第36回全国司法制度研究集会(1月28、29日)は、裁判員制度をはじめとしたいくつかの課題をテーマに、中央委員会に引き続いて開催されました。 1、裁判員選任手続の運用上の問題について 大阪が全国で一番裁判員に選任される確率が高いことの紹介を始めとして、裁判員候補者名簿登載手続、裁判員の呼出手続、選任手続期日、旅費支給手続の各手続における現段階で想定されうる問題点が報告されました。 そのうえで、裁判員選任手続で裁判所がとりくむべき課題として、国民の目線に立った場合、最大の関心事は裁判員に選ばれるかどうか、すなわち辞退事由の判断です。辞退事由をどれだけ裁判所が正確に把握できるか、また、国民の個別具体的な生活状況に応じた判断が行えるかが重要との問題指摘がなされました。 また、施設や物品、対応に関わって多数の候補者が不快な思いをすることが、裁判員制度への不満へとすり替わることも想像できるとの指摘もなされました。 最後に、施行3年後見直しを見すえて、どれだけ国民の視点に立ってこれらを要求化し、当局と切り結んで行くことができるか、何よりも職場内における全司法の位置付けを強固なものにしておくべきであることが強調されました。 2、公判前整理手続、連日的開廷に関する手続についての問題点 主として裁判員裁判に参加する国民の視点に立ったアプローチで問題点を浮き彫りとし、裁判員裁判成功に向けた問題提起がなされました。解決に向けたアプローチとして、公判前整理手続に期待されるものとはなにか、コートマネジャーとして求められる書記官の役割、刑事書記官のかかえる問題点とそれにみあう労働条件の改善ができるかどうかが重要であることが明らかにされました。 そして、裁判員法廷の特徴や判決点検作業の問題点も上げられ、最後に裁判員裁判が成功するかどうかが、裁判所全体に対する国民の評価に直結することが強調されました。 全体にわたって、パワーポイントを使用した紙芝居風に仕立てられていて、たいへんわかりやすい報告でした。 3、小規模庁・支部における裁判員制度の準備段階における問題点 まず、沼津支部の管轄範囲、対象事件数、現在の人員態勢、設備、模擬裁判、模擬選任等とこれまでの準備状況などの紹介がなされました。 これらの状況をふまえた問題点として、限られた人員で準備を進めていること、特に担当の主任書記官の負担が大きいので、支部においても訟廷管理官の複数配置を求めたいこと、情報が限られていること、情報交換の不足から十分な準備か確信がもてないこと、裁判員候補者名簿管理システムについて期待するところが大きいので早期に明らかにしてもらいたいこと等が指摘されました。 最後に、小規模庁固有の問題点として、仮に100人を呼び出した場合に対応できる職員は10人足らずしかおらず、情報の共有化をはかって、内部でどう協力態勢を確立していくかが重要であると強調されました。 4、裁判の迅速化に係る検証に関する報告書からみた今後の課題 まず、裁判の迅速化法の内容、制定されるにいたった背景、法制定後の各種制度の動き、第1、2回報告書の特徴点が報告されました。特に、第2回目報告書については、事件票の改定もなされて詳細な分析がなされ、全般に迅速化が図られているものの、長期化している事件について個別の原因分析がなされている点の指摘もありました。 また、迅速化法4条で政府は「施策を実施するために必要な法制上又財政上その他の措置を講じなければならない」とされていることから、人的物的充実を求めていくことに、法規上の後ろ盾があることの指摘がなされました。 今後の課題として、迅速化を国民から求められ、頻繁な法改正が行われている中で、後戻りできない状況にあること、内部努力にも限界があることから引き続き人的物的充実を求めていくことが重要であること、新しい業務についても施行間際にしかマニュアルが配布されないことが大きな負担となっていること、導入研修を充実すること、何時過誤が起きても不思議ではないこと等から、働きやすい職場にしていくためにも人的物的充実を求めていくことが必要であることが強調され、人的物的充実とを一体としてすすめるとりくみの強化についても提起されました。 5、家事事件効率化に向けた検討課題 まず、後見開始事件及び後見監督事件の申立件数が右肩上がりである状況の中で、東京家裁の後見センターで行われている事件処理効率化に向けた工夫と、不正事案が増加する中で財産管理事件(不在者、相続)業務の適正化に向けた工夫の報告がなされました。 後見開始事件については、受理時面接の導入で、当事者の来庁負担軽減、精神鑑定を実施するケースを限定し、経済的負担の軽減、迅速な後見開始を可能とし、監督事件については、書面照会で振り分けを行い、審査についても金融関係の参与員を活用する等の報告がなされました。 財産管理事件についても参与員を活用し、財産管理人の選任についても事後報告を念頭において選任する必要があること、また財産管理だけではなく、身上監護、生活援助まで求められるケースがあるので行政とのすみわけも重要であることが指摘されました。 最後に、参与員の活用は、有用であるが育成をどう図っていくのかが課題となっており、組織全体で育成していくシステムを作ることが急務であると指摘がなされました。 書記長のまとめ 今回の司研集会は、司法制度改革が、この間裁判所の現場にどのように表れたのか、もしくは今後表れるかを明らかにし、職場の環境、職員の労働条件向上の方向性を示すとともに、司法制度改革を「国民のための裁判所実現」の観点から分析し、私たちの要求の正当性を明らかにすることを目的に開催しました。 司法制度改革の仕上げといわれている裁判員制度に関わる課題、この間の改革をふまえた、裁判の迅速化に関わる検証、家事事件処理の効率化に向けた課題について、以上5名の方から、現状における問題点の分析と今後の運動の進め方について、示唆に富んだ報告がありました。 裁判員制度については、最高裁に対して、逐次情報提供させるように努めています。 今集会でも、選任手続、公判前整理手続、支部における問題点として、3名の方から報告がありました。今後、自分たちの職場に置き換えた場合、どうような点が問題となるのか個別・具体的に検討を進めていく必要があります。 また、参事官室提言の中で残された課題となっている訟廷組織の見直しについては、裁判員制度の実施をみすえて具体化をさせていきます。 裁判の迅速化に係る検証に関しては、精度の高い報告でした。今後の書記官の役割として、仕事の密度、事件全体を見通せる力が求められているのだと思います。 家事事件処理の効率化に向けた検討課題については、事件が増加しているにもかかわらず、それに見合った人的手当がない中で、東京家裁の効率化に向けた実例の紹介がありました。 現在、裁判員制度が実施されるまでの間配置されている期限付定員については、最高裁も「本当に大変なところから人を減らすことはない。」としています。この回答を是非活用していただきたい。 また、報告の中で、財産管理事件の監督業務において、全部裁判所でやらなくてはいけないものなのかの問題提起については、引き続きみなさんと一緒に考えていきたいと思います。 詳しい報告のまとめについては、冊子を作成する予定にしていますので、今後各支部における運動の参考にしてください。