おいでやす全司法
プライバシーポリシー  
CONTENTS 全司法紹介 司法制度改革 少年法関連 全司法大運動 全司法新聞 声明・決議・資料 リンク サイトマップ
  トップページ > 司法制度改革 > 「裁判員制度」の導入について、全司法の「政策と要求」補足
 
司法制度改革
 
「裁判員制度」の導入について、全司法の「政策と要求」補足
2003年5月29日
全司法労働組合
 

(一) はじめに

 司法制度改革審議会の意見書は、「国民的基盤の確立」を「今般の司法制度改革の三本柱の一つ」と位置づけたうえで、刑事訴訟手続きへの新たな国民参加としての「裁判員制度」の導入を提起しています。これを受けて現在、司法制度改革推進本部の裁判員制度・刑事検討会において具体的な制度設計に向けた議論がすすめられており、また日弁連や市民団体等による模擬裁判、シンポジウム等の運動やマスコミ報道等の広がりの中で、国民的な関心と議論も高まってきています。
 私たち全司法労働組合は、裁判所の実務を担う職員の立場から、2002年
2月に「司法制度改革に向けた全司法の『政策と要求』」を明らかにし、裁判員制度についても、司法を民主化し、国民の人権擁護のうえからも重要な意義をもつものとして、その積極的な検討をよびかけています。その立場を基本に、この間の検討会や日弁連、市民団体等の議論や、推進本部事務局より示された「裁判員制度について」のたたき台をふまえ、裁判所で働く実務家の意見として以下の要求・提言を行うものです。これらが国民のための民主的な司法制度改革の一助となれば幸いです。

(二)「たたき台」に関する基本的要求

1 国民的基盤の充実について

 現在の司法に関する国民参加としては調停委員、司法委員、検察審査会等の制度があり、それぞれ一定の機能を果たしてきていますが、参加の場面や国民に与えられる権限等においてなお限定的なものにとどまっています。これに対して裁判員制度の導入は、選挙人名簿からの無作為抽出という広く一般の国民からの参加を前提とし、その権限においても職業裁判官と基本的に対等な立場で刑事裁判の審理に参加するものであり、日本の司法の歴史においても、戦前の一時期に実施されていた陪審制度以来の本格的な国民参加と位置づけられるものです。

 したがってこの制度が本来の機能を十分に発揮し、国民の中に定着していくためには、審議会意見書も指摘しているとおり国民の積極的な支持と協力が不可欠であり、制度設計の段階からの十分な情報提供と国民の意見反映が極めて重要です。反面から言えば、制度改革の具体化において国民的な定着が得られなければ、今後の数十年間にわたり国民の司法参加の実現は困難となりかねず、「失敗の許されない制度改革」であると言えます。

 そのためにも、裁判員制度が強固な国民的基盤の充実のうえに制度化されることが重要であり、具体的には以下のような施策の推進が求められます。

  1. 現在の日本の義務教育や高校教育における司法制度や、基礎的な法学教育の現状は先進諸国と比べても大きく遅れているのが現状です。国民主権や司法の独立を謳う日本国憲法の基本原則をはじめとして、契約や刑事手続き等について子どもの成長段階に応じた基礎的な教育の充実をはかることが重要です。
  2. 制度の運営にあたっては裁判員の十分な確保が不可欠であり、そのためにも国民全体の理解と協力が必要です。裁判員の要件や辞退事由、不出頭に対する罰則の可否等についても慎重に検討すべきですが、十分な情報公開に基づく国民の理解と積極的な協力が前提となるべきことは言うまでもありません。

 そのための制度的な担保が保障される必要があり、具体的には裁判員として出頭するための休暇制度や休学制度、介護や育児等の負担に対する配慮、十分な経済的手当の支給、広報活動の充実等の措置が求められます。

2 裁判官と裁判員の人数について

 裁判官と裁判員の人数をどのように構成するのかが、日弁連や市民団体をはじめとして具体的な制度設計における大きな論点とされています。その基本的な観点は、職業裁判官と裁判の審理に初めて関与する裁判員との間で、裁判内容に国民の健全な社会常識をより反映するという制度本来の趣旨を十分に機能させるうえからは、どのような構成がより望ましいかという点にあります。

 「たたき台」ではA案とB案の両案が示されていますが、国民の意見反映 が充分になされるためには、少なくとも裁判官の人数を上回る裁判員数を確保する必要があります。11人の検察審査員で構成される検察審査会の議論が支障なく行われていることや、各地で開かれた模擬裁判の状況からも、「コンパクトな構成でないと充分な議論ができない」という指摘は、必ずしも合理的な理由とはならないものと思われます。一方で、多様な国民諸階層の知見を反映させ、裁判官との間で自由な意見交換を可能とするためには、裁判官の3倍程度の裁判員が必要であるとの指摘も多く示されています。このような幅広い国民の意見も充分にふまえた人数の構成がはかられる必要があります。

3 裁判員の権限について

 裁判員の権限については審議会意見書でも、有罪・無罪の決定及び刑の量定を行うこととされています。国民の健全な社会常識を反映させるという裁判員制度の趣旨からは、意見書の内容を基本として具体的な制度設計をはかることが相当であり、また、その権限を行使するために必要な範囲で、裁判員に対しても裁判官と同等の権限が認められる必要があります。
 したがって、証人尋問や被告人質問等の証拠調べ及び評決の方法においても、裁判官と裁判員とは同等の権限であることを基本とした制度設計が相当です。

4 公判手続きについて

 審議会意見書では刑事裁判手続き全般についての充実・迅速化をはかる観点から、新たな準備手続きの創設や証拠開示の拡充、公判の連日的開廷、直接主義・口頭主義の実質化、公的弁護制度の整備等が提起されています。
 これらの制度の具体化にあたっては、国会で審議されている「裁判迅速化法案」の議論や衆議院における附帯決議の趣旨もふまえ、一面的な迅速化の強調ではなく、審理の充実や当事者の訴訟上の権利の保障のために慎重な検討がされる必要があります。さらに裁判員制度の対象となる審理においては、裁判員にとっての分かりやすい手続きや、裁判員への負担をできる限り軽減することについても、充分な配慮が求められます。

 また、刑事裁判の長期化の大きな要因となっている、供述調書の任意性や信用性の立証のために長期間の証人尋問等が行われている現状は、直接主義・口頭主義の実質化や裁判員の加重な負担回避という観点からも、改善する必要があります。そのためにも、審議会意見書では今後の検討課題とされている代用監獄のあり方や起訴前保釈制度、被疑者の取り調べ状況の録音・録画、弁護人の取り調べへの立会い等、捜査段階における現行制度の問題点の改善についても積極的に検討する必要があります。

 上記のような観点をふまえ、具体的には以下のような施策の推進が求められます。

  1. 裁判員制度における準備手続きについては、たたき台に記載のとおり、審理に要する見込み時間(日数)の明確化等を中心に行い、予断排除の原則(起訴状一本主義)が確保される必要があります。
     また、準備手続きの結果は、その後の公判手続きにおける争点や立証にも関わらざるを得ないことから、被告人本人の関与(出頭)が保障されることも必要です。
  2. 審理に2日以上を要する事件については、裁判員の負担軽減のためにも、できる限り連日的な開廷をめざすことが相当です。同時に、そのために弁護人等の弁護・立証活動が不当に制約されることにならないよう、弁護人の公判立会体制や裁判所の人的・物的な条件の確保がはかられる必要があります。
  3. 証拠調べ手続きについては直接主義・口頭主義の実質化を基本に、裁判員に分かりやすい争点に沿った手続きと、それが可能となるような証拠開示のあり方についての検討が重要です。
  4. 被疑者・被告人の身柄拘束の適正化の観点からも、代用監獄制度については早期に廃止すべきです。また連日的な開廷や直接主義・口頭主義に対応した弁護人等の立証活動を実質的に保障していくうえからも、起訴前の保釈制度の実現、接見交通や令状審査のあり方についても、被疑者・被告人の権利保護の観点からの検討をすすめる必要があります。

(三) 裁判所の人的・物的な充実について

1 人的・物的充実の必要性について

 審議会意見書は司法制度改革全般の具体化のために、法曹人口の大幅な増加と、裁判所書記官等の裁判所職員については、その質、能力の一層の向上とともに、適切な増加をはかっていく必要を提起しています。これを受けて最高裁は、裁判官について今後10年程度で約500人の増員と、一般職員については適切な増員をはかっていく必要があるとの認識を明らかにしています。

 全国の裁判所で裁判官とともに事件処理にあたっている私たち裁判所職員の実感からは、今般の司法制度改革という抜本的な制度改革に向けて、国民に信頼され、国民の期待に応えられる司法を実現していくうえで、法曹と一般職員との間でその増員の必要性に区別を設けることには、率直な違和感を覚えます。制度改革を実効あるものとするうえからも、法曹と一般職員とを含めた大幅な増員と、庁舎設備をはじめとする物的な充実が不可欠です。

2 裁判員制度の導入に伴う人的な充実について

 裁判員制度のような規模で、全ての国民を対象に無作為抽出によって選出された国民が裁判手続きに関与する制度は、戦後の司法制度においても初めてのものです。一方で、その受け皿となる裁判所の職場は現在でも裁判官への加重な負担と、一般職員のサービス残業を含む恒常的な超勤によって事務が処理されているのが実情です。地裁刑事においても事件数は増加傾向にあり、事件の複雑化や外国人事件の増加等によって、現状においても裁判所書記官をはじめとする人的な手当が必要となっています。

 前記のように、今般の裁判員制度の導入が「失敗の許されない制度改革」であることもふまえ、裁判官はもちろん、裁判所の一般職員の大幅な増員とそのための予算措置をはかり、裁判員が適切にその責務を果たせるような態勢を確保することが重要です。

 また、裁判員に対する供述調書の迅速な提供が求められる可能性があります。裁判所書記官はもちろん、裁判所速記官の養成再開と増員、コンピューター速記をはじめとする調書作成態勢の充実策を積極的に検討していく必要があります。

3 裁判員制度の導入に伴う物的な充実について

 裁判所の庁舎は現在でも、老朽や狭隘化等により当事者にとって使いにくいものとなっている施設が少なくありません。裁判員制度が導入されれば、当事者や自己の用務としてではなく、裁判手続きのために裁判所の庁舎施設を利用する多くの国民が来庁します。

 裁判員の審理に充分に対応できる法廷や評議室、待合室等の整備はもちろん、身体障害者などが裁判員になった場合でも支障が生じないような庁舎、施設に対する細かな配慮が求められます。

 また、裁判員に対する充分な旅費・手当等の支給、審理が長期間に及ぶ場合や、裁判員が介護・保育等をになっている場合の必要な手当て、制度に対する国民の理解を得るための広報の充実など、裁判員制度の円滑な運営のための新たな予算措置が必要になります。これらについても、「失敗の許されない制度改革」であることをふまえた充分な財政面での裏付けがはかられるべきです。

(四) その他

  1. 罰則規定の新設については慎重な検討を尽くし、国民の権利が不当に侵されることのないような制度とすることが重要です。とりわけ報道機関の行う報道に関する規制については、表現の自由や国民の知る権利との関連について、慎重な配慮がされるべきです。
  2. その他の、「たたき台」で提起されている具体的な制度の内容については、引き続き国民に対する充分な情報公開や節目においての意見募集を行い、日弁連や市民団体等の広範な国民の意見が適切に反映された制度設計としていくことが重要です。
以上
 
ページの先頭へ