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司法制度改革
 
裁判員制度の導入に向けた運動の基本方向
2004年10月
全司法労働組合
 
はじめに

 全司法は、私たちの労働条件改善と「国民のための裁判所実現」「司法の民主化」をめざして、そのための運動を車の両輪として進めています。第62回中央委員会(2002年2月)で確立した「司法制度改革に向けた全司法の『政策と要求』」では、「司法の民主化に向けた国民の司法参加を積極的にすすめることが重要です」として、国民の司法参加を進める立場に立っています。裁判員制度の導入が決まったもとで、2009年の施行までにこの提言内容を具体化する立場から、職場に十分な受け皿を作らせることが重要です。
 なお、職場の中には、裁判員制度を含めて、司法制度改革全般にわたって多様な意見があるのが実情です。こうした職場の意見にも配慮しつつ、上記の基本的なスタンスについて意思統一を図るとともに、少なくとも制度導入が決定されたもとで「万全の態勢を整える」ことを全体の一致点として明確にし、とりくみを進める必要があります。

裁判員制度の概要

 裁判員制度は、死刑または無期の懲役・禁固に当たる罪にかかる事件、または法定合議事件であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪にかかる事件について、裁判官と、衆議院議員の選挙権を有する者の中から無作為抽出により選ばれた裁判員との合議体を構成し、審理・判決手続きを行う制度です。
 合議体の裁判官の員数は3人、裁判員の員数は6人です。ただし、第1回公判期日前の準備手続で被告人が公訴事実を認め、当事者に異議がなく、かつ裁判所が適当と認める場合には、裁判官1人、裁判員4人の合議体で取り扱うことができます。
 有罪・無罪の決定及び量刑の判断は、裁判官と裁判員の合議体の過半数で、かつ裁判官及び裁判員のそれぞれ1人以上が賛成する意見によります。法令の解釈及び訴訟手続に関する判断は、裁判官の過半数の意見によります。
 欠格事由及び就職禁止事由等に該当する者、不公平な裁判をするおそれがある者並びに当事者から理由を示さない不選任請求をされた者は裁判員となれません。また辞退事由に該当する者は裁判員となることを辞退できます。
 裁判員は、公判期日への出頭義務、守秘義務等を負います。
 裁判員の参加する裁判では、公判前整理手続きを必ず行います。裁判員も、証人に対する尋問、被告人に対する質問を行うことができます。
 裁判員に対する請託・威迫行為、裁判員の秘密漏洩行為等は刑事罰の対象となります。

運動の基本方向

 全司法は、@裁判員制度の定着、充実のために、最高裁に対して「万全の態勢を整えさせる」こと、A裁判員制度の実施に向けて、その内容をはじめ、人的・物的充実の必要性を広く国民にアピールすること、B裁判員制度が民主的な裁判制度として充実・発展するよう、幅広い個人・団体と意見交換し、その実現をめざすこと、この3つの方向を基本として運動を展開します。

1.最高裁に対するとりくみ

 次の2本の柱で最高裁に対する要求を立て、運動を進めていくこととします。
(1)裁判員制度の具体的な制度設計に関して、随時、情報を明らかにするとともに、全司法と定期的に意見交換・協議を行うこと。
(2)裁判員制度の実施に向けて、安定した裁判制度として定着するよう人的・物的充実を図ること。

 なお、最高裁は裁判員制度の準備として、「@規則及び関連通達の整備、A中央協議会、ブロック協議会、司法研修所における研究会、各庁における検討会などの開催、B法曹三者、選挙管理委員会、自治体など関係機関との協議会などの開催、C裁判官等の人的態勢の整備、D法廷等関連施設、備品等の物的態勢の整備などの項目について検討していかなければならない」(書協と最高裁総務局との座談会)としています。@〜Bが(1)「全司法との協議等」に対応した課題となり、CDが(2)「人的・物的充実」に対応した課題となります。

(1)全司法との協議等

 裁判員制度の具体的な制度設計は、裁判所全体がとりくむべき課題であり、職場の意見や要望、提案が反映できるような態勢づくりが重要です。同時に、その具体化にあたっては、最高裁が提起する制度設計の案をベースに検討していくことが中心とならざるを得ません。労働組合としてやるべきことは、その検討状況を逐一開示させ、職場に情報を提供するとともに、関係職場での十分な討議期間も保障させることです。職場からの指摘も含めて、当局の検討の中で問題点があればそれを分析し、修正・改善を求めていくことになります。
 第1に、今後、当局は裁判員関連の規則や通達を作っていきます。これについて、規則・通達の案ができた段階で全司法に提示させ、意見を聞かせることが必要です。
 第2に、前記のとおり、当局は今後様々な協議会・研究会・検討会を持って検討していくとしていますから、その結果については、その都度明らかにさせ、全司法とも意見交換・協議をさせることが必要になります。
 そのために、最高裁に対しては、人事局だけではなく、刑事局あるいは総務局も関与する形で協議するための態勢を作るよう求めるとともに、全司法側も、非常任中執や地連等の協力も得てすすめる必要があります。
 同時に、全司法のとりくみとしては、@裁判員制度についての学習・教宣活動を強化すること、A各庁段階で対応する地連・支部等が当局と協議できるよう態勢を整えること、B弁護士会等との意見交換にも積極的に取り組み、当局とは違う視点から制度検討をチェックできるようにすること、等が必要となります。

(2)人的・物的充実

 裁判員制度の導入にあたっては、少なくとも全国の地方裁判所本庁での実施が前提となることから、これまでとは比較にならないぐらい裁判所の人的・物的充実が必要です。また、裁判所全体としての組織やシステムの見直しも必要となることが予想されますので、該当する刑事部のみの問題としてとらえるのではなく、裁判所全体の課題、全司法全体の課題として位置づけることが必要です。

@ 訟廷組織(公判事務部)の改編と抜本的充実・強化
 裁判員の選任、出頭の確保は、相当の労力を要する仕事になることが予想され、これを担当できるだけの人的態勢を作ることが最重点課題の一つとなります。
 全体の手続きの中で、どの部分をどの部署が担当するのかという点は、制度設計の具体的内容にもよりますが、法律を見る限り、裁判員の選任事務のうち、裁判員候補者名簿の調製(20〜15条)、裁判員候補者の選定(26条)までは、「地方裁判所」の事務として横断的に訟廷部門が担当し、裁判員候補者の呼出し手続(27条)からは担当部(受訴裁判所)が担当するという形で切り分けることができると考えます。いずれにしても、裁判員の選任について訟廷組織の果たす役割は重要になると考えられることから、それに見合う書記官、事務官等の配置がされるよう、早期の制度設計案の開示と必要な人員の確保を要求します。
 同時に、選任された裁判員に対する基礎的な手続きの教示や説明等のために、訟廷における専門的な部署を設けることも検討する必要があります。
 あわせて、今後、裁判員制度導入に向けて、質量ともに大きな規模での広報活動の強化が必要ですし、制度導入後もその定着に向けて、段階に応じた広報活動が重要になります。裁判員制度に限らず、「国民に開かれた司法」を目指す司法制度改革の趣旨から言って、裁判所の現状の広報活動は全く不十分であり、裁判部門に密着した訟廷組織も含めた、情報提供・広報活動が検討されなければなりません。また、裁判事務システム等のIT化が進められていく中で、訟廷はそのセンター的な役割を果たす必要があります。そのために、広報活動を中心とする専門部課を設置する等、インフォメーション部門の充実に向けた必要な人員の確保を要求します。
 また、裁判員に対する案内・誘導、旅費日当等の支給、宿泊場所の確保など、裁判員への対応を担当する部署としても、訟廷が担うべき実務的な業務が相当の規模となることが予想されます。
 そうした観点から訟廷組織の改編と抜本的充実・強化が不可欠の課題となることは明らかです。改編にあたっては、庁全体として充実・強化することを前提に、総務課・会計課・資料課等の事務局部門との連けいも視野に入れること、場合によっては「公判事務部」などふさわしい名称への変更を行うことも検討する必要があります。

A 裁判体の増加
 1つの裁判体が担当できる件数は、連日的開廷で審理すること、裁判員選任手続きを担当すること、期日間準備の強化等を考えると月1件、どれほど工夫しても2か月に3件程度が限度ではないかと考えます。最高裁の資料による「管内別対象事件件数」がデータとして示されていますが、こうしたデータ等に基づき、裁判員が参加する裁判を開く全ての庁で、それに見合った裁判体の数を確保することが必要です。また、1裁判体あたりの書記官数は少なくとも3名は必要であると想定されますが、これらの点も含めて最高裁に対し、具体的な制度設計を早期に明らかにさせる必要があります。そうした観点から裁判員制度の導入に向けて、裁判官及び書記官等の計画的な増員を求めていくことが必要です。
 庁によっては、専門部を作るのか、全ての部で担当するのかといった検討も必要です。
 連日的開廷を前提にした記録(とりわけ供述部分)の作成態勢をどうするか検討が必要です。裁判員制度においても、速記官による速記録および録音反訳方式の活用とともに、最高裁が本格的な調査研究をすすめている音声認識技術の活用がどうなるのかが重要な課題となります。調査研究の現状や必要な情報の開示も含めて、引き続き誠実な交渉・協議の対応を求めていきます。
 裁判員制度の導入に向けた裁判部の充実は、純増によることを強く要求します。同時に、即決裁判手続での調書への録音体引用等、事務の効率化について、最高裁と協議することが必要です。

B 裁判員法廷の増設
 連日的開廷を可能にするためには、裁判体の数だけ法廷(裁判員法廷)を作ることが必要です。なお、公判期日だけではなく、公判前整理手続や裁判員選任手続等も法廷で行う場合が出てくるものと思われることから、各裁判体に専用の法廷が確保されることが必要です。

C その他の物的設備
 裁判員が評議するための評議室、待合室・休憩室などを設置する必要があります。
 現状の合議室や事件関係各室は広さも設備も十分ではありませんし、裁判所の中で長時間拘束される裁判員が休憩をとったり、待機時間を過ごすスペースにいたっては、全く整備されていません。さらに、裁判員から求められる資料や文献等の提供をはじめ、関連するサービスに対応できるような施設面での充実も必要です。
 また、裁判員確保のためには、庁内託児施設の設置や、宿泊施設の確保も必要になります。
 これらの物的設備の充実を具体化するにあたっては、営繕技官との協議が重要です。

2.国民へのアピール、対話・意見交換のとりくみ

 裁判員制度導入までの間、政府や最高裁、日弁連等も国民に対する説明やアピールを強めることが求められており、マスコミ等で取り上げられる機会も増えていくことが予想されます。そうした状況は、国民に対して裁判所の実態を訴え、裁判所の充実・強化の必要性を国民世論として広げるとともに、私たちの要求や運動に対する理解を求めていく絶好の機会になります。
 全司法としても、裁判所で働く者の観点から、裁判員制度についてアピールし、弁護士会をはじめとする幅広い団体・個人と積極的に意見交換をしていくとりくみが必要です。
 裁判員制度を、国民の司法参加による司法の民主化に向けた重要な制度として充実・発展させていくためにも、全司法大運動のなかで裁判員制度を国民的な課題として位置づけ、とりくみを強化する必要があります。

以上
 
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