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少年法関連
 
資料 第3回改正少年法運用状況調査の結果と分析
2002年 4月15日
全司法本部少年法対策委員会
 

 全司法本部少年法対策委員会では、2001年4月から少年法が改正されたこと を受け、その後の「改正」少年法の運用状況の調査を定期的に行っています。 第3回「改正」少年法運用状況調査は、2001年9月から12月末までの改正少年 法の運用状況を全国的に調査したものです。2月21日現在、全国50庁の家庭裁 判所のうち42庁から回答を得ています。 以下、調査結果の分析概要をまとめましたので参考にしてください。

1.検察官関与事件

検察官関与決定のあった事件 8件
検察官から関与の申出があって関与決定がなかった事件 4件

否認の態様  全部否認 5件(62.5%)
一部否認 2件(25%)
否認なし 1件(12.5%)
うち合議  1件

否認の態様

    審理期間  28日を超える観護措置は3件(54日、50日、43日)
    審判期日の回数  5回が3件 2回が2件(係属中が3件)

<各地からの声(順不同:以下同じ)>

  • 検察官は分かりやすく証人に質問していた。検察官が関与したことで審判の 印象が大きく変わるということはなかった。
  • 検察官は少年への質問の際には努めて平易な言葉で話していた。ただし、 事実認定では法律解釈になり、難しい法律用語を三者(裁判官、検察官、付添人) が用いたため、刑事裁判的になり、少年と保護者はその場では理解できなかっ たようである。

<解説と問題点>

○検察官関与制度
 改正少年法が施行される以前は、家庭裁判所の少年審判に検察官が立ち会う ことはありませんでした。付添人(主に弁護士)が選任された場合は付添人も事 件に関与し、審判にも参加していましたが、あくまで少年の健全育成を助けるた めの働きかけに眼目が置かれており、成人の刑事裁判の弁護とは性質が異な るものでした。 改正少年法では、「非行事実の認定上問題がある事件について、より適正な事 実認定をするため」として少年事件への検察官関与の制度が新設されました。 しかし、検察官の審判への立ち会いは少年審判の良さを失わせる危険性をはら んでいます。審判の場で多くの大人に囲まれて、追いつめられるような雰囲気になれば、少年は自分の言葉でじっくり語ることが困難となり、審判を通して少年が 自分の行為をしっかりと振り返る効果が期待しにくくなります。

○検察官関与の運用の広がり
 否認の態様については、「身に覚えがない」という全面否認もありますが、 殺意の否認、強姦事件での和姦の主張といった否認が主流になっています。 今回の調査でも前回の調査に続き、少年が否認していない事件で検察官 が関与したケースがありました。このケースでも事実認定で問題となる点が まったくないわけではなかったようですが、「事案が重大だ」ということが検 察官関与の大きな要因となったと考えられます。検察官の側からは、重大 な事案での関与申出は多いかもしれませんが、実際に検察官が関与する のは少年が否認していて、その事実認定が非常に大変だ、という場合に限 られるべきです。事案の大きさに引きずられて、安易に検察官を関与させる 運用が広がることは、少年審判の刑事裁判化につながり、とても危険なこ とだと考えられます。

○審判の雰囲気
 審判での様子については、証人や少年への質問の場面で検察官も平易な 言葉の使用を心がけているようです。しかし、法律解釈などが問題となる 場面では、専門的な法律用語が飛び交い、少年や保護者は事態が理解で きないままに審判が進むということが起きており、少年があくまでも主役と して審判の場にいられるような審判運営の工夫が必要だと考えられます。

○合議との関係
 今回報告された事例では、検察官関与のあった事例で合議決定があった ものは1件しかなく、これは評価すべき傾向だととらえられます。基本的に は審判に関わる大人の数を増やすと、その審判に対しての社会の納得を 得たり、公正らしさを社会にアピールすることにはなっても、少年が自分自 身を素直に表現し、審判の場で自分の生き方について深い感銘を受ける などの効果に結びつく審判にはなりにくくなります。検察官関与の有無と合 議の必要性については別々の観点から検討されるべきものであり、安易に セットで考えるような運用にはならないように考えていくべきものと思います。

○付添人活動
 今回報告された事例の中に少年はあまり否認していないが、付添人が争う 姿勢をはっきり出していたと思われるものが複数見られました。もし、付添 人の中に少年の実際の気持ち以上に事実認定を強く争うことで、少年の 処分を軽くすることを目指すような(刑事裁判的な)動き方が少年事件の付 添人としての役割だと考えるような人がいたとすると、その審判で少年にマ イナスの影響を与えるだけでなく、少年審判全体にも大きなマイナスの影 響をあたえることになります。付添人には、少年の気持ちを十分に理解し、 あくまでもその少年の気持ちに沿っての活動をしてもらいたいと思います。

2.裁定合議事件

裁定合議があった事件 8件

<各地からの声>

  • 裁判官は合議体での検討内容を明かそうとはせず、担当調査官は審判まで 検察官送致見込みか保護処分見込みか、ほとんど分からなかった。
  • カンファレンスがなかなかできなかった。

<解説と問題点>

○裁定合議
 これまで少年事件の審判はすべて裁判官1人で行われてきましたが、今回の 改正で家裁の少年事件に初めて合議制が導入され、3人の裁判官が担当する 場合もでてきました。新しい制度であるため、裁判官も調査官も合議という態勢 の中でどう動いたらいいのかを模索しているところです。特に合議事件のカンファ レンスのあり方について、一部で問題になっているようです。カンファレンスとは 事件の調査・審判を進めるにあたり、裁判官、調査官、書記官など、その事件の 担当者が情報や意見の交換をすることです。これまでの家裁の審理のなかでは、 裁判官と調査官が率直に意見を表明し合い、議論をし、問題点についての認識を 共有しながら少年の処遇について考えてきています。

○問題点
 前回調査に続き、合議体とのカンファレンスのしにくさ、意思疎通のはかり にくさが報告されています。調査の進め方や審判への調査官のかかわり方 などを効果的に行うためには裁判官とのしっかりした意見交換はどうしても 必要になります。 事例を重ねながら、担当者間で漏れなく情報を共有し、必要十分な意見交 換ができるようにしていくことが求められていると言えます。

3.原則検察官送致(検送)該当事件

原則検送該当事件 17件

原則検送該当事件の審判結果
 ・検察官送致 12件
 ・少年院送致  5件(特別少年院1 、中等少年院相当長期3、中等少年院短期1)

<各地からの声>

○検送決定になった事件

  • 少年に同情すべき点が多かったが、原則を越えられる理由とはされずに検送 となり、担当調査官としては残念であった。
  • 共犯事件であるが、少年の暴行の程度がごく軽微であったため、検送するか 保護処分にするかが問題になった。結局は検送の決定が出た。 ・法改正前でも検送相当と考えられた事案であった。
  • 凶悪事件であったため、検送については特に問題なかった。

「ただし書き」により検送にはならず、少年院送致となった事件

  • 少年の情状面が大きく評価された。自首したこともあり、社会の関心が乏しく、 社会的影響をさほど考慮しなくてもよかった。非行に直面させるには少年院の教 育の方が有効と考えられた。事案の重大性と少年の資質の問題との両面から、 「相当長期」の処遇勧告がついた。
  • 関与の程度が低かった。非行歴がなく、非行性が進んでおらず、矯正教育で 更正が可能な少年であった。

<解説と問題点>

○原則検送事件

  「故意の犯罪行為で人を死亡させた少年については事件を検察官に送致して 刑事裁判、刑事処分を受けさせる」との規定が今回の改正で盛り込まれましたが、 この規定には、「ただし書き」があり、調査の結果、犯行の態様、少年の性格など から刑事処分以外の措置が相当と認められるときは保護処分等を考えることに なっています(少年法20条2項)。事案の重大性だけから単純に検察官送致をす る扱いが一般化するようでは、少年一人ひとりの問題に対処していこうとする本 来の少年法の理念が危うくなるので、このただし書きがどのように実際の運用で 使われるかが重要になります。

○厳罰化への危惧

 原則検送該当事件の約70%(17件中12件)が検察官送致になっています。 少年院送致になっている事件についても、1件を除き特に長期間の処遇を 求める処遇勧告がつけられています。該当事件の中には、「改正前でも検 送相当と考えられた事案」もありましたが、「少年に同情すべき点が多く、 検送は調査官として残念だった」というものや、「暴行程度がごく軽微だった ため、検察官送致するか問題となったが、結局検送となった」というケース もあります。いわゆる「厳罰化」の傾向は、明確に現れていると言えるでしょう。

○裁判官や付添人の姿勢

 裁判官の姿勢の変化として20条2項の原則を重視し、ただし書きの適用に かなり慎重になっていることが報告されています。そして、この規定の影響 もあってか原則検送に該当しない事件でも検送を選択しやすくなっている 傾向も見られます。 また、付添人が当初から「20条2項は検察官送致」という姿勢である様子も 報告されています。

○ただし書きの適用

 今回の調査結果でも、報告のあった事例の約30%(17件中5件)ではあり ますが保護処分が選択されており、その決定理由も「事件への関与の度 合いが低い」といった外形的な事情によるものばかりではありません。少年 自身の抱える問題を重視して刑罰よりも矯正教育が選択されたという事例 も見られます。前回の調査の際には、事件受理段階では当然検送だと考え ていた様子の裁判官が、調査が進むうちに保護処分に傾き、保護処分決 定をしたというケースも報告されていました。

○調査結果の処遇への活用

 保護処分となった場合には、調査の結果が処遇機関に引き継がれ、処遇 の中で活かされます。ところが、検送後に少年が刑事処分を受けることに なった場合には、調査結果が処遇に活かされていないというのが現状です。 調査結果をより有効に活用し、刑事処分を受ける少年の処遇にも役立てら れるよう、今後、方策を検討していくことが重要だと考えられます。

4 被害者からの申出

<解説と問題点>

○被害者の意見陳述

 今回の法改正で、被害者は家裁に対し、被害に関する心情、その他、事件 に関する意見の陳述ができるようになりました。被害者からの意見の聴取 は裁判官または調査官が行っています。これまでのところ特に大きな問題 は起きていないようですが、意見聴取を担当した人から、家裁の側が「ただ 聞く」ということだけでは被害者に不満が残るのではないか、加害少年のこ とについて質問されたらどこまで答えていいのか、被害者が家裁で得た情報をどこかに漏らすことはないか、などの疑問や不安も出されています。

○広報活動

 意見聴取や記録の閲覧などの被害者のための制度が十分利用されていな いのではないかという指摘もあります。PR不足のために、本来は申し出を する気持ちのある被害者が制度を知らないままに、なにも家裁に連絡をし てきていないのではないかという疑問です。被害者への配慮を充実させる 規定は、被害者が(利用するかどうかはともかく)その存在を知って初めて 意味をなすものです。 広く一般に広報することと、実際に事件が起き、ある人が被害者となった際 に関係機関等を通して、具体的に手続きの説明がなされるようにすることの 両方の働きかけを、現在よりも思いきって充実させることが必要ではないで しょうか。

5.観護措置

<解説と問題点>

○観護措置の延長

 少年を鑑別所に収容する観護措置については、通常は4週間以内と決めら れていますが、今回の改正により、非行事実の認定のために証人尋問など を行う場合に限り、必要があれば、8週間まで延長できるようになりました。  今回の調査では、事実審理のために観護措置を4週間を超えて更新した という事例は13件報告されています。 実質1週間程度の延長で終局させている事例もある一方で、8週間56日の 限度いっぱいの観護措置をとったケースも複数ありました。この中には続け て余罪についての観護措置を執り、合計84日間の観護措置となった事例も ありました。 本当にそれだけの期間が必要なほどに事実認定が困難な事例もあるとは 考えられますが、このケースでは「付添人が忙しくて期日が入らず、いたず らに拘束期間が長くなった」とのことです。「とりあえず可能なだけ更新する」 といった安易な更新の運用がないようにチェックしていく必要があります。

○異議

 今回の改正で観護措置の決定に対しても異議の申し立てをすることができ るようになりました。 異議についての家裁の対応の問題として、異議に備えての待機態勢をとる ための負担が大きいことが指摘されています。実際に小支部で、週末や夜 間に異議が出されて大変だったことなどが報告されています。小さな庁で異 議が出された際に合議体を構成する裁判官が足りず、たまたま別の用事で 来ていた管内の裁判官に加わってもらった事例もありました。法改正にあ たっては、その裏づけとなる人的手当てはどうしても必要であり、改正が 個々の職員の事務量の増加、手当てのないままの労働強化にならないよ うに、十分に職員の配置をする必要があります。 運用のあり方については、少年に対しての異議申立権の告知、異議につ いてのガイダンスをより明確にしなければならないのではないかとの声が 出ています。

以上
 
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