おいでやす全司法
プライバシーポリシー  
CONTENTS 全司法紹介 司法制度改革 少年法関連 全司法大運動 全司法新聞 声明・決議・資料 リンク サイトマップ
  トップページ > 少年法関連 > 少年法「5年後見直し」にあたっての提言
 
少年法関連
 
少年法「5年後見直し」にあたっての提言
 
 私たち全司法労働組合は、裁判所の職員で構成された組織で、少年事件に直接たずさわっている家庭裁判所調査官や裁判所書記官、裁判所事務官などの多くが加入しています。そうした立場から、私たちは少年法の改正やその運用には、きわめて深い関心を持っており、2000年「改正」後の少年法の運用状況について、9回にわたり調査を実施してきました。2冊の冊子にまとめたその調査結果もふまえ、また、全国の組合組織にアンケート調査も実施した上で、ここに、少年法とその運用についての提言をまとめました。少年法「改正」5年後の見直しも近づいてきた今、日本の少年法を世界に誇れるような法律へと真に改正していけるよう、この提言をします。

1.重大事件=刑罰でいいのか

 故意の犯罪行為で人を死亡させるという重大事件を犯した少年に対しては原則として検察官送致とすることが2000年の少年法「改正」時に新たに定められましたが、この条項(少年法20条2項)は、少年法全体の中で特に異質なものです。
 そもそも、少年法の考え方は、少年が犯した非行事実の軽重だけではなく、その少年にとってどのような処分が必要であり、効果的であるかを考えて処分を決めていくものです。成人と同様に刑事裁判を受けさせた上で、刑事罰を科す検察官送致も、その少年にとってそれが相当である場合になされるのが、少年法の基本的な考え方です。
 ところが、この条項の場合のみは非行事実の内容によってまず原則として検察官送致とすることが定められ、「ただし書き」により規定された例外的な事由がある場合にのみ、少年院で矯正教育を施すなどの保護処分を選択し得ることになっており、原則と例外が逆転しています。
 この条項は、2000年の少年法「改正」論議の際、ちょうどその時期に起きたいくつかの少年による重大事件に対する世論及びマスコミの恐怖感や強い応報感情に反応して唐突に条文化されたとも言えるものであり、本来、上記の少年法の考え方に真っ向から対立するこのような規定はあるべきではないのです。
 もちろん、この条項が対象とする事件での、尊い人命を失わせたという結果は、非常に重大なものであり、事件を起こしたのが少年であるからといって、その結果の重み、問われる責任が減じられるものではありません。しかし、死刑という選択をするのでなければ、少年はいずれ社会に戻るわけですから、社会は、少年の更生、再犯防止に向けて努力をし、社会を犯罪から守っていく必要があり、司法機関は矯正機関等と共にその責務の一翼を担っています。一般的に、少年は、まだ成長していく過程にある年代にあり、可塑性に富んでいます。置かれた環境、受ける刺激によって驚くほどに変化していける力を内に持っています。とりわけ、重大な事件を犯すほどの状態である少年は、同年代の少年以上にまだ育っていない部分を持ったままである場合も多いのです。繰り返し自分のあり方を問われ、深く考えるよう指導され続ける少年院での処遇はこのような少年にとって、刑務所での生活よりも厳しい面があり、それだけ少年の更生にも再犯防止にもつながることになるのです。
 上述したような少年法の基本的な考え方及び成長過程にある少年の特質を踏まえると、たとえ被害者死亡の場合であっても、刑事処分か保護処分かの選択が法律の条文で一律になされることは非常に問題です。
 この条項の「ただし書き」は一定の事情を考慮した結果、刑事処分以外の措置を相当と認めた場合には保護処分での対応ができることを定めており、この「ただし書き」の存在によって、辛うじて刑事処分を選択することが相当でない少年たちに必要な保護処分の枠内での処遇をしていく可能性が残されています。「ただし書き」に該当する少年を専門的視点からきちんと選択し、有効な処分をしていけるようにする責任は、少年司法を実践する家庭裁判所に課せられています。この責任を全うするためには、家裁調査官によるしっかりとした調査が必要不可欠です。条文にはすでに「調査の結果」という文言が入ってはいますが、これが調査官調査を意味するものであることがさらに明確に記述されることが求められます。その上で、刑事処分が不相当である少年に対し、裁判所として自信を持って保護処分を選択していけるような運用を定着させていくことが今求められています。

2.刑事裁判手続における少年の権利保障

 少年の刑事事件においては、少年が真摯に裁判に臨み、自らの責任を自覚していける環境を整えるための各種の配慮がなされることが重要です。少年の情操が害されたり、十全に発達していく権利が阻害されるようなことがあってはなりません。しかし、現状では、少年であることに対する配慮などほとんどなされていないのが実情であり、改善されるべき点は多くあります。
 具体的問題点としては、まず、長期間の身柄拘束と、その拘束場所、及びその間の教育の問題が挙げられます。家庭裁判所での審理では、観護措置期間に明確な上限があり、身柄拘束は通常4週間、特別更新をしても8週間と制限されていますが、手続が地方裁判所に移ったとたんに身柄拘束期間の制限は事実上なくなってしまいます。未決勾留期間が1年程度に及ぶこともままあるのが現状です。10代の少年にとっての時間の流れは大人とは自ずと異なり、1日の重みも比べものになりません。その少年の身柄を拘束することに大人の側はより慎重であるべきであり、被疑者が少年である場合には、刑事裁判を迅速に行うよう特別な扱いをすべきであると考えます。
 また、この間、少年がおかれる場所は成人と同様、拘置所であり、少年にとって好ましい場所とは言えません。少年のみを対象とした施設である少年鑑別所を未決勾留期間の身柄拘束場所とできるよう、制度及び施設の整備が求められます。
 現在の少年法では14歳の義務教育期間中の中学生も刑事裁判を受けることになる可能性があります。非現実的な規定であり、実際に14歳で検察官送致となった例はまだないようですが、それより上の年齢であっても高校に通う年代の子どもたちです。日本ではほとんどの15歳が高校に進学していることを考えれば、刑事裁判の手続き中に一定の教育が受けられるシステムを作る必要があると言えます。
 刑事裁判は公開されることが原則ではありますが、これも少年に対しては、成人と全く同様に公開することは問題です。傍聴対象を被害者と報道関係者に限ったり、ついたてを法廷に設置するなどの工夫が求められます。少年の刑事事件を裁判員による裁判の対象とすることの是非、少年被疑者に対する特別規定の必要性も検討されるべきでしょう。

3.検察官関与事件における少年法の理念の堅持

 検察官が少年審判に関与するのは事実認定のために必要な限度と定められていますが、この5年の間には事実認定のためという枠を超えかねない運用も見られました。重大事件で非行事実についての争いがない場合でも、検察官からの関与申し出がなされたもの、検察官が少年審判の事実認定審理の場面に続き、要保護性審理の場面にまで立ち会ったもの、家裁調査官の少年調査票を含む社会記録を検察官が閲覧したものなど、法律の枠を超えた運用であると言えます。
 このような運用が重なれば、事実上検察官が要保護性審理に関わる事態となり、少年審判が刑事裁判化していくことが非常に危惧されます。
 もちろん、これ以上、検察官関与ができる事件の類型を広げないこと、検察官が関与することで審理期間(つまり、観護措置により少年が身柄を拘束される期間)が延びるようなことのないようにすることは、当然求められることです。

4.求められる適正迅速な捜査

 最近の傾向として、捜査機関が少年の長期に及ぶ身柄拘束期間に対して以前にも増して無神経になっているという問題があります。逮捕・勾留・家裁係属・再逮捕・勾留・家裁係属を繰り返し、家裁で処分決定をする頃にはすでに少年院での特修短期処遇(4か月以内)を終える程度の期間身柄を拘束されているような少年もまれではありません。捜査機関で勾留されている期間に少年が連日いろいろな取り調べを受けているとは限らず、1週間か10日のうちの1日だけ取り調べを受けたというような例も見られます。また、少年院送致後に逮捕され、少年院での指導が中断される場合も散見されます。
 きわめて重大だとまでは言えない程度の同種非行の繰り返しに対しても再度の逮捕が行われるような運用には疑問を感じます。もちろん、逮捕・勾留は最終的には裁判所が認めた上で行われているものであり、裁判所の姿勢も問題であると言えます。 勾留中の少年の身柄は代用監獄に置かれることが一般的ですが、捜査の利便性ばかり優先し、成人と一緒に拘束されることもある代用監獄を多用することは国際的にも批判を浴びている問題です。成人と分離した上での拘置所の利用、審判段階の少年と分離しての少年鑑別所の利用などの道筋が早急に検討されるべきだと考えます。
 捜査機関の捜査について私たちは以前から、自白に頼らずに、科学的な証拠を揃えておくことが非行事実を明らかにするための近道であり、自白偏重による冤罪を防ぐためには、いわゆる捜査の可視化が重要だと主張してきました。きちんと非行事実の認定をしていくためには、少年審判への検察官関与よりも、まずこのような捜査の改善がはかられるべきなのです。しかし、未だにそこには何らの手当もされてはいません。それでいて、一方では、不必要に捜査機関の権限強化・拡大をはかり、警察による触法少年・ぐ犯少年への無限定の介入をはかる新たな少年法「改正」法案が2005年に国会に提出されたことは、きわめて不当で大きな問題です。

5.家庭裁判所で行われている保護的措置の充実および法制化

 家庭裁判所に送致された少年事件の約7割は「審判不開始」または「不処分」で終局していますが、これを少年に対して何もしないままで放置しているように受け取る人は多くいます。ニュースなどで「大人の無罪にあたる不処分」など誤解を招く表現で報じられることが多いためとも考えられます。しかし、「審判不開始」「不処分」の大部分は、非行事実を認定し、大人で言えば有罪だが、家庭裁判所の教育的措置や保護的措置によって、あるいは学校や職場の教育的対応、地域社会による保護的対応、少年や保護者の非行後の変化などを考慮して、保護処分に付さなくても少年自身や、周囲の大人たちの力で、立ち直りが期待できると判断されたものなのです。大人の無罪にあたる「非行なし」による「審判不開始」「不処分」は、「審判不開始」「不処分」全体の1%足らずしかありません。このように本当は、保護処分にせずに終局させる事件でこそ家庭裁判所がその機能を発揮しているとも言えることについてはあまりにも社会的に認知されていません。
 調査面接での家裁調査官との対話、審判での裁判官からの訓戒などの中で家庭裁判所は少年たちに対して積極的に働きかけを行い、少年たちが(保護処分によらなくても)自ら自分の道を見定めて行けるよう日々努力しています。家裁調査官は少年の学校や職場などと連絡を取って受け入れの調整をしたり、被害弁済について助言をしたり、試験観察をして数か月にわたってその少年と継続的に面接を続けたりし、少年それぞれが抱える問題や特徴を理解した上で、その少年に対する適切な働きかけを工夫しています。その結果が「審判不開始」であり、「不処分」なのです。老人ホームなどでのボランティア活動、地域の美化活動、シンナー・無免許運転等の危険性についての講習、各種の合宿、保護者同士の話し合いの会、被害者の声を聞く会など、各地でさまざまな工夫がされ、実践もされていますが、このような保護的措置、あるいは保護者への措置については今後さらに工夫していくことと合わせ、広く一般に認知されるような社会に向けての発信も必要です。家裁における教育的な各種指導である保護的措置を条文化することも含め、検討されるべきだと考えます。
 なお、本来、少年事件ではすべての事件が家裁に送致され、審理されることになっていますが、警察のいわゆる「署限り」という扱いで事件が立件されないまま警察官の説諭だけで終わったり、送致されるにしても「簡易送致」という送致書のみの簡便な様式によって家裁に送致され、家裁はごく一部の例外を除くと、調査・審判等による手当てを何もしないままに終了している場合が少なからずあります。大きな事件を犯した少年で、初回係属が簡易送致事件であることは多く、初期の軽微な非行の段階で、必要な手当てができていたら、その後の重大な事件を防げたかもしれないと考えられます。初期の非行の段階から家裁が十分な手当てをしていける運用が強く求められます。

6.被害者対応の充実に向けた検討

 2000年の少年法「改正」の結果、少年事件の被害者は少年事件手続への一定の関与や情報の入手が可能になりました。しかし、現実には、認められた各種の制度についての広報は行き渡っておらず、被害者が何も知らないままに加害少年の家庭裁判所での審判手続が進行していってしまっている場合も多いのが実情です。広報が不十分であることは国(特に家庭裁判所)の責任である部分が大きく、早急に改善されるべきです。
 広報が行き届いたとしても、現状の制度は、被害者からすれば、まだまだ少年審判に関われる度合いが少ないものです。少年審判を非公開とすることを維持した上で、いかに被害者が真に知りたい情報を得、裁判所あるいは少年に伝えたいことを伝えていけるか、そのためにはどのような制度を取り入れるべきかなど、さらに検討し、工夫していく必要があります。

7.あらゆる段階での処遇の多様化と具体的充実策の提起 

 2000年の「改正」少年法も、2005年に国会に提出された新たな少年法「改正」法案も、事案の内容をより重視し、処分を厳しくすることで非行少年、触法少年に対応していこうというものです。
 しかし、こうした大人社会の姿勢はその場しのぎの自己満足にしかなりません。少年事件の問題は決して子どもたちだけの問題ではなく、むしろ、われわれ大人たちがどのように子どもたちに接し、育んでいくかという大人及び社会の側の姿勢の問題です。現在、ほんとうに子どもたちに必要なことは、いろいろな情況にある子どもたちそれぞれに適した処遇ができるような態勢を整えることです。少年それぞれが抱える問題が多様であるのに対し、社会が用意できている施設なり処遇なりのバリエーションは非常に限られています。処遇を充実させるためには、一定の資金は当然必要となりますが、子どもたちを育てるために大人である私たちには、手をかけて環境を整え、子どもたちの心を育んでいける社会をつくる責任があるはずです。
 具体的に充実させるべき処遇の内容としては、例えば、以下のようなものが考えられます。

(1)児童相談所の充実

 児童相談所は児童虐待への対応に精一杯で、非行少年や問題行動のある子どもたちには十分に手をかける余力がないのが現状です。子どもの起こす問題に早期に地域として福祉的な対応をしていく機関として児童相談所の役割はとても重要であり、児童福祉司の増員、専門性の向上が強く求められます。

(2)児童自立支援施設の増設と充実

 各地の児童自立支援施設の状況には地域により大きな差があります。常に満員で本来入所すべき少年が入れない事態となっている施設がある一方で、かなりの空きがある施設もあります。児童自立支援施設での処遇の必要な少年が全員そこでの処遇を受けられ、その処遇が充実したものであることが望まれます。 また、現在、強制措置をつけられる児童自立支援施設は全国で男女各1施設ずつしかなく、明らかに不足しています。長期の処遇が可能な児童自立支援施設や、発達障害に対応できる児童精神科医が常駐する施設などの多様性も求められます。

(3)少年の更生を支援する多様な通所・居住施設の新設

 自立援助ホームあるいは補導委託先など、家庭内では安定した生活ができない少年たち  が自立していけるまで生活できるような施設が不足しています。現在、この種の施設につ  いては、民間の篤志家により運営されていますが、さらに充実させる必要があり、公的な施設の新設も含めて考えることが望まれます。

(4)少年院の増設と充実

 少年院は過剰収容状態が続いており、現状のままでは処遇にも支障を来すほどの状態です。施設増設と職員の増員が強く求められています。

(5)帰住先のない少年用の少年院仮退院後の住居となるべき施設の設置

 この種の施設は全体的に不足しており、特に少年のみを対象としているものは限られています。成人と共用の施設では、少年たちはなかなか落ち着いた生活ができません。家庭が少年の受け入れ先にならない場合、帰住先がないことで、仮退院時期が遅れ、そうした経緯が少年の更生意欲を削いでしまうことにつながっています。

(6)少年刑務所での処遇の充実

 刑務所に入ってそこで何年かを過ごすことになった少年に対するプログラムが整っていません。少年院での教育を受けた後に少年刑務所に移るようなシステムにしたり、刑務所内でも現在よりいっそうの働きかけができるようになることが望ましいと考えます。

(7)保護観察の充実

 2005年に国会に提出された少年法「改正」案では、保護観察での遵守事項を守らない場合に少年院送致を可能にするという内容が盛り込まれましたが、本来、保護観察に必要なことは、このように少年たちに脅しをかけるような改正ではなく、保護観察官、保護司の増員であり、さらなる専門化です。

(8)家庭裁判所の充実と家裁調査官の増員

 家庭裁判所でどの少年にも適切な対応をし、保護処分が必要な少年に対しては、その少年に適した保護処分を選択していくために、家庭裁判所の一層の充実は不可欠です。そのために重要なのは家裁調査官の存在であり、その大幅な増員は不可欠です。もちろん、家裁調査官だけでなく、少年事件に関わる裁判官、書記官などの家庭裁判所職員の増員も強く求められます。

以上
 
ページの先頭へ