私たちが「慎重審議」を求めて市民団体をはじめ幅広い国民的な運動を行ってきた 「改正」少年法が本年4月に施行されました。「改正」少年法は、さまざまな問題を含
んでおり、今後の実際の運用状況によっては少年法の理念がなし崩し的に形骸化 する懸念があります。また、「改正」少年法が「5年後の見直し」を規定していること
から、「改正」後の実態をきちんと把握した上で、今後の少年法のあるべき姿につい て継続的に考えていく必要があります。
そこで、全司法本部少年法対策委員会は、「改正」少年法施行直後 1か月間の運 用状況についてアンケート調査を行い、6月末日段階で全国50庁の家庭裁判所の
うち39庁(78%)の職場から回答を得ました。
アンケート調査結果について、その内容の概要および現時点での主な問題点をまとめました。
1.検察官関与・裁定合議制について
4月段階で実際に検察官関与・裁定合議の決定があったとの回答はありませんで した。しかし、ほとんどの庁でこのような事件に対応できるように審判廷の整備をし
ていることがわかりました。これまで1人用だった裁判官の机・椅子を3人用に替え、 検察官用の席も設けていますが、8割以上の家庭裁判所ではこれまでの審判廷に
大きな机などを入れて対応しています。審判廷の改修をしたところが数庁あり、地 裁のラウンド法廷、交通講習室などを用いることにした庁もありました。新たに配置
した机等は、ほとんどのところで常時審判廷に置かれていますが、該当事件があっ た場合にのみ審判廷に入れ、通常は倉庫などに保管することになっているところが
少数ながらあります。
審判廷の机が常時大きなものになるということは、審判廷の雰囲気を威圧的なもの に一変させ、一般の在宅事件の審判においても和やかさ、裁判官との距離の近さ
を奪うことにつながっています。審判廷の和やかさは審判の場で少年に内省を促す ために大変重要なものです。検察官が関与せず、合議でもない事件の審判廷がこ
れまで同様の雰囲気を維持できるように、「机の出し入れをする」「別の審判廷を確 保する」などの方策をとることを検討していくことが重要です。
各地からもこの点を指摘する声が多くあり、その代表的なものは次のとおりです。
- 机が多く、威圧感、圧迫感がある。一部の机を壁に寄せてしのいでいる。数で言 えば、極端に少ない事件のために、通常の審判の物理的質的構造が変わらざるを
得ない。
- 少年審判廷が手狭であり、在宅事件であっても検察官と付添人の机が置かれて、 圧迫感の強い構造となっている。ただ、他に移動できる場所もなく、今後も今の状
況が続く見とおしである。
2.原則検送該当事件について
4月段階では原則検送に該当する事件の送致についての報告はありませんでした。
しかし、全国各地で原則検送にあたる事件は発生しており、5月以降順次家裁に送 致されてきています。この種の事件の審理状況については、今後の調査で把握し
て行く予定です。
3.被害者からの申し出等について
被害者に対応する窓口は、概ね少年訟廷、あるいは少年書記官室となっています。
報告された被害者からの申し出件数は意見陳述が9件、記録閲覧が19件、結果通 知が13件と一定程度なされていますが、何の申出もない庁も多くあります。申し出
のあった庁は都市部に多いと言えます。
回答段階では特に大きな混乱はないようでしたが、閲覧申請等に伴う書記官業務 の増大への手当てがなされていないこと、被害者からの意見聴取を行うのが裁判
官か調査官か等対応の方針が定まっていないこと、などが問題となっています。
4.観護措置に対する異議について
報告のあった観護措置に対する異議申立件数は7件でした。
観護措置の異議についての審理は、観護措置をとった裁判官以外の裁判官3名で 合議を組んで行うことになるため、裁判官の配置の少ない支部では異議の審理が
行えず、本庁や大きい支部に回付して審理をすることになります。回答のあった39 庁中、裁判官が3人以下の支部を抱えるところは32庁82%に及び、これらの支部で
は異議審が組めません。各庁で休日の異議申立に対応できるよう態勢を整えてい ますが、業務の増加に見合う増員、手当や代休の制度化などはこれからの問題です。
この問題に関連して次のような声がありました。
- 観護措置の異議申立を通じて少年と家裁が対立的構造となる。
- 逮捕された少年が(従前であれば、そのまま身柄付で送致されたと思われるのに) 釈放にされるなど、警察等が観護措置を意識していると思われる対応をしている。
5.付添人との連携について
少年法「改正」に向けて各地で家庭裁判所と地元弁護士会の協議会などが行われ ました。「改正」を控えての打合せばかりではなく、1月から半年に1回程度意見交
換やケース研究などの「会」を定期的に開いているところが数か所ありました。
今後、少年事件に付添人が付くことは増えることと思われますが、付添人が刑事弁 護人的に動くようになると、裁判官・検察官がそれに対応して動き、これが少年審
判の刑事裁判化を進める恐れもあります。多くの弁護士に少年事件での付添人活 動について理解を深めてもらい、少年の「真の保護」のために協力態勢が組めるよ
う、各地の弁護士会との連携が重要になってきています。
6.裁判官の姿勢について
裁判官が「改正」少年法を過剰に意識し、実際に法律が変わった以上の厳罰化、 刑事裁判化を進めて行く懸念も現れています。これまで以上に厳罰化に傾斜した
考え方をする裁判官が出てきているようですが、少年法本来の視点をしっかりと持っ て審判にあたってもらいたいものです。
調査対象であった4月中には検察官関与決定をされた事件はありませんでしたが、 5月以降、検察官関与、裁定合議事件が出はじめています。「改正」少年法施行前
の最高裁家庭局の説明などでは、検察官関与は事実についての重大な争いがあ る事件を想定している、ということでしたが、検察庁側は死亡事件について積極的
に関与の申し出をしてくる可能性も考えられます。「大きな事実の争いのない重大 事件」でどこまで裁判官が検察官からの関与の申し出を断れるかがこれからの課
題だと思われます。
各地から次のような報告が届いています。
- 裁判官が『傷害事件の被害者が植物状態の重傷なので、致死事件に準じて検 送を考える』『他庁より先に検察官関与事件を手がけたい』等と言っている。
- 裁判官が重大事件に対して検送を視野に入れた考えを持つようになってきている。 今後は原則検送の事件に限らず、検送するケースが増える可能性もある。これは、
検送決定の場合、抗告されないことも一因と思われる。
- 少年院送致歴のある19歳の少年の強盗致傷事件について調査命令を出さずに、 記録のみ見て、裁判官が検察官送致とした事例があった。
|