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少年法関連
 
第8回「改正」少年法運用状況調査結果まとまる
 
   全司法本部少年法対策委員会では、2001年4月から少年法が改正されたことを受け、その後の「改正」少年法の運用状況の調査を定期的に行っています。
 「改正」少年法の第8回運用状況調査は、2004年1月から6月末までの「改正」少年法の運用状況を全国的に調査したものです。2004年10月31日現在、全国50庁の家庭裁判所のうち42庁から回答を得ています。

1.検察官関与事件

検察官関与決定のあった事件 8件
検察官から関与の申出があって関与決定がなかった事件  0件

 ・否認の態様
  全部否認 4件(50.0%)
  一部否認 3件(37.5%)
  否認なし 1件(12.5%)
 ・うち合議 2件
 ・審理期間  28日を超える観護措置は4件(特別更新後、取消し事例あり)
 ・審判期日の回数  6回、5回、4回が各1件、3回が2件 、係属中2件、不明1件

<各地からの声(順不同:以下同じ)>

  • 検察官の取調べの任意性、信用性が争われていたので少年は何を聞かれるかびびっていたが、検察官の質問は二つ三つでほとんど話さず特に問題はなかった。付添人は刑事裁判手続きのように細かいミスを指摘する主張をしたり、少年は悪かったと思っていても付添人が無罪を主張するとか、少年は抗告しないと言っていたのに付添人がしたとか、付添人のあり方について疑問を感じた。
  • 共犯少年との2名による事件で、少年は認めたが共犯少年は全面否認し、少年の供述の信憑性が争点となった。少年には、複数の事件が係属しており、す べてについて事実を認めていたが、審理の途中で一部についてアリバイがある ことが判明し、少年の供述全体の信頼性や警察の捜査方法が問題となった。裁 判所の要請で少年、共犯少年双方の事件審理に検察官が関与し、観護措置の特別更新が行われた。共犯少年については、少年の審判結果の確定を待って審理が行われたため、途中で観護措置が取り消され、少年は最終処分決定後に参考人として出廷した。付添人の厳しい追及を受けて動揺が大きく、情緒面の配慮が必要と感じた。録音反訳のため法廷が使用されたが、裁判官の席を少年と同 じ高さにする配慮をした。
  • 全面否認事件だったが、少年は緘黙(かんもく)症に近く、日常的に大人との会話が困難で裁判官の質問にも答えられないことから検察官が直接質問することはなかっ た。しかし、検察官は付添人申請の証人には厳しい尋問をし、証人がたじろい  でいた。一般論として、少年が検察官の尋問に耐え得るか疑問や不安を感じた。
  • 2名共犯による重大事件で、共謀関係や一部の事実関係を否認したため、検察官の申し出で関与がなされた。審判は刑事裁判のような雰囲気だった。また、  審判前には少年調査記録が検察官と付添人に開示された。

<解説と問題点>

 検察官の関与があったものは全体で8件あり、そのうち検察官からの関与申出があったものは4件で、関与申出はあったが関与決定とならなかったものはありませんでした。20条2項該当による原則検察官への送致事件(以下、原則検送事件)を含む重大事案が多く、6件が裁定合議で審理されていることから、事案解明に重点が置かれ、慎重な審理が行われていることの表れと考えられます。しかし、16歳以下が6件を占めている上、法廷の使用や雰囲気について審判の刑事裁判化を憂慮する指摘もあり、少年への配慮が強く求められます。
 また、今回は、審判前に少年調査票を検察官に全面開示したとの報告が初めてありました。検察官はあくまで事実認定手続きに関与するのであり、要保護性の資料である少年調査記録を閲覧する必要はありません。少年調査記録の閲覧は、検察官が要保護性審理に立ち入る運用に通じかねないものであり、今後、同様の運用がなされないように警戒する必要があります。

2.裁定合議事件

裁定合議があった事件 10件

<解説と問題点>

 裁定合議になった事件の内容を見ると、原則検送事件や検察官関与事件、否認事件の他、少年への配慮のため男女裁判官の合議にしたものや新任の裁判官のために合議にしたと考えられるものもありました。検察官関与事件同様、慎重な審理を行おうとする姿勢がうかがえますが、裁判所の都合だけで合議とするのでなく、多数の大人が関わることで審判の雰囲気が変わってしまうことに十分配慮する必要があります。 

3.原則検察官送致(20条2項該当)事件

原則検送事件 35件

原則検送事件の審判結果
 ・検察官送致 26件
 ・医療少年院 2件(相当長期1、比較的長期1)
 ・中等少年院送致 7件(相当長期2、比較的長期1、長期3、特修短期1)

<各地からの声>

○「ただし書き」により検送にはならず、少年院送致となった事件

  • 主犯格の影響下、見張り役のみで手を出していない。
  • 成人が主犯で少年は追従的関与。
  • 成人共犯による強制が背景にあり、被害者も厳罰を望まなかった。
  • 少年は実行行為がなく従属的関与に留まった上、要保護性が高かった。
  • 被害者に慢性疾患があり、少年の暴行が少なかった。
  • 被害者が家族で遺族が軽い処分を希望した。
  • 被害者から他の家族も迷惑を受けており、遺族は処罰は望まなかった。
  • 周辺住民らの多数の嘆願書が提出された。
  • 本件以外に非行歴がなく再非行の可能性が極めて低くかった。
  • 系統的で個人的処遇によって本件の重大性や少年の問題点に向き合うことが必要と考えられた。
  • 精神鑑定の結果、医療措置が必要と判断された。

<解説と問題点>

 今回は、35件のうち検察官送致は26件で検察官送致率は74%、前回係属中の在宅送致事件14件を加えても66.7%と、前回に引き続いて高い検送率が続いています。原則検送事件の在宅送致はきわめて例外的なものと考えられ、急激に検送率が上昇した前回の流れを引き継いでいることから、運用に大きな変化があったと考えられます。
 ただし書きが適用された主な理由も、関与の程度や経緯といった事案評価によるものや被害者感情を挙げたものが多く、少年の要保護性を重視したものはありませんでした。「厳罰化」が定着したと言うべき結果で大きな問題です。こうした運用を続けることで、20条2項のただし書きがほとんど適用されない条文となる危惧を感じます。少年法の理念と、検察官送致によって少年の更生が果たされうるのかをしっかりと確認する必要があります。

4.15歳以下の検察官送致

該当事件はありません。 

5.観護措置

<解説と問題点>

○観護措置の延長

 4週間を超えて観護措置が執られた事件の報告が15件ありました。
いずれも否認事件だったことが理由となっており、最長は51日間で3回の審判となっています。特別更新が行われたにもかかわらず、審判が2回以下のものも2件報告されており必要性に疑問のある運用です。検察官関与事件は、9件中4件が特別更新されており、審判に多くの人が関わることで審議期間が伸びる傾向があります。また、年末年始に係属し、日程調整が困難なことが影響したという指摘もあり、必要最小限の身柄拘束期間で審理を終えられるよう、裁判所の人的な充実が求められます。審議期間が長引いた結果、一人の少年に対する審理の間に検察官が2回交替した事案もありました。

○異議

 異議が認められた事案について、その後の調査の中で少年の問題性が明らかになった事案が報告されています。観護措置段階での限られた情報の中で、少年の要保護性すべてを判断することは不可能ですし、裁判官によっては、観護措置の判断が事案中心になっているとの報告がありました。

6.被害者からの申し出

<解説と問題点>

 多数による共犯事件で、少年の住所の関係で審理を担当する裁判所が違うために、意見聴取の機会を調整して被害者の負担を減らすよう配慮した報告や、被害者の閲覧を前提に詳細な審判書を作成したり、閲覧謄写と被害者調査の日程を合わせるなど、現場において配慮へのとりくみが行われています。また、本来は目的が異なっている被害者調査の形をとりながら、内容は意見陳述と重なり合う運用も見られます。それは、被害者が被害者調査と意見陳述のために、2回家庭裁判所に出向かなければならなくなることを避けるための配慮が行われているとも考えられます。そうした一方で、共犯少年が別の裁判所で審理されたところ、裁判所によって結果通知への対応が異なるとの苦情が寄せられたとの指摘もありました。
 被害者への配慮に関する制度については、以前から事件記録の謄写費用が高いこと、本人確認の煩(わずら)わしさ、あるいは制度自体の広報活動が十分でないこと等が問題点として指摘されており、被害者にとって利用しやすく、裁判所にとっても分かりやすい統一的なガイドラインと運用を支えるだけの人的、物的な充実が必要です。

7.まとめ

 特に原則検送事件の運用に象徴されるように、前回調査と今回調査を通じて、少年審判の運用に大きな変化が表れています。厳罰化、手続き重視の傾向がはっきりしています。証拠調べや検察官送致、裁定合議など事実認定の厳密化に伴う手続きを重視すればするほど、手続きに関わる人が増え、調整が複雑化して、手続きを進めることに労力がかかります。それに対して、限られた人員によって対応しようとすれば、少年の身柄拘束期間を延長するなど、少年の福祉を損なう結果を招きます。

 少年法は少年の健全育成を目指すものであり、少年審判もその法の趣旨に沿って、少年の成長に役立つように準備され、機能していくべき手続きです。事実認定手続きを厳密に行うことで少年が自分の行為について裁判所がしっかり審理してくれたと納得し、その事実認定を受け入れた上で要保護性審理に真剣にとりくみ、自分の生き方を考えるようになるのであれば、事実認定の厳密化は少年の更生に役立ちます。

 しかし、現状は手続きの厳密さが自己目的化し、その運用に担当者、付添人が振り回され、少年が置き去りにされているのではないでしょうか。再度、少年法の理念を実現するために、刑事裁判を受けた少年の更生も視野に入れながら、どのような運用が必要か検討する必要がありますし、手続きの厳密化による少年の不利益を軽減するために人的な手当てが必要です。

 現在、触法少年(事件を起こした14歳未満の少年)や虞犯(ぐはん)少年(保護者の正 当な監督に服しない性癖があるなど一定の事由があって、性格、行状等から判断して、将来は罪を犯したり、刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年)に対する警察の権限強化や新たな事件がなくとも遵守事項違反のみで保護観察中の少年を少年院に送致することを可能とする内容が盛り込まれた少年法等の一部を改正する法律案が国会に提出されています。これらは、まさに手続き重視と目の前の出来事ばかりに注目して、少年の健全育成を脇に追いやった厳罰化の流れです。

以上
 
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