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「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」に対する全司法の意見書
 
声明・決議・資料
 
「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」に対する
全司法の意見書
 
法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会 御中
2021年4月28日
〒102-8651 東京都千代田区隼町4−2
最高裁判所内
全司法労働組合
中央執行委員長 中 矢 正 晴
 
 本年3月1日、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会が取りまとめられた「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」という。)について、下記のとおり、当団体の意見を提出いたします。今後の審議において、参考にしていただきますようお願い申し上げます。


「第1 総論」について

1 インターネットを用いてする申立て等によらなければならない場合
 インターネットを用いてする申し立ては「司法アクセスの向上」と「国民が利用しやすい裁判所の実現」のための方策となるよう運用し、国民に幅広く利用されることが望ましい。一方で、これを「義務化」することは、司法アクセスの後退につながり、憲法32条の国民の裁判を受ける権利との関係で問題が生じる可能性があることに鑑みて、慎重であるべきだと考える。
 したがって、現段階では「電子情報処理組織を用いてしなければならない場合」の規定は設けず(丙案)、@信頼性が高く、操作性に優れた、利用しやすいシステムを構築すること、Aインターネット申立てをサポートする態勢を裁判所の内外に作ることなど、インターネット申立てを選択する利用者を増やすための施策を積極的にとることこそが重要である。
 いずれの案によっても、裁判手続のIT化を進めるうえで、IT利用が困難な者等に対するサポートは重要な課題である。政府・自治体、日弁連(弁護士会)、法テラス等の関連する機関による連携した対策が求められるとともに、裁判所においては、利用者がシステムにアクセスするための端末を各庁に設置し、窓口における手続き案内等を充実させる等のとりくみを行う必要があり、そのための人的・物的態勢の整備を図ることが必要不可欠である。

2 インターネットを用いて裁判所のシステムにアップロードすることができる電磁的記録に係るファイル形式
 訴訟記録の電子化を図り、IT化のメリットを活かすうえでは、事件管理システムで取り扱うに文書データついては、書面を画像として処理するデータ形式ではなく、文字情報(テキストデータなど)として利用可能な形式で入力、提出を受け、これを活用して事件管理を行い、電子記録を構成することが重要である。同様の観点から、中間試案の2−(2)の規定を設けることについても賛成する。
 また、事件管理システムにおいて電子記録として取り扱うデータは、文字情報(文書)、音声、画像、映像情報等のいずれをも利用できるものとし、電子記録の一部とすることを可能にする必要がある。

3 訴訟記録の電子化
 訴訟記録の電子化を行うのであれば、事件の一元的管理と事務の効率化の観点から、紙の記録との併用は行わず、全件について電子化すべきである。
 書面による申立てが行われた場合、裁判所において書面を電子化することが必要になるが、裁判所がその事務を行うにあたって「役務の対価として、手数料を徴収すること」については、IT化に伴う新たな利用者負担の仕組みをつくることになり、疑問がある。またこのような手数料を徴収することは、むしろ事務の取扱いが煩雑になることが懸念される。
 また、現在の事務処理においては、人名・地名などの固有名詞の表記について、外字・異体字等を厳格に区別して取り扱っており、これが事務を煩雑にしている実態がある。検索の便宜なども考慮し、この機会に常用漢字に置き換えて事務処理が行えるよう法規上の整備を行っていただきたい。

【参考】 民事訴訟手続IT化のためのシステムについて
 裁判手続IT化が実現され、将来にわたっても安定的に運用されていくためには、裁判所における情報基盤整備が必要不可欠である。しかし、これまで裁判所の各部門において様々な事務処理システムが構築・導入されてきたが、職員からは使い勝手の悪さが指摘されるとともに、サーバ容量の脆弱さに起因したレスポンスの低下やシステムダウンが生じるなど、必ずしも十分なものとは言えない状況が続いてきた。
 新たなシステムを構築していく上では、以下のような裁判所におけるIT化の経過と総括を十分に踏まえた検討が行われることが重要であり、あわせて、電子記録を蓄積していくための大容量サーバの整備や高速通信が可能なネットワーク環境をはじめ、IT化に相応しい機器や関連する施設の整備など、裁判所における情報基盤の抜本的な整備が必要不可欠である。

(1) 安定的に稼働するシステムとすること。
 裁判手続のIT化が実現した際、その中核となるシステムの不具合は、これまでとは比較にならないぐらい影響が大きく、場合によっては裁判所に対する国民の信頼を損ねる事態すら起きかねない。安定的に稼働するシステムにすることを最優先するとともに、不具合発生時に迅速に対処する枠組みを構築しておく必要がある。

(2) 裁判手続の利用者にとっても、裁判所の担当者にとっても、利用し易いシステムとすること。
 裁判手続IT化を推進するためには、その中核となるシステムが操作性に優れ、利用しやすいことが極めて重要であるが、裁判所における従来のシステムは、その面で課題が多かった。今後は、利用者・国民が直接操作することを踏まえると、十分な検討が行われなければならない。
 例えば、チェックボックスやプルダウンなどを活用したデータ入力のしやすさ、事務処理の流れをふまえたレイアウトなどの直観的な操作性、ストレスを感じさせないレスポンス、アラート機能、タイムアウトまでの必要十分な時間設定や入力中の一時的なデータ保存などを実現することが重要である。

(3) 裁判所における事務の効率化、過誤防止に資するシステムとすること。
 裁判所における事務の効率化、過誤防止を図ることは、システム導入の重要な目的の一つになると考えられる。
 事務処理をシステム化することのメリットは、i)定型的・反復継続的処理や大量処理が効率的に処理できること、ii)蓄積されたデータの活用(共有化、データの再活用)、iii)ヒューマンエラーの防止(軽減)にあり、そうした観点からシステムを構築すべきである。こうしたメリットが最大限発揮されるよう、自動入力、一括処理などの機能を設けるとともに、誤入力の発見や、書面提出などのスケジュール管理に関するアラート機能を充実させることも有効である。

(4) 十分なセキュリティ対策をとること。
 裁判所が保有する機密性の高さから考えて、万が一情報漏えいが生じた場合には深刻な事態となりかねない。また、ウィルスの発生やデータの破損が生じた場合、事件処理に支障をきたすばかりか、場合によっては、裁判所に蓄積された事件データが完全に失われるなど、将来にわたって深刻な影響を及ぼすことも懸念される。そうした事態を避けるため、セキュリティ対策やバックアップを強化する必要がある。

(5) 最初のシステム構築時だけではなく、安定的に運用するための十分な予算を確保すること。
 必要十分なシステムを構築するためには、相応の予算が必要となる。最初のシステム構築時のイニシャルコストだけではなく、必要な場合には迅速に改修することも含めた、安定的に運用していくためのランニングコストも見込むなど、三権の一つである司法分野に関わる国民的基盤を整備する事業と位置付けて、十分な予算を確保する必要がある。

「第2 訴えの提起,準備書面の提出」について
 中間試案に賛成であるが、提出された訴状及び準備書面の本人確認の方法については電子署名と電子証明を原則としつつ、電子署名がまだ十分に普及していない現状では、裁判所のシステム登録時に本人確認書類を提出させることなどが考えられる。
 濫訴の規制の在り方については、国民の裁判を受ける権利との均衡を図る必要があり、現行法を超えて規制を強めることには慎重であるべきだと考える。

「第3 送達」について
1.システム送達、2.公示送達ともに、中間試案に賛成する。

 システム送達を利用することは、郵便で送られてくるよりも迅速、かつ、確実に書面等を受け取ることができるようになり、訴訟全体の円滑な進行に資する。また、裁判所の送達事務の省略化にもつながる。
 システムを通じて提出された送達すべき電子書類について、通知アドレスの届出をしていない当事者等に送達する場合は、従来どおり、提出当事者において出力した書面を送達することとすべきである。
 なお、これを機に、送達報告書の電子化、E内容証明郵便の活用、郵便追跡機能等により当事者が送達結果をオンライン上で確認できるようにするなど、送達事務全般について、簡素化・効率化も視野に入れた検討を行うべきである。また、外国送達のあり方等についても検討を求める。

「第4 送付」について
 1〜3いずれも、中間試案に賛成する。
 通知アドレスの届けをしていない相手方に対しては、従来どおり、提出当事者において出力した書面を直送または裁判所を通じて送付するものとすべきである。
 なお、裁判所が直送する場合において「役務の対価として、手数料を徴収すること」については、IT化に伴う新たな利用者負担の仕組みをつくることになり、疑問がある。またこのような手数料を徴収することは、むしろ事務の取扱いが煩雑になることが懸念される。

「第5 口頭弁論」について
 1〜4いずれも、基本的には中間試案に賛成する。
 なお、ウェブ会議等の活用については、当事者の利便性と迅速な裁判の実現に資する観点から異議はないが、当事者のいずかにウェブ会議等ではなく、裁判官の面前で口頭弁論を実施したいという意向がある場合には、ウェブ会議等で行うことができない旨の定めが必要だと考える。
 4.について、訴訟の進行にあたって、裁判官の訴訟指揮の方針にもとづき、実際に当事者等との連絡や調整を行う業務は、現在、裁判所書記官の中心的な業務の一つになっている。今後、そうした役割はますます重要になってくるものと考えられるが、準備書面等の提出の促しは、その一場面である。その際の書記官事務の根拠規定を明確にすることは、円滑な事務処理をすすめるうえで有効なものと考える。

「第7 争点整理手続等」について
 4の争点整理手続の在り方に関わって、IT化の機会に手続きをわかりやすく整理する意味で、現行の三種類を統合して新たな争点整理手続を設けるべきであるとする甲案に賛成する。
 5〜7に関わって、電話会議等の活用範囲を広げることについては、当事者の利便性と迅速な裁判の実現に資する観点から異議はない。

「第8 書証」について
 中間試案に賛成する。
 電磁的記録の概念を整理し、書証に準じた規律を設けることは、必要不可欠である。なお、規則段階の課題であるが、これを機に調書をはじめとした民事訴訟記録のあり方を見直し、IT化を活かした合理的な証拠情報の整理を行うことを求める。
 3.に関わって、送付嘱託及び調査嘱託については、裁判所に行為を求め、かつ送付・送達に郵券が必要な事務であることから、郵券の取扱いをなくすために手数料化を検討すべきである。オンラインによる申出及び嘱託を実現するほか、とりわけ送付嘱託においては大部の対象文書が送付される例が多く、この謄写手続に裁判所及び当事者の労力が相応に割かれていることから、嘱託文書を電子データによりオンライン送付する選択肢も用意するのが相当である。

「第9 証人尋問等」について
 基本的には中間試案に賛成する。
 ウェブ会議等の活用については、証人及び当事者の利便性と迅速な裁判の実現に資する観点から異議はない。ただし、本人確認や尋問が行われる環境、裁判官の心象形成に与える影響などをふまえ、事件ごとに慎重に検討することが必要である。また、当事者のいずかに異議がある場合は、ウェブ会議等で行うことができない旨の定めが必要である。
 2.について、通訳人の確保、とりわけ少数言語の通訳人の確保については、実務において困難を来す場合が多いことから、ウェブ会議等を利用した通訳について幅広く認める方向で検討するべきである。

「第10 その他の証拠調べ手続」について
 中間試案に賛成する。
 1.に関わって、鑑定手続においては、鑑定資料の送付に限らず、書面宣誓や鑑定料請求の場面など、鑑定人との間で複数回にわたり文書の往復が行われる例が多いところ、これらをシステムにより行うことで裁判所と鑑定人の事務負担が相応に軽減されるほか、当事者にとっても鑑定手続の進捗確認や鑑定書の早期入手等の面でメリットが大きいと考える。

「第11 訴訟の終了」について
 基本的に中間試案に賛成する。
 判決を電子データによって作成し、出力書面の送達に加えて、システム送達を利用することについてはIT化の趣旨を踏まえ、異議はない。
 電子判決書に本人性及び非改変性を確認するための電子署名等の措置を講じることは必要である。なお、調書判決や調停調書、和解や認諾、放棄といった事件終局に係る調書についても裁判所書記官が同様の措置を取ることが必要である。
 なお、2の(3)の規律を作るかどうかについては、利用者の要望を踏まえて検討されるべきものであり、当団体としては現段階では特に意見はない。

「第12 訴訟記録の閲覧等」について
 2(3)の「利害関係のない第三者による閲覧」については、訴訟記録も公文書として「国民共有の財産」であり、利用が認められるべきだとする考えがある一方、プライバシーや営業秘密・個人情報流出のおそれ、インターネットによる拡散への懸念など、難しい問題がある。現在の国民感情に鑑みれば、将来の課題とし、当面は認めない扱い(乙案)が妥当ではないかと考える。
 4に関わって、秘匿情報の取扱いは現在、事務処理上の重要な課題になっており、これを機に国民的な議論を経て、根拠となる法規を整備していただきたい。マスキング処理は事件管理システムによって簡便な操作で可能となることが望ましいが、あわせて(注1)に記載されている取扱いも定めていただきたい。
 なお、記録の電子化にあたり、閲覧謄写の行為手数料を廃止することを検討されたい。

「第13 土地管轄」について
 中間試案に賛成する。

「第14 上訴、再審、手形・小切手訴訟」について
 中間試案に賛成する。
 地方裁判所の民事訴訟第一審事件のIT化を検討するにあたって、上訴、再審、手形・小切手訴訟に関する事件についても同様とすることについては、異議はない。

「第15 簡易裁判所の手続」について
 基本方向としては、地裁と簡裁の第一審手続きを揃えていく方向で異議はないが、一方で、簡裁は「駆け込み裁判所」としての設立趣旨があり、当事者訴訟も多い。そうした特性をふまえ、よりIT利用が困難な者等への対応を充実させる必要がある。

「第16 手数料の電子納付」について
 1、2、3についていずれも中間試案に賛成する。
 訴え提起をはじめ、各種事件の手数料や送達費用等の納付にあたって、郵券・印紙の取扱いを一切なくすことを求める。
 手数料の収入印紙や送達費用としての郵便切手を取り扱う機会をなくすことは、当事者及びそれらを取り扱う裁判所書記官等の負担軽減になるものと考えられる。また、出来る限り訴え提起時以降に追納する場面を減らすことも同じく負担軽減になると考えられることから、訴え提起手数料と送達費用を統合し、送達費用を国庫負担とすることで、訴え提起以降の追納や返還を行わないようにすることが望ましいと考える。
 ただし、2のインターネット申立を促進するためにインターネット申立と書面による申立て手数料に差を設けることは、裁判を受ける権利の平等に反する懸念もあることから反対である。
 4(1)(2)について甲案は訴訟費用の計算について事務の煩雑さが解消される観点から甲案に賛成する。(3)については賛成する。

「第17 IT化に伴う書記官事務の見直し」について
 中間試案に賛成し、(注)に記載されている、担保取消、訴状の補正及び却下の一部、調書の更正について、書記官権限とすることを求める。
 書記官が手続により主体的に関与することで適正・迅速な処理を進める観点から、現在書記官が行っている事務を基礎としつつ、民事裁判手続における裁判官と書記官の役割を整理し、書記官権限とすることが相当だと考えられるものについては、これを機に書記官権限とすることを検討されたい。
 裁判官が認定した訴額に基づく手数料額の確定を書記官の処分とすることにより、予納命令及び手数料還付を書記官による処分として行うことが相当である。
 担保取消しや権利行使催告の各手続については、担保の事由が消滅したことの証明の審査など、手続が類型化されていることから、書記官による処分として行うことが相当である。
 また、調書の更正に関する規律がこれまでにも課題となっていたところ、これを機に整備する必要があるが、調書の作成権限は書記官にあることから、書記官の権限とすることが相当である。
 なお、上記各処分については、訴訟費用額確定の処分に対する異議申立てが認められている規律と同様に、異議申立てを認める規律とすることが相当と考える。
 あわせて、第1回期日の指定は、裁判官の訴状審査権・訴訟指揮権が根拠となって裁判官の権限となっているが、実際には書記官が当事者と調整したうえで第1回期日を定め、訴状及び期日呼出状の送達ができなかった場合には原告側が被告の住所調査にどれぐらいの期間を要するかといったこと等を見込んで書記官が変更後の期日を調整しており、口頭弁論の実施に向けた重要な書記官事務となっている。実態を踏まえて「裁判官の命により、書記官に期日指定・取消・変更をさせることができる」との規律を設けることも検討していただきたい。

「第18 障害者に対する手続上の配慮」について
 障害者に対する手続上の配慮を合わせて考慮することは、平等な裁判を実現する意味できわめて重要であり、最終案までには、少なくとも方向性を示すことが必要である。

以  上

 
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