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少年法関連
 
〜プロジェクト・ジュネーブ〜
私たち全司法の声が届く
 
国連子どもの権利委員会第3回本審査への要請行動報告

 少年法対策委員会の、「プロジェクト・ジュネーブ−国連に届けよう全司法の声−」という活動を、ご存知でしょうか。今回、全司法から5人の家裁調査官がジュネーブで開催された国連子どもの権利委員会第3回日本政府報告に対する本審査の傍聴に行ってきました。

□ 子どもの権利条約とは

 「子どもの権利条約」は、1989年に国連総会で採択された子どもの権利を守るための条約です。この条約は大きく分けて次の4つの子どもの権利を守るように定めています。

  1. 生きる権利:子どもたちは健康に生まれ、安全な水や十分な栄養を得て、健やかに成長する権利を持っています。
  2. 育つ権利:子どもたちは教育を受ける権利を持っています。また、休んだり遊んだりすること、様々な情報を得、自分の考えや信じることが守られることも、自分らしく成長するためにとても重要です。
  3. 守られる権利:子どもたちは、あらゆる種類の差別や虐待、搾取から守られなければなりません。紛争下の子ども、障がいをもつ子ども、少数民族の子どもなどは特別に守られる権利を持っています。
  4. 参加する権利:子どもたちは、自分に関係のある事柄について自由に意見を表したり、集まってグループを作ったり、活動することができます。そのときには、家族や地域社会の一員としてルールを守って行動する義務があります。

 (http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig.html 「日本ユニセフ協会・子どもの権利条約」より)

 子どもの権利条約を批准した政府は、5年ごとに(第1回のみは、批准の2年後)、国連子どもの権利委員会(CRC)に対して、国内における子どもの権利の実現の様子を報告することが義務付けられます(子供の権利条約44条)。報告書には、その国における子どもの権利の実現の状況、前回の報告後の進展などが盛られます。CRCはまた、政府だけでなく、市民団体(NGO)による報告書(オルタナティブ・レポート)の提出も歓迎しています。NGOからの報告書も政府審査のための資料となります。つまり、政府のいっていることと、実際の現場からの声の双方を把握したうえで、子どもの実情を多面的に把握して、各政府との直接のやり取りをおこない(本審査)、その上で政府に対する勧告である最終所見(concluding observations)を発することになります。
 日本は、1994年4月に子どもの権利条約を批准しました。これは世界で158番目になります。これまで日本政府は、第1回、第2回の政府報告書を出し、審査を受けてきました。今回は遅れましたが、2008年4月に第3回の政府報告書が提出され、今回の審査が開かれることになりました。

□ プロジェクト・ジュネーブの具体的なとりくみ

 全司法少年法対策委員会は、6年前の日本政府に対する第2回の審査のときからNGO団体「第2回子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会」(以下、「つくる会」という。)に加わり、司法の分野についての基礎報告書「日本における少年司法の現状」(調査資料No.273)を作成して、国連に届けました。また、「つくる会」が作成する統一報告書の起草委員にもメンバーを出し、貢献しました。そして、2004年1月にスイス・ジュネーブで行われた本審査を、4人の調査官が傍聴しました(調査資料No.296参照)。
 今回の「プロジェクト・ジュネーブ」は、2006年に活動を再開しました。今回は、現場での実情をより具体的に伝えることを心がけ、まず全国の組合員に対してアンケートを取り、少年部・家事部を問わず、司法の現場における子どもの権利の問題点について多くの声を集め、まとめていきました。作業の状況は、「PG通信」として、ときどき報告をしてきました。
 2007年11月付けで、少年法対策委員会「プロジェクト・ジュネーブ」は基礎報告書「司法の現場に見る日本の子どもの実情」(調査資料No.333)を作成し、@少年事件の分野では厳罰化の風潮の問題点、再逮捕の不適切な運用などに表れている身柄拘束への抵抗感の消失や身柄拘束そのものの長期化を指摘し、専門職の不足、研修体制の欠如などを訴え、A家事事件の分野では養育費支払いの履行確保の点に絞って問題点を挙げました。少年法対策委員会は、基礎報告書のコンパクト版の英訳を進めると同時に、「つくる会」の統一報告書作りへ起草委員を派遣し、政府審査に備えました。
 そして、2010年5月27日、28日におこなわれた国連子どもの権利委員会の日本政府に対する本審査には、全司法から5名(いずれも調査官)が「つくる会」が企画した傍聴ツアーに参加してきました。この背景には、全国の組合員から寄せられたカンパの力がありました。

□ ジュネーブにおける本審査

 スイス・ジュネーブでは「つくる会」からの約80名と合流し、パレ・ウィルソンで審査を傍聴しました。審査は、国連子どもの権利委員会の委員から日本政府団が質疑を受けるという形でおこなわれました。日本政府団は、外務省を始めとする7つの省庁からの20名を超えるメンバーで構成されていました。子どもの権利委員会はチェインバーBの9人が日本の担当で、綿密な用意をして、審査に臨んでいました。通訳ブースでは国連の公用語6言語に日本語を加えた7か国語への同時通訳が、審査の全過程を通じて、着々と行われていました。質疑では、子どもの権利委員会委員から、日本の子どもの状況について、実に多くの指摘がありました。委員からの指摘や質問は、まさに矢継ぎ早で、応答の中に、すでに最終所見の筋道が浮かび上がってくるようでした。
 話題となったもののうち、国内法との調和の点については、子どものための法律がないこと、国内法に子どもの権利条約が反映されていないこと、国内の裁判に子どもの権利条約が生かされていないこと、などが指摘されました。教育の面では、激しい競争とふるい分け中心の選抜教育を背景としている中で、子どもの不登校や孤立感が生じているのではないかという投げかけもありました。
 また、外国人学校の高校授業料無償化の問題、性交合意年齢の引き上げの問題、婚外子の差別の問題、歴史教科書の問題、など、国内でも大きな話題となってきた点を含む色々なことがらが話題となりました。
 さて、肝心の、少年司法の分野では、2000年および2007年少年法「改正」の背景にある厳罰肯定の考え方をはじめ、日本の司法の場面における子どもの扱われ方について、多くの質問がなされていました。質問の内容は、どの国にも当てはまるような一般的なものではなく、現在の日本の制度を踏まえた、具体的で詳細なものでした。少年の身柄拘束中の成人との不分離の点については、子どもの権利条約37条(c)を日本政府が留保していることとも絡め、厳しい指摘がありました。
 養育費支払い義務の不履行の点については、母子家庭の状況の厳しさという視点からのアプローチがありました。ひとり親家庭への支援が十分でない状況であるのに、日本社会では親責任が強くなりすぎてはいないのか、などの指摘でした。そして、保育所など、建物や枠組みが作られるだけでは子どもの支援ができるわけではなく、子どもを支える人間関係の環境が整えられる必要があることなどが突き付けられました。

□ 選択議定書についての審査および最終所見

 今回の審査は、条約本体だけでなく、選択議定書についても行われました。選択議定書は条約に新たな内容を追加や補強する際に作られる文章で、条約と同じ効力を持つものです。子どもの権利条約には、国連総会で採択された2つの「選択議定書」が存在し、日本政府は、第2回審査が行われた後の2004年8月に「子どもの武力紛争への関与に関する選択議定書」、2005年1月に「子どもの売買、子ども買春及び子どもポルノグラフィーに関する選択議定書」を批准しました。したがって、今回選択議定書については初めて審査を受けたことになります。選択議定書についての政府審査は、2日目の5月28日に行われました。
 全ての審査が修了して2週間後の6月11日に、日本政府に対する最終所見が出されました。勧告についての詳細な報告は次の機会に譲ることとしますが、最終所見は、審査でのやり取りを踏まえて書かれたもので、全司法少年法対策委員が指摘していた内容もしっかりと組み込まれたと手応えを感じることができました。

□プロジェクト・ジュネーブを振り返って

 今回、全司法の活動である、このプロジェクト・ジュネーブに関与させてもらい傍聴に参加させてもらったことによって、日本の現行制度につき、どのような見直しの必要性があるのかを改めて感じることができました。
 また、このジュネーブにおける審査で、全司法が指摘した内容が国連の委員の口から出てくるところをこの目で見ました。それは、労働組合における地道な活動の積み重ねが、海を越えた国際的な場とつながっていっていることを目の当たりにする瞬間でした。世論として推し進められてきている厳罰化問題について、全司法こそが、少年に最も身近な第三者として、冷静な視点で見直しを提言していけるのではないだろうかと思いました。
 今回、政府審査の前日には、全司法からの5人は家事関係機関を見学したり、「つくる会」からの参加者と一緒になって、国連の議場を見学することもできました。国境を越えて他国の専門家と話し合ったり、国境をまたいで議論する場の空気を吸ったり、ほんの数日間のジュネーブ滞在でしたが、本当に得難い経験をしました。みなさまからの沢山の援助をいただき、参加させていただけたことを、改めて御礼申し上げたいと思います。

(ジュネーブ傍聴参加者一同)
 
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