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デジタル化の課題を共有、刑事裁判デジタル化を考える集会に
第43回司法制度研究集会 |
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6月22日、第43回司法制度研究集会をオンラインで開催しました。この集会は2年に一度開催していますが、今回は「裁判所のデジタル化、今と将来」と題し、職場で進められてきた裁判所のデジタル化について、現状と課題を共有するとともに、刑事裁判のデジタル化について学び、全司法が要求している「令状センター構想」について共有する集会としました。集会には64名が参加しました。

64名がオンラインで参加
裁判所のデジタル化は
司法制度改革以来の大転換
集会では、最初に中矢委員長から、全司法が「国民のための裁判所実現」という運動方針を掲げている意義に触れ、その柱である「司法制度研究活動」を労働条件改善と「車の両輪」としてとりくむことの重要性を述べる開会あいさつがありました。
続いて、集会の基調講演として、法制審議会・刑事法(情報通信技術関係)部会の委員として刑事裁判のIT化の審議に関わられた弁護士の久保有希子さんに「刑事手続のIT化〜何のために行うか〜」というテーマでお話しいただきました。
全司法本部からの2つの報告のうち、「裁判所のデジタル化、これまでの経過と今後の課題」というテーマで報告した中央執行委員(書記官担当)の藤井敦司さんは「紙をPDF化することがデジタル化ではない」と述べ、「裁判所のデジタル化は司法制度改革以来の大転換期だ」として、「国民のため」のデジタル化となっているか、かえって事務量が増えていないか、人減らしの口実になっていないか、「置いてけぼり」になっている職員はいないか等の視点から見ていく必要があると指摘し、「わたしたちの力で未来の裁判所をつくりあげよう」と呼びかけました。
「令状センター構想」について報告した井上書記長は、職員の負担面から現在の宿日直による令状処理が限界にきているとして「宿日直・連絡員体制を見直す時期にきている」と述べるとともに、法制審の要綱骨子(案)に令状のオンライン化が盛り込まれていること、最高裁が刑事のデジタル化のためのシステム開発に入ろうとしていることを報告して、「刑事手続のデジタル化は全司法が長年要求してきた『令状センター構想』実現の最大のチャンスだ」と述べました。
【基調講演の要旨】
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久保有希子弁護士 |
刑事裁判IT化
被疑者・被告人の権利が看過されてはいけない
電磁的記録提供命令、オンライン接見が大問題
冒頭、久保さんは刑事裁判のIT化について「国民全体にとってプラスになる手続にしないといけない。国民というのは全ての国民であり、被疑者・被告人も当然に含むことが看過されてはいけない」と指摘しました。
また、日弁連は法制審の部会終了当日(2023年12月18日)に会長声明を出し、法制審がとりまとめた要綱(骨子)案の全体に反対する立場をとっていることを明らかにし、その最大の理由として、電磁的記録提供命令とオンライン接見を挙げました。
続いて、要綱(骨子)案に沿って、以下のとおりポイントを説明されました。
1.訴訟に関する書類の電子化
公判調書等については、システム次第の部分があるのではっきりしないが、民事では進行に関する情報がチームズで共有されて助かっているので、刑事でも共有できれば便利になるのではないかと期待している。法制審では、尋問の音声データを提供いただき、反訳が認められればありがたいと意見を述べた。
書類等の閲覧・謄写について、電磁的記録については「許可が必要」ということになり、問題意識を持っている。オンラインで申請すれば許可して、基本的には謄写を認めるべきではないか。
申立て等について、オンラインが義務付けられた民事とは違い、刑事は身体拘束があるので必ずしも民事と同じではないということは、法制審では総意になっていた。裁判所としては一元化できた方がよいと思うが、例えば、窓口にPDF化できる機器が設置されれば、双方にとって良いのではないか。
公判廷では、捜査記録がP DFで提出されるので、「何が証拠調べの対象になったのか」という問題が生じる。プロパティ情報等も含めて、記録上明示して欲しいと考えている。
供述の内容を記録した電磁的記録等について、電子データが改ざんされやすいことは共通認識になっていたが、署名押印の代替措置も含め、改ざんされない担保をどうするのかがわからないまま、審議が終わった。
2.令状の発付・執行等に関する規定の整備
もともと原則オンラインという話だったはずが、捜査機関がオンラインか紙かを自由に選べるようなまとめになっている。捜査機関に都合が良すぎるうえに、裁判所の事務がパンクしてしまうので、そうではないということは共有されているはずだが、規程上は自由にやれることになっている。
執行に関わって、データなので「何が提示されたのか」があいまいになる。最たる権力行使の場面なので、改ざん防止、発付された令状の回収、何が提示されたのか検証できる仕組みを作るべき。
3.電磁的記録を提供させる強制処分の創設
捜査機関がハードディスク等を持って行ってデータを保存し、それを差し押さえる「記録命令付差押え」の制度が導入されているが、当初はそれをオンラインでできるようにしたいという話であったところ、罰則が入ったことで大問題になった。
「こういうデータがあるはずだから、出してください」という内容が事件ごとに異なり、「何を出さないこと」が処罰の対象になるかわからず、関係ないデータまで提出することにつながりかねない。
また、クラウド事業者(グーグルなど)が名宛人になった場合、本人(情報保護主体)が知らない所で情報をとられたり、医師や弁護士の拒絶権や、自己負罪拒否特権も行使できなくなる。準抗告・抗告はできることになっているが、その実効性が担保されず、そもそも申立てのチャンスすらないかもしれない。
さらに、押収したデータの利用、保管のルールもないため、犯罪と無関係な国民の情報も含めて捜査機関に収集・蓄積・利用されるおそれがあり、プライバシー権の侵害や、労働組合・市民団体、政党、報道機関等の活動監視のために使われるのではないかといったおそれもある。
4.手続のオンライン化に関するもの
弁解録取や勾留質問はオンラインでできることになっているが、オンライン接見をやって欲しいという弁護士会の要望は受け入れられなかった。接見は、東京拘置所では東京地検を使って、事実上、オンラインでできているので、できない理由はない。弁解録取や勾留質問をやるのであれば、接見固有の予算もそれほど必要ないはず。とりわけ、地方ではたいへんな思いをして弁護活動をやっているので、段階的にでもぜひ実現して欲しい。
公判前整理手続は利用できると思うが、希望すれば被告人が出席できるようにし、弁護人ともコミュニケーションがとれるようにしてもらいたい。また、オンラインで公判期日をやる場合、出廷したいという被告人の希望があっても認めないことができることになっているのは問題。
裁判員選任手続は検察庁・法務省が出したもの。候補者の自宅からはできないので、場所を確保しなければならず、およそ現実的ではないが、なぜかそのまま入っている。
証人や鑑定人の尋問などについては、対面でやる必要性が高いものもあり、同意できるケースであれば良いが、強制するようなことはやめていただきたい。外国所在証人の尋問はできるようにして欲しいと言ったが、消されてしまった。通訳人は、確保が難しいケースなど、被告人にとってプラスになれば良いと思う。
講演のまとめとして、久保さんは「IT化と言うと利便性に目がいきがちだが、被疑者・被告人の人生を一変させる刑事罰を与えるものだということを意識から外してはいけない、法廷の緊張感の中でやることの重要性、対面で話を聞くことの重要性は間違いなくある」と指摘するとともに、「ITを活用して、できるところは柔軟にしたいということは弁護士も思っているので、今後とも意見交換しながら、より良い刑事司法を目指していければと思っている」と述べて講演を締めくくりました。
勾留質問について
(参加者の質問に答えて)
被疑者・被告人は裁判の手続きに詳しいわけではないので、「どこで話をしたか」という場所の違いで把握しているところがある。場所を移動するのは重要だと考えている。オンラインの勾留質問について、裁判所も特に要望されていた様子ではなかった。
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「職員の負担」で乗り切る姿勢は改めるべき
新型コロナ感染症の特別休暇の運用について |
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新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続いていた令和4年当時、高裁松江支部及び松江地家裁管内では、濃厚接触者として保健所から外出自粛要請を受けた職員が、当局からも自宅待機を命じられたにも関わらず、特別休暇の対象ではないとされ、年休を取得した上で自宅待機を行っていました。中には同居家族が立て続けに感染したため2週間も年休を取得しての自宅待機を強いられた例もありました。
今年3月、最高裁は全司法に対し、特別休暇とするためには感染症法に基づく外出自粛要請を職員が受ける必要があるが、外出自粛要請が感染症法に基づく要請であったと当局が確認できたのが令和5年3月に入ってからであり、当時は感染症法に基づく要請であるとの判断はできなかった。また、年休は強制したものではないので、特別休暇への振替を行うことはできないと回答しました。当時、外出自粛要請の根拠を当局が確認できなかったのは当局の手落ちであり、そもそも当局の認識とは関係なく感染症法に基づく外出自粛要請を職員は受けていました。また、年休を強制していないとのことですが、職員は当局から自宅待機を命じられれば拒否することはできません。しかし、在宅勤務を命じられることもなければ、特別休暇の対象でも無いとの説明を当局から受けており、命じられた自宅待機を実行するためには年休を取得するほかありません。
本件について、国公労連も特別休暇を承認しなかったことは当局の瑕疵であって特別休暇への振替が必要との認識を示しています。当局は、支部や地連の追及により「在宅勤務を命じなかったこと」については謝罪しましたが、その他の対応には問題は無かったとして、特別休暇への振替については行わないとしています。しかし、年休の取得を強制していたことをはじめとして当局の対応はむしろ問題だらけであり、最高裁の回答を受け入れることはできません。島根支部からも最高裁に対して反論文を提出し、最高裁に回答を改めるよう求めています。
本件は、事あるごとに年休取得など職員の負担で乗り切ろうとする当局の姿勢が如実に表れた事例ですが、このような姿勢は改めさせる必要があります。
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6月27日、裁判所共済組合の決算運営審議会が開催されました。今年度の活動がほぼ終了することから、全司法推薦の委員のみなさんに感想等をお聞きしました。
きめ細やかな配慮がなくなることへの不安
(秋田・一関晶子)
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全司法推薦の運審委員と監査員 |
前回委員を務めた時から、大きな違いがあったのが支部の統合です。これまで各支部で担当者がきめ細やかに配慮してくれていたものがなくなることに不安を覚えます。
マイクロソフト365が導入され、様々な場面で自分から情報をとりにいくことが基本となってきています。「児童手当の請求期限に間に合わず受給できなくても自己責任」となれば問題ですし、全国の対象者を本部が把握できるかどうかも疑問です。
今後、統合が進むにあたり追及していかなければならない課題だと思います。
特定保健指導の実施率低く、罰則1億円か?
(東京地裁・光田透修)
特定保健指導の実施率がなかなか改善されず、2023年度の暫定値を前提とすると、2026年度に裁判所共済組合に課される後期高齢者支援金の加算額が1億円を超える見込みであることが明らかにされました。そもそも健康の維持・増進を目的とする生活習慣病対策に罰則的運用が導入されていることが問題ですが、実施率の向上は喫緊の課題です。
また、東京高裁管内の全支部が廃止されて本部に統合されましたが、被統合庁の組合員の声として、共済組合本部は感謝や評価されたことのみを強調しています。しかし、被統合庁の組合員の意見や評価が本当はどうなのか、改めて調査する必要性を感じています。
「きっかけ」を掴むのは早いほどよい
(愛知・宮田雄介)
運審委員を経験して、共済組合に関する知識を得る「きっかけ」を掴むのは早いほどよいと感じました。
知識を得るメリットは2つあり、1つは人生に役立つということ、もう1つは共済組合制度をより良くする「きっかけ」になることです。
制度を良くするには、ユーザーの声を管理者に届けることが効果的です。特に、多様な視点を持つ若手世代の意見は、共済組合、ひいては裁判所の魅力を高めることにもつながります。
皆さんがきっかけを掴めるよう、今後も、組合活動等を通じて自身が委員を通じて得た知識を発信していきたいと思います。
仕事や暮らしをより良いものにするために
(広島・福本律雄)
共済組合は、組合員の仕事や暮らしをより良いものにするためにあり、その存在価値は労働組合と似たところがあると言えます。
全司法の推薦により任命された私たち委員は、共済組合がもっともっと利用価値があり必要性の高い存在になるよう、運営審議会で様々な意見を述べています。法律その他の制約があり直ちに改善される事項は少ないのが現実ですが、今後も粘り強く申し述べていきたいと思います。
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