府に奨励する。

国際協力
29. 本委員会は、政府開発援助(ODA)が依然として巨額であることに留意し、2003年における改定戦略が、貧困減少、持続可能性、安全と平和維持措置を優先していることを歓迎する。本委員会は、しかし、締約国政府が継続的に政府開発援助予算を削減し、GDPの0.7%を政府開発援助に支出するという国際合意からは程遠い0.2%にとどまっていることを懸念する。本委員会は、特に、発展途上国における気候変動に対応するための措置といった特定の目的のための追加的な資源配分、および、アフリカ諸国に対する援助の顕著な増加を除き、政策の全般的な変更を予定していないとの締約国政府の指摘を懸念する。

30. 本委員会は、特に子どもにとって利益となるプログラムや措置のために資源配分を増加させることを目的として、国際開発援助政策を再考することを締約国政府に勧告する。本委員会は、さらに、受領国に対する子どもの権利委員会の最終所見および勧告を考慮することを締約国政府に提案する。

2. 子どもの定義(本条約1条)

31. 本委員会は、第2回最終所見において婚姻最低年齢に関する男女の区別(男18歳、女16歳)を廃止すべきとの勧告(CRC/C/15/Add.231, paragraph22)が示されたにもかかわらず、区別が維持されていることに懸念を表明する。

32. 本委員会は、締約国政府が、男女ともに婚姻最低年齢を18歳に引き上げることにより、その立場を再考することを締約国政府に勧告する。

3. 一般原則(本条約2条、2条、6条、および12条)一非差別

33. 本委員会は、いくつかの立法的措置がとられたにもかかわらず、法定相続に関する法において、婚外子が婚内子と同じ権利を依然として享受していないことを懸念する。本委員会は、また、民族的少数者、日本国籍を持たない子ども、移民労働者の子ども、難民の子どもおよび障害を持つ子どもに対する社会的差別が継続していることを懸念する。本委員会は、ジェンダー平等の促進を規定した教育基本法5条が廃止されたこについて、女性差別撤廃委員会が所見(CEDAW/C/JPN/ CO /6)で述べた懸念を重ねて表明する。

34. 本委員会は締約国政府に以下を勧告する;

  • 包括的な反差別法を施行することおよび、いかなる理由に基づくものであれ子どもを差別するすべての法を廃止すること。
  • 特に、女子、民族的少数者に属する子ども、日本国籍を持たない子ども、および障害を持つ子どもに対する差別的慣行を減少させ、かつ防止するために、意識向上キャンペーンおよび人権教育を含む、必要とされる措置を取ること。

35. 本委員会は、刑法が女性および女の子だけを強姦および関連犯罪の被害者としていること、および、したがってこれらの規定のもとに与えられる保護が男の子に与えられないことを懸念をもって留意する。

36. 本委員会は、男の子であれ女の子であれ強姦の犠牲者すべてが同じ保護を与えられることを確保するために刑法改正を考慮することを締約国政府に勧告する。

子どもの最善の利益
37. 本委員会は、子どもの最善の利益が児童福祉法において考慮されているとの締約国政府からの情報を承知しているが、1974年に採択されたこの法律は、子どもの最善の利益の第一義性が十分に考慮されていないことに、懸念をもって留意する。本委員会は、特に、難民および登録されていない移民の子どもを含むすべての子どもの最善の利益を統合する必須の手続きを通して、すべての法律に、定型的および体系的に、子どもの最善の利益が組み入れられていないことを懸念する。

38. 本委員会は、すべての法規定、司法的および行政的決定、ならびに、子どもにインパクトを与えるプロジェクト、計画およびサービスにおいて、子どもの最善の利益原則が効果を持つようになり、実行され、遵守されることを確保するための努力を継続し、かつ強化することを締約国政府に勧告する。

39. 本委員会は、子どもの養育または保護に責任を有する機関の多数が、特に、そのスタッフの数および適格性、ならびに、監視およびサービスの質に関して、適切な基準に適合していないとの報告に懸念をもって留意する。

40. 本委員会は締約国政府に以下を勧告する;

  • 公的セクターおよび私的セクターの双方に適用される、子どもの養育又は保護に責任を有する機関によって提供されるサービスの質および量に関する基準を開発し、明確にするための効果的な措置を取ること。
  • 公的および私的セクターの双方における基準の遵守を継続的に強化すること。

生命、生存および発達に関する権利
41. 本委員会は、「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」を含めて、子ども、特に思春期の子どもの自殺に対応するための締約国政府の努力に留意するが、子どもおよび思春期の子どもによって自殺がなされていること、および、自殺および自殺未遂に関連する危険因子に関する研究が欠如していることを依然として懸念する。本委員会は、また、子ども施設における事故が、安全最低基準を遵守していないことと関連するとの情報を懸念する。

42. 本委員会は、子どもの自殺の危険因子に関する研究を行い、予防的措置を実施し、学校にソシアルワーカーおよび心理相談を提供し、困難な状況にある子どもに子どもをの指導する仕組みがさらなるストレスを与えないようにすることを確保することを締約国政府に勧告する。本委員会は、また、公立.および私立の子どものための施設が適切な安全最低基準を遵守することを確保することを締約国政府に勧告する。

子どもの意見の尊重
43. 本委員会は、司法的および行政的手続、学校、児童養護施設、および家庭において子どもの意見が考慮されているとの締約国政府からの情報に留意するが、公的な規則が年齢を高く設定していること、児童相談所を含む子ども福祉サービスにおいて子どもの意見がほとんど考慮されていないこと、学校においては子どもの意見が考慮される領域が限定されていること、および、政策策定過程においては子どもおよびその意見が省みられることはめったに無いことを引き続き懸念する。本委員会は、子どもを権利を持った人間として尊重しない伝統的な見方が、子どもの意見に対する考慮を著しく制約していることを懸念する。

44. 本委員会は、本条約12条および意見を聞かれる子どもの権利に関する本委員会一般的注釈12号(2009年)に照らし、学校および児童養護施設、家庭、地域、裁判所、行政組織、および政策策定過程を含むすべての場面において、子どもに影響を与えるすべての事柄について、子どもがその意見を十分に表明する権利を促進するための措置を強化することを締約国政府に勧告する。

4. 市民的権利および自由(本状約7条、8条、13ないし17条、および37条(a))

出生登録
45. 本委員会は、第2回最終所見(CRC/C/l5/Add.231)において示された、締約国政府の多くの規則が、移民登録をしていない親など、ある特定の状況にあるためにその子どもの出生を登録できない親のもとに生まれた子どもの出生登録の可能性を制限していることに対する懸念を重ねて表明する。これらの規則により、多くの子どもが登録されず、子どもを法的に無国籍としている。

46. 本委員会は締約国政府に以下を勧告する;

  • すべての子どもの登録を確保し、法的な無国籍から子どもを保護するために本条約7条の規定に従い、その国籍法および規則を改正すること。
  • 無国籍者の地位に関する条約(1954年)および無国籍者の減少に関する条約(1961年)の批准を考慮すること。

体罰
47. 本委員会は、学校において体罰が明示的に禁止されていることに留意するものの、禁止が実効的に実施されていないとの報告に懸念を表明する。本委員会は、すべての身体罰が禁止されるとしなかった1981年の東京高裁判決の不明瞭な判断に、懸念をもって留意する。委員会は、さらに、家庭、代替的家庭環境における体罰が法によって明示的に禁止されていないこと、および、民法および児童虐待防止法が、特に、適切な懲戒を行使することを許容し、体罰が許容されるのか否かについて不明確であることを懸念する。

48. 本委員会は締約国に以下を強く勧告する;

  • 家庭および代替的家庭環境のすべての状況において、体罰およびあらゆる形態の品位を傷つける子どもの取扱いを法によって明示的に禁止すること。
  • すべての状況において体罰の禁止を実効的に実施すること。
  • 家庭、教師、および、子どもとともに、また、子どものために働くその他の専門家に、非暴力的な代替的懲戒を教育するためのキャンペーンを含む、対話プログラムを実施すること。

子どもに対する暴力に関する国連研究のフォローアップ
49. 本委員会は、子どもに対する暴力に関する国連事務総長研究(A161/299)に関して、以下を締約国に勧告する;

  • 子どもに対する暴力に関する国連研究の勧告を実施するために、2005年6月14日から16日までバンコックで開催された東アジア・太平洋地域会議の成果および勧告を考慮して、あらゆる適切な措置を取ること。
  • 以下の勧告に特に注意し、上記研究に示された子どもに対するあらゆる形態の暴力を廃絶するための勧告を優先的に実施すること。
    • 子どもに対するあらゆる形態の暴力を禁止すること
    • 子どもとともに子どものために働くすべての者の能力を向上させること
    • 子どもの回復および社会再統合サービスを提供すること
    • 子どもが利用でき、かつ、子どもに優しい報告システムとサービスを創設すること。
    • 説明責任を確保し、免責を廃止すること。
    • 体系的な国内データ収集および研究を開発し、実施すること。
  • すべての子どもがあらゆる形態の身体的、性的および心理的暴力から保護されることを確保するための道具として、および、このような暴力および虐待を防止し、それらに応答するための具体的かつ、適当な場合には、期限を定めた行動を活性化させるための道具として、これらの勧告を、市民社会とのパートナーシップに基づいて、特に、子どもの参加に基づいて用いること。
  • 次回定期報告において、締約国政府による上記研究の勧告の実施に関する情報を提供すること。
  • 子どもに対する暴力に関する国連事務総長特別広報官と協力し、それを支援すること。

5. 家庭環境および代替的養護 (本条約5条、18条(1項、2項)、9ないし11条、19ないし21条、25条、27条(4項)および39条)

家庭環境
50. 本委員会は、日本社会において家族的価値の重要性がゆるぎないものであることを認識しながらも、親子関係の崩壊が、子どもの情緒的および心理的充足感に否定的な影響を与えるとともに、子どもの施設収容さえも引き起こしていることを示す報告を懸念する。本委員会は、これらの問題は、老人介護と養育の狭問での葛藤、学校における競争、仕事と家庭生活の非両立性、および特に片親家庭を直撃している貧困へのインパクトに起因する可能性のあることをに留意する。

51. 本委員会は、男性および女性の双方について仕事と家庭生活の適切なバランスを保つように促して、養育責任を果たす家庭の能力を確保すること、親子関係を強化すること、および、子どもの権利に関する意識の向上させることを含む、家庭を援助し強化するための措置を導入することを締約国政府に勧告する。本委員会は、さらに、社会サービスが不利な状況にある子どもおよび家庭を優先し、適切な財政的、社会的および心理的援助を提供し、かつ、子どもの施設収容を避けることを勧告する。

親のケアを受けていない子ども
52. 本委員会は、親のケアを受けていない子どものための家族を基礎とする代替的なケアに関する政策が欠如していること、家庭から引き離されてケアを受ける子どもの数が増加していること、小規模グループおよび家庭タイプのケアを提供するための努力にもかかわらず、多くの施設の標準が不十分であること、代替的なケアのための施設において子どもの虐待が蔓延していると伝えられていることに、懸念をもって留意する。本委員会は、これに関連して、不服申し立て手続が創設されたにもかかわらず、残念ながらそれが広く実施されていないことを懸念する。本委員会は、里親の研修が義務化され、手当てが増加したという事実を歓迎するが、あるタイプの里親が財政的な援助を受けていないことを懸念する。

53. 本委員会は条約18条に基づいて以下のことを締約国政府に勧告する;

  • 里親または滞在型ケアにおける小規模グループなど、家庭に類似した環境のケアを子どもに提供すること。
  • 里親ケアを含む代替的ケアの質を定期的に監視し、すべてのケアが適切な最低基準に合致することを確保するための措置を取ること。
  • 代替的ケアにおける子ども虐待に責任を有する者を調査し、訴追すること。虐待の犠牲者が不服申立手続、カウンセリング、医療的ケアおよびその他の適切な回復のための援助を利用することを確保すること。
  • すべての里親に財政的援助が提供されるよう措置を講じること
  • 2009年11月20日に採択された国連総会決議64/142(A/RES/64/142)に含まれている子どもの代替的養護に関する国連ガイドラインを考慮すること。

養子
54. 本委員会は養親または養親の配偶者の直系卑属の子どもの養子縁組が司法審査または家庭裁判所の許可なくして行われることに、懸念をもって留意する。本委員会は、さらに、外国において養子縁組された子どもの登録の欠如を含めて、国際養子縁組の十分な監視が欠如していることを懸念する。

55. 本委員会は締約国政府に以下を勧告する;

  • すべての養子縁組が司法的認可に服すること、子どもの最善の利益に従うこと、および、養子縁組されたすべての子どもが登録されることを確保するための措置を取り、実効的に実施すること。
  • 国際養子縁組に関する子どもの保護および協力に関するハーグ条約(No.33, 1993)の批准を考慮すること。

児童虐待および遺棄
56. 本委員会は、虐待防止のための機構を創設しそれを実施する児童虐待防止法および児童福祉法の改正などの措置を歓迎する。本委員会は、しかしながら、民法における「親の権威」(parental authority)と言う概念が「包括的監督」(comprehensive control)を実行する権利を親に付与しており、親が子どもに不適切な期待をかけていることも相まって、家庭において子どもを暴力の危険性にさらしていることを依然として懸念する。本委員会は児童虐待が継続的に増加していることに、懸念をもって留意する。

57. 本委員会は、児童虐待問題に対応する現在の努力を、以下により、強化することを締約国政府に勧告する;

  • 虐待および遺棄の否定的な影響についての一般市民向けの教育プログラム、および家庭向上プログラムを含む予防的プログラムを実施し、建設的にして非暴力的形態の懲戒を促進すること。
  • 家庭および学校において虐待の犠牲となった子どもに十分な保護を提供すること

6. 基礎的健康および福祉(本条約6条、18条(3項)、23条、24条、26条、および、27条(1項ないし3項))

障害を持つ子ども
58. 本委員会は、締約国政府が、障害を持つ子どもを援助し、学校における共同的な学習(Joint learning)を含む社会的参加を促進し、その自立を発展させるために、法を制定し、サービスおよび施設を設立したことに留意する。本委員会は、根深い差別が依然として存在すること、障害を持つ子どものための措置が注意深く監視されていないことを依然として懸念する。本委員会は、また、障害を持つ子どもが、政治的意思を欠くために、また必要な設備および施設のための財政的資源がないために、教育へのアクセスが制限され続けていることに、懸念をもって留意する。

59. 本委員会は以下を締約国政府に勧告する;

  • 障害を持つすべての子どもを十全に保護するために法改正を行い、法を制定すること。達成された進捗を注意深く記録し、実施における問題点を特定する監視システムを設立すること。
  • 障害を持つ子どもの生活の質の向上、その基礎的ニーズの充足、および、インクルージョンと参加の確保に焦点をおく、地域を基礎にするサービスを提供すること。
  • 既存の差別的態度と闘い、かつ、障害を持つ子どもの権利および特別なニーズを一般市民に理解させるために、意識喚起キャンペーンを実施すること。障害を持つ子どもの社会へのインクルージョンを奨励し、かつ、子どもおよび親の意見を聞かれる権利の尊重を促進すること。
  • 障害を持つ子どものために、十分な人的、財政的資源を伴うプログラムおよびサービスを提供するためのすべての努力を行うこと。
  • 障害を持つ子どもの包摂的教育のために必要とされる設備を学校に整備すること。障害を持つ子どもが希望する学校を選択し、その最善の利益に応じて、普通学校および特別学校の間を移動できることを確保すること。
  • 障害を持つ子どものために、障害を持つ子どもとともに働いているNGOに援助を提供すること。
  • 教師、ソシアルワーカー、保健・医療・セラピー・ケア従事者など、障害を持つ子どもと働く専門的スタッフに研修を実施すること。
  • 関連して、障害を持つ者の機会の平等化に関する国連標準規則(General Assembly resolution 48/96)および障害を持つ子どもの権利に関する本委員会一般的注釈9号(2006年)を考慮すること。
  • 障害を持つ者の権利に関する条約(署名済み)およびその選択議定書(2006年)を批准すること。

精神的健康
60. 本委員会は、驚くべき数の子どもが情緒的充足感(emotional well-being)の低さを訴えていることを示すデータ、および、その決定要因が子どもと親および子どもと教師との間の関係の貧困さにあることを示すデータに留意する。本委員会は、また、発達障害者への支援センターにおける注意欠陥多動性症候群(ADHD)に関する相談件数が増加していることに留意する。本委員会は、ADHDの治療に関する研究および医療専門家への研修が開始されたことを歓迎するが、この症状が主として薬物によって治療されるべき生理学的障害とみなされていること、および、社会的決定要因に対して適切な考慮が払われていないことを懸念する。

61. 本委員会は、あらゆる環境における実効的な援助を確保する学際的アプローチにより、子どもおよび思春期にある子どもの情緒的および心理的充足感の問題に対応するための実効的な措置を取ることを締約国に勧告する。本委員会は、また、ADHDの数量的傾向を監視し、薬品産業から独立してこの領域における研究が実行されることを確保することを締約国に勧告する。

健康サービス
62. 本委員会は、学校の期待する行動を取らない子どもが児童相談所に送られていることを、懸念をもって留意する。また、子どもが意見を聞かれる権利や、子の最善の利益が考慮されることを含み、児童相談所による対応の専門的水準が明らかではないことを懸念し、また成果に関する利用可能な体系的評価がないことを遺憾に思う。

63. 本委員会は、児童相談制度、および、矯正効果の評価を含む、その作業方法について独立した調査を行うこと、および、次回政府報告においてこの調査の結果に関する情報を提供することを締約国政府に勧告する。

64. 本委員会はHIV/AIDSおよびその他の性感染症の感染率が増加していること、ならびに、これらの健康問題についての思春期の子どもへの教育が貧弱であることに懸念を表明する。

65. 本委員会は、締約国政府が、思春期の子どもの健康および発達に関する本委員会一般的注釈4号(2003年)を考慮して、性と生殖に関する健康についての教育を学校のカリキュラムに導入すること、10代の妊娠およびHIV/AIDSを含む性感染症の予防を含む、性と生殖に関する健康についての権利を思春期の子どもに十全に知らせること、および、HIV/AIDSおよびその他の性感染症を予防するためのすべてのプログラムへの思春期の子どもの容易なアクセスを確保すること勧告する。

十分な生活水準に関する権利
66. 本委員会は、2010年4月より、すべての子どもを対象とする、より優れた子ども手当が実施されているとの情報を締約国政府との対話において得たが、この新しい措置が、生活保護法のもとで取られてきた現時点における措置や、その他の、片親家庭、特に、母子家庭の援助のために取られてきた措置以上に、貧困のもとで暮らす人々の割合(15%)をより実効的に減少させるものであるかどうかを評価するために利用可能なデータはない。本委員会は、経済政策および財政政策(例えば、民営化政策および労働規制緩和)が、給与カット、男女間賃金格差、および、子どもの保育および教育に関する私費負担の増加をもたらし、親、特に、母子家庭に影響を与えることを懸念する。

67. 本委員会は、貧困の複雑な決定要因、子どもの発達に関する権利、および、片親家庭を含むすべての家庭に保障されるべき生活水準に関する権利を考慮し、貧困削減戦略の策定を含めて、子どもの貧困を根絶するために適切な資源を配分することを締約国政府に勧告する。本委員会は、また、労働規制緩和および労働の柔軟性などの経済政策に対処する親の能力が、その養育責任ゆえに貧弱であることを考慮すること、および、提供された財政的およびその他の支援が子どもの福祉および発達に不可欠な家庭生活を保障するに足るものであるかどうかを注意深く監視することを締約国政府に要求する。

養育費の回収
68. 本委員会は、養育費の回収の促進を目的とする2004年における民事執行法改正に留意するものの、日本から出国した親を含め、離別または離婚した親の多く(ほとんどは父親)が、その扶養義務を履行していないこと、および、未払いの養育費を徴収するための既存の手続が不十分であることを懸念する。

69. 本委員会は締約国に以下を勧告する;

  • 婚姻関係の有無に関わらず、双方の親が子どもの扶養に平等に貢献することを確保するよう、また、片方の親がその義務を履行しない場合に扶養義務が実効的に履行されることを確保する既存の法および措置の実施を強化すること。
  • 創設されるべき新しい機構、すなわち、義務を履行していない親の扶養義務を代わりに履行し、適切な民事または刑事手続により、未払い養育費を事後に徴収する国家基金により、養育費の回収を確保すること。
  • 親責任に関する管轄、準拠法、承認、履行、および協力ならびに子どもの保護のための措置に関するハーグ条約34号(1996)を批准すること。

7. 教育、余暇、および文化的活動(本条約28条、29条および31条)

職業訓練および指導を含む教育
70. 本委員会は、日本の学校制度が並外れて優れた学力を達成していることを認識しているものの、学校および大学の入学をめぐって競争する子どもの数が減少しているにもかかわらず、過度な競争への不満が増加し続けていることに、懸念をもって留意する。本委員会は、また、高度に競争主義的な学校環境が、就学年齢にある子どもの間のいじめ、精神的障害、不登校・登校拒否、中退および自殺に寄与することを懸念する。

71. 本委員会は、学力の優秀性と子どもひとりひとりにとっての能力形成を結合し、かつ、過度に競争主義的な環境が生み出す否定的な結果を避けることを目的として、その学校制度および学力に関する仕組みを再検討することを締約国に勧告する。これに関連して、締約国政府に、教育の目的に関する本委員会一般的注釈1号(2001)を考慮するよう奨励する。本委員会は、また、子ども間のいじめと闘うための努力を強化し、いじめと闘うための措置の開発に当たって子どもの視点を取り入れることを締約国政府に勧告する。

72. 本委員会は、中国、北朝鮮その他の出身者の子どものための学校への補助金が不十分であることを懸念する。また、委員会は、これらの学校の出身者は、日本の総合大学や単科大学への入学試験を受けられないことがあることも懸念する。

73. 本委員会は、締約国政府に対し、外国人学校への補助金をふやし、総合大学や単科大学への入学試験へのアクセスの差別がなくなることを確保することを奨励する。教育における差別に関するUNESCO条約の批准を締約国政府に奨励する。

74. 本委員会は、日本の歴史教科書が、歴史的出来事についての日本側の解釈を示すだけであるため、近隣地域の他国の子どもたちとの相互理解の広がりがないことを懸念する。

75. 本委員会は、検定を受けた教科書が、アジア太平洋地域における歴史的出来事についてのバランスのとれた視点を示すことが確保されるよう締約国政府に勧告する。

76. 本委員会は、子どもの休息、余暇および文化的活動に関する権利について、締約国の注意を喚起する。そして、子どもの遊び(play-time)ならびに、公的場所、学校、児童福祉施設および家庭における自治的活動を促進する先導的取り組みを援助することを勧告する。

8. 特別保護措置(本条約33条、38条、39条、40条、37条(b)(d)、30条、32条ないし36条)

親に伴われていない難民の子ども
77. 本委員会は、罪を犯したとの申立てがない場合であっても、難民申請をしている子どもを拘留することが実務において広く行われていること、および、親に伴われていない難民申請をしている子どものケアのための確立した機構が欠落していることに懸念を表明する。

78. 本委員会は締約国政府に以下を勧告する;

  • 難民申請をしている子どもの拘留を防止するために公的な機構を設立することを含めて即時的な措置を取ること。難民拘留施設からこのようなすべての子どもを即時に解放し、かつ、子どもにシェルター、適切なケア、および教育へのアクセスを提供すること。
  • 親に伴われていない子どもの難民申請手続を、公正かつ子どもに配慮した難民認定手続のもとで、速やかに進行させること。子どもの最善の利益が"第1儀的に考慮されることを確保しつつ、後見人や法的代理人を任命し、親およびその他の近い親族を突き止めること。
  • 子どもの最善の利益の公的決定に関する国連難民高等弁務官ガイドラインおよび難民の子どもの保護とケアに関する国連難民高等弁務官ガイドラインを含む、難民保護の領域における国際準則を尊重すること。

人身取引
79. 本委員会は、人身取引(訳注:人身売買)を犯罪化した2005年7月の刑法改正および2009年人身取引対策行動計画を歓迎する。本委員会は、しかしながら、この行動計画に提供される資源に関する情報、調整機関および監視機関に関する情報、ならびに、人身取引、特に子どもの取引に対する措置の効果についての情報が欠落していることに留意する。

80. 本委員会は締約国政府に以下を勧告する;

  • 人身取引、特に子ども取引に対応するための措置の実効的監視を確保すること。
  • 人身取引の犠牲者に対する身体的および心理的回復のための援助を確保すること。
  • 行動計画の実施に関する情報を提供すること
  • 「国際組織犯罪に関する国連条約」(2000)を補充する「入身取引、特に、女性および子どもの取引の予防、鎮圧および処罰に関する選択議定書」を批准すること。

性的搾取
81. 本委員会は、第2回政府報告審査の後に示された、買春を含む子どもの性的搾取の増加に対する懸念を重ねて表明する。

82. 本委員会は、子どもの性的搾取に関する事件を捜査し、性的搾取を犯した者を訴追する努力を強化し、性的搾取の犠牲者にカウンセリングその他の回復のための援助を提供することを締約国政府に勧告する。

少年司法運営
83. 本委員会は、締約国政府第2回報告(CRC/C/104/Add.2)の審査に基づいて2004年2月に表明された懸念(CRC/C/15/Add.231)、つまり、2000年少年法改正は、むしろ懲罰的なアプローチを採用し、非行少年の権利および司法的保障を制限したとの懸念を重ねて表明する。特に、刑事責任年齢の16歳から14歳への引き下げにより、教育的措置の可能性が減じ、14歳から16歳までの多くの子どもが矯正施設へ収容される。重罪を犯した16歳以上の子どもは刑事裁判所に送致されうる。審判前の観護措置期間は4週間から8週間に延長された。素人裁判官制度である新しい裁判員制度は、特化した少年裁判所による少年犯罪者の取扱いの障害となる。

84. 本委員会は、さらに、成人の刑事裁判所に送られた子どもの数が顕著に増加していることを懸念し、法的援助ヘアクセスする権利を含め、法に抵触した子どもの手続保障が体系的に実施されておらず、特に、自白の強制および非合法的な捜査活動に帰結していることを遺憾に思う。本委員会は、また、少年矯正施設における収容者への暴力の程度、および審判/公判前において少年が大人と一緒に収容される可能性を懸念する。

85. 本委員会は、少年司法における子どもの権利に関する本委員会一般的注釈10号(2007年)を考慮しながら、少年司法システムを、本条約、特に、37条、40条および39条、ならびに、「少年司法の運用のための国際連合最低基準規則」(北京ルールズ)、「少年非行の防止に関する国連ガイドライン」(リヤドガイドライン)、「自由を剥奪されている少年の保護のための国連規則」(ハバナ規則)、「刑事司法システムにおける子どもについての行動ガイドライン」(ウィーンガイドライン)などの、少年司法の領域における他の国連準則に合致させることを目的として、少年司法システムの機能を再検討することを締約国政府に要求する。本委員会は特に、以下を締約国政府に勧告する;

  • 刑事司法システムへの接触へと子どもを導く社会的条件を廃絶するために、家庭および地域の役割を援助することなど、予防的措置を取ること。後のラベリングを回避するためにあらゆる可能な措置を取ること。
  • 刑事責任最低年齢に関する法律を再検討し、以前の16歳までに引き上げることを考慮すること。
  • 刑事責任年齢未満の子どもが、刑事犯罪者として取り扱われたり、矯正施設に送られないことを確保すること。法に抵触した子どもが常に少年司法システムにおいて取り扱われ、特別裁判所でない裁判所において大人として裁判にかけられないことを確保すること。このために、裁判員制度の見直しを考慮すること。
  • 既存の法律扶助制度の拡大などにより、すべての子どもが手続のあらゆる段階において法的およびその他の援助を提供されることを確保すること。
  • 例えば、保護観察、ミディエーション、社会奉仕命令、自由を剥奪される刑の執行猶予など、可能な場合にはいつでも、自由の剥奪に代わる措置を実施すること。
  • 審判/公判の前および後の自由の剥奪が、最終的手段として、可能な限り短期間用いられることを確保すること。自由の剥奪が、その回避を目的として、定期的に見直されることを確保すること。
  • 自由を剥奪された子どもが、大人と一緒に身柄収容されないこと、および審判(公判)前の身柄拘束中を含めて、教育へのアクセスを有することを確保すること。
  • 少年司法システムに関わるあらゆる専門家に対する、関連する国際準則に関する研修を確保すること。

少数者および先住民族に属する子ども
86. 本委員会は、アイヌの状況を向上させるために締約国政府によって取られた措置に留意するものの、アイヌ、朝鮮・韓国人、部落出身者、およびその他の少数者の子どもが、社会的および経済的疎外を継続して経験していることを懸念する。

87. 本委員会は、民族的少数者に属する子どもに対する、生活のあらゆる領域における差別を廃絶するために必要な法的その他の措置を取ること、および、本条約の下に提供されているあらゆるサービスと援助への平等なアクセスを確保することを締約国に要求する。

9. フォローアップおよび広報

フオローアツプ
88. 本委員会は、本勧告が十全に実施されることを確保するためのあらゆる適切な措置を取ること、特に、本勧告を、適切な考慮および更なる行動のために、最高裁判所、内閣、および国会の構成員、ならびに可能な場合には、地方政府に配布することを締約国政府に勧告する。

最終所見の広報
89. 本委員会は、さらに、本条約、その実施および監視に対する意識を向上させるために、第3回政府報告、締約国政府の提出した文書回答、および本最終所見が、一般市民、市民社会組織、メディア、子どもグループ、専門家団体、および子どもに、国における諸言語において、インターネットも含めて、広く利用可能とされるよう勧告する。

次回報告
90. 本委員会は、2016年5月21日までに、第4回・第5回統合報告を提出することを締約国政府に要請する。この報告は120ページを超えず(CRC/C/ll8参照)、本最終所見の実施に関する情報を含まなければいけない。

91. 本委員会は、また、2006年6月に、第5回人権条約機関間会議において承認された報告に関する統一ガイドライン(HRI/MC/2006/3)に示された共通コア文書の必要事項に従って改定コア文書を提出することを締約国政府に要請する。

(福田雅章・世取山洋介仮訳2010年6月18日現在)
(岡本潤子改訂版2010年10月3日)

■資料

子どもの権利委員会
 第54回会期 2010年5月25日〜6月11日
 子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書第12条1に基づく政府報告審査

(訳注:本文中、特段の断りがない限り、条約は「子どもの権利条約」を、選択議定書は「子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書」を、本委員会は「子どもの権利委員会」を指す。)

1. 本委員会は、日本政府第1回報告(CRC/C/OPSC/JPN/1)審査を、 2010年5月28日に開催された第1513回会議(CRC/C/SR.1513参照)において行い、 2010年6月11日に開催された第1541回会議において以下の最終所見を採択した。


2. 本委員会は、第1回報告及び質問リストに対する文書回答(CRC/C/OPSC/JPN/Q/1/Add.1)の提出を歓迎する。本委員会は、領域横断的な代表の出席及び建設的な対話を歓迎する。

3. 本委員会は、締約国政府に対し、この最終所見を、条約に基づく締約国政府第3回定期報告に対する最終所見(CRC/C/ JPN/CO/3)及び武力紛争における子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書に基づく締約国政府第1回報告書に対する最終所見(CRC/C/OPAC/JPN/CO/1)と関連づけて読まれるべきものであることを注意喚起する。

I. 一般的所見

 肯定的側面
4. 本委員会は、以下を評価しつつ留意する;

  • インターネット出会い系サイトを通じた子どもの性的搾取を撲滅するため、2003年6月に出会い系サイト規制法が制定されたこと、
  • 人身取引被害者が退去強制の対象とならないことを確保するため、2005年6月に出入国管理及び難民認定法が改正されたこと、
  • 人身取引対策行動計画2009 が策定されたこと、
  • 国連児童基金が発起し、旅行・観光業の代表が署名した旅行及び観光における性的搾取から子どもを保護するための行動規範(2005年)が制定されたことに旅行・観光業の代表が署名したこと。

II. データ

 データ収集
5. 締約国政府から提供された、選択議定書違反を構成する行為に関する逮捕件数についての情報については認識している。しかし、本委員会は、子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノの発生状況について、子どもの被害者数という観点から、年齢・性別・人種及び地域ごとのデータが存在しないこと、また、選択議定書が対象としている特定の分野に関する調査が欠けていることを懸念する。

6. こうしたデータは政策の実施を評価する上で必要不可欠なものであるため、本委員会は、締約国政府が調査を実施し、選択議定書が対象とする犯罪を登録する中央データベースを整備し、こうしたデータが体系的に、特に、被害者の年齢、性別、人種及び地域ごとに分けて収集されることが確保されるよう勧告する。また、データは、罪種別に訴追及び有罪判決の件数に関するデータも収集されるべきである。

III. 一般的実施措置

 立法措置
7. 本委員会は、この分野において多数の法律が存在しているにもかかわらず、国内法と選択議定書の規定との調和が限定的なままであり、かつ、子どもの売買が個別の犯罪として含まれていないことを懸念する。

8. 本委員会は、締約国政府が、選択議定書と国内法を調和させるプロセスを継続し、完了するよう勧告する。

9. 本委員会は、締約国政府に対し、選択議定書における子どもの売買に関する規定を十分に実施するためには、子どもの売買(この概念は人身取引に類似しているが同一ではない)に関し、締約国政府の国内法がこれら規定上の義務を満たす必要があることを注意喚起する。

 国内行動計画
10. 2001 年に、子どもの商業的性的搾取に対する国内行動計画が採択されたこと及び人身取引対策行動計画2009 年が存在することに留意しつつ、本委員会は、2 つの行動計画同士の関係、その効果及びこれらの行動計画が、選択議定書が対象とする分野すべてを網羅しているか否かについての情報が欠如していることに留意する。

  • 本委員会は、締約国政府に以下を勧告する;
    • 選択議定書のすべての規定を考慮しながら、これらの行動計画の実施の調和を図り、すべての子どもの包括的な保護を確保する観点から、これらの行動計画を見直し、必要な場合は改訂すること、
    • 子ども及び市民社会を含む関係当事者と協議しながらこれらの行動計画を実施すること、
    • これらの行動計画に対し、十分な人的・財政的資源を割当て、具体的で、期限を定めた、測定可能な目標の設定を確保すること、そして、これらの行動計画を広く周知し、かつその実施状況を定期的に監視すること。

11. これに関し、締約国政府に対し、1996 年、2001 年及び2008 年にストックホルム、横浜及びリオデジャネイロでそれぞれ開催された第1 回、第2 回及び第3 回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議で採択された、行動とグローバルコミットメントのための宣言及び行動計画を考慮に入れるよう促す。

 調整及び評価
12. 本委員会は、選択議定書の実施とそれに関連する諸活動との調整を担う機構が存在しないことに懸念を表明する。

13. 本委員会は、締約国政府が、選択議定書の効果的な実施及び国と地方の公的機関の間の調整の強化を確保するために十分な財政的・人的資源を備えた調整機関を設置するよう勧告する。

 広報及び研修
14. 本委員会は、選択議定書の規定に関する意識啓発活動が不十分であることに懸念をもって留意する。

15. 本委員会は、締約国政府に以下を勧告する;

  • 選択議定書の規定が、特に、学校カリキュラム及びキャンペーン等を含む長期的な意識啓発プログラムを通じ、特に子ども、その家族及び地域社会に対し広く普及されることを確保すること、
  • 選択議定書第9 条2 に従い、研修及び教育キャンペーンを通じ、選択議定書で規定される犯罪の有害な影響及び被害者が利用可能な救済手段についての認識を、子どもを含む一般市民の間で促進すること、
  • 選択議定書に関連する諸問題についての意識啓発活動及び研修活動を支援するため、市民社会組織及びメディアとの協力を発展させること。

16. 本委員会は、警察及び矯正機関を除き、専門家に対する選択議定書についての研修が不十分であることを懸念する。

17. 本委員会は、締約国政府が、選択議定書が対象とする犯罪の被害を受けた子どもとともに活動するあらゆる専門家団体を対象とした、選択議定書の規定に関する体系的なジェンダーに配慮した教育及び研修を強化するよう勧告する。

 資源の配分
18. 本委員会は、締約国政府の報告に、特に犯罪捜査、法的支援及び被害者のための身体的・心理的回復措置に関し、選択議定書を実施するための資源の配分に関する情報が含まれていないことを懸念する。

19. 本委員会は、締約国政府に対し、選択議定書の規定に関わるプログラムの実施、特に、犯罪捜査、法的援助及び被害者の身体的・心理的回復並びに社会復帰に対する使途を指定した上で人的資源及び財源を配分することも含め、調整、予防、促進、保護、ケア、捜査及び選択議定書が対象とする行為の抑止のため、関係当局及び市民社会組織に対する十分な予算配分を確保するよう奨励する。

 独立した監視
20. 本委員会は、国家レベルで選択議定書の実施を監視するための独立した機関の欠如に懸念を表明する。この点において、本委員会は、5つの地方自治体が子どものためのオンブズパーソンを任命したとの締約国政府からの情報に留意する。しかしながら、本委員会は、これらのオンブズパーソンの権限、機能、独立性及び有効性を確保するために可能である財政とその他の資源についての情報、並びに2002年人権擁護法案に基づき設置されることとなっていた人権委員会との想定される関係についての情報が欠如していることを遺憾に思う。

21. 本委員会は、締約国政府に対し、以下を勧告する;

  • 人権擁護法案の可決及び、国内機構の地位に関する原則(パリ原則)に従った国内人権委員会の創設を促進し、また、国内人権委員会に対し、条約の実施を監視し、不服申立てを受理・フォローアップし、かつ、子どもの権利の組織的な侵害を調査する権限を与えること、
  • 次回の報告において、オンブズパーソンに割り当てられた権限、機能及び資源についての情報を提供すること、
  • 独立した国内人権機関の役割についての本委員会の一般的意見No.2(2002年)を考慮すること。

22. 5つの地方自治体で子どものためのオンブズパーソンが任命されているという締約国政府の情報を、評価をもって留意しつつ、本委員会は、選択議定書の実施を監視する国内機関が存在しないこと、及び、それ以外の自治体ではオンブズパーソンがいないことを懸念する。

23. 本委員会は、締約国政府が、選択議定書の実施を監視するために国内機構の地位に関する原則(パリ原則)に従った国内機関を設置すること、及び、現在オンブズパーソン事務所がない地方自治体におけるオンブズパーソンの任命を確保するよう勧告する。

 市民社会
24. 本委員会は、選択議定書の実施に関するあらゆる分野で、締約国政府による市民社会との協力及び連携の水準が低いことを遺憾に思う。

25. 本委員会は、締約国政府に対し、選択議定書違反の被害を受けた子どもに十分なサービスを提供することに取り組むNGOを支援することや、政策とサービスの発展及び監視におけるNGOの役割を促進することを含め、選択議定書が対象とするあらゆる事項について市民社会との連携を強化するよう奨励する。

IV. 子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノの予防(第9条1及び2) 選択議定書に規定されている犯罪を予防するために講じられた措置
26. 本委員会は、子どもポルノ及び子ども買春と闘う締約国政府の努力を歓迎する。しかしながら、本委員会は、これらの犯罪が蔓延していることに鑑み、予防措置が依然として不十分であることを懸念する。さらに、本委員会は、選択議定書に規定された犯罪に関わっている組織犯罪と闘うために講じられた措置についての詳細な情報が存在しないことに留意する。

27. 本委員会は、締約国政府に対し、以下のことを奨励する;

  • 近隣諸国との連携及び二国間協定などを通じ、子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノを予防するための努力を強化すること、
  • 特に、国境を越えてこれらの犯罪を実行することを容易にしている技術的進歩を考慮に入れ、組織犯罪と闘うための行動計画の採択を検討すること、
  • 国連国際組織犯罪防止条約(2000年)の批准を検討すること。

28. 子どもポルノの所持が必然的に子どもの性的搾取の結果であることに鑑み、本委員会は、児童買春・児童ポルノ禁止法第7 条第2 項において子どもポルノを「特定少数の者に提供する目的で」所持することが犯罪化されているにもかかわらず、子どもポルノの所持が依然として合法であることに懸念を表明する。

29. 本委員会は、締約国政府に対し、選択議定書第3 条1(c)に適合する形で、子どもポルノの所持を犯罪に含めるよう法律を改正することを、強く促す。

V. 子ども売買、子どもポルノ、子ども買春及び関連する事項の禁止(第3条、第4 条2 及び3、第5条、第6 条及び第7 条)現行の刑法上の法令及び規制
30. 本委員会は、選択議定書に掲げられた犯罪が、選択議定書第2 条及び第3 条に基づいた形で締約国政府の刑罰法令に完全には網羅されていないこと、特に、子ども売買の定義がないことを懸念する。

31. 本委員会は、締約国政府が、選択議定書第2 条及び第3 条に完全に適合させるように刑法を改正するとともに、刑法が実際に執行されること、及び、不処罰を防止するために加害者の訴追を確保するよう勧告する。特に、締約国政府は以下の行為を犯罪化するべきである;

  • 性的搾取、営利目的の子どもの臓器移植、強制労働に子どもを従事させること、養子縁組に関する適用可能な法的文書に違反し、仲介者として不適切に同意を引き出して子どもを養子縁組させることを目的として、いかなる手段によるかにかかわらず、子どもを提供し、引き渡し若しくは受け取ること、により、子どもを売買すること、
  • 子ども買春の目的で子どもを提供し、入手し、周旋し又は供給すること、
  • 子どもポルノの製造、流通、領布、輸入、輸出、提供、販売又は所持、
  • これらのいずれかの行為の未遂及び共謀又はこれらのいずれかの行為への参加、
  • これらのいずれかの行為を広告する資料の製造及び領布

32. 本委員会は、出会い系サイト規制法の目的は子ども買春を容易にする出会い系サイトの利用を根絶するところにあるとはいえ、他のタイプのウェブサイトが法律で同様の規制対象とされていないことを懸念する。

33. 本委員会は、締約国政府に対し、あらゆるインターネット・サイトを通じた子ども買春の勧誘を禁止する目的で、出会い系サイト規制法を改正するよう勧告する。

34. 本委員会は、選択議定書に定める犯罪の様々な要素に対処するための措置を歓迎しつつ、児童買春の被害者が犯罪者として扱われる可能性があることを懸念する。

35. 本委員会は、締約国政府が、法律を適切に改正することにより、選択議定書違反の被害者であるすべての子どもが犯罪者でなく被害者として扱われることを確保するよう勧告する。

 時効
36. 本委員会は、刑事訴訟法において、選択議定書が対象とする犯罪の一部の犯罪の時効期間が短いことに、懸念をもって留意する。これら犯罪の性質や、被害者が通報をためらうことに鑑みれば、本委員会は、刑事訴訟法で定められた時効期間が短いことが不処罰の結果につながる可能性があることを懸念する。

37. 本委員会は、締約国政府に対し、選択議定書の下で犯罪を構成する行為についてすべての加害者が責任を問われることを確保するため、時効の規定の削除を検討し、あるいは、時効期間の延長を検討するよう促す。

VI. 被害を受けた子どもの権利の保護(第8 条、第9 条3 及び4) 選択議定書で禁じられた犯罪の被害を受けた子どもの権利及び利益を保護するために講じられた措置 刑事司法制度上の保護措置
38. 本委員会は、事情聴取のための別室が用意されていること及び証拠調べを非公開で行うことができることを含め、刑事訴訟手続において子ども被害者及び証人の権利及び利益を保護するためにとられている措置を歓迎する。しかしながら、本委員会は、選択議定書に基づく犯罪の被害者であって刑事手続の証人でもある者が、刑事手続及び司法手続全体を通じて十分な支援及び援助を受けていないことを懸念する。本委員会は、特に、子どもが証言を要求される回数を制限するための公式な取決めが十分でないこと、及び、口頭での証言に代えて録画による証言が刑事手続において認められていないことに、懸念を表明する。

39. 本委員会は、締約国政府に対し、以下を勧告する;

  • 繰り返し証言するよう求められることによって子どもがさらなるトラウマを受けることがないようにするため、当該分野の専門家と協議しながら、証人となる被害者の子どもに支援及び援助を提供するための手続を緊急に見直すとともに、同目的の達成のため、当該手続において口頭での証言ではなく録画による証言を使用することを検討すること、
  • 刑事訴訟法改正を含め、選択議定書第8条1及び「子どもの犯罪被害者及び証人が関わる事案における司法についての国連指針」(国連経済社会理事会決議2005/20)に従い、18歳未満のすべての子どもを対象として、被害を受けた子どもの権利及び利益を保護するための措置を強化すること、
  • 裁判官、検察官、警察官及び証人となる子どもとともに活動するその他の専門家が、刑事手続及び司法手続のあらゆる段階において、子どもにやさしい、被害者及び証人とのやりとりに関する研修を受けることを確保すること。

 回復及び再統合
40. 本委員会は、カウンセリングサービスの提供など締約国政府がこの点に関して講じてきた措置にもかかわらず、選択議定書に基づく犯罪の被害者を対象とした身体的及び心理社会的回復ならびに社会復帰のための措置が依然として不十分であることに留意する。

41. 本委員会は、選択議定書第9条3に基づき、特に、被害を受けた子どもに分野横断型の支援を提供することにより、また、必要な場合には、被害者の出身国との連携や二国間協定を通じて、身体的及び心理社会的回復と社会復帰のための措置を強化するために、使途を特定した資源配分が行なわれることを確保するよう、締約国政府に勧告する。

VII. 国際支援・協力
 国際協力
42. 本委員会は、締約国政府が、バリ・プロセスへの支援及び国際移住機関への財政援助を含め、選択議定書で禁止された性的その他の形態の搾取から子どもを保護することを目的とした多国間及び二国間の活動及びプログラムに対し財政支援を行なってきたことを称賛する。しかしながら、本委員会は、捜査ならびに刑事手続及び犯罪人引渡手続に関し、締約国政府と他の関係諸国との間における、手続のために必要な証拠の入手に関する支援を含む相互援助についての取決めが十分ではないことに留意する。

43. 本委員会は、締約国政府が、特に、被害者の身体的・心理的回復及び社会復帰とともに予防措置を促進することにより、選択議定書の規定に反して搾取された子どもの権利に対処するための活動への財政的支援を継続するよう勧告する。本委員会はまた、締約国政府が、捜査における相互援助について定めている既存のあらゆる条約又はその他の取決めに従って、締約国政府と他の国々との協調を強化するよう勧告する。

VIII.  フォローアップ及び広報
 フォローアップ
44. 本委員会は、特に、これらの勧告を関連省庁、閣僚、国会議員及び他の関係当局に送付して適切な検討とさらなる行動を求めることにより、これらの勧告が完全に実施されることを確保するためのあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。

 最終所見の広報
45. 本委員会は、選択議定書並びにその実施及び監視に関する意識を啓発する目的で、締約国政府が提出した第1回報告及び質問リストに対する文書回答並びに採択された関連勧告(最終所見)を、一般市民、市民社会組織、メディア、若者グループ及び専門家団体が広く入手できるようにすることを勧告する。さらに本委員会は、締約国政府が、特に、学校カリキュラム及び人権教育を通じ、選択議定書を子どもの間に広く周知するよう勧告する。

IX. 次回報告
46. 第12条2に基づき、本委員会は、締約国政府に対し、選択議定書の実施に関する更なる情報を、条約に基づく第4回・第5回をあわせた定期報告(提出期限は2016年5月21日)に含めるよう要請する。

(外務省仮訳2010年6月)
(助定由美子改訂版2010年10月3日)


■資料

子どもの権利委員会  第54回会期 2010年5月25日〜6月11日
 武力紛争における子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択
 議定書第8条に基づく政府報告審査

(訳注:本文中、特段の断りがない限り、条約は「子どもの権利条約」を、選択議定書は「武力紛争における子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書」を、本委員会は「子どもの権利委員会」を指す。)

1. 本委員会は、日本政府第1 回報告(CRC/C/OPAC/JPN/1)審査を、2010年5月28日に開催された第1513回会議(CRC/C/SR.1513 参照)において行い、 2010年6月11日に開催された第1541 回会議において以下の最終所見を採択した。


2. 本委員会は、締約国政府の第1回報告及び質問リストに対する文書回答(CRC/C/OPAC/JPN/Q/1/Add.1)の提出を歓迎する。本委員会は、領域横断的な代表団との建設的な対話を歓迎する。

3. 本委員会は、締約国政府に対し、この最終所見を、条約に基づく締約国政府第3回定期報告に対する最終所見(CRC/C/ JPN/CO/3)及び子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書に基づく締約国政府第1回報告に対する最終所見(CRC/C/OPSC/JPN/CO/1)と関連づけて読まれるべきものであることを注意喚起する。

I. 肯定的側面
4. 本委員会は、子どもの権利、特に武力紛争に関与し又はその影響を受けている子どもの権利の分野で活動している国際機関に対する、締約国政府の財政的貢献を歓迎する。

5. 本委員会は、締約国政府がそれぞれ以下の文書に加入、又は批准したことを称賛する;

  • 1949年8月12日のジュネーブ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書I) (2004年8月31日)、
  • 1949年8月12日のジュネーブ諸条約の非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書II) (2004年8月31日)、
  • 国際刑事裁判所ローマ規程(2007年7月17日)。

II. 一般的実施措置
 広報及び研修
6. 人権法及び国際人道法の普及に関する企画が軍隊に対して実施されているとの締約国政府の情報に留意しつつ、本委員会は、締約国政府が、通常の研修の一環として、又は国際平和維持活動に参加する際の準備において、自衛隊に対し、選択議定書の原則及び規定に関する研修を提供していないことを、懸念をもって留意する。本委員会はまた、徴兵され、又は戦闘行為に関与させられた可能性のある子どもとともに活動する専門家のうち一部の職種に属する者が十分な研修を受けていないこと、及び、選択議定書に関する一般市民の認識が低いことを懸念する。

7. 本委員会は、選択議定書第6条2に照らし、締約国政府に対し以下を勧告する;

  • 議定書の原則及び規定が一般市民及び政府職員に対して広く周知されることを確保すること、
  • 全ての軍事要員が選択議定書の原則及び規定に関する研修を受けることを確保すること、
  • 徴兵され、又は戦闘行為に関与させられた可能性のある子どもとともに活動するすべての専門家、特に教師、医療従事者、ソーシャルワーカー、警察官、弁護士、裁判官及びメディア担当者を対象として、選択議定書の規定に関する体系的な意識啓発、教育及び研修のプログラムを発展させること。

 データ
8. 本委員会は、締約国政府が、同伴者の有無別の子ども難民の人数、及び、締約国政府の管轄権内にいるこのような子どものうち徴兵され又は戦闘行為に関与させられた者の人数に関するデータを収集していないことを遺憾に思う。本委員会はまた、自衛隊の応募者の社会経済的背景に関する情報が存在しないことにも留意する。

9. 本委員会は、締約国政府に対し、根本的原因を特定し、かつ予防措置を整える目的で、締約国政府の管轄権内にいる子どものうち徴兵され又は戦闘行為に関与させられた者を特定し、かつ登録するための中央データシステムを整備するよう促す。本委員会はまた、締約国政府が、そのような慣行の被害を受けた子ども難民及び亡命を希望する子どもに関する、年齢、性別及び出身国ごとに分類されたデータが入手できるよう確保することを勧告する。本委員会は、締約国政府に対し、条約に基づく次回の定期報告において、自衛隊員として採用された者の社会経済的背景に関する情報を提供するよう求める。

III. 予防
 人権教育及び平和教育
10. 本委員会は、平和教育との関連も含め、あらゆる段階のあらゆる学校のカリキュラムで締約国が提供している具体的な人権教育についての詳しい情報が存在しないことに、懸念をもって留意する。

11. 本委員会は、締約国政府が、すべての学校児童を対象とする人権教育、特に、平和教育の提供を確保するとともに、これらのテーマを子どもの教育に含めることについて教職員を研修するよう勧告する。

IV. 禁止及び関連事項
 立法措置
12. 本委員会は、選択議定書に違反する行為を訴追するために児童福祉法、戸籍法及び労働基準法をはじめとした法律を適用できるという締約国政府からの情報に留意する。本委員会はまた、選択議定書に違反する行為は刑法上の様々な罪で告発できるとの締約国政府から提供された情報に留意する。しかしながら、本委員会は、軍隊もしくは武装集団への子どもの徴兵又は戦闘行為における子どもの使用を明示的に犯罪化した法律が存在せず、かつ、戦闘行為への直接参加の定義も存在しないことに対し、引き続き懸念する。

13. 子どもの徴兵及び戦闘行為における子どもの使用を防止するための国際的な対策をさらに強化するため、本委員会は、締約国政府に対し、以下の措置をとるよう促す;

  • 刑法を改正し、選択議定書に違反して子どもを軍隊又は武装集団に徴募すること、及び戦闘行為に子どもを関与させることを明白に犯罪化する規定を含めること、
  • 軍のすべての規則、教範その他の軍事上の指示が選択議定書の規定に適合することを確保すること。

国際裁判管轄権
14. 本委員会は、締約国政府の法制度に、選択議定書に反する行為に関して国際裁判管轄権の域外適用を想定した規定が存在しないことに留意する。

15. 本委員会は、選択議定書にて規定されている犯罪行為について、国際裁判管轄権の域外適用を認めるため、締約国政府が国内法を見直すよう勧告する。

V. 保護、回復及び復帰
 身体的・心理的回復に向けた支援
16. 本委員会は、子ども難民及び亡命希望申請をした子どもを含め国外で徴兵され又は戦闘行為に関与させられた可能性がある子どもを特定するためにとられた措置が不十分であること、及び、そのような子どもの身体的及び心理的回復並びに社会復帰のためにとられた措置も不十分であることを遺憾に思う。

17. 本委員会は、締約国政府が、特に、以下の措置を講じることにより、来日した亡命を希望する子ども及び子ども難民のうち、国外で徴兵され又は戦闘行為に関与した可能性がある者に保護を提供するよう勧告する。

  • 子ども難民及び亡命を希望する子どものうち、徴兵され又は戦闘行為に関与した可能性がある者を、可能な限り早期に特定すること、
  • このような子どもの状況について慎重に評価するとともに、選択議定書第6条3に従い、その身体的・心理的な回復及び社会復帰のための、子どもに配慮した分野横断的な支援を提供すること、
  • 移民担当機関内に特別に訓練を受けた職員が配置されることを確保するとともに、子どもの送還に関わる意思決定プロセスにおいて子どもの最善の利益及びノン・ルフールマン原則が主として考慮されることを確保すること。この関連で、本委員会は、締約国政府が、出身国外に出てから保護者が同伴しなくなったり子ども及び養育者から分離された子どもの取扱いに関する本委員会の一般的意見No.6(2005年)、特にパラ54〜60に留意するよう勧告する。

VI. フォローアップ及び広報
18. 本委員会は、締約国政府が、これらの勧告を、特に、防衛省、関係省庁、国会議員及び他の関連の政府関係権関に送付して適切な検討及び更なる行動を求めることにより、これらの勧告が完全に実施されることを確保するためにあらゆる適切な措置をとるよう勧告する。

19. 本委員会は、選択議定書並びにその実施及び監視に関する認識を促進する目的で、締約国政府が提出した第1回報告書及び本委員会が採択した最終所見を、一般市民及び特に子どもが広く入手できるようにするよう勧告する。

VII. 次回報告
20. 第8条2に基づき、本委員会は、締約国政府に対し、選択議定書及びこの最終所見の実施に関する更なる情報を、条約第44条に従って、条約に基づく第4回・第5回をあわせた定期報告(提出期限は2016年5月21日)に含めるよう要請する。

(外務省仮訳2010年6月)
(助定由美子改訂版2010年10月3日)

■資料

<日本政府代表団名簿>

外務省
人権人道担当大使 上田 秀明
総合外交政策局 人権人道課長 志野 光子
局付検事 入江 淳子
人権人道課事務官 増田 智恵子
在ジュネーブ国際機関日本政府代表部
大使
ほか公使4名
菅沼 健一

内閣府

政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(青少年支援担当) 西澤 立志
参事官補佐(  〃   ) 青木 勇司
参事官補佐(国際担当) 久保田 崇

警察庁

生活安全局少年課付 篠崎 真佐子

法務省

大臣官房秘書課付兼官房付 山口 修一郎
刑事局付 大谷 潤一郎
人権擁護局付 杉原 隆之
矯正局少年矯正課企画官 木村 敦
入国管理局審判課補佐官 中山 昌秋
大臣官房秘書課国際室係長 広田 奈保美
刑事局国際課法務事務官 篠崎 まどか

文部科学省

国際課課長補佐 田淵 エルガ

厚生労働省

雇用均等・児童家庭局総務課調査官 堀井 奈津子
大臣官房国際課課長補佐 星田 淳也
雇用均等・児童家庭局保育課主査 谷 俊輔

防衛省

人事教育局人事計画・補任課長 森 佳美
人事教育局人事計画・補任課総括班長 中西 礎之
人事教育局人事計画・補任課防衛部員 岩田 健司

■資料

<子どもの権利委員会委員名簿>

* chamber B(日本担当)の委員のみ掲載しています。
   出身国/性別/職業/専門分野等

 Azza El Ashmawy
 エジプト/女性

 Kamel FILALI
 アルジェリア/男性/国際法及び国際人権法教授/国立人権保護促進諮問委員会委員

 Maria HERCZOG
 ハンガリー/女性/大学講師/子どもの福祉と保護に関する研究

 Sanphasit KOOMPRAPHANT
 タイ/男性/バンコク子どもの権利保護センター所長

 Lothar Friedrich KRAPPMANN
 ドイツ/男性/教育社会学教授/Max Planck大学客員研究員(人間発達教育)
 /子どもの発達、教育領域に関する諮問会議委員/子どもの不平等に関する研究

 Marta MAURAS PEREZ
 チリ/女性/社会学者

 Awich POLLAR
 ウガンダ/男性/元少年兵/少年兵に対する社会的差別撤廃のためのカウンセリンググループ
 /少年兵の法的問題に関するADRの制度整備に従事/家庭裁判所で子どもに向けて法的援助サービスを提供

 Kamla Devi VARMAH
 モーリシャス/女性/弁護士/国立子ども協議会議長/Curepipe議会非常勤法律アドバイザー

 Jean ZERMATTEN
 スイス/男性/少年裁判所長/子どもの権利国際大学設立者及び学長


■資料

<参照ホームページ一覧>

 国連子どもの権利委員会ホームページ
  http://www2.ohchr.org/english/bodies/crc/crcs54.htm

 外務省ホームページ(児童の権利条約に関するページ)
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/index.html

児童の権利に関する条約及び選択議定書2本のそれぞれについて、全文、政府報告、事前質問に対する政府回答及び最終所見を閲覧できます。

 OPCCF(The Protestant Office for Couple and Family Counselling)ホームページ
  http://www.opccf.ch/

 ISSスイス(Swiss Foundation of the International Social Service)ホームページ
  http://www.ssiss.ch

 全司法ホームページ
  http://www.zenshiho.net/index.html

 DCIホームページ
  http://www.defenceforchildren.org

 DCI日本支部ホームページ
  http://www.dci-jp.com

 ハーグ会議ホームページ
  http://www.hcch.net/index_en.php?act=conventions.listing

ハーグ条約についての情報が閲覧できます。

 子どもの権利条約に基づく第3回日本政府報告及び武力紛争における子ども・子ども売買各選択議定書第1回日本政府報告に関する日本弁護士連合会の報告書
  http://www.nichibenren.or.jp/ja/kokusai/humanrights_library/treaty/data/child_report_3_ja.pdf


おわりに

 今回のジュネーブでの審査傍聴は、2006年に立ち上げられた「プロジェクト・ジュネーブ2006〜国連に届けよう全司法の声〜」が全国の組合員の声を集約し、基礎報告書にまとめて国連に届けた結果を確かめに行ったものでした。会場への入場制限など、予想外の出来事も起こり、緊張感の高い慌ただしい旅ではありましたが、なんとか、その成果を形にすることができました。現場の一人一人の声が、遠く国連の審査の場で大きな力となる過程を目の当たりにすることができたことを、本当に嬉しく感じています。
 今回の政府審査に向け、何年も準備を重ねてこられた少年法対策委員会の皆様、アンケートにご協力いただいた皆様、基礎報告書の作成に尽力くださった皆様、私たち5人をジュネーブに派遣するためにカンパを寄せてくださった皆様、本冊子作りにご尽力いただいた皆様、すべての方々にこの場を借りて深くお礼申し上げます。

                        
2010年 国連審査傍聴参加者一同
 
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