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民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する追加試案(秘匿情報等)に関する意見
 
声明・決議・資料
 
民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する追加試案
(秘匿情報等)に関する意見
 
法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会 御中
2021年10月4日
〒102-8651 東京都千代田区隼町4−2
最高裁判所内
全司法労働組合
中央執行委員長 中 矢 正 晴
 
 民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関わっては、4月28日に当団体の意見を提出したところですが、民事訴訟法(IT化関係)部会第15回会議において「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する追加試案」が取りまとめられ、パブリック・コメントの手続がとられていることを受けて、下記のとおり、これに対する当団体の意見を提出いたします。今後の審議において、参考にしていただきますようお願い申し上げます。


はじめに
 秘匿情報の取り扱いは、現在、事務処理上の重要な課題になっており、これを機に国民的な議論を経て、根拠となる法規を整備する必要がある。今般の追加試案をとりまとめたことを契機として、必要な法整備が行われることを期待する。
 とりわけ、当事者の申立てによって秘匿情報を決定し、これにもとづいて事務処理が行われる制度を確立することが重要である。現状は、当事者から秘匿希望が示された場合に加え、秘匿希望が推認される場合も含め、事件ごとに担当部署が「気を付けること」が求められている状況にあり、そうした制度的な不明確さのため個々の事案によって相当な検討を要することとになり、職員の負担感の原因にもなっている。
 現在、秘匿情報の取扱いは、主として記録の閲覧・謄写の場面で問題となっているが、訴状の記載事項をはじめ、全般的な法整備がなされることにより、一旦、秘匿情報等が記載された記録が作成され、事後的に閲覧・謄写の場面になってから秘匿決定にもとづいて記録をマスキングするのではなく、そもそも提出段階において秘匿情報を記載しなくても良い(別の書面を提出する、あるいは当事者がマスキングしたものを提出する等)方向で法整備が進めば、事務の効率化の上でも、秘匿すべき情報が流出するなどの過誤防止等の観点からも合理的であると考える。
 なお、こうした改正と合わせて、閲覧拒絶の根拠等をはじめ、記録の閲覧・謄写に関する規定もこれと整合するように定める必要がある。

第1(訴状における秘匿措置)

(1)現在、DVや虐待、女性に対する暴力、インターネット上での誹謗・中傷への対応等が社会問題となっていること、被害者保護のための法制度を充実させる必要があること、個人の尊厳やプライバシー保護をはじめとした人権保障が重要な社会的な要請となっていること等を考えると、被害者的立場にある人たちが権利回復のために司法を積極的に利活用できるようにするとともに、裁判手続きによる二次被害を防ぐことが最優先で求められていると考える。
 したがって、秘匿措置については、可能な限り広く秘匿できる制度を用意したうえで、相手方の権利保障については、不服申立て制度を整備することで裁判所が適切に判断していく構造にすることが望ましいと考える。
 なお、これは訴状提出の場面だけでなく、他の検討項目についても同様である。

(2)追加試案に賛成する。要件については、別案のように原告等が「生命・身体の安全が害されるおそれがあること」と狭くするべきではなく、試案本文のように「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」とすることが相当である。そのことが秘匿の措置を認める趣旨に資するし、法92条1項1号(閲覧・謄写の制限)の定めとも整合すると考えられる。
 加えて、追加試案注(以下、「注」という。)2のとおり、原告及び法定代理人に加えて、これらの者の親族及び親族に類する者が社会生活を営むのに著しい支障を生じるおそれがある場合にも、秘匿措置をとることができるよう、試案本文よりも要件を広げることが相当である。DV関連の事件など、秘匿が問題となるような実際の事件を想定すると、その方が利用者の利用しやすさにより資すると考えられる。
 また、注3の識別・推知情報についても秘匿措置の対象に含めるべきであり、追加試案本文(以下、「本文」という。)1の規律を形骸化させないため、それを相手に秘匿したまま請求原因事実に記載する旨の規律を設けることが相当と考えられる。
 訴状以外についても、参加の申立などの当事者から提出される書面について、幅広く準用するべきものと考える(追加試案補足説明(以下、「補足説明」という。)9参照)。

第2(送達場所等の届出における秘匿措置)
 追加試案に賛成する。なお、システム送達運用を視野に入れ、届出に係る通知アドレスを秘匿措置の対象とする規律も設けてもらいたい(本文(注)、補足説明2参照)。
 また、届出によらない送達が奏功した場合も、当該送達報告書に、秘匿すべき住所等の情報が含まれる可能性がある。この場合も当事者のプライバシー保護の趣旨を貫徹すべく、その記載についても申立て又は職権で秘匿の措置を採ることができるようにすべきである(第3の補足説明3参照)。

第3(調査嘱託における秘匿措置)
 追加試案に賛成する。調査嘱託も送付嘱託(法226条)も、いずれも回答書に秘匿情報が含まれうるのであるから、当事者秘匿措置の規律を適用すべき書面の範囲を、調査嘱託に限定せず、送付嘱託に基づく送付に係る文書及び文書提出命令(法223条1項)に基づく提出に係る文書等に拡張するとの意見に賛成する((注)参照)。
 また、「原告の申立てにより試案第1の秘匿措置がとられているときに、試案第3の秘匿措置をとるために,原告に更なる申立てをすることを求めることは酷であるとの意見も出された」とあるが、いずれかの手続で秘匿措置がとられた場合に、その効果が他の場面にも及ぶかどうかの整理が必要である。原則として、一旦秘匿決定がされた場合、当該決定はその事件全体の手続に及ぶものとし、新たな申立ては不要と考えるべきではないか。

第4(証人尋問の申出における秘匿措置)
 追加試案に賛成する。証人の氏名住所等から当事者又は法定代理人の氏名住所等が推知されることは容易に想定できるため、追加試案のような規律を設けることには賛成できる。
 もっとも、注1、注2にあるように、当事者に支障が及ぶ場合のみならず、証人自身や書証の作成名義人自身が「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある」場合にまで秘匿措置を施すことには慎重に考える必要がある。

第5(不服申立て)
 追加試案に賛成する。第1(訴状における秘匿措置)で述べたとおり、「可能な限り広く秘匿できる制度を用意した上で」、「不服申立て制度」を整備してバランスをとる観点から、原告の(プライバシー保護の)利益を最大限に図りつつ、被告の不服申立て手続の保障を手厚くすることが民事訴訟の理念に合致すると考える。
 なお、取消の申立てを却下する裁判をする場合には、意見聴取は不要とする考え方が相当である。

第6(判決書における秘匿措置)
 追加試案に賛成する。本文の各規程に「法第253条第1項第5号に係る部分」などと留保を設けることについても,判決書の中で秘匿の対象を表示して良い箇所とそうでない箇所が混在しないようにすることで、判決の過誤や当事者の混乱を防止することができると考えられる。
 なお、和解調書等の債務名義となる書面についても、判決書の場合と同様に秘匿措置を設ける趣旨が妥当するから、判決書における秘匿措置と同様の規定を設ける必要がある。

第7(その他)

1 マスキング処理等について
 上記の第1から第5に関する規律について、当事者が提出することを予定している書面に秘匿情報が含まれていた場合に、「当該書面を提出する当事者が同情報に関するマスキング処理を行う」旨の規律を設けるべきである。マスキング処理の煩雑さは書記官事務を逼迫させる要因の一つとなっており、過誤による秘匿情報の流出を避ける観点はもとより、事務の効率化の観点からも、原則として書面を提出する者が行うとするのが望ましいと考える。

2 鑑定に係る書面ついて
 同書面の規律をどうするかについても検討を要するのではないか。規律を設けるとして、証人尋問等に関する規律に準じることになるのか、準じるとして鑑定に係る書面の特殊性を踏まえた規律を設けるのかについても議論の余地があると考える。

3 民事執行、人事訴訟手続について
 これら手続についても、民事訴訟と同様、プライバシー保護の要請は異なるものではないから、民訴法の規定を準用する規定を設けるべきである(注1、2、補足説明2、3)。あわせて、プライバシー保護の実効性を担保するため、規律の対象につき、民事執行においては第三債務者に、人事訴訟手続においては当事者以外の者に広げるべきと考える(補足説明2、3)。
 なお、民事執行との関係では、債務者の氏名や住所が秘匿された場合において、債務名義の実効性を図る方法はあるのかという問題があることから、別途、氏名や住所以外の債務者の特定要素につき検討する必要があると考える。

4 家事事件について
 家事事件の申立てにおいては、追加試案第1の規定を準用すべきと考える(家事法47条4項の規定は残し、かつ、追加試案第1の規定を設ける)。
 また、家事事件において、事実の調査に係る調査嘱託(62条、258条1項)や証拠調べ(家事法64条、258条1項)が行われる場合は、プライバシー保護の要請は、民訴法上の調査嘱託や証拠調べと同様であるから、追加試案第3、第4の規定を準用する規律を設けるべきである(注3、補足説明4(2))。

以  上

 
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